私は《悪役令嬢》の役を降りさせて頂きます

・めぐめぐ・

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 エリオットを押しのけると、座り込んでいるあたしの前に座り込み、目線を同じにした。綺麗なドレスの裾が汚れるのも関わらず、埃をかぶっている牢の鉄格子に縋りつくようにこちらに接近する。

 彼女の青い瞳が、辛そうに細められた。
 
「私も《悪役令嬢》だったから分かる。それを知ったときの絶望が。あなたは生きたかっただけ。私はエリオット様を取り返したかっただけ。なのに全てが上手くいかず、挙句の果てには凄惨な死を遂げるのだから、絶望しない人間なんていないわ」

 あたしは耐えきれず、アンティローゼから視線を外した。
 だって、彼女に《悪役令嬢》を押し付け、無残な死を何度も経験させたのは、あたしなのだから。

 でもアンティローゼの言葉には、あたしに対する憎しみはなかった。
 語られる言葉に熱が増す。

「絶対に間違っているわ、悪役がいなければならない物語なんて! それなら私たちで作りましょう。《悪役令嬢》のいない、新たな物語を」
「そ、そんなことできるわけがないわっ! 《読者》は常に《悪役令嬢》を求めている! そいつが断罪されるのを楽しみにしているのよ⁉ 求められる限り、私はその役割から逃れられない!」
「いいえ、誰一人悪役がいない大円満な物語を求めている《読者》だっているはずよ! 物語だからって、悪役が必要なわけじゃない!」

 アンティローゼが手を差し伸べた。

「《読者》に伝えましょう。この世界に《悪役令嬢》は必要ないと。《読者》が私たちに影響を与えるなら、その逆だってできるはずだわ! 本筋では確かあなたは、殿下を貶めた罪で処刑されるのよね?」
「ええ、そうよ……そしてお邪魔虫がいなくなって世界は平和、あんたたちは無事結婚してめでたしめでたしってわけ」
「なら、そこから変えましょう。殿下、どうかルシアをお許し頂けないでしょうか?」
「なっ⁉」

 思わず声をあげてしまった。しかしアンティローゼの表情は真剣だ。
 エリオットは、口元に微笑みを浮かべると、小さく頷く。

「まんまとその女の術にハマり、君を傷つけた俺に決定権はないよ。アンティローゼがいいなら、俺も許そう」
「ありがとうございます、殿下」

 彼に対し深く頭を下げると、牢の隙間からアンティローゼの白い手が入って来た。呆然と成り行きを見守っているあたしの手が温かさで包まれる。

「あなたは先ほど仰いましたね? 色々と破滅を回避しようとしたけれど無理だったと。でもこの方法は試したのかしら?」

 顔を上げると、慈愛に満ちた微笑みを浮かべるアンティローゼの姿があった。

「私はあなたを許します。だから今度は正しい方法で幸せになりましょう。誰一人、悪役のいない幸せな物語を一緒に作って? 私と友達になって頂けますか?」

 本筋のアンティローゼは、美しく、気高く、真っすぐだった。

 そんな彼女を、生前のあたしは大好きだった。
 彼女のようになりたいと思っていた。

 あたしは握られた手を見つめた。次第に視界が揺らぎ、温かいものが頬を伝う。

「ご、ごめんなさい……ほんとうは、あなたがだいすきだった……強くて気高くて真っすぐで……そんなあなたを歪めたあたしを……どうか、ゆるして……」

 今までずっと蓋してきた後悔と罪悪感が溢れ出した。
 それらは自然と謝罪の言葉となって唇からとめどなく零れ落ちる。
 
(きっと作れるはず……彼女と一緒ならきっと……)

 そう思いながら、あたしは肩を震わせて何度も何度も頷いた。
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