婚約者に見捨てられた悪役令嬢は世界の終わりにお茶を飲む

・めぐめぐ・

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悪役令嬢の回想2

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 ふふっ、傑作でしょう?
 婚約者たる私がいる前での発言なのよ?

 あらルージャン、何故そんなに怖い顔をしているのかしら?
 ここ、笑いどころよ?

 突然求愛されたレイカ様は、顔を真っ赤にされながら、

「はぁっ⁉ 全く意味が分からないんだけどっ‼ あんたみたいな自分勝手な男と結婚するわけないじゃない‼」

 と叫び、ケルビン様に掴まれた手を振り払われました。しかし殿下は、手をお離しになりませんでした。むしろレイカ様が抵抗すればするほど、楽しいと言わんばかりのご様子。

「俺の求婚を正々堂々と正面から断ったのも、お前が初めてだな。ますます欲しくなった」

 掴んだ手をご自身の方に引き寄せると、レイカ様を抱き上げ、部屋から連れ出そうとなされたのです。

 殿下の発言・行動から、これから何をなさろうとされているのか。
 あの場にいた誰もが想像できたでしょう。

 聖女は、その身が清らかでなければならないとされています。
 クライム様が殿下を制しようとしましたが、近衛兵たちに取り押さえられ、身動きがとれなくなっておりました。そんな状況でも彼は諦めず、レイカ様の名前を叫びながら、彼女に向かって手を伸ばされていました。レイカ様もクライム様の名を呼びながら、手を伸ばされていたので、まるで引き裂かれる恋人たちの一幕のようでした。

 王家と神殿が仲違いするわけにはいきません。

 私はケルビン様の前に立ちはだかると、彼を真っすぐ見据えながら意見をいたしました。
 この場で殿下を止められるのは、婚約者たる私だけでしたから。

 私を視界に映したケルビン様は、非常に不愉快そうに顔を歪められました。

「なんだアイリス。邪魔をするな」
「恐れながら殿下。レイカ様は聖女でございます。聖女が体の清らかさを失えば、魔王に対抗する力を世界が失うということ。それがこの国にとって、そして殿下の未来にとって、どれほど大きな損失となるか……あなた様程の御方ならば想像に難くないかと。どうかお戯れはここまでに……」

 淡々とした口調でお伝えすると、ケルビン様は大きく舌打ちをし、レイカ様を解放なされました。

 レイカ様は一目散に私の後ろに隠れ、顔を半分ほど出されながら、ケルビン様を睨みつけています。他の者がしようものなら、不敬だと切り捨てられても仕方のない態度を見せる聖女に、殿下は口元を緩ませました。

「……まあいい。魔王を倒し、俺がこの国の王となった暁には、お前を必ず手に入れる」
「誰があんたなんかと結婚するものですか! ベーーーーーっだ‼」

 レイカ様は舌を出して拒絶の態度をお見せになると、今度はクライム様の後ろに隠れてしまわれました。

 殿下が、面白い女だな、などと呟いていますが、ハッキリさせておかなければならないことがあります。

 私は再び口を開きました。

「殿下。先ほどからレイカ様を妃にとおっしゃっておりますが、あなた様の婚約者は私――アイリス・ロヴィ・クランメトーレであることをお忘れなきよう」

 私たちの結婚は幼い頃、現国王と私の父によって決められたこと。気になる女性が現れたからといって、簡単に反故できるような軽い契約ではございません。

 万が一そのようなことがあれば、父は王家に反旗を翻すことも辞さないでしょう。
 
 ああ、娘想いな父親ではないのですよ、ルージャン。
 私を王家に嫁がせることで、クランメトーレ家は王家にたいし、様々な融通をきかせて、協力してきたからなのです。 

 私には、未来の国王と国を守る義務があります。このようなことで、保っていた両家の均衡を崩すわけにはいかないのです。

 ケルビン様は、苦々しい顔を通り越し、忌々しいと言わんばかりに私を睨みつけられました。レイカ様を一瞥されていたので、彼女の前で話して欲しくない内容だったのでしょう。

 私の言葉を聞き、反応されたのはレイカ様でした。

「酷い男‼ 婚約者がいるのに、別の女を口説くなんて、さいっっっっってーーー‼ アイリスさんが可哀想じゃない‼ ほら、早く謝んなさいよ!」
「謝罪するのはあなたもですよ、レイカ様」

 私は、クライム様の後ろで楽しそうにはやし立てるレイカ様にも、厳しい視線を向けました。そしてレイカ様の傍に寄ると、彼女の黒い瞳を真っ直ぐに見つめながらお伝えしたのです。

「ケルビン様は、次期国王となられる御方。本来であれば、あなたが軽々しく言葉を交わすことのできないお相手なのです。それを言葉だけでなく、手を挙げるなど……この場で切り捨てられてもおかしくないのですよ。今あなたが生きていられるのは、殿下の温情によるものだと弁えてくださいませ」

 レイカ様は、異世界からきた御方。この世界の慣習は分からないでしょうから、今後同じような過ちを犯さないように注意したつもりでした。
 しかしレイカ様は下唇を噛みながら俯かれ、黙ってしまわれました。その表情からは、不服や不満が見えます。

 初対面の相手からの指摘は受け入れられにくいと判断した私は、クライム様にお声をかけました。

「クライム様。レイカ様を守る聖騎士であるなら、彼女の言動にはしっかり目をお配りください。そしてこの世界での振る舞いを、レイカ様にしっかり教育なさるよう、神殿にお伝えくださいませ」
「は、はい……申し訳ない、です……アイリス様……」
「クライムは悪くないわ‼」

 レイカ様が否定されましたが、私は無視しました。
 何故なら、神殿の宝である聖女を、一歩間違えれば命すら危うい状況に陥らせたのは、護衛である彼の失態なのですから。

「聖女の振る舞いが、王家と神殿の関係にどれだけの影響をもたらすか、あなた様ならばお分かりになるでしょう? 以後お気をつけなってください」
「……肝に、銘じます……」

 クライム様は項垂れながら小さな声で仰いました。そんな彼の背中をレイカ様が撫でながら、慰めていらっしゃいます。

 確か、突然現れたレイカ様を見つけたのは、この聖騎士だったと聞いております。それもあってか、レイカ様は彼に大きな信頼を置いているように見えました。

 クライム様を慰めるレイカ様を、ケルビン様が眉を潜めながら見つめていらっしゃいます。

 丁度、国王がお見えになられたため、私は入れ替わるように席を外しました。
 私の後ろ姿に向かって、レイカ様がぼそりと呟かれた言葉が、何故かとても大きく聞こえました。

「なにあれ……悪役令嬢じゃん……」

 と。
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