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第8話 理由
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ミディの口から、魔界にやってきた理由が語られた。
自分が、人間の世界-プロトコルにあるエルザ王国の王女である事。
自分より強い者でなければならないという条件をつけ、結婚相手を探しているが、中々見つからない事。
魔王を倒した勇者なら、夫にしてもいいと思った事。
その野望の為に、どうしてもジェネラルに自分を攫って暴れてもらう必要があるという事。
「そういう理由で、あなたに私を攫って欲しいわけなのよ」
笑みを沿えミディが言葉を切った。
止むを得ない理由の『や』の字も入っていない理由に、少年の体から力が抜ける。
“あれ? どうしよ……。言葉は分かるのに、全く話の内容が理解できないやつだ、これ……”
先ほどから何とか彼女の話を理解しようと脳が一生懸命働いているが、これ以上考えるとオーバーヒートしそうなので、考えるのをやめた。
ちらりとエクスを見ると、彼もまるで口から魂が抜け出ているかのように、唖然とミディの事を見ていた。
ジェネラルは、過去数回、野心をもつ魔族たちに襲われた体験をしている。
しかしそれは、魔界の支配権やら魔王の証である『アディズの瞳』が狙いだったりなど、理由としては理解の範囲内であった。
だが今回は、理解出来る範囲を超えている。
“普通、攫われるべき王女が、魔王を襲撃なんてしないと思うんだけど……”
そんなジェネラルの思いを余所に、正気を取り戻したエクスとミディの、気の遠くなりそうな対話が続く。
「だからそんな平和主義じゃ困るのよ」
「ジェネラル様に暴れて欲しいって……、貴様は王女だろう! 民の安全を第一に考えなければならない立場だろうが!」
「そこが悩みどころなのよね……。でも侵略とかは慣れているんでしょう? ほら、大昔に魔王がプロトコルに攻め入ったという伝説もあるようだし」
「プロトコルを攻めたのは、当時魔界でも悪政を強いていた魔王リセであって、ジェネラル様とは関係ない!」
「血は繋がってるんでしょう? 『アディズの瞳』は確か、親から子に継承されるって聞いたけれど?」
「確かに親から子へ継承されるが、リセの子孫はその後、奮起した魔族たちによって倒されたのだ。その後、『アディズの瞳』を持って生まれたジェネラル様の祖先が魔王となり、今に続いているのだ。血の繋がりはない」
「でも『アディズの瞳』を受け継いでいる訳だから、全く繋がりがないって訳じゃないわよね。才能はあるはずよ」
「だから、全く繋がりはないと言ってるだろうが!!」
……どうあっても、ジェネラルと『悪』を結び付けたいらしい。
必死でエクスが否定してくれているが、あまり効き目はないようだ。
“どうやったら、そういう発想が出るんだろう……。やっぱり人間って、みんなこんな人たちばかりなのかな……”
やっぱり世界は謎に満ちていると思いつつ、ジェネラルは二人の様子を見守った。ミディのお蔭で、ジェネラルの中の人間への評価がどんどん下がっていく。人間にとってもいい迷惑である。
不意にミディの視線が、ジェネラルに向けられた。
変な女だが、その表情一つ一つが魅力的だ。なので、いきなり部屋を破壊する滅茶苦茶な奴だと分かっていても、自然と頬が熱くなってくる。
それが、魔界を統べる者として、ちょっと悔しい。
「でもね……、当の魔王がこの調子だもの。どうしようかしら?」
「多分、どうにかしないといけないのはあなたの方かと……」
さっさとお帰り願いたいという本心を隠さずジェネラルは突っ込んだが、すぐさまミディに睨まれ、言葉を飲み込んだ。やっぱり怖い。
しばしの沈黙が、三人の間に流れた。
ぽんっ!
ミディが手を打つ音が、沈黙を破った。
さき程までの厳しい表情が、みるみるうちに緩み、笑顔がこぼれる。顔には明らかに、名案が浮かびました、と書かれているのが読み取れた。もちろん名案とは、ミディにとってのみだろう。
後でジェネラルが語ったことだが、この時の彼女の美しく澄んだ瞳の輝きは、どんな攻撃よりも恐ろしく見えたのだと言う。
「そうだわ! 私があなたを、立派な魔王に鍛え上げればいいのよ!!」
ジェネラルは頬を引きつらせて、ミディを見つめた。
どう考えても、彼女の言う『立派な魔王』になる事が、魔界の為になるとは思えない。
“もうこれは、強制的に『お帰り』頂くしかないな……”
帰って貰おうと口を開いた時、部屋の扉が激しく音を立てて開かれた。
何事かと、三人の視線がそちらに向けられる。開かれた扉から現れたのは、
「素晴らしい!! 是非お願いします!!」
「ジェネラル様があなたのように逞しくなれば、魔界も安泰です!!」
「やはり、一国や二国の王女を攫うぐらいの気合はお持ち頂かなければ!!」
部屋の外で盗み聞きをしていたのだろう。他の魔族たちがわらわらと部屋に押しかけてきたのである。
魔族たちは部屋に入ると、ジェネラルたちが座るソファーを取り囲んだ。
だが驚いたのはミディとジェネラルだけで、エクスは平然としている。青年は、不意の乱入に固まっているミディの横に立つと、魔族たちを代表してこう言った。
「実は……我々も悩んでいたのです。ジェネラル様は魔王でありながら、お優しすぎると……。勇者に倒されるなどは別にして、是非ジェネラル様をあなたのような鋼の心に鍛えて頂きたい! 立派な魔王に育てて頂きたい!!」
周りを取り囲む魔族たちもエクスの言葉に頷き、ミディに礼をした。
ようやく状況が飲み込めたミディは、エクスの手を取り、力いっぱい握った。
「あなたに怪我させた事、詫びるわ。あなたたちとは、いい友達になれそうね」
「それはこっちの台詞ですよ」
ふっと笑い、エクスが言葉を返す。
戦いの末、熱い友情で結ばれたミディとエクス。
どこからか吹き込んだ爽やかな風が、二人の髪を揺らした。上手い具合に、太陽の光が窓から差し込み、二人を照らす。まるで、二人の友情を祝福するかのようだ。
それに感動して、周りの魔族たちも歓声を上げた。
「これで、魔界も安泰だ!!」
「ミディ様、お願いします!!」
「魔界万歳!! ジェネラル様万歳!!」
魔族たちの歓声と応援に、笑みを浮かべ、手を振って答えるミディ。
ただジェネラルだけが、訳もわからず呆然と様子を見つめていた……
こうしてジェネラルはミディに連れられ、『立派な魔王』になる為に、旅立った――いや、旅立たざるを得なかったのである……。
自分が、人間の世界-プロトコルにあるエルザ王国の王女である事。
自分より強い者でなければならないという条件をつけ、結婚相手を探しているが、中々見つからない事。
魔王を倒した勇者なら、夫にしてもいいと思った事。
その野望の為に、どうしてもジェネラルに自分を攫って暴れてもらう必要があるという事。
「そういう理由で、あなたに私を攫って欲しいわけなのよ」
笑みを沿えミディが言葉を切った。
止むを得ない理由の『や』の字も入っていない理由に、少年の体から力が抜ける。
“あれ? どうしよ……。言葉は分かるのに、全く話の内容が理解できないやつだ、これ……”
先ほどから何とか彼女の話を理解しようと脳が一生懸命働いているが、これ以上考えるとオーバーヒートしそうなので、考えるのをやめた。
ちらりとエクスを見ると、彼もまるで口から魂が抜け出ているかのように、唖然とミディの事を見ていた。
ジェネラルは、過去数回、野心をもつ魔族たちに襲われた体験をしている。
しかしそれは、魔界の支配権やら魔王の証である『アディズの瞳』が狙いだったりなど、理由としては理解の範囲内であった。
だが今回は、理解出来る範囲を超えている。
“普通、攫われるべき王女が、魔王を襲撃なんてしないと思うんだけど……”
そんなジェネラルの思いを余所に、正気を取り戻したエクスとミディの、気の遠くなりそうな対話が続く。
「だからそんな平和主義じゃ困るのよ」
「ジェネラル様に暴れて欲しいって……、貴様は王女だろう! 民の安全を第一に考えなければならない立場だろうが!」
「そこが悩みどころなのよね……。でも侵略とかは慣れているんでしょう? ほら、大昔に魔王がプロトコルに攻め入ったという伝説もあるようだし」
「プロトコルを攻めたのは、当時魔界でも悪政を強いていた魔王リセであって、ジェネラル様とは関係ない!」
「血は繋がってるんでしょう? 『アディズの瞳』は確か、親から子に継承されるって聞いたけれど?」
「確かに親から子へ継承されるが、リセの子孫はその後、奮起した魔族たちによって倒されたのだ。その後、『アディズの瞳』を持って生まれたジェネラル様の祖先が魔王となり、今に続いているのだ。血の繋がりはない」
「でも『アディズの瞳』を受け継いでいる訳だから、全く繋がりがないって訳じゃないわよね。才能はあるはずよ」
「だから、全く繋がりはないと言ってるだろうが!!」
……どうあっても、ジェネラルと『悪』を結び付けたいらしい。
必死でエクスが否定してくれているが、あまり効き目はないようだ。
“どうやったら、そういう発想が出るんだろう……。やっぱり人間って、みんなこんな人たちばかりなのかな……”
やっぱり世界は謎に満ちていると思いつつ、ジェネラルは二人の様子を見守った。ミディのお蔭で、ジェネラルの中の人間への評価がどんどん下がっていく。人間にとってもいい迷惑である。
不意にミディの視線が、ジェネラルに向けられた。
変な女だが、その表情一つ一つが魅力的だ。なので、いきなり部屋を破壊する滅茶苦茶な奴だと分かっていても、自然と頬が熱くなってくる。
それが、魔界を統べる者として、ちょっと悔しい。
「でもね……、当の魔王がこの調子だもの。どうしようかしら?」
「多分、どうにかしないといけないのはあなたの方かと……」
さっさとお帰り願いたいという本心を隠さずジェネラルは突っ込んだが、すぐさまミディに睨まれ、言葉を飲み込んだ。やっぱり怖い。
しばしの沈黙が、三人の間に流れた。
ぽんっ!
ミディが手を打つ音が、沈黙を破った。
さき程までの厳しい表情が、みるみるうちに緩み、笑顔がこぼれる。顔には明らかに、名案が浮かびました、と書かれているのが読み取れた。もちろん名案とは、ミディにとってのみだろう。
後でジェネラルが語ったことだが、この時の彼女の美しく澄んだ瞳の輝きは、どんな攻撃よりも恐ろしく見えたのだと言う。
「そうだわ! 私があなたを、立派な魔王に鍛え上げればいいのよ!!」
ジェネラルは頬を引きつらせて、ミディを見つめた。
どう考えても、彼女の言う『立派な魔王』になる事が、魔界の為になるとは思えない。
“もうこれは、強制的に『お帰り』頂くしかないな……”
帰って貰おうと口を開いた時、部屋の扉が激しく音を立てて開かれた。
何事かと、三人の視線がそちらに向けられる。開かれた扉から現れたのは、
「素晴らしい!! 是非お願いします!!」
「ジェネラル様があなたのように逞しくなれば、魔界も安泰です!!」
「やはり、一国や二国の王女を攫うぐらいの気合はお持ち頂かなければ!!」
部屋の外で盗み聞きをしていたのだろう。他の魔族たちがわらわらと部屋に押しかけてきたのである。
魔族たちは部屋に入ると、ジェネラルたちが座るソファーを取り囲んだ。
だが驚いたのはミディとジェネラルだけで、エクスは平然としている。青年は、不意の乱入に固まっているミディの横に立つと、魔族たちを代表してこう言った。
「実は……我々も悩んでいたのです。ジェネラル様は魔王でありながら、お優しすぎると……。勇者に倒されるなどは別にして、是非ジェネラル様をあなたのような鋼の心に鍛えて頂きたい! 立派な魔王に育てて頂きたい!!」
周りを取り囲む魔族たちもエクスの言葉に頷き、ミディに礼をした。
ようやく状況が飲み込めたミディは、エクスの手を取り、力いっぱい握った。
「あなたに怪我させた事、詫びるわ。あなたたちとは、いい友達になれそうね」
「それはこっちの台詞ですよ」
ふっと笑い、エクスが言葉を返す。
戦いの末、熱い友情で結ばれたミディとエクス。
どこからか吹き込んだ爽やかな風が、二人の髪を揺らした。上手い具合に、太陽の光が窓から差し込み、二人を照らす。まるで、二人の友情を祝福するかのようだ。
それに感動して、周りの魔族たちも歓声を上げた。
「これで、魔界も安泰だ!!」
「ミディ様、お願いします!!」
「魔界万歳!! ジェネラル様万歳!!」
魔族たちの歓声と応援に、笑みを浮かべ、手を振って答えるミディ。
ただジェネラルだけが、訳もわからず呆然と様子を見つめていた……
こうしてジェネラルはミディに連れられ、『立派な魔王』になる為に、旅立った――いや、旅立たざるを得なかったのである……。
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