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第21話
あれからクリスと親しくなって頻繁に会うようになった。最初の気まずさはどこへやら。これが乙女ゲームの攻略対象の好感度が上がりました、というやつかもしれない。
私が本好きだと話すとクリス殿下も色んな本を読むのだと教えてくれた。ユーリ殿下の叔父もそうだったけど、きっと本好きは血筋なのだろう。
ゲームではクールキャラだったからゲームの中で笑うところなどスチルでしが見たことがない。実際は口角を上げて小さく笑ってくれる。
最初に出会った時とは違い心を許してくれているような笑みに嬉しくなる反面、その横顔に想い人を重ねてしまって辛くなる日々を過ごしていた。
「失礼する」
いつものように書庫室で仕事をしているとノック音が聞こえ、返事をする前にクリス殿下が入ってきた。
「クリス。どうかしたのか」
「公務で諸国を回ることになったので、その国のことを学んでおきたくて。この国の文献の本を借りたいのですが」
クリス殿下がユーリ殿下にメモを渡す。話の流れからして行く国の名前が書かれているのだろう。
ユーリ殿下はメモに目を通して「ふむ」と頷くと私のほうへ顔を向けた。
「アニエス、頼めるかな」
「かしこまりました」
殿下からメモをもらい、たくさんある蔵書の中から目的の本を探す。
まだまだ全部の本は読めていないけれど、友好諸国については今度必要になると思って先に読んだ甲斐があった。私は頭の中の検索機で目的の本を選んでいく。
十分も経たずに数冊の本を抱えてクリス殿下の元へと向かう。
「こちらの本であれば恐らく大丈夫かと思います。いかがでしょう」
「……すごいな。これだけの本の中から迷うことなく選べるだなんて。しかもどれも分かりやすい」
殿下はパラパラと紙をめくって本当に驚いた顔を私に向けた。自分の知識が役に立つこの瞬間は嬉しくなる。
「すごいだろうアニエスは。本に関しては彼女に任せてるんだ。しかも、読んだ本の内容は全部覚えているから分からないことは聞くといい」
「確かに彼女がくるまでの書庫室とは見違えるほど綺麗に整理されてますね。前は本が至る所に置いてありましたし」
「あれでも私からしたら分かりやすく置いてあったんだけどね。どうも整理整頓は苦手なんだ」
はは、と笑うユーリ殿下に私は苦笑する。私が初めてここに来た時に見た光景に絶句した。書類は散らかり放題、本は棚に乱雑に入れてあるから入りきらない本が床に積み重ねられていて。
A型の私からしたらとても見ていられない光景にその日は片付けで一日が終わった。それからは私の教育のおかげであれ以来この部屋が散らかることはない。
殿下はどんなことでも卒なくこなすのだろうと思っていたし仕事もミスをしたことがない。だからこんなギャップがあることに驚いた。
「アニエス、分からないことがあったら聞きにきても構わないだろうか」
「もちろんです」
それが私の仕事なのだから。クリス殿下は嬉しそうに笑うのであまりの眩しさに目が眩む。イケメンの笑顔はたぶん人を殺せる。
私はもしかしたらこの家系の笑顔に弱いのかもしれないと思い、チラッとユーリ殿下のほうを見るととバッチリ目が合ってしまい思わず逸らしてしまった。変に思われていないだろうか。
「そうだアニエス。今日から城下で本のマーケットが開かれていることは知っているか」
「もちろんです! 世界を回っている部族が色んなところで手に入れた本が年に一回、お披露目されるんですよね!」
すぐに目を輝かせる私に二人は「さすがだな」と失笑されて恥ずかしくなった。好きなこととなるとテンションがすぐ上がってしまうのが痛いところ。
「興味があるなら行かないか?」
「行きたいのは山々なんですが、仕事が終わる時間にはマーケットも閉まるらしくて、次のお休みの時には部族たちは店を畳んで国を出るらしくて……」
毎年このマーケットを楽しみにしていたのだが今年は運悪く行けそうもない。しょぼんと肩を落としていると「なら」とユーリ殿下が徐に声を発した。
「今から行ってくればいいじゃないか」
「え!? でもお仕事が……」
「新しい本を見つけてくるのも大事な仕事だ。クリス、お前が連れていってやってくれ」
「いいですけど、叔父上はよろしいのですか」
「私は見ての通り忙しくてね。それに若い奴らの邪魔はする気はないよ」
積み重なった書類に目をやって「ははっ」と笑う殿下の言葉が深く胸に突き刺さる。殿下からしたら私とクリス殿下がお似合いに見えるということだ。泣きそうになるのをなんとか我慢する。
「それじゃあアニエス。今からどうだ」
「……あ、はい! ぜひご一緒させてください!」
頑張って元気に作り笑いをしてお誘いを受けたけど変に思われなかっただろうか。
「行ってらっしゃい」と手を振ってくるユーリ殿下に顔を見られないように頭を下げて書庫室をクリス殿下と共に後にした。
馬車で城下に行き、たくさんの人と本で溢れるマーケットに辿り着く。
「……殿下、大丈夫ですか」
隣を歩くクリス殿下に小声で声をかける。もしここに王族がいるとバレたら大騒ぎになってしまう。
一応護衛が離れたところから付いてきているが心配になり声をかけると、黒いマントのフードを目深く被っている殿下は小さく笑う。
「ああ。いつもお忍びで城下に降りるときはこの格好でいるから案外バレない。それより殿下じゃなくてクリスだ」
「あ……すみませんクリス様」
思わずいつもの呼び方が出てしまって慌てて修正するとクリス様は小さく笑った。
それから人ごみの中を掻い潜って本を物色していると、ある書物に目が止まる。
「こ、これは……!」
それはすごく使い込まれてボロボロになった表紙の本。それを震える手で持っていると、隣のクリス様が不思議そうに手元を覗いてくる。
「それはすごいものなのか?」
「すごいもなにも、これはここの部族の長が書いた日記なんですよ! 世界を回る部族の長が、この一年で見て感じたことをこの本を通して同じ景色を観れるですよ!? しかも同じものは二つともない、世界に一つだけの本……! 毎年来てたんですけどすでに誰かの手に渡ってて出会えなかったのに……やっと見つけれた」
「……それはすごいな」
感極まって饒舌に説明していると、隣からちょっと引いたような声が聞こえたがテンションが爆あがりしている私にとって導火線の火をつけるものでしかない。
「すごいどころじゃないですよ! とてもすごいんです! これは宝です! 国宝にしてもいい! 読み終えたら絶対お貸しするのでユーリでん……かも……」
そこまで言って言葉尻が萎んでいく。目の前にいるのはユーリ殿下ではなくクリス様で、お互いに目が丸くなり私は慌てて頭を下げた。テンションが上がっていたからと言ってこれは失礼すぎる。
「も、申し訳ありませんクリス様……新しい本が入ったときはいつもユーリ殿下と語り合っていたもので……」
「……いや、気にしなくていい。仲がいいんだな、叔父上と」
「…………いえ。殿下は部下として優しくしてくださっているだけですよ」
クリス様の言葉にまた胸が鈍く痛み、私は顔を上げて頑張って笑顔を作る。
それからその本を購入して他にも見て回るかとクリス様に言われたけど私は首を横に振った。
送るよ、いうクリス様の言葉を無碍にすることもできず、城に戻ることなくそのまま家まで送っていただくことにした。
「ありがとうございました。あの、お礼にお茶でも」
「いや、大丈夫だ。前に君が言ったのだろう。急に私が現れたら父君が驚かれると」
「そ、そうでした……あの、お気をつけて」
「ああ。また会いにいく」
クリス様はそう言ってまた馬車に乗って去っていった。見えなくなるまで見送って私は自室に引き篭もる。
ベッドに腰掛ける私の手には唯一買った貴重な日記があるのにも関わらず、私の心は沈んでいる。
本を持ったまたベッドに倒れ込み、目を瞑って浮かんでくるのは先ほどまで一緒にいたクリス様ではなくユーリ殿下の顔。
『若い奴らの邪魔はする気はないよ』
殿下の言葉に胸が締め付けられる。私のことを好きだといった顔で他の男の人との仲を応援された。そのことがとてつもなく辛い。
「……ユーリ殿下」
ぎゅっと本を胸に抱きしめて、溢れた涙がシーツを濡らした。
私が本好きだと話すとクリス殿下も色んな本を読むのだと教えてくれた。ユーリ殿下の叔父もそうだったけど、きっと本好きは血筋なのだろう。
ゲームではクールキャラだったからゲームの中で笑うところなどスチルでしが見たことがない。実際は口角を上げて小さく笑ってくれる。
最初に出会った時とは違い心を許してくれているような笑みに嬉しくなる反面、その横顔に想い人を重ねてしまって辛くなる日々を過ごしていた。
「失礼する」
いつものように書庫室で仕事をしているとノック音が聞こえ、返事をする前にクリス殿下が入ってきた。
「クリス。どうかしたのか」
「公務で諸国を回ることになったので、その国のことを学んでおきたくて。この国の文献の本を借りたいのですが」
クリス殿下がユーリ殿下にメモを渡す。話の流れからして行く国の名前が書かれているのだろう。
ユーリ殿下はメモに目を通して「ふむ」と頷くと私のほうへ顔を向けた。
「アニエス、頼めるかな」
「かしこまりました」
殿下からメモをもらい、たくさんある蔵書の中から目的の本を探す。
まだまだ全部の本は読めていないけれど、友好諸国については今度必要になると思って先に読んだ甲斐があった。私は頭の中の検索機で目的の本を選んでいく。
十分も経たずに数冊の本を抱えてクリス殿下の元へと向かう。
「こちらの本であれば恐らく大丈夫かと思います。いかがでしょう」
「……すごいな。これだけの本の中から迷うことなく選べるだなんて。しかもどれも分かりやすい」
殿下はパラパラと紙をめくって本当に驚いた顔を私に向けた。自分の知識が役に立つこの瞬間は嬉しくなる。
「すごいだろうアニエスは。本に関しては彼女に任せてるんだ。しかも、読んだ本の内容は全部覚えているから分からないことは聞くといい」
「確かに彼女がくるまでの書庫室とは見違えるほど綺麗に整理されてますね。前は本が至る所に置いてありましたし」
「あれでも私からしたら分かりやすく置いてあったんだけどね。どうも整理整頓は苦手なんだ」
はは、と笑うユーリ殿下に私は苦笑する。私が初めてここに来た時に見た光景に絶句した。書類は散らかり放題、本は棚に乱雑に入れてあるから入りきらない本が床に積み重ねられていて。
A型の私からしたらとても見ていられない光景にその日は片付けで一日が終わった。それからは私の教育のおかげであれ以来この部屋が散らかることはない。
殿下はどんなことでも卒なくこなすのだろうと思っていたし仕事もミスをしたことがない。だからこんなギャップがあることに驚いた。
「アニエス、分からないことがあったら聞きにきても構わないだろうか」
「もちろんです」
それが私の仕事なのだから。クリス殿下は嬉しそうに笑うのであまりの眩しさに目が眩む。イケメンの笑顔はたぶん人を殺せる。
私はもしかしたらこの家系の笑顔に弱いのかもしれないと思い、チラッとユーリ殿下のほうを見るととバッチリ目が合ってしまい思わず逸らしてしまった。変に思われていないだろうか。
「そうだアニエス。今日から城下で本のマーケットが開かれていることは知っているか」
「もちろんです! 世界を回っている部族が色んなところで手に入れた本が年に一回、お披露目されるんですよね!」
すぐに目を輝かせる私に二人は「さすがだな」と失笑されて恥ずかしくなった。好きなこととなるとテンションがすぐ上がってしまうのが痛いところ。
「興味があるなら行かないか?」
「行きたいのは山々なんですが、仕事が終わる時間にはマーケットも閉まるらしくて、次のお休みの時には部族たちは店を畳んで国を出るらしくて……」
毎年このマーケットを楽しみにしていたのだが今年は運悪く行けそうもない。しょぼんと肩を落としていると「なら」とユーリ殿下が徐に声を発した。
「今から行ってくればいいじゃないか」
「え!? でもお仕事が……」
「新しい本を見つけてくるのも大事な仕事だ。クリス、お前が連れていってやってくれ」
「いいですけど、叔父上はよろしいのですか」
「私は見ての通り忙しくてね。それに若い奴らの邪魔はする気はないよ」
積み重なった書類に目をやって「ははっ」と笑う殿下の言葉が深く胸に突き刺さる。殿下からしたら私とクリス殿下がお似合いに見えるということだ。泣きそうになるのをなんとか我慢する。
「それじゃあアニエス。今からどうだ」
「……あ、はい! ぜひご一緒させてください!」
頑張って元気に作り笑いをしてお誘いを受けたけど変に思われなかっただろうか。
「行ってらっしゃい」と手を振ってくるユーリ殿下に顔を見られないように頭を下げて書庫室をクリス殿下と共に後にした。
馬車で城下に行き、たくさんの人と本で溢れるマーケットに辿り着く。
「……殿下、大丈夫ですか」
隣を歩くクリス殿下に小声で声をかける。もしここに王族がいるとバレたら大騒ぎになってしまう。
一応護衛が離れたところから付いてきているが心配になり声をかけると、黒いマントのフードを目深く被っている殿下は小さく笑う。
「ああ。いつもお忍びで城下に降りるときはこの格好でいるから案外バレない。それより殿下じゃなくてクリスだ」
「あ……すみませんクリス様」
思わずいつもの呼び方が出てしまって慌てて修正するとクリス様は小さく笑った。
それから人ごみの中を掻い潜って本を物色していると、ある書物に目が止まる。
「こ、これは……!」
それはすごく使い込まれてボロボロになった表紙の本。それを震える手で持っていると、隣のクリス様が不思議そうに手元を覗いてくる。
「それはすごいものなのか?」
「すごいもなにも、これはここの部族の長が書いた日記なんですよ! 世界を回る部族の長が、この一年で見て感じたことをこの本を通して同じ景色を観れるですよ!? しかも同じものは二つともない、世界に一つだけの本……! 毎年来てたんですけどすでに誰かの手に渡ってて出会えなかったのに……やっと見つけれた」
「……それはすごいな」
感極まって饒舌に説明していると、隣からちょっと引いたような声が聞こえたがテンションが爆あがりしている私にとって導火線の火をつけるものでしかない。
「すごいどころじゃないですよ! とてもすごいんです! これは宝です! 国宝にしてもいい! 読み終えたら絶対お貸しするのでユーリでん……かも……」
そこまで言って言葉尻が萎んでいく。目の前にいるのはユーリ殿下ではなくクリス様で、お互いに目が丸くなり私は慌てて頭を下げた。テンションが上がっていたからと言ってこれは失礼すぎる。
「も、申し訳ありませんクリス様……新しい本が入ったときはいつもユーリ殿下と語り合っていたもので……」
「……いや、気にしなくていい。仲がいいんだな、叔父上と」
「…………いえ。殿下は部下として優しくしてくださっているだけですよ」
クリス様の言葉にまた胸が鈍く痛み、私は顔を上げて頑張って笑顔を作る。
それからその本を購入して他にも見て回るかとクリス様に言われたけど私は首を横に振った。
送るよ、いうクリス様の言葉を無碍にすることもできず、城に戻ることなくそのまま家まで送っていただくことにした。
「ありがとうございました。あの、お礼にお茶でも」
「いや、大丈夫だ。前に君が言ったのだろう。急に私が現れたら父君が驚かれると」
「そ、そうでした……あの、お気をつけて」
「ああ。また会いにいく」
クリス様はそう言ってまた馬車に乗って去っていった。見えなくなるまで見送って私は自室に引き篭もる。
ベッドに腰掛ける私の手には唯一買った貴重な日記があるのにも関わらず、私の心は沈んでいる。
本を持ったまたベッドに倒れ込み、目を瞑って浮かんでくるのは先ほどまで一緒にいたクリス様ではなくユーリ殿下の顔。
『若い奴らの邪魔はする気はないよ』
殿下の言葉に胸が締め付けられる。私のことを好きだといった顔で他の男の人との仲を応援された。そのことがとてつもなく辛い。
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