7 / 11
7.夢か現か
しおりを挟む
次に目が覚めたときはまた、一人きりの部屋の中だった。
侍女もメイドもいないこの部屋は、本当に静かだ。
さっきのは夢だったのだろうか。
冷静になると、とても現実だとは思えなかった。
セオルが会いに来てくれたことも、魔力の少ない私が夢のような魔法を使ったことも、妹の顔を見られたことも。
きっと一人きりで寂しくて、つらくて……そんな孤独から生み出された願望夢だったのだ。
いや、願望夢ならもっといい展開があっただろうに。
元婚約者とへいえ、想いを寄せる相手をあんな変態に仕立てあげなくてもよかったはずだ。
夢の中でさえ思い通りにいかないのだと、惨めな気分で瞼を下ろす。
そこまで考えてから、違和感に気づいた。
枕元の花が変わっている。
今朝は確か、清楚な白薔薇が生けられていたはずだ。
それが今では、可憐な桃色のアネモネを中心にパステルカラーの花々が彩られている。
すでに日が変わってしまったのだろうか?
それともさっきの夢が現実と混濁しているだけ?
まさかと思いつつも、わずかな期待がこみ上げてくる。
(もしも夢でないのなら…… 千里眼 )
ダメ元だった。
儚い夢だったのだと諦めるために唱えた呪文は、いとも容易く私を浮かび上がらせた。
ベッドに横たわる自身を信じられない気分で見下ろす。
これじゃ、千里眼じゃなくて幽体離脱じゃない。
そんなことを考えながら、私は口角を上げていた。
なにせずっとベッドで寝ているしかない日々だったのだ。
好奇心に負けて、ドアに手を伸ばす。
しかし私の手はドアを素通りし、そのまま部屋の外へとすり抜けていた。
屋敷の中を縦横無尽に飛び回るのは、想像以上に楽しい。
みっともなく走り回るのは淑女としてふさわしい行動ではない。
そう言い聞かされていたから、屋敷を駆け回るなど物心ついてからは初めての経験だ。
そもそも運動自体得意な方ではないから、屋敷の中だけでなく、外でもこんな勢いで体を動かしたことはない。
今の私なら、もしかしたら馬車より速く走れるんじゃないかしら?
色めき立つ心のまま調子に乗ってスピードを上げていくと、突然目の前にメイドの姿が飛び込んできた。
どうやらそこの角から出てきたらしい。
よけきれない、ぶつかる!
とっさに目を閉じるも、私の体はすんなりと彼女の体をすり抜けた。
ここにはない心臓が飛び出そうなほどバクバクしたが、そんなスリルすら楽しくってたまらない。
浮かれた気分のまま、笑いながらくるくる飛び回っていたから、うっかり自分の行き着いた場所がどこか気づくのが遅れてしまった。
くるりと空中で縦回転を決めた私がいたのは、玄関ホールだった。
しかも間の悪いことに、元婚約者のお見送りの真っ最中だ。
「え、妖精……?」
セオルの口から、変な戯言が聞こえた。
思わず顔を顰めた私に対し、両親や妹は首を傾げる。
なんであいつにだけ視えるの?
どうせならイレーヌに視えればいいのに。
むむっと頬を膨らませると、踵を返す寸前の彼の口元が動いた。
声は出ていなかったけれど「おいで」かな?
なんとなくそう察したが、おいでと言われてほいほいついていくバカはいない。
無視無視………いや、でも今は精神体だし?
ついてって困ることにはならないんじゃない?
侍女もメイドもいないこの部屋は、本当に静かだ。
さっきのは夢だったのだろうか。
冷静になると、とても現実だとは思えなかった。
セオルが会いに来てくれたことも、魔力の少ない私が夢のような魔法を使ったことも、妹の顔を見られたことも。
きっと一人きりで寂しくて、つらくて……そんな孤独から生み出された願望夢だったのだ。
いや、願望夢ならもっといい展開があっただろうに。
元婚約者とへいえ、想いを寄せる相手をあんな変態に仕立てあげなくてもよかったはずだ。
夢の中でさえ思い通りにいかないのだと、惨めな気分で瞼を下ろす。
そこまで考えてから、違和感に気づいた。
枕元の花が変わっている。
今朝は確か、清楚な白薔薇が生けられていたはずだ。
それが今では、可憐な桃色のアネモネを中心にパステルカラーの花々が彩られている。
すでに日が変わってしまったのだろうか?
それともさっきの夢が現実と混濁しているだけ?
まさかと思いつつも、わずかな期待がこみ上げてくる。
(もしも夢でないのなら…… 千里眼 )
ダメ元だった。
儚い夢だったのだと諦めるために唱えた呪文は、いとも容易く私を浮かび上がらせた。
ベッドに横たわる自身を信じられない気分で見下ろす。
これじゃ、千里眼じゃなくて幽体離脱じゃない。
そんなことを考えながら、私は口角を上げていた。
なにせずっとベッドで寝ているしかない日々だったのだ。
好奇心に負けて、ドアに手を伸ばす。
しかし私の手はドアを素通りし、そのまま部屋の外へとすり抜けていた。
屋敷の中を縦横無尽に飛び回るのは、想像以上に楽しい。
みっともなく走り回るのは淑女としてふさわしい行動ではない。
そう言い聞かされていたから、屋敷を駆け回るなど物心ついてからは初めての経験だ。
そもそも運動自体得意な方ではないから、屋敷の中だけでなく、外でもこんな勢いで体を動かしたことはない。
今の私なら、もしかしたら馬車より速く走れるんじゃないかしら?
色めき立つ心のまま調子に乗ってスピードを上げていくと、突然目の前にメイドの姿が飛び込んできた。
どうやらそこの角から出てきたらしい。
よけきれない、ぶつかる!
とっさに目を閉じるも、私の体はすんなりと彼女の体をすり抜けた。
ここにはない心臓が飛び出そうなほどバクバクしたが、そんなスリルすら楽しくってたまらない。
浮かれた気分のまま、笑いながらくるくる飛び回っていたから、うっかり自分の行き着いた場所がどこか気づくのが遅れてしまった。
くるりと空中で縦回転を決めた私がいたのは、玄関ホールだった。
しかも間の悪いことに、元婚約者のお見送りの真っ最中だ。
「え、妖精……?」
セオルの口から、変な戯言が聞こえた。
思わず顔を顰めた私に対し、両親や妹は首を傾げる。
なんであいつにだけ視えるの?
どうせならイレーヌに視えればいいのに。
むむっと頬を膨らませると、踵を返す寸前の彼の口元が動いた。
声は出ていなかったけれど「おいで」かな?
なんとなくそう察したが、おいでと言われてほいほいついていくバカはいない。
無視無視………いや、でも今は精神体だし?
ついてって困ることにはならないんじゃない?
0
あなたにおすすめの小説
【完結】悪役令嬢の反撃の日々
ほーみ
恋愛
「ロゼリア、お茶会の準備はできていますか?」侍女のクラリスが部屋に入ってくる。
「ええ、ありがとう。今日も大勢の方々がいらっしゃるわね。」ロゼリアは微笑みながら答える。その微笑みは氷のように冷たく見えたが、心の中では別の計画を巡らせていた。
お茶会の席で、ロゼリアはいつものように優雅に振る舞い、貴族たちの陰口に耳を傾けた。その時、一人の男性が現れた。彼は王国の第一王子であり、ロゼリアの婚約者でもあるレオンハルトだった。
「ロゼリア、君の美しさは今日も輝いているね。」レオンハルトは優雅に頭を下げる。
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。
三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。
何度も断罪を回避しようとしたのに!
では、こんな国など出ていきます!
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
神託の聖女様~偽義妹を置き去りにすることにしました
青の雀
恋愛
半年前に両親を亡くした公爵令嬢のバレンシアは、相続権を王位から認められ、晴れて公爵位を叙勲されることになった。
それから半年後、突如現れた義妹と称する女に王太子殿下との婚約まで奪われることになったため、怒りに任せて家出をするはずが、公爵家の使用人もろとも家を出ることに……。
【完結】16わたしも愛人を作ります。
華蓮
恋愛
公爵令嬢のマリカは、皇太子であるアイランに冷たくされていた。側妃を持ち、子供も側妃と持つと、、
惨めで生きているのが疲れたマリカ。
第二王子のカイランがお見舞いに来てくれた、、、、
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる