立派な魔王になる方法

・めぐめぐ・

文字の大きさ
100 / 220

第99話 思案

しおりを挟む
 王の相談役である青年は、いらいらとした表情を浮かべ、ジェネラル発見の報告を待っていた。しかし、

「申し訳ございません、メディア様。あの少年の姿は、どこにも見当たりません」

 部屋にやってきた兵士が、顔を強張らせ報告する。メディアの表情から、自分の報告が彼をさらに苛立たせる事が分かっていたのだろう。

 兵士の報告を聞き、音を立ててメディアが立ち上がった。

「どういうことだ! あの高さから飛び降りて、無傷なわけがないだろう!」

 案の定、怒声が部屋に響きわたった。兵士の肩が、ビクッと震える。

 ジェネラルが飛び降りたのは、エルザ城最上階の高さだ。訓練を組んでいる者でも、無傷で飛び降りることは非常に厳しい。何か道具や細工をしなければ、大怪我を追って地面に這いつくばることになるだろう。

 あの少年が、負傷しつつもあの高さを飛び降り、逃げおおせたなど信じられない。

 メディアの苛立ちに満ちた視線が、兵士をとらえる。
 兵士は、再び肩を震わせると、恐る恐る答えた。

「確かに落下したと思われる場所の近くで、血痕は発見したのですが、少年の姿はどこにも……。我々も懸命に調査はしているのですが……」

「言い訳はいい! 探し出せ!」

 怒鳴られ、兵士は慌てて礼をすると、逃げるように部屋から出て行った。
 兵士が出て行ったのを確認すると、前を向いたままメディアは名を呼んだ。

「プリング」

「はい、メディア様」 

 彼の声に反応し、部屋に人影が現れる。姿は見えないが、低い声から男だと推測できる。
 メディアは、相手の姿が見えなくても気にせず、指示を与えた。

「城内外に噂を流せ。『昨日、城に来た優勝者が、ミディ王女の寝室に忍び込み、狼藉を働こうとした』と。後、今回の事件により、この事に気が付いた者がいないか探れ。……特に、今、城に滞在している『あれ』の動向には特に注意しろ」

「畏まりました」

 すっと影が消える。

 しばらく椅子に座り顔を伏せていたメディアだったが、顔を上げると席を立った。
 その足は、奥の部屋へと向けられた。

 奥の部屋にはミディがいた。両手を膝の上に置いた状態で、ベッドの上に腰を掛けている。

 ノックなしに入ってきたメディアに何も言わないどころか、視線すら向けない。ただ、じっと前を向いたままである。

 先ほどの騒動でミディの部屋が荒れてしまった為、メディアの執務室に連れてこられたのだ。奥の部屋には、仮眠の為の寝室が用意されており、新しい部屋の用意が出来るまで、この部屋でメディアの保護下に置かれることになった。

 ジェネラルの侵入を許してしまった今、もうあの部屋は使えないだろう。

 メディアは近くのソファーに腰掛けると、頬杖を付きながら先ほど起こった事件を思い出していた。

“影よ”

 ジェネラルがそう言った瞬間 周りの兵士たちが苦しそうに悶えだした。体中には、黒い何かがまとわりつき、彼らの自由を奪っていたように思う。

 そして、突然砕けた剣。
 あの時も確かに、少年の叫びに答えるかのように起こった出来事だった。

 落ち着いてから思い出すと、奇術だと言うには納得いかない点が多い。

“あの少年……一体何なのだ……”

 メディアは唇を噛んだ。

 あの高さから躊躇なく飛び降りた事を考えると、やはり盗賊かそのような特殊訓練を受けた者なのだろうか。だが、ヌルで会った際の雰囲気と盗賊技術とが、あまり結びつかない。

 不安そうな目でミディを見送っていた少年の姿を思い出しながら、メディアは考えを打ち消した。

 ここでどれだけ考えても、真相は分からないままだ。メディアは今までの考えを振り払うように、頭を振った。

 とにかく今の所、ジェネラルを追うしかない。
 兵士たちが彼を追っている。明日には手配書も周り、町人達の目が全て監視者になる。
 捕まるのも時間の問題だろう。少年が何者かは、その後じっくり問い詰めれば良い。

 メディアは席を立つと、ミディの前へやってきた。
 ベッドに座るミディは、まるで部屋を装飾する為に置かれた、棚の上の人形のようだ。

「立て、ミディローズ」

 王女に対する言葉とは思えない、高圧的な態度。
 普段のミディなら次の瞬間、力によって強制的に相手の言葉遣いを改めさせるだろう。
 しかしミディは命令に従い立ち上がると、メディアにその青い瞳を向けた。

 彼の口元に、笑みが浮かぶ。
 ゆっくりと手を伸ばすと、王女の長い髪に指を絡ませ、凹凸一つない滑らか肌の感触を楽しむかのように頬を撫でた。
 頬以上に柔らかい唇に、何度も指を這わせる。

 その時、

“魔界を統べる者―――魔王ジェネラルが、あの少年よ”

 ヌルの町でのミディの声が蘇った。
 青年の手が止まった。口元の笑みが消える。
 ヌルで聞いた時、メディアは全く信じていなかった。

 しかし、彼から不思議な攻撃をうけた今なら……。

 メディアの瞳が、細められる。

 彼の表情から、恐れは感じられない。それどころか、笑い出しそうになる衝動を堪えながら、小さく喉の奥を鳴らした。

“誰であろうが……、決して邪魔はさせない”

 暗く笑うメディアの様子を、ミディだけが光のない瞳で見ていた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

教養が足りない、ですって

たくわん
恋愛
侯爵令嬢エリーゼは、公爵家の長男アレクシスとの婚約披露宴で突然婚約破棄される。理由は「教養が足りず、公爵夫人として恥ずかしい」。社交界の人々の嘲笑の中、エリーゼは静かに会場を去る。

短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜

美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?

元公爵令嬢は年下騎士たちに「用済みのおばさん」と捨てられる 〜今更戻ってこいと泣きつかれても献身的な美少年に溺愛されているのでもう遅いです〜

日々埋没。
ファンタジー
​「新しい従者を雇うことにした。おばさんはもう用済みだ。今すぐ消えてくれ」  ​かつて婚約破棄され、実家を追放された元公爵令嬢のレアーヌ。  その身分を隠し、年下の冒険者たちの身の回りを世話する『メイド』として献身的に尽くしてきた彼女に突きつけられたのは、あまりに非情な追放宣告だった。  ​レアーヌがこれまで教育し、支えてきた若い男たちは、新しく現れた他人の物を欲しがり子悪魔メイドに骨抜きにされ、彼女を「加齢臭のする汚いおばさん」と蔑み、笑いながら追い出したのだ。 ​ 地位も、居場所も、信じていた絆も……すべてを失い、絶望する彼女の前に現れたのは、一人の美少年だった。 ​「僕とパーティーを組んでくれませんか? 貴方が必要なんです」  ​新米ながら将来の可能性を感じさせる彼は、レアーヌを「おばさん」ではなく「一人の女性」として、甘く狂おしく溺愛し始める。  一方でレアーヌという『真の支柱』を失った元パーティーは、自分たちがどれほど愚かな選択をしたかを知る由もなかった。  ​やがて彼らが地獄の淵で「戻ってきてくれ」と泣きついてきても、もう遅い。  レアーヌの隣には、彼女を離さないと誓った執着愛の化身が微笑んでいるのだから。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

見るに堪えない顔の存在しない王女として、家族に疎まれ続けていたのに私の幸せを願ってくれる人のおかげで、私は安心して笑顔になれます

珠宮さくら
恋愛
ローザンネ国の島国で生まれたアンネリース・ランメルス。彼女には、双子の片割れがいた。何もかも与えてもらえている片割れと何も与えられることのないアンネリース。 そんなアンネリースを育ててくれた乳母とその娘のおかげでローザンネ国で生きることができた。そうでなければ、彼女はとっくに死んでいた。 そんな時に別の国の王太子の婚約者として留学することになったのだが、その条件は仮面を付けた者だった。 ローザンネ国で仮面を付けた者は、見るに堪えない顔をしている証だが、他所の国では真逆に捉えられていた。

バイトの時間なのでお先に失礼します!~普通科と特進科の相互理解~

スズキアカネ
恋愛
バイト三昧の変わり者な普通科の彼女と、美形・高身長・秀才の三拍子揃った特進科の彼。 何もかもが違う、相容れないはずの彼らの学園生活をハチャメチャに描いた和風青春現代ラブコメ。 ◇◆◇ 作品の転載転用は禁止です。著作権は放棄しておりません。 DO NOT REPOST.

処理中です...