87 / 144
87 朝食
しおりを挟む
「ちょっと、無罪を主張するっていうから連れてきたのに、何言ってるのよ!」
「何って……無罪は主張したよ?」
「ほとんどしてないようなもんじゃない!」
「凪は細かいなぁ」
顔を青くして訴える凪さんを飄々とかわしながら、悠哉さんは父に視線を向けた。
父は無表情のまま悠哉さんを見ているが、そこに怒りの色はないように見える。
「……まぁ、この状況では何を言っても水掛け論にしかならないだろうな」
「でしょう?」
「一番疑わしいとはいえ、不躾だった。申し訳ない」
「こちらこそ、売られた喧嘩は買う性分でして、失礼しました」
父の謝罪に、冗談なのか本気なのかわからない返答をして、悠哉さんは笑う。
父もつられて表情を崩した。
それを確認して、悠哉さんは足元に置いていた鞄を手に取った。
そしてしばらく中をごそごそ漁っていたかと思えば、ひとつの小さな箱を取り出して私の前に置く。
悠哉さんの手によって開かれた箱の中には、見覚えのある石が鎮座していた。
「……これ」
透き通るような鮮やかな黄色。
あの老婦人に取り上げられたものと多少形は異なるけど、まぎれもなく同じ種類の石だ。
「予備にと取り寄せておいたんだ」
「……!」
「こんなに早く使うことになるとは思わなかったけど。さぁ、どうぞ」
促されて手に取ったそれは、以前のそれと同様に、私のもやを吸い取ってくれる。
ほかの石に触れたときとは違う独特の感触に、私の視界がじんわり歪む。
「すみません」
父が言うと、悠哉さんはひらひらと手を振った。
「アフターサービスの一環ですよ」
その後病院で今後の対応について話し合いをした。
病院での訓練は一時中断すること。
定期検診は保護者の付き添いの元継続して受けること。
そして、悠哉さんや恭太さんと保護者の同伴なしに接触しないこと。
ほとんどが悠哉さんからの提案だった。
今は安心できる環境を整えることを優先すべきだと。
父もそれに同意し、もめることなく話し合いは終了した。
※
翌日、アラームの音で目を覚ました私は、寝ぼけ眼のまま身支度を整える。
泥だらけになってた制服は、クリーニングに出してすっかりきれいだ。
あれだけ森の中をさまよってよく破れなかったな、などと考えつつ、リビングの扉を開ける。
「おはよ」
「……は?」
予想外の人物に挨拶をされ、私は口をあんぐり開けて固まった。
そんな私を尻目に、雪成はまるで自分の家かのように食卓に座り、ごはんをかっこんでいる。
「え、何してんの?」
「朝飯くってる」
「食べてこなかったの?」
「家でも食べたんだけど、勧められたから」
は?
勧められたから朝ごはん2回戦目やってるわけ?
うまく回らない頭でそんなことを考えていると、母に「あんたも早く食べちゃいなさい」と促される。
ぼんやりしたまま席に着き、味噌汁をすすった。
ふんわりと優しく香るだしと味噌の風味。
ほっと落ち着く味だ。
「……じゃなくて!なんで朝からうちにいるの?」
はっとして突っ込む。
そもそも雪成が家にくるのなんて、いつぶりだろう。
「こら。せっかく迎えに来てくれたのに、なんて言い方してるの」
「いいんすよ。言ってなかったんで」
「もう。ごめんね、ユキくん」
状況についていけない私を置き去りに、母と雪成が会話する。
頭を抱えていると、ケラケラとのどかの笑い声が聞こえた。
「お姉ちゃん、慌てすぎ」
「いや、だって……」
「いいじゃん、いいじゃん。同じ学校なんだから、たまにはいっしょに行けばいいじゃん」
「いや、いいじゃんって……」
戸惑いつつ、諦めて食事を再開する。
こんがりと焼き目のついた鮭に箸を入れると、ほろりと身がほぐれていった。
「何って……無罪は主張したよ?」
「ほとんどしてないようなもんじゃない!」
「凪は細かいなぁ」
顔を青くして訴える凪さんを飄々とかわしながら、悠哉さんは父に視線を向けた。
父は無表情のまま悠哉さんを見ているが、そこに怒りの色はないように見える。
「……まぁ、この状況では何を言っても水掛け論にしかならないだろうな」
「でしょう?」
「一番疑わしいとはいえ、不躾だった。申し訳ない」
「こちらこそ、売られた喧嘩は買う性分でして、失礼しました」
父の謝罪に、冗談なのか本気なのかわからない返答をして、悠哉さんは笑う。
父もつられて表情を崩した。
それを確認して、悠哉さんは足元に置いていた鞄を手に取った。
そしてしばらく中をごそごそ漁っていたかと思えば、ひとつの小さな箱を取り出して私の前に置く。
悠哉さんの手によって開かれた箱の中には、見覚えのある石が鎮座していた。
「……これ」
透き通るような鮮やかな黄色。
あの老婦人に取り上げられたものと多少形は異なるけど、まぎれもなく同じ種類の石だ。
「予備にと取り寄せておいたんだ」
「……!」
「こんなに早く使うことになるとは思わなかったけど。さぁ、どうぞ」
促されて手に取ったそれは、以前のそれと同様に、私のもやを吸い取ってくれる。
ほかの石に触れたときとは違う独特の感触に、私の視界がじんわり歪む。
「すみません」
父が言うと、悠哉さんはひらひらと手を振った。
「アフターサービスの一環ですよ」
その後病院で今後の対応について話し合いをした。
病院での訓練は一時中断すること。
定期検診は保護者の付き添いの元継続して受けること。
そして、悠哉さんや恭太さんと保護者の同伴なしに接触しないこと。
ほとんどが悠哉さんからの提案だった。
今は安心できる環境を整えることを優先すべきだと。
父もそれに同意し、もめることなく話し合いは終了した。
※
翌日、アラームの音で目を覚ました私は、寝ぼけ眼のまま身支度を整える。
泥だらけになってた制服は、クリーニングに出してすっかりきれいだ。
あれだけ森の中をさまよってよく破れなかったな、などと考えつつ、リビングの扉を開ける。
「おはよ」
「……は?」
予想外の人物に挨拶をされ、私は口をあんぐり開けて固まった。
そんな私を尻目に、雪成はまるで自分の家かのように食卓に座り、ごはんをかっこんでいる。
「え、何してんの?」
「朝飯くってる」
「食べてこなかったの?」
「家でも食べたんだけど、勧められたから」
は?
勧められたから朝ごはん2回戦目やってるわけ?
うまく回らない頭でそんなことを考えていると、母に「あんたも早く食べちゃいなさい」と促される。
ぼんやりしたまま席に着き、味噌汁をすすった。
ふんわりと優しく香るだしと味噌の風味。
ほっと落ち着く味だ。
「……じゃなくて!なんで朝からうちにいるの?」
はっとして突っ込む。
そもそも雪成が家にくるのなんて、いつぶりだろう。
「こら。せっかく迎えに来てくれたのに、なんて言い方してるの」
「いいんすよ。言ってなかったんで」
「もう。ごめんね、ユキくん」
状況についていけない私を置き去りに、母と雪成が会話する。
頭を抱えていると、ケラケラとのどかの笑い声が聞こえた。
「お姉ちゃん、慌てすぎ」
「いや、だって……」
「いいじゃん、いいじゃん。同じ学校なんだから、たまにはいっしょに行けばいいじゃん」
「いや、いいじゃんって……」
戸惑いつつ、諦めて食事を再開する。
こんがりと焼き目のついた鮭に箸を入れると、ほろりと身がほぐれていった。
0
あなたにおすすめの小説
詠唱? それ、気合を入れるためのおまじないですよね? ~勘違い貴族の規格外魔法譚~
Gaku
ファンタジー
「次の人生は、自由に走り回れる丈夫な体が欲しい」
病室で短い生涯を終えた僕、ガクの切実な願いは、神様のちょっとした(?)サービスで、とんでもなく盛大な形で叶えられた。
気がつけば、そこは剣と魔法が息づく異世界。貴族の三男として、念願の健康な体と、ついでに規格外の魔力を手に入れていた!
これでようやく、平和で自堕落なスローライフが送れる――はずだった。
だが、僕には一つ、致命的な欠点があった。それは、この世界の魔法に関する常識が、綺麗さっぱりゼロだったこと。
皆が必死に唱える「詠唱」を、僕は「気合を入れるためのおまじない」だと勘違い。僕の魔法理論は、いつだって「体内のエネルギーを、ぐわーっと集めて、どーん!」。
その結果、
うっかり放った火の玉で、屋敷の壁に風穴を開けてしまう。
慌てて土魔法で修復すれば、なぜか元の壁より遥かに豪華絢爛な『匠の壁』が爆誕し、屋敷の新たな観光名所に。
「友達が欲しいな」と軽い気持ちで召喚魔法を使えば、天変地異の末に伝説の魔獣フェンリル(ただし、手のひらサイズの超絶可愛い子犬)を呼び出してしまう始末。
僕はただ、健康な体でのんびり暮らしたいだけなのに!
行く先々で無自覚に「やりすぎ」てしまい、気づけば周囲からは「無詠唱の暴君」「歩く災害」など、実に不名誉なあだ名で呼ばれるようになっていた……。
そんな僕が、ついに魔法学園へ入学!
当然のように入学試験では的を“消滅”させて試験官を絶句させ、「関わってはいけないヤバい奴」として輝かしい孤立生活をスタート!
しかし、そんな規格外な僕に興味を持つ、二人の変わり者が現れた。
魔法の真理を探求する理論オタクの「レオ」と、強者との戦いを求める猪突猛進な武闘派女子の「アンナ」。
この二人との出会いが、モノクロだった僕の世界を、一気に鮮やかな色に変えていく――!
勘違いと無自覚チートで、知らず知らずのうちに世界を震撼させる!
腹筋崩壊のドタバタコメディを軸に、個性的な仲間たちとの友情、そして、世界の謎に迫る大冒険が、今、始まる!
子持ち愛妻家の極悪上司にアタックしてもいいですか?天国の奥様には申し訳ないですが
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
胸がきゅんと、甘い音を立てる。
相手は、妻子持ちだというのに。
入社して配属一日目。
直属の上司で教育係だって紹介された人は、酷く人相の悪い人でした。
中高大と女子校育ちで男性慣れしてない私にとって、それだけでも恐怖なのに。
彼はちかよんなオーラバリバリで、仕事の質問すらする隙がない。
それでもどうにか仕事をこなしていたがとうとう、大きなミスを犯してしまう。
「俺が、悪いのか」
人のせいにするのかと叱責されるのかと思った。
けれど。
「俺の顔と、理由があって避け気味なせいだよな、すまん」
あやまってくれた彼に、胸がきゅんと甘い音を立てる。
相手は、妻子持ちなのに。
星谷桐子
22歳
システム開発会社営業事務
中高大女子校育ちで、ちょっぴり男性が苦手
自分の非はちゃんと認める子
頑張り屋さん
×
京塚大介
32歳
システム開発会社営業事務 主任
ツンツンあたまで目つき悪い
態度もでかくて人に恐怖を与えがち
5歳の娘にデレデレな愛妻家
いまでも亡くなった妻を愛している
私は京塚主任を、好きになってもいいのかな……?
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
宿敵の家の当主を妻に貰いました~妻は可憐で儚くて優しくて賢くて可愛くて最高です~
紗沙
恋愛
剣の名家にして、国の南側を支配する大貴族フォルス家。
そこの三男として生まれたノヴァは一族のみが扱える秘技が全く使えない、出来損ないというレッテルを貼られ、辛い子供時代を過ごした。
大人になったノヴァは小さな領地を与えられるものの、仕事も家族からの期待も、周りからの期待も0に等しい。
しかし、そんなノヴァに舞い込んだ一件の縁談話。相手は国の北側を支配する大貴族。
フォルス家とは長年の確執があり、今は栄華を極めているアークゲート家だった。
しかも縁談の相手は、まさかのアークゲート家当主・シアで・・・。
「あのときからずっと……お慕いしています」
かくして、何も持たないフォルス家の三男坊は性格良し、容姿良し、というか全てが良しの妻を迎え入れることになる。
ノヴァの運命を変える、全てを与えてこようとする妻を。
「人はアークゲート家の当主を恐ろしいとか、血も涙もないとか、冷酷とか散々に言うけど、
シアは可愛いし、優しいし、賢いし、完璧だよ」
あまり深く考えないノヴァと、彼にしか自分の素を見せないシア、二人の結婚生活が始まる。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます
難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』"
ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。
社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー……
……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!?
ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。
「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」
「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族!
「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」
かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、
竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。
「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」
人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、
やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。
——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、
「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。
世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、
最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕!
※小説家になろう様にも掲載しています。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる