旦那様と浮気相手に居場所を奪われた伯爵夫人ですが、周りが離縁させようと動き出したようです(旧題:私を見下す旦那様)

・めぐめぐ・

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第15話

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「いやー、最後の一言は痛快だったな!」

 商会を出ると、オグリスさんが大笑いなさっていました。
 今思い出すと、とても恥ずかしいです。

 従業員たちは皆、次の働き口の相談のため、ディアと共に商会ギルドの会議室に移動したそうです。
 オグリスさんも迎えに来てくださった奥様と共に、ご自身の店へと戻られていきました。

「フェリーチェさん! 困ったことがあったら、あたしに頼りなっ‼」

 豪快に笑いながら私の背中を力強く叩いていった奥様に、元気を頂いた気がします。

 今は、馬車の中でウェイター様と向き合った形で座っています。

「ウェイター様、この度は色々とご迷惑をお掛けいたしました。でも……本当によろしいのですか? 元従業員たちは本当に優秀な子たちですけど私は――」

「もう謙遜は止めましょう。過度な謙遜は貴女を認めている者たちを不快にさせます」

 そうきっぱり仰られ、私はそれ以上の言葉を飲み込みました。

 本当に不思議でした。
 ウェイター様とは3回しかお会いしていないはず。

 それに正体を知ってから湧き出る疑問もあります。

「でもどうしてウェイター様は私を助けて下さったのですか? それに茶葉だって、ブルーノー商会で取り扱えば莫大な利益になったはずでは?」

「そうですね。一つここで種明かしをするなら、茶葉はただの切っ掛けづくりの道具です。貴女と繋がりを作るための」

「……え? わ、私と……ですか?」

「はい。私は貴女と会う口実の為に、オグリスさんに紹介状を書いて頂いたのです」

「えええっ⁉」

 はしたなくも大声を出してしまい、私は慌てて両手で口をふさぎました。
 そんな私を、ウェイター様は優しく微笑んで見つめていらっしゃいます。

「驚かれるのも無理はない。貴女は、私を知らないのですから。でも私は……知っていたのです、ずっと貴女を」

「以前、どこかでお会いした……とかでしょうか?」

「さあ、どうでしょうね?」

 ふふっと笑うと、ウェイター様は口を閉ざされてしまいました。

 ですが何だかこちらを見つめてくる視線が、さっきまでとは違う気がします。
 ……うまく説明できませんが。

 ただ何となくその表情を直視できず、私は外の景色を見るふりをしてそっと視線を外しました。

 馬車が止まったのは、ウェイターさんが所有するお屋敷の一つでした。

「どうぞ、今日からここが貴女の家です。今日はお疲れでしょうから、ゆっくりお休みください。誰か! ご案内を!」

 ウェイター様の声に応えた使用人たちが、私の前に並びました。
 その光景が信じられなくて、私は何も言えませんでした。

 目の前には、

「おかえりなさいませ、フェリーチェ様!」

 そう満面の笑顔をもって私を迎えてくれる、古くからローランド家に仕えていた使用人たちが並んでいたのですから。
 もちろん、リッツとグリッドさんもいます。

 ふと彼らの向こうに視線を向けると、大階段の踊り場に絵が飾られていることに気づきました。

 息が止まりました。

「これは……まさか、そんな……」

 目頭が熱くなりながらも、それから目を反らせません。

 私の目の前にあったのは、

 ――亡くなった両親と私の肖像画。

 5年前、孤児院を作る資金としてオークションで売ってしまった、大切な思い出の品でした。

「ああ、その絵は私が所有するアントニオの作品の中で一番のお気に入りなのですよ。特に、中央にいる少女がとても可愛らしい」

 振り返ると、ウェイター様が微笑んでいらっしゃいます。

 ああ、そうだったのですね。
 これが私と貴方様との繋がり――

 その優しい眼差しと、肖像画の中で微笑む幸せな過去の私たち家族が重なり、堪えきれず涙が溢れて喉の奥から嗚咽が漏れました。

 ふいに体が温もりに包まれました。
 崩れ落ちそうになったこの身を、ウェイター様が支え抱きしめて下さっていたのです。

 古くからの使用人たち、そして大切な思い出の品。
 そして長く忘れていた、人の温もり。

 私はあらゆるものを失いました。
 しかし、本当に大切なものは……いえ、大切なものたちは、こうして守られ失わずに済んだのです。
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