立派な魔王になる方法

めぐめぐ

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第30話 戦闘2

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 ミディの方が行動が早かった。
 さっと左手を上げると、大いなる者へ力を乞う。

「オムニよ! その身を刃に変え、悪しき者と共に踊れ!」

 四大精霊-風を司るオムニがその叫びに答えた。

 ミディの周囲に風が集まったかと思うと、風の見えない刃が自動人形たちの周りに纏わりついた。次の瞬間、物凄い音と共に細かい部品やボディの破片やらを撒き散らしながら、自動人形たちが吹き飛ぶ。

 しかし、見た目ほどの損傷でなかったのか、ゆっくりとその巨体を起こす自動人形たち。

 彼らの武器は、手に持っている斧だけではなかった。

 空気を切り裂く音がし、ミディは慌てて脇によけた。ミディ目掛けて放たれたもの、それは矢だった。

 ミディの意識が弓矢に向けられている時、すばやくミディの後ろにまわった1体の自動人形の胸部から、何かが投げられた。

「ミディ、あぶない!!」

 ジェネラルの叫びに、間一髪、それをかわす。

 よく見ると、ミディのかわしたものは、太い鞭。だが、ミディの危機はそれだけで終わらなかった。

「何!?」

 ミディがよけた場所に、別の自動人形が待機していたのだ。

 偶然ではない。仲間の行動からミディの動きを予測した結果である。

 背中から、物凄い力で抱きつかれ、ミディの体は高々と上へ持ち上げられた。足をバタバタさせるが、そんな事で自動人形の手が緩まるわけはない。

 一気に逆さに吊るされ、ミディの頭から、顔を覆っていた兜が地面に落ちた。青く長い髪の毛が滑り落ち、白い肌が太陽の下に晒される。

 目立たないようにかけている魔法を今回はかけていない為、思いっきり素顔なのだが、自動人形たちにミディの美しさが通じるわけがなく、無機の瞳で吊るし上げた王女を見ている。

“いくらミディが駄目だって言っても……、もうこれ以上見ているなんて出来ないよ!!”

 我慢の限界を超えたジェネラルだが、かすかに聞こえたミディの呟きに、その歩みを止める事となった。

「なるほどね。今回は、複数体による連携攻撃を取り入れてみたわけね……。強化は本体だけじゃなかったというわけね……ふふっ」

 吊るされたまま腕を組み、余裕の笑みさえも浮かべるミディ。

 彼女は反動をつけ、体を起こした。そして、自動人形の目と口しかない顔を見て、にっこりと笑って言った。

「四大精霊の名の下に、破滅よ来たれ!!」

 ミディの放った魔法が、自動人形の顔に叩き込まれる。自動人形の体制が崩れ、ミディの足を掴んでいた手が緩んだ。

 その隙を見逃すわけがなく、倒れ行く自動人形のボディを踏み台に、空中で一回転すると、綺麗に地上に着地する。
 
 王女とは思えない、運動神経の良さだ。

 すぐに剣を構えると、後ろから襲い掛かってきた自動人形の足の繋ぎ部分に突き刺した。

 何か移動に重要な部分に引っかかったのだろう。急に体のバランスを崩し、もう一体の人形が大きな地響きを立てて倒れる。

 何とか起き上がろうとするが、片方の足が言う事を聞かず、体を起こしては倒れてを繰り返している。

「あと、2体……、一気に行くわよ!」

 自動人形の胸部から発射された網を、オムニの風で切り裂くと、横から殴りかかってきた自動人形の腕に飛び乗り、一気に頭の上まで上った。

 網を投げた自動人形が、ミディに向かって攻撃を仕掛けてくる。が、振り下ろした斧はミディではなく、もう一体の自動人形の腕を切り落とし、地面に突き刺さった。

 腕がなくなり、バランスを崩した自動人形は、地面に斧がささって身動きが取れないでいるもう一体を下敷きにして、地面に倒れた。

 王女の口元に、勝利を確信した笑みが浮かぶ。

「リリースの力よ! 内なる炎を、解き放て!!」

 ミディの指先が、立ち上がれなくてもがいている自動人形たちに向けられた。

 四大精霊-火を司るリリースの力が開放された瞬間、自動人形たちの中から何かがはじける音がし、彼らの体はバラバラに砕け散った。

 こうして全ての人形が、ミディによって戦闘不能に陥った。

 ふうっ、と一呼吸おくと、ようやく王女は呆然としている魔王に視線を移した。先ほどまであった、異様な雰囲気-殺気は消えている。

「ジェネ、もういいわよ。こっちに来なさい」

「え? あ……うん……、みでぃ……怪我は……ない?」

 恐る恐る庭の中に入りながら、ジェネラルが王女の安否を問う。

 ここでミディの緊張の糸が切れ、地面にへたり込み、恐怖に震えながら、

『……怖かったわ』

とでも言ったらまだ可愛げもあるのだが、まあミディだ。きっぱりと言い切った。

「ないわ。こんなのちょっとした運動よ」

「……あ……、そうですか」

“ありえないよね……、さっきの戦闘を運動だと言い切る人だもん…”

 くだらない妄想をしてしまったと、どこか遠い目で空を見上げるジェネラル。

 以前オルタの事件で、ミディを心配するほど無駄な事はない、と言ったことを思い出す。改めてその言葉の正しさと、王女があんな得体の知れない自動人形に勝つ時代に、空しさを感じずにはいられない。

“こんな人を、どうやって攫えというのか……”

 そんなことを思いながらジェネラルがミディの側にやってきた時、同時に数名の人影が、二人の方に向かってくるのが見えた。

「ミディ様ぁ~!お久しぶりですぅ~!」

 妙に間延びした甲高い声が、2人の鼓膜を打つ。

 やたらハイテンションでスキップをしながらこちらに向かってくる声の主を見、ジェネラルの顔が引きつった。

 だがミディは小さく笑みを浮かべ、挨拶を口にした。

「久しぶりね、アクノリッジ」

「えへっ☆」

 目から星マークを出ているかのようにウィンクし、ミディの前に立ったそいつは、薄い水色の瞳を持ち、少し背中にかかった金髪を緩く一つに纏めた――


 青年であった。
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