婚約者に見捨てられた悪役令嬢は世界の終わりにお茶を飲む

・めぐめぐ・

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悪役令嬢の回想3

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 悪役令嬢――何って顔をしていますね、ルージャン。
 後ほど、説明して差し上げますわ。

 こうしてケルビン様は、レイカ様とともに魔王討伐に向かうことが決まりました。

 軍は連れては行けません。
 何故なら魔王がいる場所に辿り着くには、非常に険しく道幅が細い場所を通らなければならず、過去何度もこの場所で全滅させられていたからです。

 お供として、神殿からはクライム様、王国側から私が選ばれました。

 私は旅立つ前に、魔物と戦ったことのないケルビン様やレイカ様に向けて、訓練をされるべきだと主張いたしました。

 しかし、私の主張は聞き入れられませんでした。

 早く汚名を返上し、弟君をおす勢力を削ぎたいと、ケルビン様が出立を急がれたからです。レイカ様もご自身のお力に絶対の自信を持たれており、ケルビン様のご意志を後押しなされました。ゲームと同じように道中に現れる魔物を倒し、経験を積めば良いと。

 ……ゲームとは何のことでしょうね?

 ならば護衛を増やすべきだとお伝えいたしましたが、それもケルビン様に却下されてしまいました。その理由は、後ほど判明するのですが。

 こうして私たちは、魔王討伐に旅立つこととなったのです。

 旅はどうだったか、でしょうか?
 ふふっ……逆にお聞きしますけど、あの面子で上手く行くとお思いですか?

 ケルビン様は旅の間、ずっとレイカ様にアプローチを続けていらっしゃいました。護衛を増やすことを拒否されたのは、これ以上異性を増やしたくなかったからでしょう。

 クライム様も、レイカ様に惹かれていらっしゃいましたから。

 男性二人は、どうすればレイカ様の心を射止められるか競い合っていました。
 街に着けば魔王討伐の旅に必要な準備や情報収集、領主への挨拶などは、すべて私に丸投げし、レイカ様を半分連れ去るような形で出かけて行かれました。

 レイカ様はどちらの男性の愛に応えるべきか、よく私に相談なされました。

「この世界にやってきてから、クライムが私を守ってくれたわ。だからとても感謝しているし信頼をしているの。だけど最近、ケルビンも気になるのよねー。彼は……まあ出会いは最悪だったけど、ああ見えて一途で優しいところがたくさんあるわ。ね、アイリス、私どうしたら良いと思う? こういう話、あなたにしかできないしー……」
「あなた様が何を悩んでいらっしゃるのかは分かりかねますが、一つだけハッキリしていることを申し上げます。ケルビン様の婚約者は私です」
「えー、アイリス、妬いてるのぉー? 可愛いところあるじゃない」
「いいえ、違います。私たちの婚約は、我が公爵家と王家で結ばれた重要な決まり事。確かに、ケルビン様はあなた様に好意を抱いていらっしゃる。しかし私たちの立場ともなると、個人的感情ではなく家や国の利益に重きが置かれます」
「じゃ、アイリスはケルビンを愛していないのに、自分の家が得するから結婚するの? それってお金や権力目当てってことよね? えー、それでいいの? その考え、ちょっと引くわー」
「それでいいのかと仰いましても。私はケルビン様の伴侶となるよう望まれ、様々な教育を受けて参りました。殿下を守る盾としての生き方しか知りません」
「アイリスがこんな人だったなんて……酷い。ケルビンが可哀想だわ……」

 レイカ様は黒い瞳を潤ませながら、私を責められました。

 何故私が責められているのか。レイカ様の気持ちが分かりませんでした。
 いえ、一生分かることはないでしょう。

 見張りをそれぞれの男性と抜けだし、これ見よがしに首筋に痕を残して帰ってくるような方の気持ちなど。

 道中に現れる魔物を倒しながら、私たちは戦いの経験を積む予定でした。
 しかし実際は――

「アイリスが敵を弱らせ、拘束してくれれば、私の魔法で敵を浄化するわ」
「それではレイカ様の経験には……」
「レイカ様は聖女。一番に守るべき御方です。万が一傷ついたら大変ですから、アイリス様、よろしくお願いいたします」
「そうだ。アイリス、お前は実践経験も豊富だ。お前がまず前に出て敵を弱らせろ」
「……かしこまりました、殿下」

 毎度このような形で、私が前線に出されました。

 え? 
 聖騎士であるクライム様はどうしていたのか?

 ああ、彼はレイカ様の護衛ですから、彼女の傍から離れられないと、前線にでることはありませんでしたわ。

 ふふっ、今考えると、とても可笑しい光景。
 鎧を身に纏った大の大人が二人、後ろにいて、魔法を使う関係で、防具を何一つつけられない私が、敵の大軍の前に出ているのですから。

 私が魔法で敵を弱らせ拘束すると、ケルビン様とクライム様に守られたレイカ様が私の前に出て来られました。
 聖なる力を使うと、魔物たちは全て光の塵となって消えていきました。

 そう……あの日も、同じでした。
 村を襲っていた魔物を、レイカ様が消滅させると、村人たちがレイカ様たちを取り囲み、聖女だと讃えました。

 そのとき、レイカ様を取り囲む人垣から少し離れた場所にいた少女に、生き残ったこびと型の魔物が、鋭い爪を掲げて襲い掛かろうとしていたのです。

 誰も気付いていませんでした。
 他に魔物が残っていないかを確認するために離れていた、私以外は――

 反射的に体が動き、私が放った魔法が魔物の首を切り飛ばしました。

 頭部を失った魔物の体から黒い血が噴き出し、少女の顔を染めていきます。少女はあまりの恐ろしさに固まり、地面に座り込んでしまいました。

 聖女を讃えていた場が、騒然となりました。
 母親らしき女性が悲鳴をあげながら、少女を魔物から引き離しました。

 ケルビン様が私に詰め寄られました。

「アイリス、一体何事だ!」
「生き残った魔物が少女に襲い掛かろうとしていたため、討伐しました」
「だからって、もっとやりようがあっただろう! あんな残酷な殺し方……レイカが怯えているだろう!」

 そう憤慨されるとケルビン様は、クライム様にしがみつくレイカ様に駆け寄り、慰めの言葉をかけていらっしゃいました。子どもをあやすように、レイカ様の黒髪を撫でていらっしゃいます。

 少女が殺されそうになったというのに、レイカ様の心配をするケルビン様のお気持ちが、全く分かりませんでした。

 村の人々たちから私に向けられる視線も、冷たいものに変わっていました。

「子どもの目の前で、首を飛ばすなんて……」
「聖女様は、何故あんな残忍な女を供にしているんだ」
「恐ろしい……」

 そんな会話を交わしながら、村人たちはレイカ様たちを取り囲みながら、立ち去っていきました。
 私が救った少女を抱き上げながら立ち去る母親が、憎々しげに私を見ていたのが印象的でした。

 ……今なら、何故ケルビン様が私のことを残酷だと仰ったのか、理解できています。

 レイカ様の力であれば、魔物たちは光の塵となって消えます。血なまぐさい戦いを経験していなかったのです。

 この場に取り残された私は、魔物の遺体を焼きました。
 ユラユラと揺れる炎を見ながら、私は初めて旅に疑問を抱いたのです。

 私はあの方たちにとって、一体何なのか、と―― 
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