68 / 220
第67話 逃亡者
しおりを挟む
むしゃむしゃ……
がつがつ……
お世辞にも上品とは言えない音が、食堂の中に響き渡っている。
「よく食べるわね……」
「うっ……、うん……」
その様子を、同じテーブルで見守る、王女と魔王。
視線の先には音の主―—歳はミディと同じくらいだろうか――の女性が、一つに纏めた赤毛が乱れるのも気にせず、一心不乱に目の前の皿を空けていた。
食べるというか、戦っていると言った方が似合う食べっぷりだ。彼女の周りには、戦いに勝利した皿が、山積みになっている。
不健康そうにやせ細った体に、これだけの物が入るなど、人間の体は不思議に満ち溢れている。
行儀悪くテーブルに頬杖を付きながら、ミディがジェネラルに尋ねる。
「……で、ジェネ。この人、どこで攫って来たのかしら?」
ミディの発言に、ジェネラルは慌てて言葉を返した。
「だーかーらー! 攫ってなんかないって、さっきから言ってるじゃないか!!」
「ふふっ、事情はともあれ、誘拐なんて……。ようやく修行の成果が出てきたのかしら?」
「喜ぶところじゃないよ、そこ!!」
物凄い良い笑顔で親指を立てるミディ。今日もジェネラルの言葉を勝手に都合よく脳内変換する技は、絶好調のようだ。
目の前の料理がなくなりテーブル上を見回している女性に、自分の料理を差し出しながら、ジェネラルはいつものように突っ込む。
事の始まりは、いつものように魔王の修行をしているときの事だった。
ミディがちょっとした用事でその場を離れたとき、この女性がジェネラルの目の前にやって来て、いきなり倒れたのだ。
慌ててジェネラルが介抱し、休ませる為に宿に連れて行った。が、1階の食堂を通ったときに、
「……っ! いい匂い!! 食べ物!!」
と、女性が叫んだと思うと、凄いスピードでテーブルにつき、勝手にいくつも料理を注文してしまったのである。
料理が来た瞬間、物凄い勢いで平らげていく女性。
とりあえず、倒れた原因が空腹だと分かったジェネラルは、ミディを呼び戻し、今に至るわけである。
そうこうしている間に、テーブルの上にあった料理が全てなくなり、
「ふはあ~~~」
突き出た腹を叩きながら、女性が満足そうに声を上げた。その表情は、とても幸せそうだ。
女性は、しばらく満腹の余韻に浸っていた。
が、頬杖をついて女性を見るミディと、少し不安そうな表情を浮かべるジェネラルに気がついたようだ。
手についた油を舐めとると、少し首を傾け口を開いた。
「で、あんたたち、何?」
彼女の発言に、ミディのこめかみが動いた気がした。
次の瞬間、
「……ジェネ。『やって』いいわよ」
「いやいやいやいやっ!! 落ち着こうよ、ミディ!」
半眼になって、首元を人差し指で切る仕草をするミディを、慌ててジェネラルは止めた。
散々目の前で食い散らかし、ミディたちの料理まで奪い、ジェネラルが助けたのにもかかわらず、この言葉。それがミディの怒りの原因らしい。
「あんた、ミディっていうの。ふーん。ミディ王女と同じ名前なのね」
つまらなさそうに女性が呟く。
ミディという名前は、特別珍しいものではない。彼女に与えられた加護にあやかろうと同じ名前をつける親は、結構いる。
「で、私を助けてくれたあんたがジェネっていうのね」
「いや……、本名は、ジェネラルですけど…」
半笑いを浮かべながら、ジェネラルが訂正する。
まあどっちでもいいじゃんっ!と、豪快に女性は笑うと、
「んじゃ、ミディ、ジェネラル、助けてくれてありがと」
と席を立ち、立ち去ろうとした。が、そうは問屋がおろさない。
素早い動きで、女性の腕を掴むミディ。駆け出そうとしていたので、急に腕をつかまれ、その反動で女性の体が後ろに倒れそうになる。
何とか転倒は免れたが、女性の怒りはミディに向けられた。
「何すんのよ! 離せ、ばかっ!!」
「散々飲み食いして、何も話さず逃げるなんて、虫が良すぎるんじゃないかしら?」
口調は柔らかいし目元には笑みが見えるが、明らかにミディは怒っている。そうジェネラルは確信した。
だが、女性も負けてはいない。ミディの手を乱暴に振り払うと、
「ええー!? 貧乏人から絞る取るなんて!! こんなにか弱い女性に……うううっ…うわーんっ!!」
と、目元を覆い、泣き出した。嘘泣きなど誰が見ても分かるが、騒ぎ方が騒ぎ方の為、周りの注目を浴び、ジェネラルは恥ずかしくなった。
“か弱い女性が、あんな食べ方やこんな大泣きしないし…”
か弱いという単語の意味を履き違えている女性に対し、心の中で突っ込みを入れる。
とりあえず、泣きまねをやめてもらおうと口を開きかけたとき、
ガタンッ!
ドア付近で大きな音がした。
その瞬間、女性の体がビクンと反応し、音のした方に目を向ける。その瞳に、恐怖が見え隠れするのを、ミディは見逃さなかった。
音の主は、酔っ払いだった。酔った勢いでドアにぶつかって倒れたらしい。
ドアに向かって、罵声を浴びせている酔っ払い。何もしていないのに罵声を浴びせられるなど、ドアもいい迷惑だ。
強張った表情を浮かべ、まだドアの方を見ている女性の様子に、戦意を削がれたのか、ミディはため息をついた。
今まで黙っていたジェネラルが、女性の方に近づく。
「よかったら倒れる程空腹だった訳を、話して貰えませんか? 事情によっては、きっとミディも今回の食事代を払ってくれると思いますし」
「まあ、その格好を見たら、何かあったか一目瞭然だけど」
髪はボサボサ、顔は少し黒く、服もぼろぼろで、何日も同じ服で歩き回ったように汚れている。
そして、音に対する異常な反応。
ミディが、女性の耳元で囁いた。
「あなた……、何かに追われているわね?」
女性は下唇をきつく噛みながら、ミディの言葉に小さく頷いた。
がつがつ……
お世辞にも上品とは言えない音が、食堂の中に響き渡っている。
「よく食べるわね……」
「うっ……、うん……」
その様子を、同じテーブルで見守る、王女と魔王。
視線の先には音の主―—歳はミディと同じくらいだろうか――の女性が、一つに纏めた赤毛が乱れるのも気にせず、一心不乱に目の前の皿を空けていた。
食べるというか、戦っていると言った方が似合う食べっぷりだ。彼女の周りには、戦いに勝利した皿が、山積みになっている。
不健康そうにやせ細った体に、これだけの物が入るなど、人間の体は不思議に満ち溢れている。
行儀悪くテーブルに頬杖を付きながら、ミディがジェネラルに尋ねる。
「……で、ジェネ。この人、どこで攫って来たのかしら?」
ミディの発言に、ジェネラルは慌てて言葉を返した。
「だーかーらー! 攫ってなんかないって、さっきから言ってるじゃないか!!」
「ふふっ、事情はともあれ、誘拐なんて……。ようやく修行の成果が出てきたのかしら?」
「喜ぶところじゃないよ、そこ!!」
物凄い良い笑顔で親指を立てるミディ。今日もジェネラルの言葉を勝手に都合よく脳内変換する技は、絶好調のようだ。
目の前の料理がなくなりテーブル上を見回している女性に、自分の料理を差し出しながら、ジェネラルはいつものように突っ込む。
事の始まりは、いつものように魔王の修行をしているときの事だった。
ミディがちょっとした用事でその場を離れたとき、この女性がジェネラルの目の前にやって来て、いきなり倒れたのだ。
慌ててジェネラルが介抱し、休ませる為に宿に連れて行った。が、1階の食堂を通ったときに、
「……っ! いい匂い!! 食べ物!!」
と、女性が叫んだと思うと、凄いスピードでテーブルにつき、勝手にいくつも料理を注文してしまったのである。
料理が来た瞬間、物凄い勢いで平らげていく女性。
とりあえず、倒れた原因が空腹だと分かったジェネラルは、ミディを呼び戻し、今に至るわけである。
そうこうしている間に、テーブルの上にあった料理が全てなくなり、
「ふはあ~~~」
突き出た腹を叩きながら、女性が満足そうに声を上げた。その表情は、とても幸せそうだ。
女性は、しばらく満腹の余韻に浸っていた。
が、頬杖をついて女性を見るミディと、少し不安そうな表情を浮かべるジェネラルに気がついたようだ。
手についた油を舐めとると、少し首を傾け口を開いた。
「で、あんたたち、何?」
彼女の発言に、ミディのこめかみが動いた気がした。
次の瞬間、
「……ジェネ。『やって』いいわよ」
「いやいやいやいやっ!! 落ち着こうよ、ミディ!」
半眼になって、首元を人差し指で切る仕草をするミディを、慌ててジェネラルは止めた。
散々目の前で食い散らかし、ミディたちの料理まで奪い、ジェネラルが助けたのにもかかわらず、この言葉。それがミディの怒りの原因らしい。
「あんた、ミディっていうの。ふーん。ミディ王女と同じ名前なのね」
つまらなさそうに女性が呟く。
ミディという名前は、特別珍しいものではない。彼女に与えられた加護にあやかろうと同じ名前をつける親は、結構いる。
「で、私を助けてくれたあんたがジェネっていうのね」
「いや……、本名は、ジェネラルですけど…」
半笑いを浮かべながら、ジェネラルが訂正する。
まあどっちでもいいじゃんっ!と、豪快に女性は笑うと、
「んじゃ、ミディ、ジェネラル、助けてくれてありがと」
と席を立ち、立ち去ろうとした。が、そうは問屋がおろさない。
素早い動きで、女性の腕を掴むミディ。駆け出そうとしていたので、急に腕をつかまれ、その反動で女性の体が後ろに倒れそうになる。
何とか転倒は免れたが、女性の怒りはミディに向けられた。
「何すんのよ! 離せ、ばかっ!!」
「散々飲み食いして、何も話さず逃げるなんて、虫が良すぎるんじゃないかしら?」
口調は柔らかいし目元には笑みが見えるが、明らかにミディは怒っている。そうジェネラルは確信した。
だが、女性も負けてはいない。ミディの手を乱暴に振り払うと、
「ええー!? 貧乏人から絞る取るなんて!! こんなにか弱い女性に……うううっ…うわーんっ!!」
と、目元を覆い、泣き出した。嘘泣きなど誰が見ても分かるが、騒ぎ方が騒ぎ方の為、周りの注目を浴び、ジェネラルは恥ずかしくなった。
“か弱い女性が、あんな食べ方やこんな大泣きしないし…”
か弱いという単語の意味を履き違えている女性に対し、心の中で突っ込みを入れる。
とりあえず、泣きまねをやめてもらおうと口を開きかけたとき、
ガタンッ!
ドア付近で大きな音がした。
その瞬間、女性の体がビクンと反応し、音のした方に目を向ける。その瞳に、恐怖が見え隠れするのを、ミディは見逃さなかった。
音の主は、酔っ払いだった。酔った勢いでドアにぶつかって倒れたらしい。
ドアに向かって、罵声を浴びせている酔っ払い。何もしていないのに罵声を浴びせられるなど、ドアもいい迷惑だ。
強張った表情を浮かべ、まだドアの方を見ている女性の様子に、戦意を削がれたのか、ミディはため息をついた。
今まで黙っていたジェネラルが、女性の方に近づく。
「よかったら倒れる程空腹だった訳を、話して貰えませんか? 事情によっては、きっとミディも今回の食事代を払ってくれると思いますし」
「まあ、その格好を見たら、何かあったか一目瞭然だけど」
髪はボサボサ、顔は少し黒く、服もぼろぼろで、何日も同じ服で歩き回ったように汚れている。
そして、音に対する異常な反応。
ミディが、女性の耳元で囁いた。
「あなた……、何かに追われているわね?」
女性は下唇をきつく噛みながら、ミディの言葉に小さく頷いた。
0
あなたにおすすめの小説
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜
美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?
教養が足りない、ですって
たくわん
恋愛
侯爵令嬢エリーゼは、公爵家の長男アレクシスとの婚約披露宴で突然婚約破棄される。理由は「教養が足りず、公爵夫人として恥ずかしい」。社交界の人々の嘲笑の中、エリーゼは静かに会場を去る。
元公爵令嬢は年下騎士たちに「用済みのおばさん」と捨てられる 〜今更戻ってこいと泣きつかれても献身的な美少年に溺愛されているのでもう遅いです〜
日々埋没。
ファンタジー
「新しい従者を雇うことにした。おばさんはもう用済みだ。今すぐ消えてくれ」
かつて婚約破棄され、実家を追放された元公爵令嬢のレアーヌ。
その身分を隠し、年下の冒険者たちの身の回りを世話する『メイド』として献身的に尽くしてきた彼女に突きつけられたのは、あまりに非情な追放宣告だった。
レアーヌがこれまで教育し、支えてきた若い男たちは、新しく現れた他人の物を欲しがり子悪魔メイドに骨抜きにされ、彼女を「加齢臭のする汚いおばさん」と蔑み、笑いながら追い出したのだ。
地位も、居場所も、信じていた絆も……すべてを失い、絶望する彼女の前に現れたのは、一人の美少年だった。
「僕とパーティーを組んでくれませんか? 貴方が必要なんです」
新米ながら将来の可能性を感じさせる彼は、レアーヌを「おばさん」ではなく「一人の女性」として、甘く狂おしく溺愛し始める。
一方でレアーヌという『真の支柱』を失った元パーティーは、自分たちがどれほど愚かな選択をしたかを知る由もなかった。
やがて彼らが地獄の淵で「戻ってきてくれ」と泣きついてきても、もう遅い。
レアーヌの隣には、彼女を離さないと誓った執着愛の化身が微笑んでいるのだから。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
バイトの時間なのでお先に失礼します!~普通科と特進科の相互理解~
スズキアカネ
恋愛
バイト三昧の変わり者な普通科の彼女と、美形・高身長・秀才の三拍子揃った特進科の彼。
何もかもが違う、相容れないはずの彼らの学園生活をハチャメチャに描いた和風青春現代ラブコメ。
◇◆◇
作品の転載転用は禁止です。著作権は放棄しておりません。
DO NOT REPOST.
美男美女の同僚のおまけとして異世界召喚された私、ゴミ無能扱いされ王城から叩き出されるも、才能を見出してくれた隣国の王子様とスローライフ
さら
恋愛
会社では地味で目立たない、ただの事務員だった私。
ある日突然、美男美女の同僚二人のおまけとして、異世界に召喚されてしまった。
けれど、測定された“能力値”は最低。
「無能」「お荷物」「役立たず」と王たちに笑われ、王城を追い出されて――私は一人、行くあてもなく途方に暮れていた。
そんな私を拾ってくれたのは、隣国の第二王子・レオン。
優しく、誠実で、誰よりも人の心を見てくれる人だった。
彼に導かれ、私は“癒しの力”を持つことを知る。
人の心を穏やかにし、傷を癒す――それは“無能”と呼ばれた私だけが持っていた奇跡だった。
やがて、王子と共に過ごす穏やかな日々の中で芽生える、恋の予感。
不器用だけど優しい彼の言葉に、心が少しずつ満たされていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる