立派な魔王になる方法

・めぐめぐ・

文字の大きさ
205 / 220
その後の話:未来の話をしよう

第12話 道

しおりを挟む
「そう、ここの道だ。少し細いから、馬は降りて引いた方がいいだろう」

 馬から降りて先を行き、道を確認していたハルが2人に指示を出した。彼の言葉に従い兄妹は馬から降りると、ハルが先を行く細い道を馬を引いて入っていった。

 彼が出発の際言った通り、センシングとベンドの町の丁度間に、森に繋がる細い道があった。だが道は、よく見なければ分からない程草木が覆い茂り、行く先を阻んでいる。ハルの指示がなければ、誰もが気づかずに通り過ぎてしまうだろう。

 ハルの後姿を追いながら黙々と歩いていくと、やがて少し開けた空間に出た。木々が覆い茂る中、不自然に空いた空間を見ると、恐らく元々生えていた木々を切り倒し、人工的に場所を作ったのだろうと想像できた。

 わざわざ木々を切り倒してまで作られた空間の理由は、

「こんなところに小屋があるなんて……」

 レシオは、目の前に現れた小屋を見て呟いた。こんな不便な場所に小屋を建てる必要がどこにあったのか、と別の疑問が思い浮かぶ。

 小屋と表現しているが、一般的な小屋よりも一回り位は大きい。ただどこにも窓はない、小屋から感じられる雰囲気は生活感ではなく、もっと無機的な何かだ。
 住むために作られた場所ではない事が、説明されなくても伝わって来た。

 ハルは小屋に近づくと、自分の荷物から鍵を取り出した。そして鍵穴に差し込みながら、小屋を見上げる兄妹に伝える。

「『道』はこの中にある。もう少しだ」

「この小屋の中に……、ですか?」

「ああ、見たら分かる」

 ハルはそれだけを言うと、扉を開いた。長い間使われなかったのか、木の軋んだ音がうるさく響き渡る。レシオたちは、馬を小屋の柵に括り付けると、中に入った。

 部屋の中には、何もなかった。部屋の中央に置かれている、巨大な鏡以外は。

 それは大人の1.5倍程の高さがあり、周囲を金色の複雑な装飾が囲んでいる。これだけの大きな物なので、かなり重いのだろう。下の方には巨大な鏡を支える為の重そうな台座があり、その上に倒れぬように鏡がはめ込まれていた。
 鏡面は磨き上げられ、曇り一つない。

「すっごく大きな鏡……。ピカピカでとても綺麗なのです」

 ティンバーが、鏡と同じく瞳をキラキラさせながら見ている。やはり女の子だからか、こういうものは大好きなようだ。自分の姿を映し、自身が一番かわいく映る角度を試している。

 レシオは鏡を見上げながら尋ねた。 

「ハル、この鏡は?」

「この鏡が、魔界へ繋がる『道』だ」

「えっ、この鏡が!? でもどこに道が……」

「鏡に見えるが、こうやって中に入ることが出来る」

 ハルはそう言って鏡に近づくと、磨き上げられた鏡面に触れた。普通は触れた手は鏡面に留まるはずなのだが、

「手がっ! 鏡の中に沈んでいくのですっ!!」

 ティンバーは驚きの為、口元を手のひらで覆った。しかしその瞳は、沈んでいくハルの手に注視され、逸らせずにいる。
 そうしているうちにハルの手が、鏡面を突き抜けどんどん入っていき、とうとう腕全体が鏡の中に入ってしまった。しかしティンバーが鏡の後ろを覗いても、ハルの手はどこにもない。
 その現象が、再び兄妹を驚かせた。

「この鏡の向こうに魔界がある。今、鏡に入っている僕の腕は、魔界にある状態だ」

 肩をすくめ、ハルは鏡面から一歩引くと、鏡に入った腕を引き抜いた。少しずつ、彼の細い腕が姿を現し、やがて全部がこの空間に戻って来た。

 この鏡こそが、魔界とプロトコルを繋ぐ『道』。

「一体誰が、こんな物を……」

 驚きとまだ信じられない表情を浮かべ、レシオが呟いた。触れたいがちょっと怖いと顔に書いている。彼の問いに、ハルは何気なく答えた。

「四大精霊の技だと聞いている」

「よんだい……精霊ですか……。あれってやっぱり、存在しているんですか?」

「この間、ティンバーと馬に乗らないという誓いを、四大精霊にしていたのは何だったんだ?」

 この世界を司る大いなる存在にまで疑惑を抱く、罰当たりな王子にハルは呆れたような視線を向けている。どうやらセンシングの町でした、「レシオがティンバーに鳩尾に一発食らわれ落馬した」話について触れているようだ。その時彼は、二度と妹と馬に乗らないと四大精霊に誓っていると口にしたのだ。

「確かに、様々な場面で四大精霊に祈りを捧げますけど、実際見た事もない存在が作ったと言われると、ちょっとすぐに信じられないというか……」

 もにょもにょしながら、レシオが答える。確かに、彼の言いたい事も分かる。ハルもそう思ったのか、苦笑いしつつも彼の言葉に同意した。

「まあそうだろうな。今は、この鏡の中を通って魔界に行けるという事だけ分かって貰えればいい」

 そう言って、四大精霊の存在については判断を各自に任せた。
 
 レシオとティンバーは、魔界に行く前にそれぞれの荷物の最終点検を始めた。ギャーギャー言いながら、どちらがどの荷物を持っていくのか、お互い押しつけ合っている。
 そんな二人を後目に、ハルは2人の馬を部屋の中に連れて来た。鏡が馬が通る大きさであることと、魔界にも馬がいるということで、二人の馬も連れていく事になったのだ。

「では、そろそろ出発しよう。準備は大丈夫か?」

「準備完了です! ハル隊長!」

「こちらも準備完了なのですっ! ハル隊長っ!」
 
「……相変わらず、緊張感がないな、君たちは」

 楽しそうに敬礼する兄妹を見て、ハルは前途多難そうだとため息をついた。

 これから始まる魔界への旅。
 兄妹に背中を向け、鏡の中に入っていくハル。2人も馬を引きながら、恐る恐る鏡の中に入っていく。鏡面を通る瞬間ですら、通常の空間を通っているのと変わらない。

 不思議な体験は、一瞬にして終わった。
 鏡に入った瞬間、その足は別の地を踏んでいたのだ。明るい光が、二人の目を刺激する。

 鏡を通り抜けた先に広がっていたのは、広大な森だった。
 先ほどの小屋と同じく、生えていたであろう木々が切り倒され、空間が作られている。その空間の中央には、それも同じく巨大な鏡の存在。

 先ほどまでいたプロトコルの森だと言われても、気づかないだろう。それ程、魔界とプロトコルに違いが感じられない。

 彼らの前には一足先に来ていたハルが、こちらを振り向いて小さく笑っていた。

「レシオアーク・エルザ、そしてティンバー・エルザ」

 二人の名を呼ぶ。そしてどこか誇らしげに、口を開いた。

「魔界へようこそ」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

教養が足りない、ですって

たくわん
恋愛
侯爵令嬢エリーゼは、公爵家の長男アレクシスとの婚約披露宴で突然婚約破棄される。理由は「教養が足りず、公爵夫人として恥ずかしい」。社交界の人々の嘲笑の中、エリーゼは静かに会場を去る。

短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜

美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?

元公爵令嬢は年下騎士たちに「用済みのおばさん」と捨てられる 〜今更戻ってこいと泣きつかれても献身的な美少年に溺愛されているのでもう遅いです〜

日々埋没。
ファンタジー
​「新しい従者を雇うことにした。おばさんはもう用済みだ。今すぐ消えてくれ」  ​かつて婚約破棄され、実家を追放された元公爵令嬢のレアーヌ。  その身分を隠し、年下の冒険者たちの身の回りを世話する『メイド』として献身的に尽くしてきた彼女に突きつけられたのは、あまりに非情な追放宣告だった。  ​レアーヌがこれまで教育し、支えてきた若い男たちは、新しく現れた他人の物を欲しがり子悪魔メイドに骨抜きにされ、彼女を「加齢臭のする汚いおばさん」と蔑み、笑いながら追い出したのだ。 ​ 地位も、居場所も、信じていた絆も……すべてを失い、絶望する彼女の前に現れたのは、一人の美少年だった。 ​「僕とパーティーを組んでくれませんか? 貴方が必要なんです」  ​新米ながら将来の可能性を感じさせる彼は、レアーヌを「おばさん」ではなく「一人の女性」として、甘く狂おしく溺愛し始める。  一方でレアーヌという『真の支柱』を失った元パーティーは、自分たちがどれほど愚かな選択をしたかを知る由もなかった。  ​やがて彼らが地獄の淵で「戻ってきてくれ」と泣きついてきても、もう遅い。  レアーヌの隣には、彼女を離さないと誓った執着愛の化身が微笑んでいるのだから。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

見るに堪えない顔の存在しない王女として、家族に疎まれ続けていたのに私の幸せを願ってくれる人のおかげで、私は安心して笑顔になれます

珠宮さくら
恋愛
ローザンネ国の島国で生まれたアンネリース・ランメルス。彼女には、双子の片割れがいた。何もかも与えてもらえている片割れと何も与えられることのないアンネリース。 そんなアンネリースを育ててくれた乳母とその娘のおかげでローザンネ国で生きることができた。そうでなければ、彼女はとっくに死んでいた。 そんな時に別の国の王太子の婚約者として留学することになったのだが、その条件は仮面を付けた者だった。 ローザンネ国で仮面を付けた者は、見るに堪えない顔をしている証だが、他所の国では真逆に捉えられていた。

処理中です...