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第8話
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ウェイターさんが持ってきたのは、新作の茶葉でした。
茶葉の取り扱いは、この商会でもあるのですが、
「これは素晴らしい物ですね! この茶葉で、これほど深い香りを引き出せるなんて……」
ディアが入れてくれた試作品のお茶に、私は思わず興奮してしまいました。
それほどウェイターさんが持ってきた茶葉が、素晴らしいものだったのですから。
ウェイターさんは、私が手放しに褒めるからか、少し頬を赤らめ恥ずかしそうにされています。
「気候、土、肥料など、試行錯誤の末、ここに至ったのです。私には茶葉を育てるくらいの取柄しかなく……」
「ご謙遜なさらないで下さい! 確かウェイターさんは、隣国ブルセリア王国から来られたのですよね? そちらで取引相手をお探しになられた方が良かったのではないですか?」
「ブルセリア王国では、このような高品質な茶葉がごまんとあり、飽和状態なのです。なので新たな取引先の開拓として、当初オグリス商会にお声がけさせて頂いたのです」
そうだったのですね。
でも、何故オグリスさんは、この茶葉を取引なさらなかったのでしょう。
その疑問はは、すぐにウェイターさんに明かされました。
「ですがオグリスさんからは『俺には茶の価値は分からん。分からん物を客に売りつけるわけにはいかん』と言われまして。価値の分からない自分よりも、価値の分かるフェリーチェ様と取引した方がお互いに良いだろうと、ご紹介を頂いたのです」
「まあ、そうだったのですね! では後ほど、オグリスさんにお礼状を書いておかなければ……」
オグリスさんはぶっきらぼうな所がありますが、とても情に厚く、ご商売に誠実な方なのです。
ライバル商会ですので表立ってではありませんが、私が経営する孤児院にも毎年寄付としてたくさんの物資を下さっています。
「ウェイターさん、ぜひこの茶葉をトーマ商会に卸して頂きたいです。この国の茶葉は、まだそれほど品質が良くなく、粗悪品が高価に売られております。しかしこちらが出回れば、この国の皆さんが美味しいお茶を適正な値段で手に入れ、粗悪品は自然と淘汰されるでしょう」
「ははっ、凄いですね。トーマ商会の利益だけでなく、そこまでお考えなのですね」
「もちろんです。自分の利益だけを考え、周囲をおろそかにすれば、いずれそのツケが自分に返ってくるものです。しかし……」
「どうかされましたか?」
「全く新規の方との取引の場合、最終的な判断をトーマ商会代表である主人にして頂かなければなりません。どうかそれまでお待ち頂けませんか?」
「分かりました。こちらはどのような結果になろうとも構いません。ご納得がいくまでお話し合い下さい」
そう言ってウェイター様は、茶葉の試作品をいくつか置いて行ってくださいました。
「……何故、この店がこれほどまで急成長を遂げたのか、理由が分かった気がしますよ」
別れ際、ともに良い取引が出来る事を願ってウェイターさんと握手すると、そう仰ってくださいました。
恐らく、従業員たちの働きを見て下さったのでしょう。
だから自分の事のように嬉しくなったのです。
「ありがとうございます、皆が優秀で頑張って働いてくれているからです。本当に……自慢の従業員たちです」
「それもそうでしょう。しかしこの商会を実質切り盛りされているのは、あなただとお聞きしましたが……」
「私なんて大したことはしておりません。私の1の言葉に対し、10以上の成果を返してくれる従業員たちが優秀なのです」
「そう……ですか。ちなみに代表であるご主人様は?」
「主人は……」
レイジィ様とアイリーンの情事が頭をよぎりました。
しかしこんな我が家の恥を、初対面の男性にお伝えするわけには行きません。
「私の父から伯爵の爵位を譲り受けましたので、領地に関わる仕事をしております。主人の仕事を思うと、この商会で私がしていることなど小さなことに過ぎません」
そう、誰でも出来るのです。
私がいなくても……。
ウェイターさんが何故か大きくため息をつかれましたが、それ以上は何も仰いませんでした。
握った手をもう一度強く握ると、お辞儀をして部屋を出ていかれました。
その際、
「皆が心配するのも理解できるな……」
と呟いたのが聞こえました。
茶葉の取り扱いは、この商会でもあるのですが、
「これは素晴らしい物ですね! この茶葉で、これほど深い香りを引き出せるなんて……」
ディアが入れてくれた試作品のお茶に、私は思わず興奮してしまいました。
それほどウェイターさんが持ってきた茶葉が、素晴らしいものだったのですから。
ウェイターさんは、私が手放しに褒めるからか、少し頬を赤らめ恥ずかしそうにされています。
「気候、土、肥料など、試行錯誤の末、ここに至ったのです。私には茶葉を育てるくらいの取柄しかなく……」
「ご謙遜なさらないで下さい! 確かウェイターさんは、隣国ブルセリア王国から来られたのですよね? そちらで取引相手をお探しになられた方が良かったのではないですか?」
「ブルセリア王国では、このような高品質な茶葉がごまんとあり、飽和状態なのです。なので新たな取引先の開拓として、当初オグリス商会にお声がけさせて頂いたのです」
そうだったのですね。
でも、何故オグリスさんは、この茶葉を取引なさらなかったのでしょう。
その疑問はは、すぐにウェイターさんに明かされました。
「ですがオグリスさんからは『俺には茶の価値は分からん。分からん物を客に売りつけるわけにはいかん』と言われまして。価値の分からない自分よりも、価値の分かるフェリーチェ様と取引した方がお互いに良いだろうと、ご紹介を頂いたのです」
「まあ、そうだったのですね! では後ほど、オグリスさんにお礼状を書いておかなければ……」
オグリスさんはぶっきらぼうな所がありますが、とても情に厚く、ご商売に誠実な方なのです。
ライバル商会ですので表立ってではありませんが、私が経営する孤児院にも毎年寄付としてたくさんの物資を下さっています。
「ウェイターさん、ぜひこの茶葉をトーマ商会に卸して頂きたいです。この国の茶葉は、まだそれほど品質が良くなく、粗悪品が高価に売られております。しかしこちらが出回れば、この国の皆さんが美味しいお茶を適正な値段で手に入れ、粗悪品は自然と淘汰されるでしょう」
「ははっ、凄いですね。トーマ商会の利益だけでなく、そこまでお考えなのですね」
「もちろんです。自分の利益だけを考え、周囲をおろそかにすれば、いずれそのツケが自分に返ってくるものです。しかし……」
「どうかされましたか?」
「全く新規の方との取引の場合、最終的な判断をトーマ商会代表である主人にして頂かなければなりません。どうかそれまでお待ち頂けませんか?」
「分かりました。こちらはどのような結果になろうとも構いません。ご納得がいくまでお話し合い下さい」
そう言ってウェイター様は、茶葉の試作品をいくつか置いて行ってくださいました。
「……何故、この店がこれほどまで急成長を遂げたのか、理由が分かった気がしますよ」
別れ際、ともに良い取引が出来る事を願ってウェイターさんと握手すると、そう仰ってくださいました。
恐らく、従業員たちの働きを見て下さったのでしょう。
だから自分の事のように嬉しくなったのです。
「ありがとうございます、皆が優秀で頑張って働いてくれているからです。本当に……自慢の従業員たちです」
「それもそうでしょう。しかしこの商会を実質切り盛りされているのは、あなただとお聞きしましたが……」
「私なんて大したことはしておりません。私の1の言葉に対し、10以上の成果を返してくれる従業員たちが優秀なのです」
「そう……ですか。ちなみに代表であるご主人様は?」
「主人は……」
レイジィ様とアイリーンの情事が頭をよぎりました。
しかしこんな我が家の恥を、初対面の男性にお伝えするわけには行きません。
「私の父から伯爵の爵位を譲り受けましたので、領地に関わる仕事をしております。主人の仕事を思うと、この商会で私がしていることなど小さなことに過ぎません」
そう、誰でも出来るのです。
私がいなくても……。
ウェイターさんが何故か大きくため息をつかれましたが、それ以上は何も仰いませんでした。
握った手をもう一度強く握ると、お辞儀をして部屋を出ていかれました。
その際、
「皆が心配するのも理解できるな……」
と呟いたのが聞こえました。
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