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第12話
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「はっ? ど、どういうことだい、それはっ‼」
レナータの驚き声が森に響き渡った。あまりの大音声に驚いた鳥たちが、バサバサと飛び立ち、木々の葉が舞い落ちる。
葉を一枚踏みしめながら一歩進み出ると、ナディアは真相を告白した。
「アルバート様のお父様が、私と彼との結婚を当初反対なされていたのです。それを知ったヤーブラルド皇帝陛下が、ワイドルク国王陛下に相談した結果、国王陛下が王命という形で、私たちの結婚をアルバート様のお父様に承諾させたのが真相です。今はお義父様とも仲良くさせて頂いておりますが。順番が逆なのですよ」
「そ、それが本当なら、アルは……」
「自ら求めて私と結婚なさったということです」
レナータの体が、ぐらりと揺れた。
「う、嘘だっ……アルが、あんたを選んだなんて、そんなこと絶対に嘘だ! あんた……あたしを騙そうと……」
「真実です。信じられないなら、アルバート様から直接お聞きになればよろしいのでは? ムゥト様には全てをお話なされているようですし。アルバート様は、あなたの手料理を食べる程、あなたを信頼なさっているのですよね? ならば、全てをお話くださるのではないでしょうか」
「ムゥト……には、全て話して、る……? あたしには、どれだけ聞いても、教えてくれなかったの、に……?」
顔を真っ青にし、唇を戦慄かせながらレナータが譫言のように呟く。
そんなとき、ナディアの頬に冷たい水滴が当たった。落ちてくる水の量、間隔が次第に短くなっていき、やがて大きな音を立てて二人の上に降り注く。
ナディアが予想したとおり、雨が降ってきたのだ。
「雨が……レナータ様、戻らなけ――」
「……違う、違う違う違う違う違う違う違う違うっ‼」
降ってくる雨など目に入っていない様子で、レナータが髪の毛を搔きむしりながら叫んだ。
「アルは……アルは、ずっとあたしと一緒にいた‼ 再会した後も、あんたと結婚した後も、あたしが呼べばすぐに駆けつけてくれた‼ あんたよりもずっとずっと、あたしの方がアルと一緒にいる時間が長いんだっ‼ それは……アルがあたしを大切に想っている証拠。アルが、あんたよりもあたしを愛している証拠だっ‼」
「ですがどんなことがあっても、アルバート様は必ず私の元に戻ってこられます」
「うるさい、うるさいうるさいうるさいうるさいっ‼」
「レナータ様。どれだけ憶測を立てても、私がアルバート様の妻ということだけは、覆すことが出来ない事実です」
雨が降り注ぐ。
ポタポタと髪から滴り落ちる水滴を拭いもせず、ナディアが真っ直ぐに宣言する。
「お認めください、あなたは彼に選ばれなかったのです」
次の瞬間、レナータは髪を振り乱しながら、ナディアの体を押し倒そうと手を伸ばした。こちらに向かって来る勢いが、レナータの本気を伝えてくる。
しかし、ナディアの体を突き飛ばすはずだった手が空を切った。瞬きを一つしたと思う程の一瞬に、ナディアはその場から姿を消していたのだ。
レナータの体がバランスを崩す。
目の前にあるのは、落ちたら這い上がるのが難しい急な斜面。
「レナータ様っ‼」
ナディアが声をあげ手を伸ばし、レナータの手首を掴んだ。
しかし雨のせいで地面が緩み、力を込めようとしたナディアの足下がぐにゃっと歪む。それに加えて、レナータの重みがナディアを引っ張り――
二人の体が急斜面を勢いよく転がっていった。
レナータの驚き声が森に響き渡った。あまりの大音声に驚いた鳥たちが、バサバサと飛び立ち、木々の葉が舞い落ちる。
葉を一枚踏みしめながら一歩進み出ると、ナディアは真相を告白した。
「アルバート様のお父様が、私と彼との結婚を当初反対なされていたのです。それを知ったヤーブラルド皇帝陛下が、ワイドルク国王陛下に相談した結果、国王陛下が王命という形で、私たちの結婚をアルバート様のお父様に承諾させたのが真相です。今はお義父様とも仲良くさせて頂いておりますが。順番が逆なのですよ」
「そ、それが本当なら、アルは……」
「自ら求めて私と結婚なさったということです」
レナータの体が、ぐらりと揺れた。
「う、嘘だっ……アルが、あんたを選んだなんて、そんなこと絶対に嘘だ! あんた……あたしを騙そうと……」
「真実です。信じられないなら、アルバート様から直接お聞きになればよろしいのでは? ムゥト様には全てをお話なされているようですし。アルバート様は、あなたの手料理を食べる程、あなたを信頼なさっているのですよね? ならば、全てをお話くださるのではないでしょうか」
「ムゥト……には、全て話して、る……? あたしには、どれだけ聞いても、教えてくれなかったの、に……?」
顔を真っ青にし、唇を戦慄かせながらレナータが譫言のように呟く。
そんなとき、ナディアの頬に冷たい水滴が当たった。落ちてくる水の量、間隔が次第に短くなっていき、やがて大きな音を立てて二人の上に降り注く。
ナディアが予想したとおり、雨が降ってきたのだ。
「雨が……レナータ様、戻らなけ――」
「……違う、違う違う違う違う違う違う違う違うっ‼」
降ってくる雨など目に入っていない様子で、レナータが髪の毛を搔きむしりながら叫んだ。
「アルは……アルは、ずっとあたしと一緒にいた‼ 再会した後も、あんたと結婚した後も、あたしが呼べばすぐに駆けつけてくれた‼ あんたよりもずっとずっと、あたしの方がアルと一緒にいる時間が長いんだっ‼ それは……アルがあたしを大切に想っている証拠。アルが、あんたよりもあたしを愛している証拠だっ‼」
「ですがどんなことがあっても、アルバート様は必ず私の元に戻ってこられます」
「うるさい、うるさいうるさいうるさいうるさいっ‼」
「レナータ様。どれだけ憶測を立てても、私がアルバート様の妻ということだけは、覆すことが出来ない事実です」
雨が降り注ぐ。
ポタポタと髪から滴り落ちる水滴を拭いもせず、ナディアが真っ直ぐに宣言する。
「お認めください、あなたは彼に選ばれなかったのです」
次の瞬間、レナータは髪を振り乱しながら、ナディアの体を押し倒そうと手を伸ばした。こちらに向かって来る勢いが、レナータの本気を伝えてくる。
しかし、ナディアの体を突き飛ばすはずだった手が空を切った。瞬きを一つしたと思う程の一瞬に、ナディアはその場から姿を消していたのだ。
レナータの体がバランスを崩す。
目の前にあるのは、落ちたら這い上がるのが難しい急な斜面。
「レナータ様っ‼」
ナディアが声をあげ手を伸ばし、レナータの手首を掴んだ。
しかし雨のせいで地面が緩み、力を込めようとしたナディアの足下がぐにゃっと歪む。それに加えて、レナータの重みがナディアを引っ張り――
二人の体が急斜面を勢いよく転がっていった。
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