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195 父の心情
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頭を下げたままの魔王に、俺は一言「勝手なことを言うな」と答えた。
ぱっと視線をあげた魔王は、困惑の表情をしている。
魔王は俺よりもずいぶん年上なはずだが、こうしてみると若者に見えてならない。
「確かに俺は、今すぐにでも娘を連れて元の世界へ戻りたい」
「なら……」
「でも今この場で語られているのは、俺と君の気持ちだけだろ?当事者である娘の気持ちを確かめもせず、勝手に話を進めるわけにはいかない。……大体、君は娘を心から愛しているそうだが、俺の方が柚乃への愛は大きいからな!」
「……は?」
魔王がぽかんとして固まる。
そのとき、ずっと静かにしていたノアが耐えかねたように笑い出した。
「ちょっと伊月くんってば、どこで張り合ってんの」
「大事なことだろ」
「まあ、男親にとってはそうなのかもしれないけど……ふふふふふ」
ノアは肩をプルプル震わせている。
そんなに面白いことをいったつもりはないのにと、思わずむっとする。
ノアはひとしきり笑ったあと、まだ茫然としている魔王に向かって「伊月くんは柚乃ちゃんのお父さんなんだよ?」と当たり前のことを言う。
「柚乃ちゃんがそこなしのお人好しだってことくらい、十分わかってるでしょ?そんな柚乃ちゃんを育てたんだから、伊月くんと詩織ちゃんもバカがつくほどのいい子たちなんだよ。自分たちのために他人を犠牲にしてもいいなんて、そんなことは考えられるわけないじゃん」
なんだか褒められてるのか貶されてるのかわからないな。
若干不満に思っていると、魔王が困ったように言う。
「いや、だがこのままだと……」
「ま、お人好しは君も大概だけどね」
ノアが立ち上がって、魔王の肩をぽんぽんと叩く。
その表情は優しく、長い間いっしょに旅をしてきた俺でも目を奪われるほど慈愛に満ちていた。
※
その日の夜は、なかなか寝付けずにいた。
魔王の気持ちは、素直にうれしかった。
それほどまで、娘を大切に思ってくれていることが伝わってきたから。
しかしその反面、もやもやしたものが胸の中に広がる。
「魔王……はっきり愛してるって言ってたな……」
ぼそりとつぶやく。
そして脳裏に浮かぶ、寄り添う娘と魔王の姿。
俺は頭を抱えて深い深いため息をついた。
「……くっそ、絶対付き合ってる……」
元の世界の娘に彼氏がいたのかどうかはわからない。
以前蓮から「柚乃に彼氏がいたことはないらしい」とは聞いたが、その後できていた可能性もある。
なにせ娘はかわいいし、いい子だし。
ただ、娘から彼氏の存在をにおわされたことは一度だってない。
だからこそ、いつかこんな日が来ると思ってはいたが、まったく覚悟なんて決まっていなかったのだ。
小さい頃は結婚の意味もよくわからず「大きくなったら、パパとママと3人で結婚する!」なんて言っていた娘に、彼氏……しかも異世界の魔王で美形でさらに性格までいい彼氏ができたなんて認めたくない。
ベッドの上をごろごろ転がってうめいていると、ノアに「うるさいんだけど」と注意された。
ちらりと視線を向けたノアは、厳しい言葉とは裏腹に楽しそうだった。
「……寝てなかったのか……」
「隣でこれだけ悶えられたらね」
「仕方ないじゃないか……」
唇を尖らせてあからさまに拗ねている俺を見て、ノアがくすくす笑う。
そして立ち上がり、リビングの方へ出て行ったかと思ったら、すぐに戻ってきた。
その手には酒の瓶とグラスが握られている。
「特別に、もうちょっとだけ付き合ってあげようか?」
いたずらっぽく笑ってグラスを差し出すノアに頷き返し、俺はグラスを受け取った。
ぱっと視線をあげた魔王は、困惑の表情をしている。
魔王は俺よりもずいぶん年上なはずだが、こうしてみると若者に見えてならない。
「確かに俺は、今すぐにでも娘を連れて元の世界へ戻りたい」
「なら……」
「でも今この場で語られているのは、俺と君の気持ちだけだろ?当事者である娘の気持ちを確かめもせず、勝手に話を進めるわけにはいかない。……大体、君は娘を心から愛しているそうだが、俺の方が柚乃への愛は大きいからな!」
「……は?」
魔王がぽかんとして固まる。
そのとき、ずっと静かにしていたノアが耐えかねたように笑い出した。
「ちょっと伊月くんってば、どこで張り合ってんの」
「大事なことだろ」
「まあ、男親にとってはそうなのかもしれないけど……ふふふふふ」
ノアは肩をプルプル震わせている。
そんなに面白いことをいったつもりはないのにと、思わずむっとする。
ノアはひとしきり笑ったあと、まだ茫然としている魔王に向かって「伊月くんは柚乃ちゃんのお父さんなんだよ?」と当たり前のことを言う。
「柚乃ちゃんがそこなしのお人好しだってことくらい、十分わかってるでしょ?そんな柚乃ちゃんを育てたんだから、伊月くんと詩織ちゃんもバカがつくほどのいい子たちなんだよ。自分たちのために他人を犠牲にしてもいいなんて、そんなことは考えられるわけないじゃん」
なんだか褒められてるのか貶されてるのかわからないな。
若干不満に思っていると、魔王が困ったように言う。
「いや、だがこのままだと……」
「ま、お人好しは君も大概だけどね」
ノアが立ち上がって、魔王の肩をぽんぽんと叩く。
その表情は優しく、長い間いっしょに旅をしてきた俺でも目を奪われるほど慈愛に満ちていた。
※
その日の夜は、なかなか寝付けずにいた。
魔王の気持ちは、素直にうれしかった。
それほどまで、娘を大切に思ってくれていることが伝わってきたから。
しかしその反面、もやもやしたものが胸の中に広がる。
「魔王……はっきり愛してるって言ってたな……」
ぼそりとつぶやく。
そして脳裏に浮かぶ、寄り添う娘と魔王の姿。
俺は頭を抱えて深い深いため息をついた。
「……くっそ、絶対付き合ってる……」
元の世界の娘に彼氏がいたのかどうかはわからない。
以前蓮から「柚乃に彼氏がいたことはないらしい」とは聞いたが、その後できていた可能性もある。
なにせ娘はかわいいし、いい子だし。
ただ、娘から彼氏の存在をにおわされたことは一度だってない。
だからこそ、いつかこんな日が来ると思ってはいたが、まったく覚悟なんて決まっていなかったのだ。
小さい頃は結婚の意味もよくわからず「大きくなったら、パパとママと3人で結婚する!」なんて言っていた娘に、彼氏……しかも異世界の魔王で美形でさらに性格までいい彼氏ができたなんて認めたくない。
ベッドの上をごろごろ転がってうめいていると、ノアに「うるさいんだけど」と注意された。
ちらりと視線を向けたノアは、厳しい言葉とは裏腹に楽しそうだった。
「……寝てなかったのか……」
「隣でこれだけ悶えられたらね」
「仕方ないじゃないか……」
唇を尖らせてあからさまに拗ねている俺を見て、ノアがくすくす笑う。
そして立ち上がり、リビングの方へ出て行ったかと思ったら、すぐに戻ってきた。
その手には酒の瓶とグラスが握られている。
「特別に、もうちょっとだけ付き合ってあげようか?」
いたずらっぽく笑ってグラスを差し出すノアに頷き返し、俺はグラスを受け取った。
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