立派な魔王になる方法

めぐめぐ

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第83話 告白2

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 バックの突然の告白。
 
 ジェネラルは、無言でバックとミディを見ていた。
 突然の展開に、驚きすぎて声が出ないのだ。

 だがふと、ジェネラルがバックと出会った短い時間の中でも、彼が常にミディを庇うように行動していた事を思い出す。

“あれは……、好きな人を守っていたんだ……”

 そう思うと、ジェネラルは心に鉛玉を入れたような重さを感じた。
 何故か、手は冷えているのに汗をかいている感覚がする。

 ミディも、今までにないくらい瞳を見開くと、少し開いた口元を隠すように手を当てていた。

 彼女も、まさかの告白に驚きを隠せないようだ。よく見れば、耳の先が赤くなっているのが分かっただろう。

 散々求婚されてきたミディだが、真剣に面と向かって好意を告げられることは、皆無だった。

 求婚者の姿絵が送られ、やって来た求婚者を早々に「片づける」。それがミディのお見合いルーティーン。

 そこから外れた告白に、ミディが戸惑ったのは仕方のない事だった。

 バックから少し目線を逸らし、小さく尋ねる。

「……それって、友達として、共に戦った仲間として親愛の気持ちを持ってくれているという事なのかしら?」

「……一人の女性として愛している、と言ったらちゃんと伝わるのか?」

 バックは全くミディから目をそらさず、自分の気持ちを言葉にした。彼の言葉は、全く歪みがない。

 ただただ飾らずストレートに、ミディに心を伝える。

「人々を守ろうと戦うあんたの姿を美しいと思った。そして守りたいと思った。少しの間しか共にいられなかったが、愛しく思うには十分だった」

 ミディを好きになった理由を端的に述べるバックの頰に、初めて赤みが見られた。

 ミディは、彼の言葉を受け止めるように、心を落ち着けるように、小さな深呼吸を繰り返す。

 そして今度は視線をそらさず、バックを見つめ返した。

「ありがとう、バック。その気持ちはとても嬉しいわ。でも……」

 ミディが口ごもった。

 今まで求婚者が負けるたび、断る理由を散々言ってきたはずだった。それも上から目線で、威圧的に。

 しかし王女としてではなく、自分自身に好意をもってくれた相手に、そういう態度ができるほど、ミディも心を失ってはいなかったようだ。
 
 口ごもるミディに変わり、バックは後の言葉を引き取った。

「分かっているさ。俺には資格がないことぐらい。俺は、あんたよりも強くはないからな」

 少し寂しそうに口元を緩めると、バックは自分の両手を見た。 
 ミディは結婚相手に、自分より強い者という条件を課している。その事はバックも、いやエルザ王国皆が知っている事だ。

 この戦い中、バックはミディと共に戦っていた。その中で、自分の実力がミディより劣るという事が分かっていたのだろう。

 それでも、

「この気持ちは伝えておきたかった。王女ではなく、ミディという共に戦った一人の女性に。この気持ちを受け入れて貰おうなんて思っちゃいない。ただ……、伝えなければ俺が後悔することになると思ったから。もう二度と、会う事はないだろうからな」

 我ながら女々しいな、と小さくバックは呟く。
 しかしミディは小さく首を横に振ると、まっすぐにバックの瞳を見た。
  
「私はあなたの気持ちに答えることは出来ない。だけど……あなたの想いはちゃんと、受け取ったわ。……ふふ、感謝なさい?」

 ミディは、胸に手を当てて満面の笑顔を浮かべた。最後の一言は、照れ隠しの言葉だ。
 そして、バックに手を差し出した。

「ありがとう、バック」

「……ありがとう、ミディ」

 バックはミディの言葉に答え、その細く白い手を強く握り返した。
 そして手を放すと、ミディの前から一歩下がり、再び跪き頭を垂れた。 

「ミディ様、出過ぎたことを申しまして 、大変申し訳ございませんでした。この度の無礼をどうぞお許しください」

 青年の態度は、王女を前にしたそれにすっかり戻っていた。王族に対する特別なこの態度が、彼のけじめなのだろう。 

 想いを伝えるという希望を叶えた今、ミディとバックの関係は王女と民へ戻ったのだ。  
 
 途中から、すっかり二人から忘れられていたジェネラルだったが、それに嘆くことはなく、ただ黙ってバックの告白、そして想いを伝え民に戻った彼を見ていた。

 心の鉛玉は消えたが、胸の奥がキュッと苦しくなる。 

 ――受け入れてもらえなくてもいい。ただ、この気持ちを伝えたいだけ。

 青年の想いは、それだけだった。

“決して報われることのない告白なのに……”

 ジェネラルは、バックを見てそう思った。
 そして何故かその想いを、綺麗だと思った。

“相手に受け入れてもらえなくてもいい。それでも伝えたい想い、そんなもの僕にあるだろうか?”

 魔王は自問する。しかし答えは、分からない。
 その答えがこれから先も得られるのかどうかも、彼には分からなかった。
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