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word26 「学年で1番 歌上手い奴」④
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「折原さん カラオケ」
そのワードを入力した後に押すEnterキーには心をざわつかせるものがあった。他人のカラオケを合法で覗けるなんて中々ない。歌ってみたとかカラオケ配信の動画ならいくつもあるけれど、一般人のプライベートなカラオケルームを覗けるとなると訳が違う。
本来カラオケ店において、他人のグループの部屋に入ってしまうというのは超恥ずかしい経験の代名詞である。あるあるのミスだ。僕も前に1度やらかしたことがある。トイレから戻りドアを開けると、他人の顔が見えたときに秒で背筋が凍る、あの経験を……。
そういう経験をしてやっと見える世界ということだ。他人のカラオケは。
それに加えて、僕と折原の微妙な関係性が胸をくすぐった。同じ学校に通っているけれど遠い存在。その気になると、ちょうど覗いてみたくなってくる距離感だった。
唾を飲み込みながら動画検索を実行する。どういう風な動画が出てくるだろうか。歌が上手いと評されるくらいだから無いと思うけどカラオケに行ったことなかったりもしたりしなかったり――。
表示された動画は女の子を真正面から捉えた視点から始まった。肩に届くくらいの長さの黒髪で、僕が通う学校の制服を着た少女。普通に見たら女子高生の少女がカラオケルームっぽいちょっと暗めの部屋でソファに座っている。
マイクを持ったその目はやけに真っ直ぐで、集中している感じだった。部屋の暗さも相まってか、黒目が濃くて大きく、少しだけ暗闇の猫のように光っている。
たぶん近くで正面から見るのが初めてだから新鮮さがあるのだけど、前に校内で見かけたことがあるような雰囲気もしっかりあった。ああ、この子が折原さんかという気持ちがあった。
イヤホンをしていた僕は彼女が歌い出す前に一瞬イヤホンを耳から外して、廊下の方に人の気配が無いか確かめる。安全を確認するとベッドで布団の中に包まってスピーカーのゲージをMAXにした。
友達視点というか彼氏視点と言うか、そういう視点で同級生の女子を見ていると想像通り緊張した。これから歌っているのを聞くと分かっているとどうしても。
機械が音楽を奏でだして、折原はマイクを口元まで持ってくる。それ以外は姿勢も表情も何一つ変えず、歌いだしを待っていた。
そして始まった曲の前奏は僕がよく知っているものだった。数少ない僕が好きなアーティストの1人女性シンガーソングライターの代表曲――。大人の恋を歌ったようなセクシーな曲だ――。
画面内の折原は曲の歌い出しが近づくと、ゆっくり息を出して……そしてゆっくり息を吸い込んでから声を出した。
「あなたのーいつもの嘘にー……何も感じなくなったわ」
緩やかに始まる第一声から僕はその歌声に息が止まった。
折原が発する歌声は今までのどんな歌声と比べても次元が違っている。1パート聞くだけでそう僕は確信した。
透き通るような声という表現がよく似合う。けれど力強さも感じる。声の質も歌い方も今までにない。
そんな訳はないのに口パクを疑ってしまって、本当かと意味もなく首を横に振る。
「あの夜よりも確かなーそんな一瞬を探しているのー」
サビに突入して曲も転調、より強い声を出しても折原の声はまるで楽器のように綺麗なままで、その声量にも驚かされる。こんな風に歌を歌える人間がこの世に本当にいるんだ。しかも同じ学校に通っているなんて。
耳がかつてないほどの響きに衝撃を受けて、脳みそのほうまで浸透している感じがする。そして、もう1つ僕の心に別の感情が……これは一体何だ……。
折原のこれといった特徴は表現できず悪く言えば地味めな顔、でもよく見ると整っていて歌っている時の目は本当に綺麗で目が離せないほどに美しい。その鼻、その唇、これほど見つめてしまうのは歌に感動しているからか……。
途中から胸が苦しくなって、手を当ててみると異常なほどに鼓動が大きくなっていた。そんな状態でも僕は全く姿勢を変えないまま画面にしがみついて最後まで視聴を続けた。
「ただ本当の事だけは……知りたかったー」
曲が終わる。伸ばす声が終わるのが惜しい。まだ聞いていたい。気付くのが怖いから。
折原の歌声には120%の満足感があった。けれど、終わってしまったらこの感情と向き合わなければならない。それが嫌だった。
でも違うはず……そんなはずはない。
画面内の折原がマイクを口から離す。そこまで来てもあまり歌い始めと表情は変わらない。けれど曲のメロディーが途切れた瞬間に彼女の口元がほころんだ。
満足そうな笑みを浮かべる折原。その笑顔はセクシーな曲を歌っていた時とは打って変わって純粋で――子供のようで――。
「うっ――」
そのあまりのパワーに僕の胸は耐えられなかった。とてつもないほどのギャップに次ぐギャップ。気にもかけてなかった子がセクシーな歌を凄いレベルで歌っていて、次の瞬間には純粋そのものの笑顔。こんなの胸の容量に収まるはずがない。
僕は放心状態で黒いパソコンを片付けた。そして全く収まらない胸の鼓動で確信してしまう。
僕はどうやら恋をしてしまったんだと――。
そのワードを入力した後に押すEnterキーには心をざわつかせるものがあった。他人のカラオケを合法で覗けるなんて中々ない。歌ってみたとかカラオケ配信の動画ならいくつもあるけれど、一般人のプライベートなカラオケルームを覗けるとなると訳が違う。
本来カラオケ店において、他人のグループの部屋に入ってしまうというのは超恥ずかしい経験の代名詞である。あるあるのミスだ。僕も前に1度やらかしたことがある。トイレから戻りドアを開けると、他人の顔が見えたときに秒で背筋が凍る、あの経験を……。
そういう経験をしてやっと見える世界ということだ。他人のカラオケは。
それに加えて、僕と折原の微妙な関係性が胸をくすぐった。同じ学校に通っているけれど遠い存在。その気になると、ちょうど覗いてみたくなってくる距離感だった。
唾を飲み込みながら動画検索を実行する。どういう風な動画が出てくるだろうか。歌が上手いと評されるくらいだから無いと思うけどカラオケに行ったことなかったりもしたりしなかったり――。
表示された動画は女の子を真正面から捉えた視点から始まった。肩に届くくらいの長さの黒髪で、僕が通う学校の制服を着た少女。普通に見たら女子高生の少女がカラオケルームっぽいちょっと暗めの部屋でソファに座っている。
マイクを持ったその目はやけに真っ直ぐで、集中している感じだった。部屋の暗さも相まってか、黒目が濃くて大きく、少しだけ暗闇の猫のように光っている。
たぶん近くで正面から見るのが初めてだから新鮮さがあるのだけど、前に校内で見かけたことがあるような雰囲気もしっかりあった。ああ、この子が折原さんかという気持ちがあった。
イヤホンをしていた僕は彼女が歌い出す前に一瞬イヤホンを耳から外して、廊下の方に人の気配が無いか確かめる。安全を確認するとベッドで布団の中に包まってスピーカーのゲージをMAXにした。
友達視点というか彼氏視点と言うか、そういう視点で同級生の女子を見ていると想像通り緊張した。これから歌っているのを聞くと分かっているとどうしても。
機械が音楽を奏でだして、折原はマイクを口元まで持ってくる。それ以外は姿勢も表情も何一つ変えず、歌いだしを待っていた。
そして始まった曲の前奏は僕がよく知っているものだった。数少ない僕が好きなアーティストの1人女性シンガーソングライターの代表曲――。大人の恋を歌ったようなセクシーな曲だ――。
画面内の折原は曲の歌い出しが近づくと、ゆっくり息を出して……そしてゆっくり息を吸い込んでから声を出した。
「あなたのーいつもの嘘にー……何も感じなくなったわ」
緩やかに始まる第一声から僕はその歌声に息が止まった。
折原が発する歌声は今までのどんな歌声と比べても次元が違っている。1パート聞くだけでそう僕は確信した。
透き通るような声という表現がよく似合う。けれど力強さも感じる。声の質も歌い方も今までにない。
そんな訳はないのに口パクを疑ってしまって、本当かと意味もなく首を横に振る。
「あの夜よりも確かなーそんな一瞬を探しているのー」
サビに突入して曲も転調、より強い声を出しても折原の声はまるで楽器のように綺麗なままで、その声量にも驚かされる。こんな風に歌を歌える人間がこの世に本当にいるんだ。しかも同じ学校に通っているなんて。
耳がかつてないほどの響きに衝撃を受けて、脳みそのほうまで浸透している感じがする。そして、もう1つ僕の心に別の感情が……これは一体何だ……。
折原のこれといった特徴は表現できず悪く言えば地味めな顔、でもよく見ると整っていて歌っている時の目は本当に綺麗で目が離せないほどに美しい。その鼻、その唇、これほど見つめてしまうのは歌に感動しているからか……。
途中から胸が苦しくなって、手を当ててみると異常なほどに鼓動が大きくなっていた。そんな状態でも僕は全く姿勢を変えないまま画面にしがみついて最後まで視聴を続けた。
「ただ本当の事だけは……知りたかったー」
曲が終わる。伸ばす声が終わるのが惜しい。まだ聞いていたい。気付くのが怖いから。
折原の歌声には120%の満足感があった。けれど、終わってしまったらこの感情と向き合わなければならない。それが嫌だった。
でも違うはず……そんなはずはない。
画面内の折原がマイクを口から離す。そこまで来てもあまり歌い始めと表情は変わらない。けれど曲のメロディーが途切れた瞬間に彼女の口元がほころんだ。
満足そうな笑みを浮かべる折原。その笑顔はセクシーな曲を歌っていた時とは打って変わって純粋で――子供のようで――。
「うっ――」
そのあまりのパワーに僕の胸は耐えられなかった。とてつもないほどのギャップに次ぐギャップ。気にもかけてなかった子がセクシーな歌を凄いレベルで歌っていて、次の瞬間には純粋そのものの笑顔。こんなの胸の容量に収まるはずがない。
僕は放心状態で黒いパソコンを片付けた。そして全く収まらない胸の鼓動で確信してしまう。
僕はどうやら恋をしてしまったんだと――。
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