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第4話
漫画喫茶で一泊した次の日。気づけばもう外は夕方だった。
幸いだったのは、今日が土曜日で仕事が休みだということ。こんな状況で仕事なんて出来るわけがなかった。
昨日のことが、夢のように思える。だけど漫画喫茶にいることと、小さなボストンバッグの存在が、現実だと訴えてくる。
パソコンの前に広げたままだった不倫の証拠写真を見る。
私から全てを奪った写真。
ホテルから出てきているのは、私と知らない男性。もちろん、私も知らない相手だ。ホテルの場所にも見覚えはない。そのほかも写真も、同じようなものだ。
なのに何故こんな写真が存在するのか。
そこでふと気づく。
(私、こんな服もっていない……)
写真の中の私は、可愛いワンピースを身につけていた。バッグや靴もだ。トオルがこういう系統の服が好きなので、付き合っていたときは良く身につけていた。さすがにこの年齢で着るのは恥ずかしいから、着ることはなくなったけれど。
(もしかすると、私と非常によく似た別人かもしれない。トオル、勘違いしちゃったのかも。もう一度説得すれば……誤解が解けるかも!)
そう思うといてもたってもいられなくなった。
おそらくトオルは今日も仕事に行っているはず。
ここからなら家に帰るよりも、彼の会社に直接行った方が早い。
そう思った私は漫画喫茶の精算をすると、トオルの会社に向かった。
*
丁度退社時間なのだろう。建物からたくさんの社員たちが出てくるのが見えた。不審者だと思われないよう、物陰に隠れながらトオルが出てくるのを待つ。
トオルは二年前に役職についてから仕事がさらに忙しくなり、帰りも遅い。長丁場を覚悟しパンを買って鞄に入れていたのだが、トオルは想定外に早く会社から出てきた。
しかし彼の足は、駅の方には向かなかった。駅とは反対の方を歩いて行く。
不思議に思った私は彼を呼び止めず、後を追った。
彼がたどり着いたのは、大型のショッピングモール内にある花屋だった。
予約していたのだろう。大きなバラの花束を受け取り、ショッピングモールを出て、また歩いて行く。
会社から随分と離れたオシャレな店にやってくると、彼は店に入り、店員に花束を預けると、案内されたテーブルについた。
幸いにも店はすいていて、予約無しの私も入ることが出来た。コーヒーを注文し、少し離れた場所でトオルの様子をうかがう。
しばらくして、知らない女性がトオルと同じテーブルについた。
少し離れているからはっきり分からないが、私よりも若い女性だ。美人というよりも可愛い系だった。ふわっとした淡い色のワンピースがとても良く似合っている。トオルが好きそうなファッションだ。
なんだか嫌な予感がした。
二人は談笑しながら、料理を食べ始めた。
なにを話しているかは聞こえないが、どう見ても初対面という雰囲気ではない。もっともっと、以前からの知り合い――いいえ、知り合いというよりももっと親密な仲。
胸の奥がぞわぞわした。
握ったこぶしには、汗が滲んでいる。
そして――トオルが席を立った。
店内の照明が落とされる。
突然薄暗くなり、客たちがざわめくなか、バラの花束を持ったトオルがテーブルに戻ってきた。
彼は一緒に食事をしていた女性にバラの花束と、指輪を差し出すとこう言った。
「サオリ、俺と結婚して欲しい」
サオリと呼ばれた女性は瞳を潤ませながら、バラの花束を受け取り、トオルに指輪をつけて貰っていた。
「う、嬉しい……トオルさん……はい、よろしくお願いいたします」
目許を拭いながら承諾の返事をする女性。
彼女の言葉を聞いた周囲の客たちが、拍手をし、プロポーズを成功させたトオルを褒め称えている。
トオルは周囲に軽く会釈をし、サオリを抱きしめたことで、さらに周囲は盛り上がりを見せた。
そんな光景を、私はただ呆然と見ているだけだった。
だが、一つだけはっきりしていることがある。
湧き上がるのは、悲しみでも絶望でもない。
怒り。
浮気をしていたのは、
――あの男の方だ。
幸いだったのは、今日が土曜日で仕事が休みだということ。こんな状況で仕事なんて出来るわけがなかった。
昨日のことが、夢のように思える。だけど漫画喫茶にいることと、小さなボストンバッグの存在が、現実だと訴えてくる。
パソコンの前に広げたままだった不倫の証拠写真を見る。
私から全てを奪った写真。
ホテルから出てきているのは、私と知らない男性。もちろん、私も知らない相手だ。ホテルの場所にも見覚えはない。そのほかも写真も、同じようなものだ。
なのに何故こんな写真が存在するのか。
そこでふと気づく。
(私、こんな服もっていない……)
写真の中の私は、可愛いワンピースを身につけていた。バッグや靴もだ。トオルがこういう系統の服が好きなので、付き合っていたときは良く身につけていた。さすがにこの年齢で着るのは恥ずかしいから、着ることはなくなったけれど。
(もしかすると、私と非常によく似た別人かもしれない。トオル、勘違いしちゃったのかも。もう一度説得すれば……誤解が解けるかも!)
そう思うといてもたってもいられなくなった。
おそらくトオルは今日も仕事に行っているはず。
ここからなら家に帰るよりも、彼の会社に直接行った方が早い。
そう思った私は漫画喫茶の精算をすると、トオルの会社に向かった。
*
丁度退社時間なのだろう。建物からたくさんの社員たちが出てくるのが見えた。不審者だと思われないよう、物陰に隠れながらトオルが出てくるのを待つ。
トオルは二年前に役職についてから仕事がさらに忙しくなり、帰りも遅い。長丁場を覚悟しパンを買って鞄に入れていたのだが、トオルは想定外に早く会社から出てきた。
しかし彼の足は、駅の方には向かなかった。駅とは反対の方を歩いて行く。
不思議に思った私は彼を呼び止めず、後を追った。
彼がたどり着いたのは、大型のショッピングモール内にある花屋だった。
予約していたのだろう。大きなバラの花束を受け取り、ショッピングモールを出て、また歩いて行く。
会社から随分と離れたオシャレな店にやってくると、彼は店に入り、店員に花束を預けると、案内されたテーブルについた。
幸いにも店はすいていて、予約無しの私も入ることが出来た。コーヒーを注文し、少し離れた場所でトオルの様子をうかがう。
しばらくして、知らない女性がトオルと同じテーブルについた。
少し離れているからはっきり分からないが、私よりも若い女性だ。美人というよりも可愛い系だった。ふわっとした淡い色のワンピースがとても良く似合っている。トオルが好きそうなファッションだ。
なんだか嫌な予感がした。
二人は談笑しながら、料理を食べ始めた。
なにを話しているかは聞こえないが、どう見ても初対面という雰囲気ではない。もっともっと、以前からの知り合い――いいえ、知り合いというよりももっと親密な仲。
胸の奥がぞわぞわした。
握ったこぶしには、汗が滲んでいる。
そして――トオルが席を立った。
店内の照明が落とされる。
突然薄暗くなり、客たちがざわめくなか、バラの花束を持ったトオルがテーブルに戻ってきた。
彼は一緒に食事をしていた女性にバラの花束と、指輪を差し出すとこう言った。
「サオリ、俺と結婚して欲しい」
サオリと呼ばれた女性は瞳を潤ませながら、バラの花束を受け取り、トオルに指輪をつけて貰っていた。
「う、嬉しい……トオルさん……はい、よろしくお願いいたします」
目許を拭いながら承諾の返事をする女性。
彼女の言葉を聞いた周囲の客たちが、拍手をし、プロポーズを成功させたトオルを褒め称えている。
トオルは周囲に軽く会釈をし、サオリを抱きしめたことで、さらに周囲は盛り上がりを見せた。
そんな光景を、私はただ呆然と見ているだけだった。
だが、一つだけはっきりしていることがある。
湧き上がるのは、悲しみでも絶望でもない。
怒り。
浮気をしていたのは、
――あの男の方だ。
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