15 / 17
第15話
しおりを挟む
「いやー、最後の一言は痛快だったな!」
商会を出ると、オグリスさんが大笑いなさっていました。
今思い出すと、とても恥ずかしいです。
従業員たちは皆、次の働き口の相談のため、ディアと共に商会ギルドの会議室に移動したそうです。
オグリスさんも迎えに来てくださった奥様と共に、ご自身の店へと戻られていきました。
「フェリーチェさん! 困ったことがあったら、あたしに頼りなっ‼」
豪快に笑いながら私の背中を力強く叩いていった奥様に、元気を頂いた気がします。
今は、馬車の中でウェイター様と向き合った形で座っています。
「ウェイター様、この度は色々とご迷惑をお掛けいたしました。でも……本当によろしいのですか? 元従業員たちは本当に優秀な子たちですけど私は――」
「もう謙遜は止めましょう。過度な謙遜は貴女を認めている者たちを不快にさせます」
そうきっぱり仰られ、私はそれ以上の言葉を飲み込みました。
本当に不思議でした。
ウェイター様とは3回しかお会いしていないはず。
それに正体を知ってから湧き出る疑問もあります。
「でもどうしてウェイター様は私を助けて下さったのですか? それに茶葉だって、ブルーノー商会で取り扱えば莫大な利益になったはずでは?」
「そうですね。一つここで種明かしをするなら、茶葉はただの切っ掛けづくりの道具です。貴女と繋がりを作るための」
「……え? わ、私と……ですか?」
「はい。私は貴女と会う口実の為に、オグリスさんに紹介状を書いて頂いたのです」
「えええっ⁉」
はしたなくも大声を出してしまい、私は慌てて両手で口をふさぎました。
そんな私を、ウェイター様は優しく微笑んで見つめていらっしゃいます。
「驚かれるのも無理はない。貴女は、私を知らないのですから。でも私は……知っていたのです、ずっと貴女を」
「以前、どこかでお会いした……とかでしょうか?」
「さあ、どうでしょうね?」
ふふっと笑うと、ウェイター様は口を閉ざされてしまいました。
ですが何だかこちらを見つめてくる視線が、さっきまでとは違う気がします。
……うまく説明できませんが。
ただ何となくその表情を直視できず、私は外の景色を見るふりをしてそっと視線を外しました。
馬車が止まったのは、ウェイターさんが所有するお屋敷の一つでした。
「どうぞ、今日からここが貴女の家です。今日はお疲れでしょうから、ゆっくりお休みください。誰か! ご案内を!」
ウェイター様の声に応えた使用人たちが、私の前に並びました。
その光景が信じられなくて、私は何も言えませんでした。
目の前には、
「おかえりなさいませ、フェリーチェ様!」
そう満面の笑顔をもって私を迎えてくれる、古くからローランド家に仕えていた使用人たちが並んでいたのですから。
もちろん、リッツとグリッドさんもいます。
ふと彼らの向こうに視線を向けると、大階段の踊り場に絵が飾られていることに気づきました。
息が止まりました。
「これは……まさか、そんな……」
目頭が熱くなりながらも、それから目を反らせません。
私の目の前にあったのは、
――亡くなった両親と私の肖像画。
5年前、孤児院を作る資金としてオークションで売ってしまった、大切な思い出の品でした。
「ああ、その絵は私が所有するアントニオの作品の中で一番のお気に入りなのですよ。特に、中央にいる少女がとても可愛らしい」
振り返ると、ウェイター様が微笑んでいらっしゃいます。
ああ、そうだったのですね。
これが私と貴方様との繋がり――
その優しい眼差しと、肖像画の中で微笑む幸せな過去の私たち家族が重なり、堪えきれず涙が溢れて喉の奥から嗚咽が漏れました。
ふいに体が温もりに包まれました。
崩れ落ちそうになったこの身を、ウェイター様が支え抱きしめて下さっていたのです。
古くからの使用人たち、そして大切な思い出の品。
そして長く忘れていた、人の温もり。
私はあらゆるものを失いました。
しかし、本当に大切なものは……いえ、大切なものたちは、こうして守られ失わずに済んだのです。
商会を出ると、オグリスさんが大笑いなさっていました。
今思い出すと、とても恥ずかしいです。
従業員たちは皆、次の働き口の相談のため、ディアと共に商会ギルドの会議室に移動したそうです。
オグリスさんも迎えに来てくださった奥様と共に、ご自身の店へと戻られていきました。
「フェリーチェさん! 困ったことがあったら、あたしに頼りなっ‼」
豪快に笑いながら私の背中を力強く叩いていった奥様に、元気を頂いた気がします。
今は、馬車の中でウェイター様と向き合った形で座っています。
「ウェイター様、この度は色々とご迷惑をお掛けいたしました。でも……本当によろしいのですか? 元従業員たちは本当に優秀な子たちですけど私は――」
「もう謙遜は止めましょう。過度な謙遜は貴女を認めている者たちを不快にさせます」
そうきっぱり仰られ、私はそれ以上の言葉を飲み込みました。
本当に不思議でした。
ウェイター様とは3回しかお会いしていないはず。
それに正体を知ってから湧き出る疑問もあります。
「でもどうしてウェイター様は私を助けて下さったのですか? それに茶葉だって、ブルーノー商会で取り扱えば莫大な利益になったはずでは?」
「そうですね。一つここで種明かしをするなら、茶葉はただの切っ掛けづくりの道具です。貴女と繋がりを作るための」
「……え? わ、私と……ですか?」
「はい。私は貴女と会う口実の為に、オグリスさんに紹介状を書いて頂いたのです」
「えええっ⁉」
はしたなくも大声を出してしまい、私は慌てて両手で口をふさぎました。
そんな私を、ウェイター様は優しく微笑んで見つめていらっしゃいます。
「驚かれるのも無理はない。貴女は、私を知らないのですから。でも私は……知っていたのです、ずっと貴女を」
「以前、どこかでお会いした……とかでしょうか?」
「さあ、どうでしょうね?」
ふふっと笑うと、ウェイター様は口を閉ざされてしまいました。
ですが何だかこちらを見つめてくる視線が、さっきまでとは違う気がします。
……うまく説明できませんが。
ただ何となくその表情を直視できず、私は外の景色を見るふりをしてそっと視線を外しました。
馬車が止まったのは、ウェイターさんが所有するお屋敷の一つでした。
「どうぞ、今日からここが貴女の家です。今日はお疲れでしょうから、ゆっくりお休みください。誰か! ご案内を!」
ウェイター様の声に応えた使用人たちが、私の前に並びました。
その光景が信じられなくて、私は何も言えませんでした。
目の前には、
「おかえりなさいませ、フェリーチェ様!」
そう満面の笑顔をもって私を迎えてくれる、古くからローランド家に仕えていた使用人たちが並んでいたのですから。
もちろん、リッツとグリッドさんもいます。
ふと彼らの向こうに視線を向けると、大階段の踊り場に絵が飾られていることに気づきました。
息が止まりました。
「これは……まさか、そんな……」
目頭が熱くなりながらも、それから目を反らせません。
私の目の前にあったのは、
――亡くなった両親と私の肖像画。
5年前、孤児院を作る資金としてオークションで売ってしまった、大切な思い出の品でした。
「ああ、その絵は私が所有するアントニオの作品の中で一番のお気に入りなのですよ。特に、中央にいる少女がとても可愛らしい」
振り返ると、ウェイター様が微笑んでいらっしゃいます。
ああ、そうだったのですね。
これが私と貴方様との繋がり――
その優しい眼差しと、肖像画の中で微笑む幸せな過去の私たち家族が重なり、堪えきれず涙が溢れて喉の奥から嗚咽が漏れました。
ふいに体が温もりに包まれました。
崩れ落ちそうになったこの身を、ウェイター様が支え抱きしめて下さっていたのです。
古くからの使用人たち、そして大切な思い出の品。
そして長く忘れていた、人の温もり。
私はあらゆるものを失いました。
しかし、本当に大切なものは……いえ、大切なものたちは、こうして守られ失わずに済んだのです。
84
あなたにおすすめの小説
君を愛す気はない?どうぞご自由に!あなたがいない場所へ行きます。
みみぢあん
恋愛
貧乏なタムワース男爵家令嬢のマリエルは、初恋の騎士セイン・ガルフェルト侯爵の部下、ギリス・モリダールと結婚し初夜を迎えようとするが… 夫ギリスの暴言に耐えられず、マリエルは神殿へ逃げこんだ。
マリエルは身分違いで告白をできなくても、セインを愛する自分が、他の男性と結婚するのは間違いだと、自立への道をあゆもうとする。
そんなマリエルをセインは心配し… マリエルは愛するセインの優しさに苦悩する。
※ざまぁ系メインのお話ではありません、ご注意を😓
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします
二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位!
※この物語はフィクションです
流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。
当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。
お飾り王妃の死後~王の後悔~
ましゅぺちーの
恋愛
ウィルベルト王国の王レオンと王妃フランチェスカは白い結婚である。
王が愛するのは愛妾であるフレイアただ一人。
ウィルベルト王国では周知の事実だった。
しかしある日王妃フランチェスカが自ら命を絶ってしまう。
最後に王宛てに残された手紙を読み王は後悔に苛まれる。
小説家になろう様にも投稿しています。
愛想を尽かした女と尽かされた男
火野村志紀
恋愛
※全16話となります。
「そうですか。今まであなたに尽くしていた私は側妃扱いで、急に湧いて出てきた彼女が正妃だと? どうぞ、お好きになさって。その代わり私も好きにしますので」
旦那様に愛されなかった滑稽な妻です。
アズやっこ
恋愛
私は旦那様を愛していました。
今日は三年目の結婚記念日。帰らない旦那様をそれでも待ち続けました。
私は旦那様を愛していました。それでも旦那様は私を愛してくれないのですね。
これはお別れではありません。役目が終わったので交代するだけです。役立たずの妻で申し訳ありませんでした。
なぜ、私に関係あるのかしら?
シエル
ファンタジー
「初めまして、アシュフォード公爵家一女、セシリア・アシュフォードと申します」
彼女は、つい先日までこの国の王太子殿下の婚約者だった。
そして今日、このトレヴァント辺境伯家へと嫁いできた。
「…レオンハルト・トレヴァントだ」
非道にも自らの実妹を長年にわたり虐げ、婚約者以外の男との不適切な関係を理由に、王太子妃に不適格とされ、貴族学院の卒業式で婚約破棄を宣告された。
そして、新たな婚約者として、その妹が王太子本人から指名されたのだった。
「私は君と夫婦になるつもりはないし、辺境伯夫人として扱うこともない」
この判断によって、どうなるかなども考えずに…
※ 中世ヨーロッパ風の世界観です。
※ ご都合主義ですので、ご了承下さい、
※ 画像はAIにて作成しております
白い結婚を終えて自由に生きてまいります
なか
恋愛
––アロルド、私は貴方が結婚初日に告げた言葉を今でも覚えている。
忘れもしない、あの時貴方は確かにこう言った。
「初めに言っておく、俺達の婚姻関係は白い結婚として……この関係は三年間のみとする」
「白い結婚ですか?」
「実は俺には……他に愛する女性がいる」
それは「公爵家の令嬢との問題」を理由に、三年間だけの白い結婚を強いるもの。
私の意思を無視して三家が取り決めたものであったが、私は冷静に合意を決めた
――それは自由を得るため、そして『私自身の秘密を隠すため』の計算でもあった。
ところが、三年の終わりが近づいたとき、アロルドは突然告白する。「この三年間で君しか見えなくなった。白い結婚の約束をなかったことにしてくれ」と。
「セシーリア、頼む……どうか、どうか白い結婚の合意を無かった事にしてくれ」
アロルド、貴方は何を言い出すの?
なにを言っているか、分かっているの?
「俺には君しかいないと、この三年間で分かったんだ」
私の答えは決まっていた。
受け入れられるはずがない。
自由のため、私の秘密を守るため、貴方の戯言に付き合う気はなかった。
◇◇◇
設定はゆるめです。
とても強い主人公が自由に暮らすお話となります。
もしよろしければ、読んでくださると嬉しいです!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる