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第14話
「そうだアニエス。ハンスはあと数日で伯爵家に戻ることになったからな」
「えっ」
昨日から泊まりに来ている叔父と父とハンス、四人で朝食を食べていると父に急に言われて驚いた声が出た。
「そろそろクリスマスだからね。妻も孫たちもハンスに会えなくて寂しがってるんだよ」
「子供たちはプレゼントの心配してるだけだよ」
「ハンス……そんな悲しいことを言うんじゃない……プレゼントの話が出るとあの子達、私のことを見るんだ……」
項垂れる叔父にハンスは「はははっ」と笑って私へと顔を向ける。
「アニエス。朝食食べ終わったら時間もらえないか?」
「……うん」
断ることができず、頷いてゆっくり朝食を食べる。
食べ終わって私たちは私の部屋に入って別々の椅子に腰掛けると、ハンスは私に向かって頭を下げた。
「……あの日はごめん」
抱きしめられて告白をされた時のことなのだと分かる。
あの後、私はハンスの腕を振り払って逃げて、家に帰ってからも彼と話さないように逃げていたから久しぶりにハンスと話す。
「でも告白は本気だ。お前のことを愛してる」
「ハンス……」
真っ直ぐ見つめてくる彼の想いが伝わってきて胸が締め付けられる。
本来なら彼は私のことを好きになるなんてあり得ないのだ。私が正規ルートを進まなかったから……。
罪悪感から何も言えず俯いてしまう。
「なぁ、これから出掛けないか?」
「……え?」
顔を上げるとハンスは笑みを浮かべていた。
「前に約束したろ? 冬の海を見に行こうって。今から行こう」
それからハンスに連れられて、馬車で伯爵領へと向かう。いつもなら道中話が絶えないのに私たちは向かいに座って窓の外を眺めていた。
途中、急いで準備したサンドイッチを食べると「やっぱり美味いな」と言ってくれたのは嬉しかった。
領地って入って海に着いて馬車を降りると、冷たい風が体を突き刺す。一番暖かい上着を着てきたけどそれでも寒い。
ブルリと身震いすると、ハンスが上着を脱いで私の肩にかけてくれた。
「風邪をひいてしまうわ」
「大丈夫。アニエスは昔から風邪をひいたら寝込んで大変だからな」
小さい頃から風邪を引いたら悪化して何日も寝込んでいることを知られているので、私はありがたく上着を借りてハンスに手を引かれて波打ち際を歩く。
一人っ子の私はよく従兄の二人に手を引かれて色んなところに遊びに連れて行ってもらっていた。この間行った花畑や山に行ったり、今みたいに海に行ったり。
泳ぐことはできなくて波打ち際で掛け合いをして三人ともびしょ濡れになった時は親たちにすごく怒られたことを思い出す。
母が亡くなって部屋に引きこもって泣いているときも、ハンスは手を引いて外の世界に連れ出してくれた。
ずっと私の手を引いてくれていた彼の手を見る。昔は変わらない大きさだったのに私の手はハンスの手にすっぽり包まれている。
ずっと変わらないと思っていた。でも変わらないことなんてないんだ。
半歩前を歩いていたハンスが足を止めたので私も止まる。
手から顔を上げると、振り向いたハンスは真剣な顔で真っ直ぐ私を見てくる。
「アニエス」
「…………」
「本当にこの間はごめん。あんな無理やり抱きしめるつもりはなかったんだ。でも、ずっと側にいたお前が俺から離れていくのが耐えられなかったんだ」
眉を寄せて苦しそうに想いを吐き出された言葉が胸を締め付ける。
「俺はアニエスが好きだ。妹ととしてじゃなく、一人の女性として」
「ハンス……」
「ごめんな、ダメな兄貴で」
もう私の答えなど分かっているというように辛そうに笑うハンス。
こんな顔をさせているのは私のせいだ。謝るには私のほうなのに。私がこんな道を選んでしまったから……。
胸元をギュッと掴んで、私も真っ直ぐ彼に向き合う。
「……ごめんなさい。ハンスの想いには応えられない」
「……だよな」
はは、とハンスは笑ってしゃがみ込んでしまった。私は何もできず、膝をついて彼の手を両手で強く握る。
「ハンス……」
「ん……?」
「私のこと好きになってくれてありがとう」
「……たく」
ハンスは呆れたように笑って私から手を離して、その手で私の頭を思い切り撫で回した。せっかくセットした髪をグシャグシャにされて文句を言うとハンスは思い切り笑う。
「そろそろ帰るか」と立ち上がったハンスが手を差し出してくれたのでその手を取って私たちは来た道を戻る。
反対方向をむいた自分の足跡を踏んでハンスに手を引かれて歩いていると、ハンスは急に気になったのか自分の後頭部を指差す。
「そういえばお前、それずっと付けてるよな」
「え?」
「髪飾りだよ」
「うん、どんな格好にも合うからね」
「ふーん? 好きな相手から貰ったからだと思ってた」
ピタリと足が止まった。グンと手を引っ張られたハンスも遅れて足を止めて振り返る。
「アニエス?」
「……違うよ。本当に使いやすかったからだよ」
「……ふーん」
ハンスはそれ以上突っ込んでこず、また私の手を引いて馬車のほうへと歩き出す。
私はハンスに引かれて歩きながら、頭の中でハンスの言葉が何回もリピートされている。
殿下の優しく微笑みかけてくる顔を思い出してしまい、心臓が早くなるのが分かった。きっと顔も赤くなっている。ハンスが前を歩いてくれていて良かった。
私は早鐘を打つ心臓を服の上から掴む。
(違う……これは恋じゃない)
「えっ」
昨日から泊まりに来ている叔父と父とハンス、四人で朝食を食べていると父に急に言われて驚いた声が出た。
「そろそろクリスマスだからね。妻も孫たちもハンスに会えなくて寂しがってるんだよ」
「子供たちはプレゼントの心配してるだけだよ」
「ハンス……そんな悲しいことを言うんじゃない……プレゼントの話が出るとあの子達、私のことを見るんだ……」
項垂れる叔父にハンスは「はははっ」と笑って私へと顔を向ける。
「アニエス。朝食食べ終わったら時間もらえないか?」
「……うん」
断ることができず、頷いてゆっくり朝食を食べる。
食べ終わって私たちは私の部屋に入って別々の椅子に腰掛けると、ハンスは私に向かって頭を下げた。
「……あの日はごめん」
抱きしめられて告白をされた時のことなのだと分かる。
あの後、私はハンスの腕を振り払って逃げて、家に帰ってからも彼と話さないように逃げていたから久しぶりにハンスと話す。
「でも告白は本気だ。お前のことを愛してる」
「ハンス……」
真っ直ぐ見つめてくる彼の想いが伝わってきて胸が締め付けられる。
本来なら彼は私のことを好きになるなんてあり得ないのだ。私が正規ルートを進まなかったから……。
罪悪感から何も言えず俯いてしまう。
「なぁ、これから出掛けないか?」
「……え?」
顔を上げるとハンスは笑みを浮かべていた。
「前に約束したろ? 冬の海を見に行こうって。今から行こう」
それからハンスに連れられて、馬車で伯爵領へと向かう。いつもなら道中話が絶えないのに私たちは向かいに座って窓の外を眺めていた。
途中、急いで準備したサンドイッチを食べると「やっぱり美味いな」と言ってくれたのは嬉しかった。
領地って入って海に着いて馬車を降りると、冷たい風が体を突き刺す。一番暖かい上着を着てきたけどそれでも寒い。
ブルリと身震いすると、ハンスが上着を脱いで私の肩にかけてくれた。
「風邪をひいてしまうわ」
「大丈夫。アニエスは昔から風邪をひいたら寝込んで大変だからな」
小さい頃から風邪を引いたら悪化して何日も寝込んでいることを知られているので、私はありがたく上着を借りてハンスに手を引かれて波打ち際を歩く。
一人っ子の私はよく従兄の二人に手を引かれて色んなところに遊びに連れて行ってもらっていた。この間行った花畑や山に行ったり、今みたいに海に行ったり。
泳ぐことはできなくて波打ち際で掛け合いをして三人ともびしょ濡れになった時は親たちにすごく怒られたことを思い出す。
母が亡くなって部屋に引きこもって泣いているときも、ハンスは手を引いて外の世界に連れ出してくれた。
ずっと私の手を引いてくれていた彼の手を見る。昔は変わらない大きさだったのに私の手はハンスの手にすっぽり包まれている。
ずっと変わらないと思っていた。でも変わらないことなんてないんだ。
半歩前を歩いていたハンスが足を止めたので私も止まる。
手から顔を上げると、振り向いたハンスは真剣な顔で真っ直ぐ私を見てくる。
「アニエス」
「…………」
「本当にこの間はごめん。あんな無理やり抱きしめるつもりはなかったんだ。でも、ずっと側にいたお前が俺から離れていくのが耐えられなかったんだ」
眉を寄せて苦しそうに想いを吐き出された言葉が胸を締め付ける。
「俺はアニエスが好きだ。妹ととしてじゃなく、一人の女性として」
「ハンス……」
「ごめんな、ダメな兄貴で」
もう私の答えなど分かっているというように辛そうに笑うハンス。
こんな顔をさせているのは私のせいだ。謝るには私のほうなのに。私がこんな道を選んでしまったから……。
胸元をギュッと掴んで、私も真っ直ぐ彼に向き合う。
「……ごめんなさい。ハンスの想いには応えられない」
「……だよな」
はは、とハンスは笑ってしゃがみ込んでしまった。私は何もできず、膝をついて彼の手を両手で強く握る。
「ハンス……」
「ん……?」
「私のこと好きになってくれてありがとう」
「……たく」
ハンスは呆れたように笑って私から手を離して、その手で私の頭を思い切り撫で回した。せっかくセットした髪をグシャグシャにされて文句を言うとハンスは思い切り笑う。
「そろそろ帰るか」と立ち上がったハンスが手を差し出してくれたのでその手を取って私たちは来た道を戻る。
反対方向をむいた自分の足跡を踏んでハンスに手を引かれて歩いていると、ハンスは急に気になったのか自分の後頭部を指差す。
「そういえばお前、それずっと付けてるよな」
「え?」
「髪飾りだよ」
「うん、どんな格好にも合うからね」
「ふーん? 好きな相手から貰ったからだと思ってた」
ピタリと足が止まった。グンと手を引っ張られたハンスも遅れて足を止めて振り返る。
「アニエス?」
「……違うよ。本当に使いやすかったからだよ」
「……ふーん」
ハンスはそれ以上突っ込んでこず、また私の手を引いて馬車のほうへと歩き出す。
私はハンスに引かれて歩きながら、頭の中でハンスの言葉が何回もリピートされている。
殿下の優しく微笑みかけてくる顔を思い出してしまい、心臓が早くなるのが分かった。きっと顔も赤くなっている。ハンスが前を歩いてくれていて良かった。
私は早鐘を打つ心臓を服の上から掴む。
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