立派な魔王になる方法

めぐめぐ

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第126話 望み

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 メディアはミディの手を取り、数人の護衛を引き連れ、城内を走っていた。
 彼は今、非常時の為に作られた抜け道に向かっている。

 先ほどまで一緒にいた来賓たちはいない。狙われているのがミディと判明した為、別行動を取っているのだ。今頃彼らも、別の逃げ道から避難している事だろう。

“ジェネラル……、まさかあの時の少年か……?”

 走りながら、魔王と名乗った青年の事を思い出す。

 ミディと共に旅をしていた少年も、黒髪に黒目だった。それに、髪や瞳の色だけでなく、容姿も少年と似ていた。あの少年と青年が兄弟だと言われれば、一つも疑わずに信じる事が出来るだろう。

『魔界を統べる者――、魔王ジェネラルが、あの少年よ』

『我は魔界を統べる者――、魔王ジェネラル』

 ミディの言葉と、青年の言葉が蘇る。
 それと同時に、ミディの部屋で少年が自分たちに行った攻撃と、青年が兵士達に与えた攻撃が思い出された。

 どちらも、人間技ではない。

“魔王なら……、外見も自由に変える事も出来るというわけか……?”

 悔しそうに、メディアは唇を噛んだ。
 城の外から、人々の悲鳴が聞こえる。魔族たちがまだ、外で大騒ぎしているのだろう。 
 しかし今のメディアには、そこまで気にするほど、気持ちに余裕はない。

“あの少年があの男だとすれば……。ミディローズを助ける為に、式を襲ったに違いない……”

 表向きは、魔王がミディを望み、魔族を引き連れてきたように見えるが、全てはミディ救出の為に仕組まれたものだったのだと、メディアは直感した。

 生きていれば何かをしてくるだろうと考えてはいたが、まさか魔族の軍を率い、襲ってくるとは、誰が想像出来るだろう。

“とにかく、ここから逃げ出さなければ……”

 今まで感じた事のない焦りが、彼を襲う。
 メディアは、後ろを走るミディに視線を向けた。

 相変わらず人形のように、感情の篭らない瞳でただメディアに従って走っている。やはり着ている服が服な為、若干走りにくそうだ。

 そんなミディに一つ舌打ちをすると、メディアは一度立ち止まり、何枚も重ねられているスカートのレースを数枚切り落とした。音も立てず、レースがひらひらと床に広がった。
 かなりのボリュームがあるレースがなくなり、かなり軽くなったように見える。

 メディアは、軽くなったミディを抱き上げると、再び走り出した。抜け道に続く部屋が見えてきた。

 このまま逃げ出せば、メディアの謀反が明るみに出、追われる身となるだろう。レージュと関係している証拠は残していないが、きっとレージュも秘密裏に、メディアを追うはずだ。

 しかし、

“それでもいい。例え追われる身となっても……”
 
 ミディを抱く手に、力が入る。

“俺の望んだものは、手に入った”

 護衛が扉を開き、メディアたちを待っている。
 メディアは勢いよく、部屋に駆け込んだ。
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