立派な魔王になる方法

・めぐめぐ・

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第34話 勝負2

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「彼の名前はジェネラル。私が見つけた結婚相手ですわ」

 その爆弾発言に、その場にいた者全員が凍りついた。

「ふふっ、驚きました?」

 ミディの悪戯っ子のような笑いが部屋に響き渡り、ようやく皆が正気に戻る。この言葉に、真っ先に反応したのは、セレステだった。

「驚きましたも何も……、こっ、この少年が、ミディ様のお選びになった結婚相手ですって!? まだ子供じゃないですか!!」

 驚き半分、期待を裏切られた怒り半分といった感じで、セレステの甲高い叫びが、この場にいる者たちの鼓膜を打った。

 しかしミディは、困ったように首を傾げると、可愛らしく人差し指で頬を掻きながら答える。

「お言葉ですが、セレステ様。アクノリッジの弟であるシンクは、確か今年15歳ですよ? ジェネラルとさほど変わらない気がするのですが?」

「シンクについては、私の知る所ではありませんわ! あれはシンク側の人間たちが勝手に言っていることなのですから! 今、私がお聞きしたいのは、何故、その少年を選んだのかと言う事ですわ! 世界的な影響力と財力をもつモジュール家の長男よりも!!」

 セレステの声が、興奮の為か一層高いものへ変わる。

 確かに、セレステの言葉はごもっともだ。聞く人が聞けば、幼児趣味があるんですか、と問うに違いない。実際アクノリッジが、

「ええ~、ミディ様ってそのくらいの年下が好みなんだ~ 何かショックぅ~」

と、両手を頭の後ろで組んで、ちぇ~っと舌打ちをしている。

 それぞれの反応に、表情一つ変えず、ミディはジェネラルの肩を抱き寄せた。

 予想外の行動に、その場で跳ね上がりそうになるが、何とか押しとどまる事に成功したジェネラル。だが、周りに音が聞こえそうなぐらい、心臓がばくばくいっている。何かもう今日は、密着が凄い。

 頬に当たる黒髪の柔らかさを感じながら、ミディは言葉を続けた。

「私が結婚相手に求める条件、覚えていらっしゃいますよね?」

「自分より強い者……。でしたわね」

 心なしか苦々しげにセレステは言葉を返す。この条件が、アクノリッジとの結婚の最大の障害と思っているのは間違いない。しかしミディは全く気にせず、満足そうに頷く。

「そうです。確かにモジュール家は強大ですが、私にとっては、財力も権力もおまけでしかないのです。そんなもので心が変わるくらいなら、父も私の結婚相手を見つけるのに苦労はしておりませんわ」

「……つまり、この少年は、ミディ様が認める程、強いと言いたいわけですね……?」

「ええ。彼が本気になれば、アクノリッジが造った自動人形をも簡単に破壊することが出来るでしょうね。恐らく彼に勝てるのは……」

 ミディの瞳がスッと細くなる。

「――魔王を倒した勇者様ぐらいでしょう」

“確かにそうだけどっ!! 言ってることは間違ってないけど!!”

 ジェネラルが、声なき突っ込みをする。しかし、ミディに密着されているという事実が、彼の思考を再度鈍らせる。

 セレステは、魔王や勇者のくだりに関しては、強さの比喩だと思ったのだろう。その点に触れることはなく、顔を真っ赤にして王女にされるがままの少年に視線を向け、真意を問う。

「ジェネラル……様、あなたはまだ幼い。失礼ながら王家の者との結婚など、あなたには荷が重すぎるのではないでしょうか? あなたはミディ様との結婚を、どのように考えていらっしゃるのですか?」

「あっ? はっ?」
 
 ミディの密着により思考が飛んでいたジェネラルは、間の抜けた声を出した。話をちゃんと聞いていなかったのだ。

 セレステの視線が、疑わしいものへと変わる。

 だがミディも負けてはいない。素早くジェネラルの顔を覗き込むと、満面の笑顔を浮かべ、呆けた表情を浮かべる少年に問うた。

「ジェネ、あなたも私と結婚したいって思ってるわよね?」

「あっ、えっと……」

「そ・う・よ・ね?」

 不意にミディの瞳が、細められる。美しい王女の顔に、恐ろしい影が浮かび上がった。

 彼女の瞳は、こう語っていた。

“話を合わせなさい……、でないと、どうなるか分かってるわね”

 王女の言葉無き圧力に、魔王は一瞬にして屈した。色々と疑問はあるのだが、全てを忘れ、反射的にミディの言葉に対する肯定が飛び出す。

「そっ、そっ、そうです! うん! 王家の人でも大丈夫です!!」

「ふふっ、ジェネったら、恥ずかしがっちゃって」

 ジェネラルの超軽すぎる回答を聞き、ミディはジェネラルを思いっきり突き飛ばした。

 抵抗する間もなく、ソファーの肘掛に思いっきり頭をぶつけるジェネラル。あまりの痛さに、涙をにじませている。

 傍からは、ミディが照れ隠しで突き飛ばしたのかと思われる行動だが、ちらっとジェネラルに投げられた視線が、すっごく冷たい。もう少しまともな回答は出来なかったのか、と視線は語っていた。

 一方的にミディにやられっぱなしの少年の姿に、セレステは苛立ちにも似た気持ちでソファーにもたれかかった。

 ミディの言葉の真意は分からないが、ここまで言い張っている以上、追及を進めても平行線を辿る事は、誰もが予想できる。

 ならば……、セレステは別の切り口を試すことにした。

 先ほどとは違う、笑顔を見せて二人に語りだす。 

「お二人の気持ちは分かりました。ミディ様がお探しになっていた相手が見つかり、私も嬉しく思います。しかし、エルザ王はどうお考えになられるでしょうか? ここは一つ、私たちに協力させて頂けないでしょうか?」

「協力ですか? どのような?」

 セレステの申し出に、ミディが少し楽しそうに聞き返す。体を少し前のめりにし、どこか陰のある笑みを浮かべ、セレステがミディの疑問に答えた。
 
「ジェネラル様とアクノリッジが勝負をするのです。アクノリッジは変わった性格ではありますが、この家を支える頭脳は天才だとミディ様もお認めになるところだと思います。アクノリッジとジェネラル様が勝負をし、ジェネラル様が勝利すれば、私どももジェネラル様を後押し出来ると思うのです」

「なるほど。ジェネラルがアクノリッジに勝てば、モジュール家は私たちの結婚の為に協力を惜しまない、そういう理解で宜しいでしょうか?」 

「ええ。もちろん私は、お二人を祝福していますわ。しかし王を含めた周囲は、そう簡単には納得できないでしょう。その際、モジュール家が後押しいたしましょう。その為のお力になれれば幸いですわ」

 祝福、力添え。

 ミディへの協力を申し出ているように見えるが、セレステの言葉と内心が全くかけ離れているのは、無理やり作られた笑顔で分かる。

 王家との繋がりを作る為、アクノリッジもミディも、この女性の前では駒でしかない。

 笑顔の仮面の下に野心を隠したセレステに、ジェネラルはむしろ憐れみを感じた。

 ミディも、セレステの本心には気づいているはずだ。しかし、彼女はセレステの言葉をそのまま受け取ったように、笑顔を浮かべて頷いた。
 
「それは心強いですわ。分かりました。方法はなんでもいい。アクノリッジの攻撃に、ジェネラルが『まいった』と言えば、彼を諦めましょう。そしてお約束通り、結婚相手が見つからない場合は、モジュール家の兄弟のうちの一人を、私の夫として迎えます」

 王女の言葉に、セレステは薄く笑った。

 ミディの口からはっきりと、自分が結婚相手を選べなかった場合、モジュール家との婚姻を約束させたのだ。

“作戦通り……、という事か”

 セレステの笑みを見ながら、ジェネラルは思う。

 どういう経緯で、エルザ王家とモジュール家が繋がっているのかは分からない。しかし、欲望と策略の中で、道具として扱われる王女の姿を垣間見た気がし、ジェネラルは心を痛めた。

 そんな思いを抱きつつ、魔王は改めてミディを見上げる。

 そこには目を逸らすことなく、セレステの変貌を、欲望という名の闇を、真っ直ぐ見つめる王女の姿があった。

 こうして本人たちの同意なく、ジェネラルとアクノリッジの戦いの火蓋は、切って落とされた。

 それが昨日の事である。
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