かすみは今日も、もやの中

ほりとくち

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21 記録

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「これはなかなか、興味深いねぇ」


 宝生さんに書いてもらったノートをまじまじ眺めながら、森川先生が言う。
 その横から、好奇心に満ちた瞳で恭太さんもノートを眺めていた。

 恭太さんに会うのは、これで3回目。
 自分でとった記録だけでは心もとないので、先日のノートも持参したが正解だったらしい。


「ただこれは、そのお友だちの主観だろうからね。仮定の一つとして観察を進めてみないことには、真偽は断定できないかな」

「それはそうだね。でも、新たな視点だ。これからもその子に観察を頼むことはできそうかな?」

「どうでしょう……」


 正直お願いしたい気持ちはあるけど、迷惑になることは避けたい。
 今は好意的に接してもらえているけど、いつまで続くかはわからないし。


「できる範囲でお願いしてごらん」


 そう言って、小春さんが私の頭を撫でた。
 私の気持ちを察してくれているのだろう。


「そうだね。無理のない程度でいいから、きいてみて」

「わかりました」

「それで、もう少し詳しく話を聞いてもいいかな」

「はい」


 私のつけていた記録とノートを並べて、先生と恭太さんがいくつか質問をしてはメモを取る。
 人とじっくり話をすることに慣れていないから、どこかそわそわ気分だ。
 そしてまだ、恭太さんの整った顔立ちに慣れることはできず、たまに見惚れてしまう。

 本当は今日、恭太さんと凪さんの伯父さんが同席してくれることになっていた。
 でも急に飛行機が欠航になってしまったらしく、海外で足止めをくっているという。
 予定では昨日帰国予定だったそうだったそうだ。
 大変な事態なのではないかと思ったが、凪さん曰くよくあることらしく、ふたりとも心配している様子はない。


「伯父は夜には帰国できるみたいなんですけど」

「そうかぁ。でも明日から学会だからなぁ」


 そう言って、先生が眉間を押さえた。


「伯父さん、またすぐ海外にいっちゃうんでしょ?」

「ええ。もともと日本には5日しか滞在しない予定で」

「で、帰国が伸びたから滞在日数も減っちゃったんだよね?」

「はい……」


 凪さんの返答に、先生はしばらく悩んだ末に続ける。


「次の機会がいつになるかわからないし、いったん君たちだけでその伯父さんに会ってみてはどうだろう?この部屋は使えるように手配しておく。時間帯によっては、僕もリモートで参加できるかもしれないし」

「いいんですか?」


 先生は頷き、いくつか条件をあげた。

 部屋の様子を記録の一環として撮影すること。
 病院関係者を数名同席させること。
 体調に異変があればすぐに知らせ、適切な処置を受けること。


「もちろん、先方の了承をもらえればの話だけど」

「聞いてみます!でも伯父はおおらかっていうか、さっくりした人なので大丈夫だと思います」

「それは心強い」


 ははっと先生が笑う。
 そうして私の記録とノートを手に取った。


「これは資料の一つとしてコピーをとらせてもらうけど、構わない?よければその伯父さんにも事前に目を通してもらいたいけど」

「渡しておきます」

「うん、頼むよ」


 そう言って、先生が笑いかけると、凪さんがうっすら頬を染めた。
 あれ?と思ったけど、野暮になりそうなので見て見ぬふりをした。
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