112 / 144
112 連絡
しおりを挟む
映画もそろそろ終盤だ。
激しい銃撃戦の末、ヒロインをかばって負傷する主人公。
とどめを刺そうと追い打ちをかける相手に一矢報いたのは、守られ続けてきたヒロインだった。
予想外の反撃によって生まれた一瞬のすきをついて、主人公の放った銃弾が敵の心臓を打ち抜く。
普段アクション映画なんて観ないから、なんていうか衝撃がすごい。
ワイヤーなんかを使っているんだろうけど、それを差し引いてもカッコいい。
こんな風に縦横無尽に戦えたら、なんて思ってしまうくらいほどに。
「ご鑑賞中、失礼いたします」
今までずっと黙っていたおじいさんが急に話しかけてきて、思わずビクッとしてしまった。
おじいさんを振り返ると、その手にはスマートフォンが握られている。
「お電話でございます」
画面をみると、通話中になっている。
私たちは顔を見合わせて、スピーカーボタンを押した。
「も、もしもし?」
『かすみか?』
「お父さん!」
電話先の父の声は、普段と変わりなく聞こえた。
少なくとも、強い疲労や怪我なんかはなさそうで安堵する。
「そっちは今どんな状況?みんな無事?紅葉ちゃんのお父さんは?!」
『ああ、こっちは問題ない。救出も成功した。宝生さんも衰弱しているが、自力で動ける程度だから心配いらない』
父の言葉に、紅葉ちゃんが両手を口元に当てる。
瞳はうるうると涙の膜が張っていて、今にも零れ落ちそうだ。
『集落を離れて、もうずいぶん走ってる。だがまだ帰るには時間がかかりそうだから、今日はそちらに泊めてもらいなさい。うちにも雪成くんの家にも、こちらから連絡しておく』
「わ、わかった!」
「あの!すみません、少しでもいいので、父の声を」
『すまない、お父さん限界だったみたいで、今は眠っているんだ。その代わり、あとで写真を送るから』
「……わかりました」
続けて二言三言会話をして、電話は切れた。
それからまもなく、約束通り写真が送られてきた。
あの日、車の中で雪成の隣に座っていた男の人が、ぐったりとした様子でドアにもたれかかるようにして眠っている。
以前と比べるとずいぶんとやつれていて、顔中に痣ができているのが痛々しい。
紅葉ちゃんはそれでも、安心したように微笑みながら涙を流していた。
私も泣きそうな気持ちで、紅葉ちゃんの細い肩を抱きしめる。
「よかったね……本当、よかった……」
「あり、がとっ……ありがとう……」
泣きじゃくる紅葉ちゃんの頬を濡らす涙を、おばあさんがそっとハンカチで拭う。
何も言わなかったが、そのまなざしはすごく優しい。
スクリーンの中の映画はいつの間にか終わっていた。
しっとりとしたバラードとともに、エンドロールが流れていた。
※
しばらく泣いて落ち着いたらしい紅葉ちゃんは、おばあさんから濡れタオルを渡されて、目元を冷やしている。
そのあいだ、おじいさんが夕飯の準備をしてくれた。
オムライスにナポリタン、エビフライ、唐揚げ、ポテト、そして彩りのブロッコリーとトマト。
オムライスの上にはご丁寧に旗まで立っていて、まごうことなき、
「お子さまランチだ!」
子どもの好きなものをとことん詰め込みました、というワンプレートに、私は思わず目を輝かせる。
テレビなんかで見たことはあるけど、お子さまランチを直接目にするのは初めてだ。
もやのせいで外食なんてほとんどしたことがないし、行ったことがあるお店は店内が薄暗い焼肉店くらいなもの。
ファミレスなんて、今まで一度だって足を運ぼうと思ったことすらなかった。
「ランチじゃなくてディナーだけどな」
からかうように雪成が言う。
それでもわしわしと私の頭を撫でて「よかったな」なんて笑うから、思わずドキッとしてしまった。
「デザートにプリンもご用意しております」
そうおじいさんが微笑んで、私の胸はさらにときめいたのだった。
激しい銃撃戦の末、ヒロインをかばって負傷する主人公。
とどめを刺そうと追い打ちをかける相手に一矢報いたのは、守られ続けてきたヒロインだった。
予想外の反撃によって生まれた一瞬のすきをついて、主人公の放った銃弾が敵の心臓を打ち抜く。
普段アクション映画なんて観ないから、なんていうか衝撃がすごい。
ワイヤーなんかを使っているんだろうけど、それを差し引いてもカッコいい。
こんな風に縦横無尽に戦えたら、なんて思ってしまうくらいほどに。
「ご鑑賞中、失礼いたします」
今までずっと黙っていたおじいさんが急に話しかけてきて、思わずビクッとしてしまった。
おじいさんを振り返ると、その手にはスマートフォンが握られている。
「お電話でございます」
画面をみると、通話中になっている。
私たちは顔を見合わせて、スピーカーボタンを押した。
「も、もしもし?」
『かすみか?』
「お父さん!」
電話先の父の声は、普段と変わりなく聞こえた。
少なくとも、強い疲労や怪我なんかはなさそうで安堵する。
「そっちは今どんな状況?みんな無事?紅葉ちゃんのお父さんは?!」
『ああ、こっちは問題ない。救出も成功した。宝生さんも衰弱しているが、自力で動ける程度だから心配いらない』
父の言葉に、紅葉ちゃんが両手を口元に当てる。
瞳はうるうると涙の膜が張っていて、今にも零れ落ちそうだ。
『集落を離れて、もうずいぶん走ってる。だがまだ帰るには時間がかかりそうだから、今日はそちらに泊めてもらいなさい。うちにも雪成くんの家にも、こちらから連絡しておく』
「わ、わかった!」
「あの!すみません、少しでもいいので、父の声を」
『すまない、お父さん限界だったみたいで、今は眠っているんだ。その代わり、あとで写真を送るから』
「……わかりました」
続けて二言三言会話をして、電話は切れた。
それからまもなく、約束通り写真が送られてきた。
あの日、車の中で雪成の隣に座っていた男の人が、ぐったりとした様子でドアにもたれかかるようにして眠っている。
以前と比べるとずいぶんとやつれていて、顔中に痣ができているのが痛々しい。
紅葉ちゃんはそれでも、安心したように微笑みながら涙を流していた。
私も泣きそうな気持ちで、紅葉ちゃんの細い肩を抱きしめる。
「よかったね……本当、よかった……」
「あり、がとっ……ありがとう……」
泣きじゃくる紅葉ちゃんの頬を濡らす涙を、おばあさんがそっとハンカチで拭う。
何も言わなかったが、そのまなざしはすごく優しい。
スクリーンの中の映画はいつの間にか終わっていた。
しっとりとしたバラードとともに、エンドロールが流れていた。
※
しばらく泣いて落ち着いたらしい紅葉ちゃんは、おばあさんから濡れタオルを渡されて、目元を冷やしている。
そのあいだ、おじいさんが夕飯の準備をしてくれた。
オムライスにナポリタン、エビフライ、唐揚げ、ポテト、そして彩りのブロッコリーとトマト。
オムライスの上にはご丁寧に旗まで立っていて、まごうことなき、
「お子さまランチだ!」
子どもの好きなものをとことん詰め込みました、というワンプレートに、私は思わず目を輝かせる。
テレビなんかで見たことはあるけど、お子さまランチを直接目にするのは初めてだ。
もやのせいで外食なんてほとんどしたことがないし、行ったことがあるお店は店内が薄暗い焼肉店くらいなもの。
ファミレスなんて、今まで一度だって足を運ぼうと思ったことすらなかった。
「ランチじゃなくてディナーだけどな」
からかうように雪成が言う。
それでもわしわしと私の頭を撫でて「よかったな」なんて笑うから、思わずドキッとしてしまった。
「デザートにプリンもご用意しております」
そうおじいさんが微笑んで、私の胸はさらにときめいたのだった。
0
あなたにおすすめの小説
詠唱? それ、気合を入れるためのおまじないですよね? ~勘違い貴族の規格外魔法譚~
Gaku
ファンタジー
「次の人生は、自由に走り回れる丈夫な体が欲しい」
病室で短い生涯を終えた僕、ガクの切実な願いは、神様のちょっとした(?)サービスで、とんでもなく盛大な形で叶えられた。
気がつけば、そこは剣と魔法が息づく異世界。貴族の三男として、念願の健康な体と、ついでに規格外の魔力を手に入れていた!
これでようやく、平和で自堕落なスローライフが送れる――はずだった。
だが、僕には一つ、致命的な欠点があった。それは、この世界の魔法に関する常識が、綺麗さっぱりゼロだったこと。
皆が必死に唱える「詠唱」を、僕は「気合を入れるためのおまじない」だと勘違い。僕の魔法理論は、いつだって「体内のエネルギーを、ぐわーっと集めて、どーん!」。
その結果、
うっかり放った火の玉で、屋敷の壁に風穴を開けてしまう。
慌てて土魔法で修復すれば、なぜか元の壁より遥かに豪華絢爛な『匠の壁』が爆誕し、屋敷の新たな観光名所に。
「友達が欲しいな」と軽い気持ちで召喚魔法を使えば、天変地異の末に伝説の魔獣フェンリル(ただし、手のひらサイズの超絶可愛い子犬)を呼び出してしまう始末。
僕はただ、健康な体でのんびり暮らしたいだけなのに!
行く先々で無自覚に「やりすぎ」てしまい、気づけば周囲からは「無詠唱の暴君」「歩く災害」など、実に不名誉なあだ名で呼ばれるようになっていた……。
そんな僕が、ついに魔法学園へ入学!
当然のように入学試験では的を“消滅”させて試験官を絶句させ、「関わってはいけないヤバい奴」として輝かしい孤立生活をスタート!
しかし、そんな規格外な僕に興味を持つ、二人の変わり者が現れた。
魔法の真理を探求する理論オタクの「レオ」と、強者との戦いを求める猪突猛進な武闘派女子の「アンナ」。
この二人との出会いが、モノクロだった僕の世界を、一気に鮮やかな色に変えていく――!
勘違いと無自覚チートで、知らず知らずのうちに世界を震撼させる!
腹筋崩壊のドタバタコメディを軸に、個性的な仲間たちとの友情、そして、世界の謎に迫る大冒険が、今、始まる!
子持ち愛妻家の極悪上司にアタックしてもいいですか?天国の奥様には申し訳ないですが
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
胸がきゅんと、甘い音を立てる。
相手は、妻子持ちだというのに。
入社して配属一日目。
直属の上司で教育係だって紹介された人は、酷く人相の悪い人でした。
中高大と女子校育ちで男性慣れしてない私にとって、それだけでも恐怖なのに。
彼はちかよんなオーラバリバリで、仕事の質問すらする隙がない。
それでもどうにか仕事をこなしていたがとうとう、大きなミスを犯してしまう。
「俺が、悪いのか」
人のせいにするのかと叱責されるのかと思った。
けれど。
「俺の顔と、理由があって避け気味なせいだよな、すまん」
あやまってくれた彼に、胸がきゅんと甘い音を立てる。
相手は、妻子持ちなのに。
星谷桐子
22歳
システム開発会社営業事務
中高大女子校育ちで、ちょっぴり男性が苦手
自分の非はちゃんと認める子
頑張り屋さん
×
京塚大介
32歳
システム開発会社営業事務 主任
ツンツンあたまで目つき悪い
態度もでかくて人に恐怖を与えがち
5歳の娘にデレデレな愛妻家
いまでも亡くなった妻を愛している
私は京塚主任を、好きになってもいいのかな……?
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
宿敵の家の当主を妻に貰いました~妻は可憐で儚くて優しくて賢くて可愛くて最高です~
紗沙
恋愛
剣の名家にして、国の南側を支配する大貴族フォルス家。
そこの三男として生まれたノヴァは一族のみが扱える秘技が全く使えない、出来損ないというレッテルを貼られ、辛い子供時代を過ごした。
大人になったノヴァは小さな領地を与えられるものの、仕事も家族からの期待も、周りからの期待も0に等しい。
しかし、そんなノヴァに舞い込んだ一件の縁談話。相手は国の北側を支配する大貴族。
フォルス家とは長年の確執があり、今は栄華を極めているアークゲート家だった。
しかも縁談の相手は、まさかのアークゲート家当主・シアで・・・。
「あのときからずっと……お慕いしています」
かくして、何も持たないフォルス家の三男坊は性格良し、容姿良し、というか全てが良しの妻を迎え入れることになる。
ノヴァの運命を変える、全てを与えてこようとする妻を。
「人はアークゲート家の当主を恐ろしいとか、血も涙もないとか、冷酷とか散々に言うけど、
シアは可愛いし、優しいし、賢いし、完璧だよ」
あまり深く考えないノヴァと、彼にしか自分の素を見せないシア、二人の結婚生活が始まる。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双
四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。
「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。
教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。
友達もなく、未来への希望もない。
そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。
突如として芽生えた“成長システム”。
努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。
筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。
昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。
「なんであいつが……?」
「昨日まで笑いものだったはずだろ!」
周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。
陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。
だが、これはただのサクセスストーリーではない。
嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。
陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。
「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」
かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。
最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。
物語は、まだ始まったばかりだ。
真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます
難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』"
ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。
社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー……
……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!?
ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。
「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」
「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族!
「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」
かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、
竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。
「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」
人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、
やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。
——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、
「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。
世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、
最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕!
※小説家になろう様にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる