立派な魔王になる方法

・めぐめぐ・

文字の大きさ
84 / 220

第83話 告白2

しおりを挟む
 バックの突然の告白。
 
 ジェネラルは、無言でバックとミディを見ていた。
 突然の展開に、驚きすぎて声が出ないのだ。

 だがふと、ジェネラルがバックと出会った短い時間の中でも、彼が常にミディを庇うように行動していた事を思い出す。

“あれは……、好きな人を守っていたんだ……”

 そう思うと、ジェネラルは心に鉛玉を入れたような重さを感じた。
 何故か、手は冷えているのに汗をかいている感覚がする。

 ミディも、今までにないくらい瞳を見開くと、少し開いた口元を隠すように手を当てていた。

 彼女も、まさかの告白に驚きを隠せないようだ。よく見れば、耳の先が赤くなっているのが分かっただろう。

 散々求婚されてきたミディだが、真剣に面と向かって好意を告げられることは、皆無だった。

 求婚者の姿絵が送られ、やって来た求婚者を早々に「片づける」。それがミディのお見合いルーティーン。

 そこから外れた告白に、ミディが戸惑ったのは仕方のない事だった。

 バックから少し目線を逸らし、小さく尋ねる。

「……それって、友達として、共に戦った仲間として親愛の気持ちを持ってくれているという事なのかしら?」

「……一人の女性として愛している、と言ったらちゃんと伝わるのか?」

 バックは全くミディから目をそらさず、自分の気持ちを言葉にした。彼の言葉は、全く歪みがない。

 ただただ飾らずストレートに、ミディに心を伝える。

「人々を守ろうと戦うあんたの姿を美しいと思った。そして守りたいと思った。少しの間しか共にいられなかったが、愛しく思うには十分だった」

 ミディを好きになった理由を端的に述べるバックの頰に、初めて赤みが見られた。

 ミディは、彼の言葉を受け止めるように、心を落ち着けるように、小さな深呼吸を繰り返す。

 そして今度は視線をそらさず、バックを見つめ返した。

「ありがとう、バック。その気持ちはとても嬉しいわ。でも……」

 ミディが口ごもった。

 今まで求婚者が負けるたび、断る理由を散々言ってきたはずだった。それも上から目線で、威圧的に。

 しかし王女としてではなく、自分自身に好意をもってくれた相手に、そういう態度ができるほど、ミディも心を失ってはいなかったようだ。
 
 口ごもるミディに変わり、バックは後の言葉を引き取った。

「分かっているさ。俺には資格がないことぐらい。俺は、あんたよりも強くはないからな」

 少し寂しそうに口元を緩めると、バックは自分の両手を見た。 
 ミディは結婚相手に、自分より強い者という条件を課している。その事はバックも、いやエルザ王国皆が知っている事だ。

 この戦い中、バックはミディと共に戦っていた。その中で、自分の実力がミディより劣るという事が分かっていたのだろう。

 それでも、

「この気持ちは伝えておきたかった。王女ではなく、ミディという共に戦った一人の女性に。この気持ちを受け入れて貰おうなんて思っちゃいない。ただ……、伝えなければ俺が後悔することになると思ったから。もう二度と、会う事はないだろうからな」

 我ながら女々しいな、と小さくバックは呟く。
 しかしミディは小さく首を横に振ると、まっすぐにバックの瞳を見た。
  
「私はあなたの気持ちに答えることは出来ない。だけど……あなたの想いはちゃんと、受け取ったわ。……ふふ、感謝なさい?」

 ミディは、胸に手を当てて満面の笑顔を浮かべた。最後の一言は、照れ隠しの言葉だ。
 そして、バックに手を差し出した。

「ありがとう、バック」

「……ありがとう、ミディ」

 バックはミディの言葉に答え、その細く白い手を強く握り返した。
 そして手を放すと、ミディの前から一歩下がり、再び跪き頭を垂れた。 

「ミディ様、出過ぎたことを申しまして 、大変申し訳ございませんでした。この度の無礼をどうぞお許しください」

 青年の態度は、王女を前にしたそれにすっかり戻っていた。王族に対する特別なこの態度が、彼のけじめなのだろう。 

 想いを伝えるという希望を叶えた今、ミディとバックの関係は王女と民へ戻ったのだ。  
 
 途中から、すっかり二人から忘れられていたジェネラルだったが、それに嘆くことはなく、ただ黙ってバックの告白、そして想いを伝え民に戻った彼を見ていた。

 心の鉛玉は消えたが、胸の奥がキュッと苦しくなる。 

 ――受け入れてもらえなくてもいい。ただ、この気持ちを伝えたいだけ。

 青年の想いは、それだけだった。

“決して報われることのない告白なのに……”

 ジェネラルは、バックを見てそう思った。
 そして何故かその想いを、綺麗だと思った。

“相手に受け入れてもらえなくてもいい。それでも伝えたい想い、そんなもの僕にあるだろうか?”

 魔王は自問する。しかし答えは、分からない。
 その答えがこれから先も得られるのかどうかも、彼には分からなかった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜

美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?

教養が足りない、ですって

たくわん
恋愛
侯爵令嬢エリーゼは、公爵家の長男アレクシスとの婚約披露宴で突然婚約破棄される。理由は「教養が足りず、公爵夫人として恥ずかしい」。社交界の人々の嘲笑の中、エリーゼは静かに会場を去る。

私は〈元〉小石でございます! ~癒し系ゴーレムと魔物使い~

Ss侍
ファンタジー
 "私"はある時目覚めたら身体が小石になっていた。  動けない、何もできない、そもそも身体がない。  自分の運命に嘆きつつ小石として過ごしていたある日、小さな人形のような可愛らしいゴーレムがやってきた。 ひょんなことからそのゴーレムの身体をのっとってしまった"私"。  それが、全ての出会いと冒険の始まりだとは知らずに_____!!

元公爵令嬢は年下騎士たちに「用済みのおばさん」と捨てられる 〜今更戻ってこいと泣きつかれても献身的な美少年に溺愛されているのでもう遅いです〜

日々埋没。
ファンタジー
​「新しい従者を雇うことにした。おばさんはもう用済みだ。今すぐ消えてくれ」  ​かつて婚約破棄され、実家を追放された元公爵令嬢のレアーヌ。  その身分を隠し、年下の冒険者たちの身の回りを世話する『メイド』として献身的に尽くしてきた彼女に突きつけられたのは、あまりに非情な追放宣告だった。  ​レアーヌがこれまで教育し、支えてきた若い男たちは、新しく現れた他人の物を欲しがり子悪魔メイドに骨抜きにされ、彼女を「加齢臭のする汚いおばさん」と蔑み、笑いながら追い出したのだ。 ​ 地位も、居場所も、信じていた絆も……すべてを失い、絶望する彼女の前に現れたのは、一人の美少年だった。 ​「僕とパーティーを組んでくれませんか? 貴方が必要なんです」  ​新米ながら将来の可能性を感じさせる彼は、レアーヌを「おばさん」ではなく「一人の女性」として、甘く狂おしく溺愛し始める。  一方でレアーヌという『真の支柱』を失った元パーティーは、自分たちがどれほど愚かな選択をしたかを知る由もなかった。  ​やがて彼らが地獄の淵で「戻ってきてくれ」と泣きついてきても、もう遅い。  レアーヌの隣には、彼女を離さないと誓った執着愛の化身が微笑んでいるのだから。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

美男美女の同僚のおまけとして異世界召喚された私、ゴミ無能扱いされ王城から叩き出されるも、才能を見出してくれた隣国の王子様とスローライフ 

さら
恋愛
 会社では地味で目立たない、ただの事務員だった私。  ある日突然、美男美女の同僚二人のおまけとして、異世界に召喚されてしまった。  けれど、測定された“能力値”は最低。  「無能」「お荷物」「役立たず」と王たちに笑われ、王城を追い出されて――私は一人、行くあてもなく途方に暮れていた。  そんな私を拾ってくれたのは、隣国の第二王子・レオン。  優しく、誠実で、誰よりも人の心を見てくれる人だった。  彼に導かれ、私は“癒しの力”を持つことを知る。  人の心を穏やかにし、傷を癒す――それは“無能”と呼ばれた私だけが持っていた奇跡だった。  やがて、王子と共に過ごす穏やかな日々の中で芽生える、恋の予感。  不器用だけど優しい彼の言葉に、心が少しずつ満たされていく。

処理中です...