立派な魔王になる方法

・めぐめぐ・

文字の大きさ
160 / 220
その後の話:暴走と妄想の狭間で

第1話 侍女

しおりを挟む
 紙を捲る音が、部屋に響き渡る。
 今にも崩れそうなほど高く積み上げられた書類の中で、黒髪の青年が一人、唸っていた。
 手元の書類が恐るべき速さで捲られ、あっという間に最終ページへたどり着く。驚くべき読書スピードだ。

 ここは、魔界。
 そして書類に埋もれかけているこの青年こそが、魔界を統べる者――魔王ジェネラルである。

 ジェネラルが、エルザ王国の王女であるミディを攫ったあの事件から、半月が経とうとしていた。



「はあ~……、中々適任者が見つからないなあ……」

 ジェネラルはため息をつくと、読み終わった書類を横に避けた。ぐぐっと両手を上げると、強張った体をほぐすように後ろに倒す。そして深く息を吐き出すと、ゆっくりと元の体勢に戻った。
 片肘をつき人差し指で頬を軽くたたきながら、机の上に視線を落とす。

 彼は今、悩んでいた。非常に悩んでいた。
 それは、ミディの侍女の事である。

 魔界では、魔王や城内で働く人々に対して雑用や身の回りの世話を行う女性たちを女中と呼び、その中で、特定の魔族専属として対応する女性たちを、侍女と呼んでいる。
 今は色々な女中たちに、彼女の身の回りの世話を任せている。しかし、ミディにも侍女を付けた方が、世話する方もされる方も何かと都合がいい。
 
 そういう理由で、ミディのことをよく知るジェネラル自らが、侍女を探しているのだが……いかんせん、あの王女の性格を考えると、中々適任者が見つからないのだ。

“とりあえず、我慢強い・精神的に強いっていうのは必須条件だよね……”

 ジェネラルはあの王女の性格を思い出しながら、遠い目をし考える。傍から見れば、彼がどこか空ろな瞳で宙を見つめているように見えただろう。
 彼の首が、力なくカクンと前に倒れた。どうやら、名簿から探すのは諦めたらしい。

 意識を現実に戻すと、魔王は書類を持って立ち上がった。本棚に近づき、書類たちを片付けていく。
 魔法を使えばいいのだが、思考が煮詰まっている時は身体を動かすのに限る。

「……あっ」

 ふと、名簿をしまう手が止まった。さっそく、身体を動かした効果が出たようだ。
 何かに気づいたかのように、一瞬息を飲む音が聞こえたが、すぐに飲み込んだ息を吐き出した。

「……でも彼女は忙しそうだからなあ。いくら優秀でも、これ以上仕事を増やすわけにはいかないし……」

 せっかくの思い付きを即却下し、自らに言い聞かせるように呟く。そして書類直しを再開すると、新たな閃きが下りてくるのを待った。

 その時、ドアをノックする音が響き渡った。
 手を止め、ドアに視線を向けるジェネラル。

「ジェネラル様、私です。少しお時間宜しいでしょうか?」

 ドアの向こうから聞こえた声は、ジェネラルにとってなじみのある声だった。
 彼の顔に、笑みが浮かぶ。

“凄く良いタイミングじゃないか。話だけでもしてみようかな?”

 心の中で指を鳴らすと、

「いいよ、入ってきて。丁度、僕も話があったところだから」

 そう訪問者に声をかけると、彼の魔力により、ひとりでにドアが開いた。
 そして、ドアの外にいる人物を迎え入れた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

教養が足りない、ですって

たくわん
恋愛
侯爵令嬢エリーゼは、公爵家の長男アレクシスとの婚約披露宴で突然婚約破棄される。理由は「教養が足りず、公爵夫人として恥ずかしい」。社交界の人々の嘲笑の中、エリーゼは静かに会場を去る。

短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜

美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?

元公爵令嬢は年下騎士たちに「用済みのおばさん」と捨てられる 〜今更戻ってこいと泣きつかれても献身的な美少年に溺愛されているのでもう遅いです〜

日々埋没。
ファンタジー
​「新しい従者を雇うことにした。おばさんはもう用済みだ。今すぐ消えてくれ」  ​かつて婚約破棄され、実家を追放された元公爵令嬢のレアーヌ。  その身分を隠し、年下の冒険者たちの身の回りを世話する『メイド』として献身的に尽くしてきた彼女に突きつけられたのは、あまりに非情な追放宣告だった。  ​レアーヌがこれまで教育し、支えてきた若い男たちは、新しく現れた他人の物を欲しがり子悪魔メイドに骨抜きにされ、彼女を「加齢臭のする汚いおばさん」と蔑み、笑いながら追い出したのだ。 ​ 地位も、居場所も、信じていた絆も……すべてを失い、絶望する彼女の前に現れたのは、一人の美少年だった。 ​「僕とパーティーを組んでくれませんか? 貴方が必要なんです」  ​新米ながら将来の可能性を感じさせる彼は、レアーヌを「おばさん」ではなく「一人の女性」として、甘く狂おしく溺愛し始める。  一方でレアーヌという『真の支柱』を失った元パーティーは、自分たちがどれほど愚かな選択をしたかを知る由もなかった。  ​やがて彼らが地獄の淵で「戻ってきてくれ」と泣きついてきても、もう遅い。  レアーヌの隣には、彼女を離さないと誓った執着愛の化身が微笑んでいるのだから。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

見るに堪えない顔の存在しない王女として、家族に疎まれ続けていたのに私の幸せを願ってくれる人のおかげで、私は安心して笑顔になれます

珠宮さくら
恋愛
ローザンネ国の島国で生まれたアンネリース・ランメルス。彼女には、双子の片割れがいた。何もかも与えてもらえている片割れと何も与えられることのないアンネリース。 そんなアンネリースを育ててくれた乳母とその娘のおかげでローザンネ国で生きることができた。そうでなければ、彼女はとっくに死んでいた。 そんな時に別の国の王太子の婚約者として留学することになったのだが、その条件は仮面を付けた者だった。 ローザンネ国で仮面を付けた者は、見るに堪えない顔をしている証だが、他所の国では真逆に捉えられていた。

バイトの時間なのでお先に失礼します!~普通科と特進科の相互理解~

スズキアカネ
恋愛
バイト三昧の変わり者な普通科の彼女と、美形・高身長・秀才の三拍子揃った特進科の彼。 何もかもが違う、相容れないはずの彼らの学園生活をハチャメチャに描いた和風青春現代ラブコメ。 ◇◆◇ 作品の転載転用は禁止です。著作権は放棄しておりません。 DO NOT REPOST.

処理中です...