33 / 144
33 感知
しおりを挟む
「上出来だね」
恭太さんの言葉に顔を上げる。
「もしかして、今……」
「そ。少しだけもやを出してみた。気づかないだろうと思ったんだけど、優秀だね」
そう言って、恭太さんは淡くもやを漂わせる。
それに無遠慮に触れるマスター。
恭太さんは不機嫌な顔をして、マスターを睨みつけた。
「何してんの?」
「いや、やっぱ何も感じないなーと思って」
「まったく、何回やれば気が済むわけ?」
「いやいや、俺も成長するわけだし?ワンチャンいける可能性もあるって」
「……はぁ」
話の腰を折られたとばかりにため息をついた恭太さんは、私に向かって手を差し出した。
なんだろうと思って差し出された手をまじまじ見つめると、左手の中指にはめられている指輪の存在に気が付いた。
太めのシルバーのリングには植物のような模様が入っていて、中央にはきれいな紫色の石がついている。
「これ……」
「みててごらん」
言われるまま指輪を見ていると、恭太さんの周囲を漂っていたもやが、細い線のようになって指輪に吸い込まれていく。
悠哉さんの場合、煙が吸い込まれていくような感じだったのに、恭太さんのそれはまるで糸のようだ。
「これ、伯父さんより僕の方がうまいんだよ」
得意げに言った恭太さんは、手のひらを上に向ける。
先ほどまで石の中に吸い込まれていたもやは、恭太さんの手の上で渦を巻いていく。
まるで恭太さんの手のひらに浮かぶように、紫色の球体が出来上がっていく。
「え、すっご!なにこれ!」
私よりもはしゃいだ声を上げたのはマスターで、先ほどと同様、遠慮なく球体に手を伸ばす。
しかし球体は、マスターの指先が触れる寸前に崩れて消えていった。
「なんっでそんなことするかな……!」
「触ったところで、あなたには何も感知できないよ」
「そういう問題じゃなくて!もっかい、もっかいやってくれよ」
「いや」
ふいっと恭太さんが顔を背ける。
マスターは不満そうに口を尖らせたまま「このやろー」と恭太さんの肩をぐらぐらゆすっていた。
恭太さんはマスターを無視したまま、私に視線を戻した。
「今自分のもやに触れてみて、何か感じる?」
「……いえ……」
「まあ、普段からもやが出てる状態だからね。なかなか難しいか。……ちなみに、もやを増やすことはできそう?」
「えっ……と……」
試しに「もや増えろ……」と心で唱えてみるも、案の定何も起こらない。
「……無理みたいです」
「だろうね。じゃあ、何か最近嫌だったこととか思い出せる?」
「嫌だったこと……」
そう考えて、思い浮かぶのはやっぱり両親の姿。
さっきまで落ち着いていた心がざわつくのを感じて、スカートをぎゅっとつかむ。
「おお。なかなか」
恭太さんが感嘆の声をあげる。
恭太さんがかすんでしまうくらい、濃いもやが私を包み込んでいた。
「じゃあ、今のもやに触れてみて」
言われるがまま、もやに手を伸ばすと、パチッと静電気のようなものを感じた。
驚いて手を引っ込める。
今までこんな感覚、一度も感じたことがなかったのに。
「何か感じとれた?」
「あの……電気?みたいな……」
「え、まじ?」
マスターが私のもやに手を伸ばしたが、何も感じなかったのか残念そうにしている。
恭太さんはそんなマスターには一切触れず「上出来」と微笑んで見せた。
恭太さんの言葉に顔を上げる。
「もしかして、今……」
「そ。少しだけもやを出してみた。気づかないだろうと思ったんだけど、優秀だね」
そう言って、恭太さんは淡くもやを漂わせる。
それに無遠慮に触れるマスター。
恭太さんは不機嫌な顔をして、マスターを睨みつけた。
「何してんの?」
「いや、やっぱ何も感じないなーと思って」
「まったく、何回やれば気が済むわけ?」
「いやいや、俺も成長するわけだし?ワンチャンいける可能性もあるって」
「……はぁ」
話の腰を折られたとばかりにため息をついた恭太さんは、私に向かって手を差し出した。
なんだろうと思って差し出された手をまじまじ見つめると、左手の中指にはめられている指輪の存在に気が付いた。
太めのシルバーのリングには植物のような模様が入っていて、中央にはきれいな紫色の石がついている。
「これ……」
「みててごらん」
言われるまま指輪を見ていると、恭太さんの周囲を漂っていたもやが、細い線のようになって指輪に吸い込まれていく。
悠哉さんの場合、煙が吸い込まれていくような感じだったのに、恭太さんのそれはまるで糸のようだ。
「これ、伯父さんより僕の方がうまいんだよ」
得意げに言った恭太さんは、手のひらを上に向ける。
先ほどまで石の中に吸い込まれていたもやは、恭太さんの手の上で渦を巻いていく。
まるで恭太さんの手のひらに浮かぶように、紫色の球体が出来上がっていく。
「え、すっご!なにこれ!」
私よりもはしゃいだ声を上げたのはマスターで、先ほどと同様、遠慮なく球体に手を伸ばす。
しかし球体は、マスターの指先が触れる寸前に崩れて消えていった。
「なんっでそんなことするかな……!」
「触ったところで、あなたには何も感知できないよ」
「そういう問題じゃなくて!もっかい、もっかいやってくれよ」
「いや」
ふいっと恭太さんが顔を背ける。
マスターは不満そうに口を尖らせたまま「このやろー」と恭太さんの肩をぐらぐらゆすっていた。
恭太さんはマスターを無視したまま、私に視線を戻した。
「今自分のもやに触れてみて、何か感じる?」
「……いえ……」
「まあ、普段からもやが出てる状態だからね。なかなか難しいか。……ちなみに、もやを増やすことはできそう?」
「えっ……と……」
試しに「もや増えろ……」と心で唱えてみるも、案の定何も起こらない。
「……無理みたいです」
「だろうね。じゃあ、何か最近嫌だったこととか思い出せる?」
「嫌だったこと……」
そう考えて、思い浮かぶのはやっぱり両親の姿。
さっきまで落ち着いていた心がざわつくのを感じて、スカートをぎゅっとつかむ。
「おお。なかなか」
恭太さんが感嘆の声をあげる。
恭太さんがかすんでしまうくらい、濃いもやが私を包み込んでいた。
「じゃあ、今のもやに触れてみて」
言われるがまま、もやに手を伸ばすと、パチッと静電気のようなものを感じた。
驚いて手を引っ込める。
今までこんな感覚、一度も感じたことがなかったのに。
「何か感じとれた?」
「あの……電気?みたいな……」
「え、まじ?」
マスターが私のもやに手を伸ばしたが、何も感じなかったのか残念そうにしている。
恭太さんはそんなマスターには一切触れず「上出来」と微笑んで見せた。
0
あなたにおすすめの小説
詠唱? それ、気合を入れるためのおまじないですよね? ~勘違い貴族の規格外魔法譚~
Gaku
ファンタジー
「次の人生は、自由に走り回れる丈夫な体が欲しい」
病室で短い生涯を終えた僕、ガクの切実な願いは、神様のちょっとした(?)サービスで、とんでもなく盛大な形で叶えられた。
気がつけば、そこは剣と魔法が息づく異世界。貴族の三男として、念願の健康な体と、ついでに規格外の魔力を手に入れていた!
これでようやく、平和で自堕落なスローライフが送れる――はずだった。
だが、僕には一つ、致命的な欠点があった。それは、この世界の魔法に関する常識が、綺麗さっぱりゼロだったこと。
皆が必死に唱える「詠唱」を、僕は「気合を入れるためのおまじない」だと勘違い。僕の魔法理論は、いつだって「体内のエネルギーを、ぐわーっと集めて、どーん!」。
その結果、
うっかり放った火の玉で、屋敷の壁に風穴を開けてしまう。
慌てて土魔法で修復すれば、なぜか元の壁より遥かに豪華絢爛な『匠の壁』が爆誕し、屋敷の新たな観光名所に。
「友達が欲しいな」と軽い気持ちで召喚魔法を使えば、天変地異の末に伝説の魔獣フェンリル(ただし、手のひらサイズの超絶可愛い子犬)を呼び出してしまう始末。
僕はただ、健康な体でのんびり暮らしたいだけなのに!
行く先々で無自覚に「やりすぎ」てしまい、気づけば周囲からは「無詠唱の暴君」「歩く災害」など、実に不名誉なあだ名で呼ばれるようになっていた……。
そんな僕が、ついに魔法学園へ入学!
当然のように入学試験では的を“消滅”させて試験官を絶句させ、「関わってはいけないヤバい奴」として輝かしい孤立生活をスタート!
しかし、そんな規格外な僕に興味を持つ、二人の変わり者が現れた。
魔法の真理を探求する理論オタクの「レオ」と、強者との戦いを求める猪突猛進な武闘派女子の「アンナ」。
この二人との出会いが、モノクロだった僕の世界を、一気に鮮やかな色に変えていく――!
勘違いと無自覚チートで、知らず知らずのうちに世界を震撼させる!
腹筋崩壊のドタバタコメディを軸に、個性的な仲間たちとの友情、そして、世界の謎に迫る大冒険が、今、始まる!
子持ち愛妻家の極悪上司にアタックしてもいいですか?天国の奥様には申し訳ないですが
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
胸がきゅんと、甘い音を立てる。
相手は、妻子持ちだというのに。
入社して配属一日目。
直属の上司で教育係だって紹介された人は、酷く人相の悪い人でした。
中高大と女子校育ちで男性慣れしてない私にとって、それだけでも恐怖なのに。
彼はちかよんなオーラバリバリで、仕事の質問すらする隙がない。
それでもどうにか仕事をこなしていたがとうとう、大きなミスを犯してしまう。
「俺が、悪いのか」
人のせいにするのかと叱責されるのかと思った。
けれど。
「俺の顔と、理由があって避け気味なせいだよな、すまん」
あやまってくれた彼に、胸がきゅんと甘い音を立てる。
相手は、妻子持ちなのに。
星谷桐子
22歳
システム開発会社営業事務
中高大女子校育ちで、ちょっぴり男性が苦手
自分の非はちゃんと認める子
頑張り屋さん
×
京塚大介
32歳
システム開発会社営業事務 主任
ツンツンあたまで目つき悪い
態度もでかくて人に恐怖を与えがち
5歳の娘にデレデレな愛妻家
いまでも亡くなった妻を愛している
私は京塚主任を、好きになってもいいのかな……?
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
宿敵の家の当主を妻に貰いました~妻は可憐で儚くて優しくて賢くて可愛くて最高です~
紗沙
恋愛
剣の名家にして、国の南側を支配する大貴族フォルス家。
そこの三男として生まれたノヴァは一族のみが扱える秘技が全く使えない、出来損ないというレッテルを貼られ、辛い子供時代を過ごした。
大人になったノヴァは小さな領地を与えられるものの、仕事も家族からの期待も、周りからの期待も0に等しい。
しかし、そんなノヴァに舞い込んだ一件の縁談話。相手は国の北側を支配する大貴族。
フォルス家とは長年の確執があり、今は栄華を極めているアークゲート家だった。
しかも縁談の相手は、まさかのアークゲート家当主・シアで・・・。
「あのときからずっと……お慕いしています」
かくして、何も持たないフォルス家の三男坊は性格良し、容姿良し、というか全てが良しの妻を迎え入れることになる。
ノヴァの運命を変える、全てを与えてこようとする妻を。
「人はアークゲート家の当主を恐ろしいとか、血も涙もないとか、冷酷とか散々に言うけど、
シアは可愛いし、優しいし、賢いし、完璧だよ」
あまり深く考えないノヴァと、彼にしか自分の素を見せないシア、二人の結婚生活が始まる。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます
難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』"
ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。
社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー……
……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!?
ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。
「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」
「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族!
「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」
かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、
竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。
「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」
人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、
やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。
——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、
「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。
世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、
最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕!
※小説家になろう様にも掲載しています。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる