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第24話
「……二人とも、こんなところで何をやっているんだ」
顔は見えないが声色から怒っているような雰囲気のユーリ殿下に体を強張らせていると、殿下は私の顔が見えないように自身の胸に押し当てた。思わずドキッとしてしまい、そして雰囲気がまたピリッと鋭くなったのを感じた。
「彼女が体調が良くないということでこちらで休憩をしていました。会場に戻るのは難しいので馬車に送りたいのですがよろしいでしょうか」
「……ああ。頼む」
「はい。行こうアニエス嬢」
「は、はい」
クリス殿下に背中を押されて俯いてユーリ殿下の横を通り抜ける。殿下の視線と漂ってきた女性の香水の匂いには気づかないふりをして。
そのままクリス殿下にうちの馬車まで送ってもらい、途中会った騎士に父を呼びにいってもらっている。
冬の冷たい空気が熱った顔を冷やしてくれて気持ちが落ち着いた。
「ありがとうございました。それと、お見苦しいとこを見せてしまい申し訳ありません」
「いや……大丈夫か」
「……はい。大丈夫です」
また先ほどのユーリ殿下と女性のシーンを思い出して辛い気持ちが込み上げてくるが、また泣いたしまったらクリス殿下が困ってしまうのでなんとか我慢する。
そうこうしている内に慌てて駆け寄ってくる父が見えた。
「それじゃあ失礼します」
「ああ。また本のこと教えてくれ」
「はい。おやすみなさい」
お別れの挨拶をして父と一緒に馬車に乗り込む。窓から手を振ると、殿下は照れくさそうに振り返してくれて見送ってくれた。
「アニエス、体調が悪いと聞いたが大丈夫なのかい?」
「はい。心配かけてしまってごめんなさい」
「いいや。今度殿下にお礼をしておきなさい」
「はい」
頷くと父は私の頭をくしゃりと撫でて窓の外に顔を向けた。何も言わなくても何があったのか察してくれたのかもしれない。私の周りには優しい人ばかりだと、私も窓に顔を向けて、夜を照らす街灯を眺めた。
◇◇◇
あの日から私は体調が悪いといって仕事を休んでいる。いわゆる仮病だ。父には医師を呼ぶかと言われたが疲れから来てるから休めば大丈夫と断った。優しい父の気遣いに心が痛んでしまったけれど。
ユーリ殿下と顔を合わせるのが気まずくて、仮病を使い始めて一週間が経った。仮病を使えば使うほど出社するのが億劫になることを前世から学んでいるというのに、あの時のことのせいで会いたくないのだ。
私がいなくて殿下も困っているだろうと分かっているけれど、こうなってしまったのも殿下が関係しているのだが。
(そういえば、あの女の人って誰なんだろう……)
あの人も神様の力なのだろうか。いや、あの人は何もしなくても女の人が寄ってくるのだ。王族である上に優しくてイケおじなのだから。
そんな人が私のことを好きだっと言ったことが今でも信じられない。私なんて不釣り合いすぎる。あの人には私ではなくて昨日の女性みたいに綺麗で色気ムンムンで、年の近い大人の女性のほうが似合っているのだ。
「……はぁ」
自分で言ってて虚しくなってくる。枕に顔を埋めて落ち込んでいるとドアがノックされて、返事をすれば幼少期から面倒を見てくれている執事長がドアを開けた。
「お嬢様。クリス殿下からお見舞いに行きたいという先触れが届きましたがどうされますか」
「クリス殿下から……?」
思いもよらない人物の名前に顔を上げる。丁寧に先に文を出してくれた殿下を無碍にできないし、この前のお礼と謝罪をちゃんとした。
「是非にと返事をお願い」
「畏まりました。失礼いたします」
執事長が部屋を出ていき、私はとりあえず湯浴みをせねばと侍女を呼ぶためにベルを鳴らした。
それから急いで準備をし終えると、タイミングよくクリス殿下がやってきて綺麗な花束をくれた。
「ありがとうございます。綺麗……お忙しいのにお見舞いに来てくださって申し訳ありません」
「気にするな。叔父上からアニエスがずっと休んでいると聞いて心配していたんだ」
「……ユーリ殿下、ですか」
名前を聞いて頬が引き攣ったのが分かったのか、殿下はじっとこちらを見てくる。その真っ直ぐな視線に私は逃げることができない。
「アニエスは叔父上のことが好きなのか」
「……殿下、直球すぎます」
「すまない」
すまないと言っているが本当にそう思っているのか分からず、私は諦めてため息を吐いた。
「……さすがに分かりましたか」
「ああ」
「あの夜は本当に申し訳ありませんでした。フォローまでしていただいて」
「気にしなくていい」
「ありがとうございます……」
殿下にはもう頭が上がらない。しかし、攻略対象にモブキャラへの恋慕を話すというのはどういうシチュエーションなのだろうか。
「叔父上には伝えないのか」
「……伝える気はありません」
「どうして」
「この気持ちは、殿下にとって迷惑になるからです」
「……叔父上に言われたのか」
「いいえ。でも、ユーリ殿下は私の上司です。きっと殿下は、お優しいから……」
今後の仕事に支障が出ないようにやんわりと断ってくれる。気持ちは嬉しいとか何とか言って。その優しさが時には人を傷つけるというのに。
知らぬうちに俯いてしまっていると、殿下がぽつりと喋りだす。
「叔父上はどこか掴みどころのない人だった」
「……え?」
「いつも笑って人が好きそうな顔をしているのに、常に人と一定の距離を保っている。王族として近づいてくる人間は疑うように教え込まれているが、叔父上は俺にも本性を見せようとはしなくて苦手だったんだ」
殿下の話を聞いて、私は出会ったことのユーリ殿下のことを思い出した。クリス殿下の言う通り人当たりの優しい雰囲気なのに、笑顔で誤魔化して本心を見せようとしていないことに気づいた。常に人を疑って気を張っている感じ。
私も王族ってこんなものか、と思っていたが身内にまでそんなふうに接していたなんて驚いた。じゃあ殿下はいつ心を休めるのだろうか。
「だが一年くらい前からだっただろうか。その時から叔父上の雰囲気が変わった。ある人物といるときだけ本当の感情を見せているように見えたんだ」
「ある人物……?」
「君だよ、アニエス」
「っ!」
心臓が早鐘を打ち始める。
「アニエスといる時の叔父上は本当に楽しそうに笑うようになった。父も気づいて探りを入れていたが叔父上は吐かなかったがな」
「…………」
「俺はそこまで叔父上と親しくない。だがやはり君といるときの叔父上は幸せそうなのは分かった。だがある日を境に叔父上は元に戻ったんだ。何かアニエスとあったのかと聞いたら心底不思議そうに首を傾げてきたんだ」
それはきっとあのクリスマスの日のことだ。神様に記憶と恋心を消された忘れられない日の夜。
「君と叔父上に何があったのかは俺は知らない。だが、俺は君の友人として応援するよ。もし上手く行かなかったら俺の妃になればいい」
「ふふ……殿下はご冗談がお上手ですね。でもありがとうございます。殿下のお話のお陰で勇気がでました」
珍しい殿下の冗談に笑ってしまうと殿下も小さく笑う。
「そうか。それと、私のことは名前で呼んでくれ」
「え!」
「友なのだから名前呼びは当たり前だろう?」
「いえ、でも、私なんかが烏滸がましいですし…」
「気にしない」
「…ではクリス様とお呼びしてもよろしいでしょうか」
「ああ」
本来なら私がこんなふうに気さくに呼んでいい間柄ではないのだが、クリス様がそういうならそう呼ばせていただこう。ちょっと照れくさい。
クリス様は満足そうに頷くとソファーから立ち上がって帰ろうとするので、私も後に続いてお見送りをする。
「今日は体調が悪いのに長居をしてしまって悪かった」
「いいえ。来てくださってありがとうございます。またお話しましょう」
「ああ。ではな」
「はい。お気をつけて」
クリス様の乗った馬車が見えなくなるまで見送り、自分の部屋へと戻る。
彼に背中を押してもらえたのは嬉しかったけれど、やはりこの世界のためにも自分の気持ちを伝える気はなかった。
いいのだ。少しでも好きな人と想いが通じ合ったのだから。それだけで私は残り少ない時間も幸せでいられる。
◇◇◇
「クリス」
アニエスのお見舞いから帰って自室に戻ろうとした時、後ろから呼び止められた。振り返れば叔父上がこちらに歩いてくる。
「どうかしましたか叔父上」
「ああ、いや……お前がアニエスのお見舞いに行ったと聞いたが、どうだった」
「はい。元気そうでした」
「……そうか」
叔父上は眉を寄せて視線を落とした。どこか辛そうな表情は上司としてなのか、男としてなのかがそこまで親しくない自分からでは判断が難しかった。
「お話が以上でしたら失礼します」
「――待て」
「……はい?」
踵を返そうとしたらまた呼び止められてしまい、振り返れば今度は真剣な表情で叔父上はこちらを見てきていた。
「クリス。お前は……アニエスのことをどう思っているのだ」
ぴくりと自分の片眉が動く。これは叔父として聞いているのではない直感で分かった。
「どうしてそんなことを聞かれるのですか」
「……最近お前とアニエスは仲が良いだろう」
「そうですね。共通の趣味があるので親しくさせていただいています」
「お前は異性とそんなふうに親しくしたことはなかっただろう」
「それを叔父上には言われたくないのですが」
皮肉を込めて言うと、普段の彼なら困ったように笑うのに叔父上は目を細める。これは素直に言わないと解放されないなと諦めてため息を吐いて、彼に真っ直ぐ向き合う。
「好いていますよ」
「……それは、妃に迎えるつもりがあるということか」
「はい」
正直に答えると叔父上の機嫌が更に悪くなったのが分かった。ちょっと一矢報いた気分だ。
「そろそろ戻ってもよろしいでしょうか。公務が溜まっておりますので」
「……ああ。引き止めて悪かった」
「いえ。失礼します」
今度こそ踵を返して廊下を歩く。背中には鋭い視線が突き刺さってくるのが分かり、彼から見えていないことを言いことにほくそ笑む。
「……あんな分かりやすい叔父上を見たのは初めてだ」
――アニエス。君の恋が実ることを友人として応援している。
顔は見えないが声色から怒っているような雰囲気のユーリ殿下に体を強張らせていると、殿下は私の顔が見えないように自身の胸に押し当てた。思わずドキッとしてしまい、そして雰囲気がまたピリッと鋭くなったのを感じた。
「彼女が体調が良くないということでこちらで休憩をしていました。会場に戻るのは難しいので馬車に送りたいのですがよろしいでしょうか」
「……ああ。頼む」
「はい。行こうアニエス嬢」
「は、はい」
クリス殿下に背中を押されて俯いてユーリ殿下の横を通り抜ける。殿下の視線と漂ってきた女性の香水の匂いには気づかないふりをして。
そのままクリス殿下にうちの馬車まで送ってもらい、途中会った騎士に父を呼びにいってもらっている。
冬の冷たい空気が熱った顔を冷やしてくれて気持ちが落ち着いた。
「ありがとうございました。それと、お見苦しいとこを見せてしまい申し訳ありません」
「いや……大丈夫か」
「……はい。大丈夫です」
また先ほどのユーリ殿下と女性のシーンを思い出して辛い気持ちが込み上げてくるが、また泣いたしまったらクリス殿下が困ってしまうのでなんとか我慢する。
そうこうしている内に慌てて駆け寄ってくる父が見えた。
「それじゃあ失礼します」
「ああ。また本のこと教えてくれ」
「はい。おやすみなさい」
お別れの挨拶をして父と一緒に馬車に乗り込む。窓から手を振ると、殿下は照れくさそうに振り返してくれて見送ってくれた。
「アニエス、体調が悪いと聞いたが大丈夫なのかい?」
「はい。心配かけてしまってごめんなさい」
「いいや。今度殿下にお礼をしておきなさい」
「はい」
頷くと父は私の頭をくしゃりと撫でて窓の外に顔を向けた。何も言わなくても何があったのか察してくれたのかもしれない。私の周りには優しい人ばかりだと、私も窓に顔を向けて、夜を照らす街灯を眺めた。
◇◇◇
あの日から私は体調が悪いといって仕事を休んでいる。いわゆる仮病だ。父には医師を呼ぶかと言われたが疲れから来てるから休めば大丈夫と断った。優しい父の気遣いに心が痛んでしまったけれど。
ユーリ殿下と顔を合わせるのが気まずくて、仮病を使い始めて一週間が経った。仮病を使えば使うほど出社するのが億劫になることを前世から学んでいるというのに、あの時のことのせいで会いたくないのだ。
私がいなくて殿下も困っているだろうと分かっているけれど、こうなってしまったのも殿下が関係しているのだが。
(そういえば、あの女の人って誰なんだろう……)
あの人も神様の力なのだろうか。いや、あの人は何もしなくても女の人が寄ってくるのだ。王族である上に優しくてイケおじなのだから。
そんな人が私のことを好きだっと言ったことが今でも信じられない。私なんて不釣り合いすぎる。あの人には私ではなくて昨日の女性みたいに綺麗で色気ムンムンで、年の近い大人の女性のほうが似合っているのだ。
「……はぁ」
自分で言ってて虚しくなってくる。枕に顔を埋めて落ち込んでいるとドアがノックされて、返事をすれば幼少期から面倒を見てくれている執事長がドアを開けた。
「お嬢様。クリス殿下からお見舞いに行きたいという先触れが届きましたがどうされますか」
「クリス殿下から……?」
思いもよらない人物の名前に顔を上げる。丁寧に先に文を出してくれた殿下を無碍にできないし、この前のお礼と謝罪をちゃんとした。
「是非にと返事をお願い」
「畏まりました。失礼いたします」
執事長が部屋を出ていき、私はとりあえず湯浴みをせねばと侍女を呼ぶためにベルを鳴らした。
それから急いで準備をし終えると、タイミングよくクリス殿下がやってきて綺麗な花束をくれた。
「ありがとうございます。綺麗……お忙しいのにお見舞いに来てくださって申し訳ありません」
「気にするな。叔父上からアニエスがずっと休んでいると聞いて心配していたんだ」
「……ユーリ殿下、ですか」
名前を聞いて頬が引き攣ったのが分かったのか、殿下はじっとこちらを見てくる。その真っ直ぐな視線に私は逃げることができない。
「アニエスは叔父上のことが好きなのか」
「……殿下、直球すぎます」
「すまない」
すまないと言っているが本当にそう思っているのか分からず、私は諦めてため息を吐いた。
「……さすがに分かりましたか」
「ああ」
「あの夜は本当に申し訳ありませんでした。フォローまでしていただいて」
「気にしなくていい」
「ありがとうございます……」
殿下にはもう頭が上がらない。しかし、攻略対象にモブキャラへの恋慕を話すというのはどういうシチュエーションなのだろうか。
「叔父上には伝えないのか」
「……伝える気はありません」
「どうして」
「この気持ちは、殿下にとって迷惑になるからです」
「……叔父上に言われたのか」
「いいえ。でも、ユーリ殿下は私の上司です。きっと殿下は、お優しいから……」
今後の仕事に支障が出ないようにやんわりと断ってくれる。気持ちは嬉しいとか何とか言って。その優しさが時には人を傷つけるというのに。
知らぬうちに俯いてしまっていると、殿下がぽつりと喋りだす。
「叔父上はどこか掴みどころのない人だった」
「……え?」
「いつも笑って人が好きそうな顔をしているのに、常に人と一定の距離を保っている。王族として近づいてくる人間は疑うように教え込まれているが、叔父上は俺にも本性を見せようとはしなくて苦手だったんだ」
殿下の話を聞いて、私は出会ったことのユーリ殿下のことを思い出した。クリス殿下の言う通り人当たりの優しい雰囲気なのに、笑顔で誤魔化して本心を見せようとしていないことに気づいた。常に人を疑って気を張っている感じ。
私も王族ってこんなものか、と思っていたが身内にまでそんなふうに接していたなんて驚いた。じゃあ殿下はいつ心を休めるのだろうか。
「だが一年くらい前からだっただろうか。その時から叔父上の雰囲気が変わった。ある人物といるときだけ本当の感情を見せているように見えたんだ」
「ある人物……?」
「君だよ、アニエス」
「っ!」
心臓が早鐘を打ち始める。
「アニエスといる時の叔父上は本当に楽しそうに笑うようになった。父も気づいて探りを入れていたが叔父上は吐かなかったがな」
「…………」
「俺はそこまで叔父上と親しくない。だがやはり君といるときの叔父上は幸せそうなのは分かった。だがある日を境に叔父上は元に戻ったんだ。何かアニエスとあったのかと聞いたら心底不思議そうに首を傾げてきたんだ」
それはきっとあのクリスマスの日のことだ。神様に記憶と恋心を消された忘れられない日の夜。
「君と叔父上に何があったのかは俺は知らない。だが、俺は君の友人として応援するよ。もし上手く行かなかったら俺の妃になればいい」
「ふふ……殿下はご冗談がお上手ですね。でもありがとうございます。殿下のお話のお陰で勇気がでました」
珍しい殿下の冗談に笑ってしまうと殿下も小さく笑う。
「そうか。それと、私のことは名前で呼んでくれ」
「え!」
「友なのだから名前呼びは当たり前だろう?」
「いえ、でも、私なんかが烏滸がましいですし…」
「気にしない」
「…ではクリス様とお呼びしてもよろしいでしょうか」
「ああ」
本来なら私がこんなふうに気さくに呼んでいい間柄ではないのだが、クリス様がそういうならそう呼ばせていただこう。ちょっと照れくさい。
クリス様は満足そうに頷くとソファーから立ち上がって帰ろうとするので、私も後に続いてお見送りをする。
「今日は体調が悪いのに長居をしてしまって悪かった」
「いいえ。来てくださってありがとうございます。またお話しましょう」
「ああ。ではな」
「はい。お気をつけて」
クリス様の乗った馬車が見えなくなるまで見送り、自分の部屋へと戻る。
彼に背中を押してもらえたのは嬉しかったけれど、やはりこの世界のためにも自分の気持ちを伝える気はなかった。
いいのだ。少しでも好きな人と想いが通じ合ったのだから。それだけで私は残り少ない時間も幸せでいられる。
◇◇◇
「クリス」
アニエスのお見舞いから帰って自室に戻ろうとした時、後ろから呼び止められた。振り返れば叔父上がこちらに歩いてくる。
「どうかしましたか叔父上」
「ああ、いや……お前がアニエスのお見舞いに行ったと聞いたが、どうだった」
「はい。元気そうでした」
「……そうか」
叔父上は眉を寄せて視線を落とした。どこか辛そうな表情は上司としてなのか、男としてなのかがそこまで親しくない自分からでは判断が難しかった。
「お話が以上でしたら失礼します」
「――待て」
「……はい?」
踵を返そうとしたらまた呼び止められてしまい、振り返れば今度は真剣な表情で叔父上はこちらを見てきていた。
「クリス。お前は……アニエスのことをどう思っているのだ」
ぴくりと自分の片眉が動く。これは叔父として聞いているのではない直感で分かった。
「どうしてそんなことを聞かれるのですか」
「……最近お前とアニエスは仲が良いだろう」
「そうですね。共通の趣味があるので親しくさせていただいています」
「お前は異性とそんなふうに親しくしたことはなかっただろう」
「それを叔父上には言われたくないのですが」
皮肉を込めて言うと、普段の彼なら困ったように笑うのに叔父上は目を細める。これは素直に言わないと解放されないなと諦めてため息を吐いて、彼に真っ直ぐ向き合う。
「好いていますよ」
「……それは、妃に迎えるつもりがあるということか」
「はい」
正直に答えると叔父上の機嫌が更に悪くなったのが分かった。ちょっと一矢報いた気分だ。
「そろそろ戻ってもよろしいでしょうか。公務が溜まっておりますので」
「……ああ。引き止めて悪かった」
「いえ。失礼します」
今度こそ踵を返して廊下を歩く。背中には鋭い視線が突き刺さってくるのが分かり、彼から見えていないことを言いことにほくそ笑む。
「……あんな分かりやすい叔父上を見たのは初めてだ」
――アニエス。君の恋が実ることを友人として応援している。
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