かすみは今日も、もやの中

ほりとくち

文字の大きさ
34 / 144

34 連絡先

しおりを挟む
「今は濃いもやじゃないと感知できないだろうけど、慣れてきたら普段の量のもやでも感知できるようになると思う。次に会うときまでに、意識的にもやの存在を感じ取れるよう頑張ってごらん。ただストレスをためるのはよくないから、無理のない範囲でかまわないよ」

「はいっ」

「次はいつにしようか?僕としてはここでやってもいいんだけど、病院でやらないと姉さんたちがうるさそうだしなぁ。都合のいい曜日とか時間帯とかある?」

「いえ、私はいつでも」

「そう?」


 正直私も、病院よりもここの方が安心して訓練に取り組める気がする。
 気遣ってくれる小春さんや先生たちには申し訳ないけど、みんなに注目されながら何かをやるのは苦手なのだ。
 安全性が高いのは病院だろうけど、訓練自体に危険性を感じたことはないし。

 ただ病院側としても、珍しい症例のデータがほしいのだろう。
 それだけが理由じゃないことはわかっているけど、なんだか自分がモルモットのように思えて、時折気分が沈む。


「日程すりあわせて、連絡してもらうようにするね」

「よろしくお願いします」

「ついでに僕たちも交換しとく?連絡先」

「え?」

「特別ね」


 恭太さんがスマホの画面を私に向ける。
 まめにスマホをチェックするタイプじゃないから、返信が遅くなっても気にしないようにと、なぜかマスターが熱弁してきて笑ってしまった。
 ちなみに、マスターからの連絡の大半は既読スルーらしい。
 さらに、なかなか連絡先を教えてもらえず、手に入れるのに3年かかったのだとか。
 だからこんな短時間で、恭太さんから連絡を教えてもらえるのは相当珍しいことなのだそう。

 でもそんなことをぐちぐち言い続けるマスターを見る恭太さんの顔はどこか楽しそうで、きっと連絡先を教えなかったのは、からかうのが面白かったからなんだろうな、とわかってしまった。





 ほどなくして病院から家に電話がかかってきた。
 詳細は来院時にきくことになったこと、そして両親が次の訓練に参加することになったと聞かされ、私はうなだれた。
 また母が暴走して泣き出すんだろうなと憂鬱な気分でいたが、当日、なぜか同席したのは父だけだった。
 母も出かける準備をしていたが、急な腹痛に襲われてしまったのだ。

 薬を飲んで多少落ち着いたが、無理はいけないと父が説得して、母は泣く泣く留守番することになった。
 私としてはありがたい状況だけど、無言で私の隣を歩く父と二人きりの状況は、なかなか居心地が悪い。


「ずいぶん、久しぶりに来たな」


 病院の前で、ぽつりと父が言った。
 病院にはいつも母と二人で通っていたので、父がついてきたことは数えるほどしかない。

 受付を済ませ、いつもの会議室へ通されると、すでに先生や恭太さんの姿があった。
 父は恭太さんを見て、少し驚いたような顔をしたけど、すぐに先生へ視線をうつして大人の挨拶を交わしていた。
 恭太さんが美人だったから戸惑ったのかな、と思ったけれど、それにしてはこわばった表情だったことが気になった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。 **2026.01.02start~2026.01.17end**

Blue Bird ―初恋の人に再会したのに奔放な同級生が甘すぎるっ‼【完結】

remo
恋愛
「…溶けろよ」 甘く響くかすれた声と奔放な舌にどこまでも落とされた。 本宮 のい。新社会人1年目。 永遠に出来そうもない彼氏を夢見つつ、目の前の仕事に奮闘中。 なんだけど。 青井 奏。 高校時代の同級生に再会した。 と思う間もなく、 和泉 碧。 初恋の相手らしき人も現れた。 幸せの青い鳥は一体どこに。 【完結】 ありがとうございました‼︎

ユキ・シオン

那月
BL
人間の姿をした、人間ではないもの。 成長過程で動物から人間に変わってしまう”擬人化種”の白猫青年と、16歳年上のオッサンとのお話。 出会ったのは猫カフェ。白猫従業員としての青年と客としてやってきたオッサン。 次に再会したのは青年が人間として通う大学。オッサンは保健室の先生だった。 青年が金のためにヤバいことをしていて、あるトラブルが起こる。 そこへ見計らったかのようにオッサンが飛び込んで救出したのをきっかけに2人の距離は縮まり…… ※表紙絵は自作。本編は進むにつれてどんどん動物園と化します(笑)

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

美味しいコーヒーの愉しみ方 Acidity and Bitterness

碧井夢夏
ライト文芸
<第五回ライト文芸大賞 最終選考・奨励賞> 住宅街とオフィスビルが共存するとある下町にある定食屋「まなべ」。 看板娘の利津(りつ)は毎日忙しくお店を手伝っている。 最近隣にできたコーヒーショップ「The Coffee Stand Natsu」。 どうやら、店長は有名なクリエイティブ・ディレクターで、脱サラして始めたお店らしく……? 神の舌を持つ定食屋の娘×クリエイティブ界の神と呼ばれた男 2人の出会いはやがて下町を変えていく――? 定食屋とコーヒーショップ、時々美容室、を中心に繰り広げられる出会いと挫折の物語。 過激表現はありませんが、重めの過去が出ることがあります。

一億円の花嫁

藤谷 郁
恋愛
奈々子は家族の中の落ちこぼれ。 父親がすすめる縁談を断り切れず、望まぬ結婚をすることになった。 もうすぐ自由が無くなる。せめて最後に、思いきり贅沢な時間を過ごそう。 「きっと、素晴らしい旅になる」 ずっと憧れていた高級ホテルに到着し、わくわくする奈々子だが…… 幸か不幸か!? 思いもよらぬ、運命の出会いが待っていた。 ※エブリスタさまにも掲載

僕らの10パーセントは無限大

華子
青春
 10%の確率でしか未来を生きられない少女と  過去に辛い経験をしたことがある幼ななじみと  やたらとポジティブなホームレス 「あり得ない今を生きてるんだったら、あり得ない未来だってあるんじゃねえの?」 「そうやって、信じたいものを信じて生きる人生って、楽しいもんだよ」    もし、あたなら。  10パーセントの確率で訪れる幸せな未来と  90パーセントの確率で訪れる悲惨な未来。  そのどちらを信じますか。 ***  心臓に病を患う和子(わこ)は、医者からアメリカでの手術を勧められるが、成功率10パーセントというあまりにも酷な現実に打ちひしがれ、渡米する勇気が出ずにいる。しかしこのまま日本にいても、死を待つだけ。  追い詰められた和子は、誰に何をされても気に食わない日々が続くが、そんな時出逢ったやたらとポジティブなホームレスに、段々と影響を受けていく。  幼ななじみの裕一にも支えられながら、彼女が前を向くまでの物語。

処理中です...