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第18話
あれから何度もユーリ殿下にキスをされまくり、クタクタになった頃に解放されて殿下に待機していた馬車まで送ってもらう。
「それじゃあまた年明けに」
「…………」
そう。これからは忙しい年末年始がやってきて次に会えるのは新年明けの最初の出勤日だ。
私は年末年始は父と領地に帰り、殿下は王族として忙しい日々を送る。
せっかく恋人になれたのに暫く会えなくなることにしょんぼりしていると、殿下の手が肩に触れて耳元に吐息を感じた。
「……そんな顔をしないでくれ。帰したくなくなるだろう?」
「!!」
甘い低い声に元喪女としてはとてつもなく心臓に悪い。顔を真っ赤にして耳を押さえて後ずさると、殿下は面白そうに喉の奥で笑っている。
「次の仕事終わり、一緒にご飯にでも行かないか?」
「! はい、ぜひ!」
お誘いに嬉しくてすぐに返事をするとまた殿下は笑い、私の前髪を払って額にキスをしてくれる。
「おやすみ、良い夢を」
「お、おやすみなさい……良い夢を……」
もう喪女のキャパオーバーだ。私はヨロヨロと馬車に乗り込んで、お互いに姿が見えなくなるまで手を振り合った。
◇◇◇
屋敷に着いて軽い食事と入浴を済ませて父の部屋を訪れると、父はソファーに座っていて微笑んだ。
「お父様、ただいま戻りました」
「ああ、アニエスおかえり。楽しめたかい?」
「はい」
父にはクリスマスパーティーに殿下と参加することを伝えてある。まさかパーティーには参加せずにユーリ殿下と付き合うことになったと聞いたら父は卒倒するだろう。
そんな父の手にはワイングラスと一枚の写真がある。それは亡くなった母の写真だ。父は毎年クリスマスに母の写真を眺めて過ごす。
後妻を作らずただ一人を愛し続ける。私の尊敬する大事な人だ。
「そろそろ寝ようかと思います」
「そんな時間か。おやすみ、良い夢を」
「おやすみなさい。良い夢を」
父に挨拶をして部屋を出る。私室に向かう廊下を歩いていると窓の外でチラチラと雪が降っていた。
部屋に着いてベッドに横になってみたけれど、なかなか寝付くことができなくて何度も寝返りと打つ。
「……ダメ。ちょっと外に出ようかな」
私はカーディガンを羽織って部屋から繋がっているバルコニーに出る。肌を突き刺すような寒さに体を抱きしめて空から降ってくる雪を眺める。
あれからずっとユーリ殿下のことを考えてしまってドキドキして眠れない。好きな人と結ばれることってこんなにも幸せなことなんだ。
『本来なら違うんじゃがなぁ』
むふふとニヤけていると自分以外の声が聞こえて、驚いて顔を上げると目の前に少年がいた。
『こんばんはお嬢さん。今日は良い夜じゃな』
雪のように髪も服も真っ白は少年は、年寄りのような喋り方をしているから綺麗なのに違和感がすごい。
いや、それよりもおかしいのはここが二階なのに彼が私の目の前にいることだ。
床に立っているわけでも手すりに座っているわけでもない。空中に浮いているのだ。現実ではありえないことが目の前で起こっている。
あんぐりと口を開けていると、少年は美しく微笑む。綺麗すぎてこの世の者とは思えない。
『ワシが普通ならありえないことをしていることに驚いている、といった表情じゃなお嬢さん』
天使のような聞き惚れてしまいそうな声で問いかけられてコクコクと力強く頷く。
『それはじゃな……ワシがこの世界の神だからじゃ!』
「…………」
普通なら「この子頭大丈夫?」なんて心配になるセリフなのに、目の前でプカプカと浮いている彼を見るとそれが本当だと思えるぐらいに非日常なことが起こっているから疑うことができない。
「神ってことは、この世界を作った人ってことですか……?」
『いいや。この世界を作ったヤツは他にいる。お主も知っておろう。そっちの世界の言葉で何と言ったかな……』
ドクン。心臓が嫌な音を立てる。今、そっちの世界って言った……?
『そうじゃ! セイサクガイシャとか言ったかの?』
「制作、会社……!?」
この世界で一度も聞いたことがない言葉を何故彼は知っているんだ。
全然付いていけていない私を他所に、彼は手を下に素早く動かすと、彼の目の前には透明なものが宙に浮いて現れた。
彼はそれを当たり前のように指でスライドさせている。まるでスマホを操作しているかのように。
『そうそう、乙女ゲームの制作会社じゃな。そしてお主はこのゲームのヒロイン。そうじゃろ? アニエス・マーティン。いや……◯◯』
「!?」
彼が私の前世の名を口にして背筋がゾクリとした。先ほどまで彼のことを綺麗だとか可愛いだとか、そんなふうに思っていたけれど……彼のことが怖くなった。
『ワシも驚いた。ダラダラと過ごしておったら急に異物の気配を感じての。だがお前は十六年前から存在しているただの小娘で、見た感じ何かしでかす感じでもない。暫く様子を見ていて気づいたのじゃ。此奴、このゲーム世界のストーリーを知っておるとな』
「…………」
何も言えずにいると少年は更に言葉を続ける。
『ワシは万能の神じゃ。外の世界を調べられるのでな。チョチョイと″はいてく"いうもので調べたらヒロインの中にいるお前の前世の名と最後が分かった。なんとも辛い最後を迎えたのじゃな。可哀想に』
彼はすっと私に近づいてきて頭を撫でてくる。可哀想と言ってくるのにその手は氷のように冷たくて、全く感情が伝わってこない。
『ワシはこの世界をゲーム通り正しく回さなくてはならない。その中心たるヒロインがヒーローと関わらないのは如何なものかと思ったんだが……』
「……だが?」
『面白いので放っておいた!』
「…………は?」
パカッと太陽が輝くような満面な笑みを向けられて私は間抜けな声が出てしまった。
『だから面白いと思ったのじゃよ。恋愛を拒むヒロイン。大いに結構。ワシの″はいてく"を持ってしても未来が分からない。こんな平穏でつまらない世界で楽しみを得た。だからお主の人生を見守っておったのじゃ』
「……じゃあどうして今更私の前に現れたの」
率直な質問をすると、彼は口角を上げて笑った。さっきのような子供のようなのではなく、ゾクリと背筋が凍えるような冷笑を。
『それはお主にも分かっておろう。起こってはならないことが起きたからじゃ』
「…………」
『通常ならただのモブであった三人がお主に恋をした。バグじゃ。本来ならすぐに消去せねばならんのだが、此奴らとて人。生きておる。ただの恋としてなら見逃すつもりじゃった。しかし』
彼は私の胸にトンを指を突き立てた。
『お主はそれを受け入れ、モブと縁を結んだ』
氷のような彼の冷たさがじわじわと私の体を蝕んでいくような感じがして、慌てて後ずさると彼はあっけらかんと笑った。
『さすがにこの世界に異変をもたらすかもしれない存在を神として見逃すことは出来んでな。だからお主の前に現れ試練を伝えにきたのじゃ』
「試練……?」
『そう。試練』
彼は手のひらを上に向けると、そこに三つの光の玉が現れた。二つはピンク色、一つは綺麗な赤色。
『これはあやつらの恋心じゃ』
「え!?」
『綺麗じゃろ? お主を真っ直ぐに愛した恋の証じゃ』
彼がツンツンと玉を突くと、それは綺麗な光を放って輝く。そんなことができるなんて、本当に人の者ではないのだと実感させられる。
「……それで試練ってのは?」
『ああ、そうじゃった。このピンクの玉は戻すことはできんが、一年後のクリスマスまでにお主がもう一度この赤い玉の持ち主を惚れさすことが出来れば、これを戻してやってもよい。だがそれが叶わなかった場合はお前の恋心も消すがな』
「それって……」
そんなの矛盾している。彼は、神様はこの世界のバグを取り除こうとしているのにまたそのバグを発生させようとしているのだ。
『なに、言っただろう? この平穏すぎる世にちょっとしたスパイスがほしいのだよ。だがちゃんと考えるのだ。ヒロインはヒーローと繋がり、バグは消される。それがこの世界のあるべき姿なのだということを――』
彼はそれだけ言うと雪が溶けるかのように目の前から消えて、その場には私だけが取り残された。
「それじゃあまた年明けに」
「…………」
そう。これからは忙しい年末年始がやってきて次に会えるのは新年明けの最初の出勤日だ。
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「……そんな顔をしないでくれ。帰したくなくなるだろう?」
「!!」
甘い低い声に元喪女としてはとてつもなく心臓に悪い。顔を真っ赤にして耳を押さえて後ずさると、殿下は面白そうに喉の奥で笑っている。
「次の仕事終わり、一緒にご飯にでも行かないか?」
「! はい、ぜひ!」
お誘いに嬉しくてすぐに返事をするとまた殿下は笑い、私の前髪を払って額にキスをしてくれる。
「おやすみ、良い夢を」
「お、おやすみなさい……良い夢を……」
もう喪女のキャパオーバーだ。私はヨロヨロと馬車に乗り込んで、お互いに姿が見えなくなるまで手を振り合った。
◇◇◇
屋敷に着いて軽い食事と入浴を済ませて父の部屋を訪れると、父はソファーに座っていて微笑んだ。
「お父様、ただいま戻りました」
「ああ、アニエスおかえり。楽しめたかい?」
「はい」
父にはクリスマスパーティーに殿下と参加することを伝えてある。まさかパーティーには参加せずにユーリ殿下と付き合うことになったと聞いたら父は卒倒するだろう。
そんな父の手にはワイングラスと一枚の写真がある。それは亡くなった母の写真だ。父は毎年クリスマスに母の写真を眺めて過ごす。
後妻を作らずただ一人を愛し続ける。私の尊敬する大事な人だ。
「そろそろ寝ようかと思います」
「そんな時間か。おやすみ、良い夢を」
「おやすみなさい。良い夢を」
父に挨拶をして部屋を出る。私室に向かう廊下を歩いていると窓の外でチラチラと雪が降っていた。
部屋に着いてベッドに横になってみたけれど、なかなか寝付くことができなくて何度も寝返りと打つ。
「……ダメ。ちょっと外に出ようかな」
私はカーディガンを羽織って部屋から繋がっているバルコニーに出る。肌を突き刺すような寒さに体を抱きしめて空から降ってくる雪を眺める。
あれからずっとユーリ殿下のことを考えてしまってドキドキして眠れない。好きな人と結ばれることってこんなにも幸せなことなんだ。
『本来なら違うんじゃがなぁ』
むふふとニヤけていると自分以外の声が聞こえて、驚いて顔を上げると目の前に少年がいた。
『こんばんはお嬢さん。今日は良い夜じゃな』
雪のように髪も服も真っ白は少年は、年寄りのような喋り方をしているから綺麗なのに違和感がすごい。
いや、それよりもおかしいのはここが二階なのに彼が私の目の前にいることだ。
床に立っているわけでも手すりに座っているわけでもない。空中に浮いているのだ。現実ではありえないことが目の前で起こっている。
あんぐりと口を開けていると、少年は美しく微笑む。綺麗すぎてこの世の者とは思えない。
『ワシが普通ならありえないことをしていることに驚いている、といった表情じゃなお嬢さん』
天使のような聞き惚れてしまいそうな声で問いかけられてコクコクと力強く頷く。
『それはじゃな……ワシがこの世界の神だからじゃ!』
「…………」
普通なら「この子頭大丈夫?」なんて心配になるセリフなのに、目の前でプカプカと浮いている彼を見るとそれが本当だと思えるぐらいに非日常なことが起こっているから疑うことができない。
「神ってことは、この世界を作った人ってことですか……?」
『いいや。この世界を作ったヤツは他にいる。お主も知っておろう。そっちの世界の言葉で何と言ったかな……』
ドクン。心臓が嫌な音を立てる。今、そっちの世界って言った……?
『そうじゃ! セイサクガイシャとか言ったかの?』
「制作、会社……!?」
この世界で一度も聞いたことがない言葉を何故彼は知っているんだ。
全然付いていけていない私を他所に、彼は手を下に素早く動かすと、彼の目の前には透明なものが宙に浮いて現れた。
彼はそれを当たり前のように指でスライドさせている。まるでスマホを操作しているかのように。
『そうそう、乙女ゲームの制作会社じゃな。そしてお主はこのゲームのヒロイン。そうじゃろ? アニエス・マーティン。いや……◯◯』
「!?」
彼が私の前世の名を口にして背筋がゾクリとした。先ほどまで彼のことを綺麗だとか可愛いだとか、そんなふうに思っていたけれど……彼のことが怖くなった。
『ワシも驚いた。ダラダラと過ごしておったら急に異物の気配を感じての。だがお前は十六年前から存在しているただの小娘で、見た感じ何かしでかす感じでもない。暫く様子を見ていて気づいたのじゃ。此奴、このゲーム世界のストーリーを知っておるとな』
「…………」
何も言えずにいると少年は更に言葉を続ける。
『ワシは万能の神じゃ。外の世界を調べられるのでな。チョチョイと″はいてく"いうもので調べたらヒロインの中にいるお前の前世の名と最後が分かった。なんとも辛い最後を迎えたのじゃな。可哀想に』
彼はすっと私に近づいてきて頭を撫でてくる。可哀想と言ってくるのにその手は氷のように冷たくて、全く感情が伝わってこない。
『ワシはこの世界をゲーム通り正しく回さなくてはならない。その中心たるヒロインがヒーローと関わらないのは如何なものかと思ったんだが……』
「……だが?」
『面白いので放っておいた!』
「…………は?」
パカッと太陽が輝くような満面な笑みを向けられて私は間抜けな声が出てしまった。
『だから面白いと思ったのじゃよ。恋愛を拒むヒロイン。大いに結構。ワシの″はいてく"を持ってしても未来が分からない。こんな平穏でつまらない世界で楽しみを得た。だからお主の人生を見守っておったのじゃ』
「……じゃあどうして今更私の前に現れたの」
率直な質問をすると、彼は口角を上げて笑った。さっきのような子供のようなのではなく、ゾクリと背筋が凍えるような冷笑を。
『それはお主にも分かっておろう。起こってはならないことが起きたからじゃ』
「…………」
『通常ならただのモブであった三人がお主に恋をした。バグじゃ。本来ならすぐに消去せねばならんのだが、此奴らとて人。生きておる。ただの恋としてなら見逃すつもりじゃった。しかし』
彼は私の胸にトンを指を突き立てた。
『お主はそれを受け入れ、モブと縁を結んだ』
氷のような彼の冷たさがじわじわと私の体を蝕んでいくような感じがして、慌てて後ずさると彼はあっけらかんと笑った。
『さすがにこの世界に異変をもたらすかもしれない存在を神として見逃すことは出来んでな。だからお主の前に現れ試練を伝えにきたのじゃ』
「試練……?」
『そう。試練』
彼は手のひらを上に向けると、そこに三つの光の玉が現れた。二つはピンク色、一つは綺麗な赤色。
『これはあやつらの恋心じゃ』
「え!?」
『綺麗じゃろ? お主を真っ直ぐに愛した恋の証じゃ』
彼がツンツンと玉を突くと、それは綺麗な光を放って輝く。そんなことができるなんて、本当に人の者ではないのだと実感させられる。
「……それで試練ってのは?」
『ああ、そうじゃった。このピンクの玉は戻すことはできんが、一年後のクリスマスまでにお主がもう一度この赤い玉の持ち主を惚れさすことが出来れば、これを戻してやってもよい。だがそれが叶わなかった場合はお前の恋心も消すがな』
「それって……」
そんなの矛盾している。彼は、神様はこの世界のバグを取り除こうとしているのにまたそのバグを発生させようとしているのだ。
『なに、言っただろう? この平穏すぎる世にちょっとしたスパイスがほしいのだよ。だがちゃんと考えるのだ。ヒロインはヒーローと繋がり、バグは消される。それがこの世界のあるべき姿なのだということを――』
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