七色アンサンブル

黒羽慈烏

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立春の章

第5話 甘ったるいカフェオレ気分の日

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 ガコンッ。二ノ宮先輩が自動販売機から取り出して僕に差し出したのは、紙パックのカフェオレだった。
 めっちゃ甘そう。


「はい、今日のお礼。」
「……こーいうのって、選ばせてくれるんじゃないんスか?」


 1年生へのビラ配りが終わった後、連れてこられたのは食堂。放課後でほとんど人は居ないようだ。その食堂の一角には、自動販売機が3台並んでる。
 その自販機から買ってなんてことないように渡されたカフェオレに、思わず突っ込んでしまう。お礼というなら好みを聞いてくれても良いんじゃなかろうか。


「あれ、カフェオレ、ダメだった?私のいちごミルクと交換する?」
「いやカフェオレで大丈夫っス。アリガトウゴザイマス。」


 ほけほけと天然染みた回答を寄越す先輩にもういいや、とパックにストローを挿した。挿すときに少し力が入ってしまったのはご愛嬌。ちゅーっと行儀悪く音を立てながらカフェオレを飲んだ。
 先輩は買ったいちごミルクを片手に、何やらスマホを操作している。無音の空間が広がり、どうしたものかとカフェオレを飲んで誤魔化していたが中身はもう無くなった。空になったパックを持て余して、捨てるかとゴミ箱へポイッと投げた。パックは放物線を描いて吸い込まれるようにゴミ箱へ入った。
 よっしゃ、と小さくガッツポーズをとる。が、見咎める人が現れた。


「いーけないんだぁ、いけないんだー。投げ捨ては、ダメなんだよぉ?」
「えっと、スイマセンデシタ。」
「わかれば、よぉし!

──それで、いつになったら後輩候補を紹介してくれるのよぉ、なっちゃん。」


 ごめんごめん、と現れた先輩に謝る二ノ宮先輩。そういえば、二ノ宮先輩は撫子《なでしこ》って名前だったような。だからなっちゃん?などと比較的どうでもいいことを考えていた。
 二ノ宮先輩は、スマホをポケットに仕舞うと紹介してくれた。


「満月(みづき)、コイツが私の後輩の七ツ河。

──七ツ河、この子は吹奏楽部の生き残りで秋葛あきかつ満月みづき。パートはクラリネットだよ。」


 よろしくねぇ、とのほほんと挨拶する先輩に軽く頭を下げて返す。
 秋葛先輩は小さくて華奢な、いわゆる清楚なお嬢様って感じの女の子って感じの人だった。前髪は短くパッツンで、横にふわふわと髪の毛を垂らしてる。後ろの方の大部分は、なんか髪の毛を纏める綺麗なやつでまとめていた。
 二ノ宮先輩といえば、秋葛先輩と対照的だと思う。身長は僕より少し小さいからたぶん160cm後半。前髪は目のあたりで切られてて、後ろの髪は元祖ポニーテールの位置でゴムで結んでた。まるで体育会系の女子みたいである。


「大和くん、楽器はトランペットだよねぇ?持ってるんでしょ、吹いてくー?」
「いいねいいね、七ツ河デュオしよ!」
「じゃあ2人で先に行っててー、私ちょっと寄るところあるからぁ。」


 言うだけ言うと、秋葛先輩はとててっと可愛らしく立ち去って行った。きっと男子に人気なタイプの人なんだろうなぁ、なんてぼんやり思う。
 すると、隣から肘鉄が飛んできた。何もしてないのに理不尽だ。


「満月のこと、変な目で見てたでしょ。」
「変な目ってなんスかね。」


 秋葛先輩を可愛いと思ったので微妙なラインではある。しかし、しらばっくれて足元に置いてた鞄を背負う。トランペットを持つと、反対の手をひらひらと振りながら言った。


「ほらほら、センパイ。放課後終わる前にアソビましょ。」
「……馬鹿ねぇ、今からやるのは練習よ、練習!」


 出た、二ノ宮先輩の練習バカ。でもまあ、この人がトランペット上手いのは、ひたむきに練習してるからだ。中学の頃からその姿勢は変わってないんだろう。思わずふっ、と小さく笑った。


「……っ、早く行くわよ!」
「え、あ……ハイ。」


 なぜかいきなり急かされて、音楽室へと案内してもらうのだった。なんなんだ。
 音楽室でトランペットを取り出す。やっぱり、楽器っていいもんだと思う。まずはマウスピースの口慣らしから始めていると、どどーんと効果音がつきそうな勢いで秋葛先輩が入ってきた。


「大和くーん、コレ私からのプレゼント!」
「……その紙っぺらがっスか。」
「開けてみて開けてみてー。」


 ずずい、と僕に近づくと一枚の紙であろう4つ折りにされたものを渡してきた。なんか開きたくないな。


「入部届……。」
「気が向いたら、気が向かなくても書いてねぇ。」


 なんで、この部の先輩たちって強引なんだろうと遠い目をした。
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