【完結】元喪女ヒロインは、攻略対象のフラグではなく攻略対象外のバグフラグを立ててました

くまい

文字の大きさ
15 / 26

第15話

 俺が彼女に初めて会ったのは俺が五歳、彼女が四歳の頃だった。恥ずかしそうに伯父の足に縋り付いてこちらを見てくるアニエス。

「アニエス、彼らは君の従兄。お兄さんだ」
「おにい、ちゃん?」

 一人っ子のアニエスは俺と兄の顔を見て嬉しそうに笑った。俺にも妹がいなかったから嬉しかった。

 それからアニエスはすぐに俺たちに懐いてくれた。兄よりも俺に懐いてくれていたアニエスは、年に二回会うたびに帰り道はいつも泣いて離れたくないと縋りついてきていた。

「本当にアニエスはハンスが好きだね」
「うん、大好き!」

 俺の腕にピッタリくっ付くアニエスは兄の言葉に満面の笑みで頷いてすごく可愛かった。その後すぐに兄のことも好きよ?と慌てて気を使っていて笑ってしまった。



◇◇◇



 それから俺が十六になる年。母方の祖父の世界を広げて来いという方針によって兄に続いて隣国の学院に留学するために荷造りをする。

 そして俺のベッドの上では、どこから聞きつけてきたのかアニエスが膝を抱えて膨れっ面をしていた。

「いつまで怒ってるんだよ」
「……別に」

 そう言いながら頬を逸らしてまだ膨れっ面をしているのだ。感情が素直に表情に出ているから可愛くてしょうがない。

 二年前に兄が留学をする時に俺も留学するんだと聞いたアニエスは、どうにかして俺を行かせないように邪魔をしていたのだがそれも無駄に終わってしまった。

 兄は笑顔で引き止められもしなかったのだから不憫すぎる。

 明日の朝に国を出ることになっている。暫く可愛い従妹とは会えなくなってしまうのだから俺も寂しい。

「休みの日には帰ってくるから。手紙も書くよ」
「……本当? 約束よ?」
「ああ、約束だ」

 ぽんと頭を撫でてやるとアニエスは嬉しそうに笑った。それから約束通り手紙のやり取りをして、長期休暇には必ず彼女に会いに帰っていた。

 学院の友達には「女か?」と冷やかされたが、まあ間違ってないから「まあな」と適当に返していた。



 それから季節が回って春。今度はアニエスの入学だ。

 アニエスは王立の学院に通うのだが、手紙には『友達できるかな。勉強ついていけるかな。ハンスが同じ学校だったら良かったのに』と不安な気持ちが綴られていた。

 昔から人見知りがアニエスはなかなか貴族の友達ができずにいることに悩んでいたのを知っているが、彼女がすごく良い子で可愛いことを知っている俺は『大丈夫だ。絶対友達ができるよ。何かあったら手紙を送ってこい』と返事を書いた。


 だが入学を機に手紙のやり取りが減った。こちらから近況はどうかと手紙を送れば当たり障りのない返事が返ってくるだけ。

 気にはなったがすぐに駆けつけられる距離にはいないので父にそれとなく聞けば、どうも春頃から様子が変わったと言われた。

 夏休み。友からの誘いを断って急いで帰省してアニエスの元に向かった。アニエスの部屋を開けると、俺の顔を見た彼女はギクリと体を硬直させる。

「あ、えっと……こんにちは、ハンス……さん」

(ハンス、さん?)

 今まで彼女にさん付けなどされたことない。訝しみながらソファーに腰掛けるアニエスの横に座ると、ススッと距離を取られて内心傷つく。

 思春期か? と思ったがやはり最後に会った時と様子が違う。他人行儀のような、そんな雰囲気。

 じっと観察していると、彼女の手元にある本に気がついた。

「それ今読んでる本か?」
「……え? あ、はい、図書室で借りたんです。十冊までしか借りれなかったんですけど」

 何故か敬語で話す従妹に違和感しかなくて眉を寄せる。話し方に距離を感じるが、今までの彼女とも変わらないようで頭がこんがらがる。

「手紙でよく図書室にいるって書いてあったもんな」
「……一緒にいる人がいなくて本を読んでる方が楽しいんです」

 寂しそうに笑うアニエスに、やはり友達が出来ていなかったのかと悟る。

 前も人見知りはあったが、今はどこか他人と関わらないようにしているような気もする。

 彼女が変わった理由が思いつかず、とりあえず部屋の中を観察していると机に置いてある本が目に入った。

「あれも借りたやつか? 俺も読んだよ」
「え!?」

 そう言うとアニエスは目を輝かせてこちらを見てくる。そういえば今日初めてまともに目が合った気がする。

「ハンスさんも読んだの? どうだった?」

 アニエスはさっき自分が取った距離を詰めてきて俺に感想を求めてきた。なんだか雰囲気が昔に戻ったような気がする。

「あんまり本を読まない俺でも読みやすかったよ。主人公の男の子が願いを叶える星を探す旅に出て、龍と友達になるところは男心をくすぐった」
「そう、そうなの……! 子供向けのお話なんだけど、内容がすごくしっかりしてるから楽しくて何回も読んじゃって……」

 アニエスは立ち上がって机の本を手に俺の隣に戻ってきて、どこのシーンが良かった、ここのシーンは何回読んでも泣いてしまった、と楽しそうに話す。

 友達がいないからこういう話もできないのだろう。その横顔はアニエスそのもので、最初の気まそうな雰囲気はどこかに消えてしまった。

 楽しそうに話している彼女の横顔を眺めていると、アニエスはハッとした顔をして申し訳なさそうに眉を下げる。

「ご、ごめんなさい……こんなに一方的に話して」
「いいよ。俺も楽しかったし。夏休みの間に一冊読みたいから何かオススメの本教えてくれないか?」
「うん……!」

 アニエスは子供の頃から変わらない満面の笑みで嬉しそうに頷いた。

 それからアニエスは呼び方をハンスに戻して敬語も取った。どうして距離を取っていたのか気になったが、何となく聞いてはいけない感じがしたので聞いていない。

 夏休みが終わり学院に戻ってからは手紙のやり取りが元に戻り、その内容はほとんどが本のことについてだった。この本は俺に読みやすいだろうと教えてくれて、その感想を送るとまた新しい本を教えてくれる。


 そんなやり取りをしていた冬、アニエスの手紙には読書友達ができたと嬉しそうに書いてあり、あの子の優しさを分かってくれる人が現れたことに俺も嬉しくなった。

 冬休みに会いに行くと、どうもアニエスは「本の虫」というあだ名がついていて周りから距離を取られていたのだとその友達に教えてもらったらしい。

 本を読み込む虫。言い得てその通りで、腹を抱えて笑うとアニエスにものすごく怒られた。

 季節が春になると、アニエスが所属しているクラブで男の子の後輩ができたと手紙が届いた。

 自分のことを慕ってくれていて、この間二人で買い物に行った時に俺に似合う栞を見つけたからとプレゼント贈ってくれた。

 彼女が入学して初めてのプレゼントに嬉しくなったが、知らない男と選んだのかと思ったら胸の中が何故かモヤっとした。



 そして冬が過ぎて花が綻び始める頃に俺は学院を卒業して実家に戻ってきた。

 伯父の家を継ぐための勉強が始まる。卒業後のことを考えていた時、父と伯父から男爵家を継がないかと打診があった。

 伯父の家にはアニエスだけで男がおらず、俺も次男で伯爵家を継げない。位は下がるが有難い申し出に快く引き受けた。

「ついでにアニエスも貰ってくれたらいいんだがな」という伯父の冗談に「アニエスが承諾したらそれもいいですね」とこちらも笑い話でかわした。

 アニエスとの結婚と言われて胸がざわついたことを誤魔化して。


 それから一年が過ぎてアニエスが卒業した。年始に会った時に進路を聞くと、学院の司書の伝手で王弟殿下の部下として書庫室で働くことになったらしい。何者なんだ司書とやらは。

 お前が城で働けるのかと心配で聞くと、不安だけど大丈夫と彼女は胸を張って笑った。

 俺としては今すぐ俺と結婚すれば好きなことを色々させてあげれるのに。そんなことが頭を過り、頭から振り払って彼女を応援した。


 それから夏に久しぶりに会った時、アニエスを見て驚いた。

 雰囲気が大人っぽくなっていたからだ。化粧をして大人の女性の振る舞いをしているのに、笑う顔は子供の頃から変わらなくて。

 蛹が蝶へと変わろうとしているような、そんな不思議な感覚だった。

 城のことを聞くとユーリ殿下がよくしてくれていて楽しいと笑う彼女を見て、心臓がどんどん騒がしくなる。

 用事で城に行った時に、アニエスが騎士見習いになったという後輩といるところやユーリ殿下と楽しそうにいるところを見ると、黒いものが胸の中で溢れてくるのを感じた。

 そいつは俺のものだと、手を引いてそしつらに教えてやりたいと思った時、自分がアニエルを妹ではなく一人の女性として恋慕を抱いていることに気づいた。

 ずっとモヤモヤしていた気持ちが晴れたと同時に、アニエスは俺をただの兄として見ていないという胸が苦しくなった。


――これは彼女には気づかれてはいけない。


 俺は溢れそうになる彼女への想いに蓋をして、彼女の求める兄の仮面を貼り付けて彼女の元へと向かうのだった。
感想 1

あなたにおすすめの小説

一夜限りの関係だったはずなのに、責任を取れと迫られてます。

甘寧
恋愛
魔女であるシャルロッテは、偉才と呼ばれる魔導師ルイースとひょんなことから身体の関係を持ってしまう。 だがそれはお互いに同意の上で一夜限りという約束だった。 それなのに、ルイースはシャルロッテの元を訪れ「責任を取ってもらう」と言い出した。 後腐れのない関係を好むシャルロッテは、何とかして逃げようと考える。しかし、逃げれば逃げるだけ愛が重くなっていくルイース… 身体から始まる恋愛模様◎ ※タイトル一部変更しました。

【本編完結】王子の寝た子を起こしたら、夢見る少女では居られなくなりました!

こさか りね
恋愛
私、フェアリエル・クリーヴランドは、ひょんな事から前世を思い出した。 そして、気付いたのだ。婚約者が私の事を良く思っていないという事に・・・。 婚約者の態度は前世を思い出した私には、とても耐え難いものだった。 ・・・だったら、婚約解消すれば良くない? それに、前世の私の夢は『のんびりと田舎暮らしがしたい!』と常々思っていたのだ。 結婚しないで済むのなら、それに越したことはない。 「ウィルフォード様、覚悟する事ね!婚約やめます。って言わせてみせるわ!!」 これは、婚約解消をする為に奮闘する少女と、本当は好きなのに、好きと気付いていない王子との攻防戦だ。 そして、覚醒した王子によって、嫌でも成長しなくてはいけなくなるヒロインのコメディ要素強めな恋愛サクセスストーリーが始まる。 ※序盤は恋愛要素が少なめです。王子が覚醒してからになりますので、気長にお読みいただければ嬉しいです。 ※本編完結しました。 ※後日談を更新中です。

【完結】 異世界に転生したと思ったら公爵令息の4番目の婚約者にされてしまいました。……はあ?

はくら(仮名)
恋愛
 ある日、リーゼロッテは前世の記憶と女神によって転生させられたことを思い出す。当初は困惑していた彼女だったが、とにかく普段通りの生活と学園への登校のために外に出ると、その通学路の途中で貴族のヴォクス家の令息に見初められてしまい婚約させられてしまう。そしてヴォクス家に連れられていってしまった彼女が聞かされたのは、自分が4番目の婚約者であるという事実だった。 ※本作は別ペンネームで『小説家になろう』にも掲載しています。

【完結】隣国のモフモフ騎士団長様、番ではない私でよろしいのですか?

こころ ゆい
恋愛
※最終話に、3/11加筆した分をアップしました。 ※番外編書きたい気持ちがあるのですが、一旦、恋愛小説大賞の締め切りに合わせて、完結とさせて頂きます。🌱 ※最後、急ぎ足で駆け抜けたので、説明不足や誤字脱字多くなっているかもしれません。都度見つけ次第、修正させて頂きます。申し訳ありません。💦 ジャスミン・リーフェント。二十歳。 歴史あるリーフェント公爵家の一人娘だが、 分厚い眼鏡に地味な装い、常に本を読んでいる変わり者。皆が自分のことをそう言っているのは知っていた。 モーリャント王国の王太子殿下、コーネル・モーリャントとの婚約が王命で決まってから十三年。王妃教育を終えても婚姻は進まず、宙ぶらりん状態。 そんな中、出席した舞踏会でいつも通り他の女性をエスコートする王太子殿下。 それだけならまだ良かったが、あろうことか王太子の連れた女性が事件を巻き起こす。その最中で言い渡された婚約破棄。 「....婚約破棄、お受けいたします」 そのあと、ジャスミンは一人旅に出てある人物と出会った。 これは、婚約破棄された女性が獣人国で知らぬうちに番と出会い、運命に翻弄されていく物語。

【完結】たれ耳うさぎの伯爵令嬢は、王宮魔術師様のお気に入り

楠結衣
恋愛
華やかな卒業パーティーのホール、一人ため息を飲み込むソフィア。 たれ耳うさぎ獣人であり、伯爵家令嬢のソフィアは、学園の噂に悩まされていた。 婚約者のアレックスは、聖女と呼ばれる美少女と婚約をするという。そんな中、見せつけるように、揃いの色のドレスを身につけた聖女がアレックスにエスコートされてやってくる。 しかし、ソフィアがアレックスに対して不満を言うことはなかった。 なぜなら、アレックスが聖女と結婚を誓う魔術を使っているのを偶然見てしまったから。 せめて、婚約破棄される瞬間は、アレックスのお気に入りだったたれ耳が、可愛く見えるように願うソフィア。 「ソフィーの耳は、ふわふわで気持ちいいね」 「ソフィーはどれだけ僕を夢中にさせたいのかな……」 かつて掛けられた甘い言葉の数々が、ソフィアの胸を締め付ける。 執着していたアレックスの真意とは?ソフィアの初恋の行方は?! 見た目に自信のない伯爵令嬢と、伯爵令嬢のたれ耳をこよなく愛する見た目は余裕のある大人、中身はちょっぴり変態な先生兼、王宮魔術師の溺愛ハッピーエンドストーリーです。 *全16話+番外編の予定です *あまあです(ざまあはありません) *2023.2.9ホットランキング4位 ありがとうございます♪

【完】麗しの桃は攫われる〜狼獣人の番は甘い溺愛に翻弄される〜

こころ ゆい
恋愛
※完結しました!皆様のおかげです!ありがとうございました! ※既に完結しておりますが、番外編②加筆しました!(2025/10/17)  狼獣人、リードネストの番(つがい)として隣国から攫われてきたモモネリア。  突然知らない場所に連れてこられた彼女は、ある事情で生きる気力も失っていた。  だが、リードネストの献身的な愛が、傷付いたモモネリアを包み込み、徐々に二人は心を通わせていく。  そんなとき、二人で訪れた旅先で小さなドワーフ、ローネルに出会う。  共に行くことになったローネルだが、何か秘密があるようで?  自分に向けられる、獣人の深い愛情に翻弄される番を描いた、とろ甘溺愛ラブストーリー。

異世界に喚ばれた私は二人の騎士から逃げられない

紅子
恋愛
異世界に召喚された・・・・。そんな馬鹿げた話が自分に起こるとは思わなかった。不可抗力。女性の極めて少ないこの世界で、誰から見ても外見中身とも極上な騎士二人に捕まった私は山も谷もない甘々生活にどっぷりと浸かっている。私を押し退けて自分から飛び込んできたお花畑ちゃんも素敵な人に出会えるといいね・・・・。 完結済み。全19話。 毎日00:00に更新します。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。