ナオキと十の心霊部屋

木岡(もくおか)

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・応募から入館

第3話 気難しそうな老人

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 それからはとんとん拍子に事が進んだ。

 応募したことを忘れるには足りない二日後、挑戦者に選ばれましたという電話がかかってきて、なんとなく選ばれるような気がしていたナオキは電話相手の男に「明日からでも行けます」と強く宣言した。

 そう言ってからすぐに、さすがに明日だと急いで準備するのがめんどくさいかと自分で思ったが了承されてしまった。

「すごい意気込みですね。分かりました。どうにか手配しましょう」

 男はそう言っていた……。続けて明日どこに向かえばいいのかを指示してきて……現在進行中でナオキはそこへ向かっている――。

 あまりに早い展開にナオキは半信半疑な気持ちもあった。指定された住所は調べたところオズオワールグループが所持しているものだったので行けばすぐに答えは分かるだろう。

 思い立ったが吉日と思って応募してから二日間と昨日の夜は幽霊対策としてホラー映画を見漁った。その容姿だけで目を背けたくなる本物のような作り物の幽霊としっかり向き合いまくって、もともと深夜に1人で墓場に行くのも平気なくらいだった自分のホラー耐性にはさらに磨きがかかったはず。



本物の幽霊がいるなら気休め程度にしかならないかもしれないがネット上に転がっている幽霊対策の方法も一通り見たし、この件が本当ならサクッと100億円もらって帰ってこようと心の中でにやけていた。

 邪悪を打ち消し人々を優しく守ってくれているような快晴の空の下、ナオキは大勢の人々の存在から安心感をもらえる高層ビル群の隙間を軽快に歩いた。この暖かくて活気あふれる風景もナオキの自信に繋がっている。

 そして羽のマークを額につけられたビルの前で足を止める。ここが、指定された住所か――。
 立派なビルだった。両隣のビルよりも高く、薄灰色でメタリックなボディは太陽光を反射して半目になってしまうほど眩しい。

 正面から入っていいんだろうか。ガラス張りの自動ドアの奥には警備員も立っている。ナオキは背筋を伸ばし周りを歩く如何にもエリートな奴らに負けないように立派に歩いて中に入った。

 スーツ姿の者ばかりが出入りする中、普段着の若者が入ってきたので当然警備員が反応する。アメリカの警官のようなおじさんが近づいてきて、ナオキがちゃんと用があることを説明するため対応しようとしたその時、警備員がいるのと反対の方向から声がした。

「100億円チャレンジの方ですか?」

「はい。そうです」

 割って入って現れた男は学校で言うなら教頭先生みたいな雰囲気を感じて、会社内でそれなりの地位を持っていそうな白髪混じりで眼鏡だった。

「こちらへどうぞ」

 男に連れられ、読者モデルのような受付嬢に目を奪われながら受付カウンターを抜けてエレベーターに乗せられた。Rのボタンが光り、屋上までエレベーターが動き始める。

「少し遠い場所にあるのでね。詳しい話は移動しながらお話し致します」

「あ、はい」

 ドラマでしか見たことがない大企業のビルの近代さに緊張してしまう。しかも屋上に連れていかれるなんてまさかな――。

「よろしく」

 男が携帯を取り出し誰かに連絡している。

 エレベーターが開く前から大きなエンジン音がしていて、綺麗な青色の空とともにヘリコプターが姿を現した。

 風が強い。外側に柵がないことに解放感と恐怖を感じる。

「少々お待ちください」

 男はエレベーターの前で待つように指示してきた。ほどなくして動画で見た小太りの中年、伊良部がエレベーターから出てくる。

「おお、よく来てくれたな」

 ナオキに向かって手を挙げて気さくに話しかけてきた。

「君が新たな挑戦者だね。君にも期待しているよ」

「どうも」

 伊良部はニンマリとしている。この上機嫌な感じの理由は昨日良いことがあったからなのか、それともこれから楽しみなことがあるのか。動画に移っていた時と同じようなダボっとしたスーツを着ているがやはりオシャレなスーツを着るに相応しい容姿ではない。

「さっそく行こうかね高橋くん」

「はい。準備できております」

 もう出発するのか。色々と説明してほしいことはあるが移動中にと言っていたな。そして伊良部、この男も一緒に行くのか。2人は早足でヘリに向かう。

「さあ少年。乗りたまえ」

「はい」

 少年という呼ばれ方は久しぶりにされた気がする。ナオキはヘリに乗るのは初めてだった。先に乗った二人の見様見真似で足を動かし乗り込む。最後に乗ったのは自分なので車のドアを閉めるようにヘリのドアを強く引いた。一応ちゃんと閉められているか中の者の顔色を見て確認したが、どうやらOKらしい。

 ヘリの内部はほぼ軽自動車と同じで、2列だけだった。前に運転手と伊良部が座り、後ろに高橋と呼ばれていた案内人の男とナオキが座った。

「よし。出して」

 伊良部の指示でヘリコプターが宙に浮き、空を進み始めた。ずいぶん手際よく作業を進めていくな。俺ぐらい自信が無ければ急すぎて心の準備ができないぞ。

 窓に顔を近づけて下を見てみる。ありきたりな言い方だが空から見るビルや家は小さくて、プラモデルのように見えた。

 それにしても、興奮して窓から景色を眺めるナオキを気にもせず他の三人は伊良部中心に談笑を始めている。

「…………今度また、船で世界一周の旅に出ようと思ってるのよ。若い子でも連れてね」

「それは羨ましい」

「高橋くん。例の洋館から何か連絡はあったかね?」

「いえ、まだありません」

「ほーん。まだか。それはそうと説明してあげな」

 そうだ。のんきに談笑してないで詳しい話を聞かせてくれ。俺はこれから具体的にどういったことをさせられるんだ?

「はい。それでは説明させてもらいます――。ナオキさん、これは分かっていると思いますが、今からあなたには洋館に入って頂き、幽霊の調査をしてもらいます」

「入って見てくるだけよ」

 説明を始めた高橋に伊良部が割って入る。

「はい。こちらご覧ください」

 高橋がどこからか迷彩柄のチョッキを取り出した。ヘリに置いていたのだろうか。

「こちらのチョッキには胸ポケットの部分に小型のカメラが内蔵されております。このチョッキを着てですね、洋館内のすべての部屋に入って色んなところを調べてきてほしいのです」

「あれは三階建てだっけ?四階建て?」

 またもや伊良部が口をはさむ。

「外から見る感じではおそらく三階建てですね。私も入ったことがありませんので。それでですね。こちらのポケットの中には除霊グッズが入れれるだけ入っております。こちらはですね。余裕があれば試してみてほしいんです。使い方はお札だったら幽霊や取りついている物体に貼る。数珠だったら音お鳴らして念じればいいと思うんです。」

 胸ポケット以外にやたらついているポケットの中には形や文字の違うお札や数珠が入っていた。たしかに雰囲気はあるがこんなものが幽霊に聞くんだろうかとナオキは疑問を抱いた。

「隅々まで見てくるだけでいいのよ。それで無事に出てくるだけ。中で見たものを詳しく話してくれたら100億円あげちゃうからね。あと一度入ったらある程度成果をあげるまでは出てきちゃだめよ。」

 説明はこれだけで終わった。最後に何か質問はないか聞かれたが特にないとナオキは答えた。単純明快だし簡単そうじゃないか。本当に見て回るだけでいいのか。ナオキは勝ったと思った。どんなに恐恐しい化け物がいても今の自分なら、100億円の為なら恐怖しないという自信がある。逃げるつもりなんてさらさらない。

 ナオキはチョッキを着て、伊良部の超絶金持ち雑談を聞かされながらヘリコプター内で自分を鼓舞し続けた。いける。いける。やれる。

 一時間以上は経った気がする。移動している方向をよく確認してなかったがここはどこの辺りなんだろう。山の中に上空から見ればよく目立つ白い洋館が見えてきた。

「あ、そういえば先に入ってる子もいるからね。協力してやってもいいし1人で行動してもいいよ。協力してやったら100億円は山分けだけどね。まあでき次第じゃ色付けてあげるけど。水と食料も中にあるから」

 1人でも別によかったが、中に仲間がいると聞いて心強く、安心するとともに疑問が湧いてナオキは初めて質問する。

「先に入っている方はいつから?何人ぐらいいるんですか?」

 それなりに大きい洋館だ。じっくり調べるなら一日二日はかかるかもしれない。だけどもし一週間前とかなのであればまずいんじゃないだろうか。消息不明とするレベルだ。

「…………昨日二名が、そのさらに二日前に三名が入られております」

 まずい質問でもしたか?と思うほどの沈黙があってから高橋が答えた。三日前に入った人もいるのか。微妙なラインだな。ナオキは一日で帰るつもりだったがそう簡単にはいかないということか。

 まあ先に入った奴がとろいだけかもしれないし、もし幽霊に殺されたんだとしてもナオキは怖気づかず洋館に入るつもりだった。どうしようもない状況になれば窓ガラスを割ってでも逃げ出せばよい。ナオキは素人だが何でもできる気でいたのだった。
 ヘリが洋館の前の広場に着陸して、伊良部とナオキだけがそこから降りる。

 現場で洋館を見たところ幽霊が出そうな雰囲気というものはそれほどなかった。いわくつきの物件だと言われれば確かにちょっとという感じだ。町はずれにある廃校や廃病院に入るほうがよっぽど怖い。

 ヘリコプターを振り返ると高橋がビデオカメラを構えていた。そういうのも記録するのか。

 ナオキは実際怖くないので格好つけるのも込みで堂々と入口に向かって歩いた。

「じゃあ。入りますね」

「さすがは人生に絶望してるだけある。君は面構えがいいねえ。ファイトだぞ」

 怖がっていない自分を見る伊良部の目は輝いていた。

 取っ手が金色の白い両開き扉の片方をゆっくり開けて、中を覗く――建物内が視界に入ると同時に背中に強い力がぶつかりこけそうになる。

 誰かに背中を押された――。後ろを見ると伊良部がニンマリしている。目だけが笑ってないので最初に会ったときより悪い顔に見えた――。

 何のつもりだ?激励のつもりだったのか?伊良部の顔はすぐに扉が閉まって見えなくなった。

 後ろを見ていても仕方ない。前を見ると最初に目に止まったのは気難しそうな老人だった…………
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