立派な魔王になる方法

・めぐめぐ・

文字の大きさ
207 / 220
その後の話:未来の話をしよう

第14話 町

しおりを挟む
 馬を走らせた3人は、途中休憩をはさみつつも、意外と早く魔界の城のある町――グレインに辿り着いた。

 魔界にたった一つだけある城、その周りに出来た町という事もあり、とても広く大きい。
 町を仕切る門を通り抜けると、目の前にはレンガが敷き詰められたメインストリートが広がっている。この町で一番広く長い道であり、城に続く唯一の道である。
 馬車や馬の往来が許されており、道行く者たちの横を通り抜けていく。レシオたちは目立たぬよう馬には乗らず、人の波に従いながら歩いていた。

 様々な店が立ち並び、エルザ城のあるディートの町と同じく、ここも活気に満ちている。たくさんの人々が行き来し、日々生活している様子は平和そのものだ。ただプロトコルと違うのは、

”これが全て、魔族という事だ”

 馬を引きながら進むレシオは、周囲を見回している事を悟られぬよう、出来るだけ視線だけを動かしていた。彼の横を、人間にはない特徴を持つ者たちが時々通り過ぎていく。

 ハルの言う通り、ほとんどの魔族は人間と変わらない容姿をしている。しかし時たま、角や爪、目の数などなど、人間にはない特徴を持つ者の姿が見られた。
 初めてその特徴を目の当たりにしたレシオとティンバーの表情が固まったのは、言うまでもない。

 しかし今はそういう者たちを見ても、平常心を保てるぐらいの余裕は出ている。

「ほんと、こっちの世界と変わらないんですね」

 側を歩くハルに、小さくレシオが尋ねた。その言葉に、ハルが小さく頷く。

「そうだろう? だから向こうにいる時と同じようにしていたら大丈夫だ。すでに馴染んで、あそこの露店を見ている者がいるようだが」

「てぃっ、ティンバーっ!!」

 ハルが視線で示したのは、彼らから離れて店の前にいるティンバーの姿だった。何やら商品を見て、指を指している。その行動は、馴染みの店に顔を出して談笑を楽しむ常連客そのものだ。めっちゃ馴染んでいる。

 レシオは大声で妹の名を呼ぶと、慌てて彼女を連れ戻しに行った。

 ティンバーは様々な香草が籠に詰められ、並べられている店の前にいた。どうやら様々な香辛料を取り扱っている店のようだ。
 籠に入った香草の他、店先には吊るされ乾燥途中の草花も並べられている。

 店の前に立った瞬間、様々な香草の香りが鼻を刺激する。好きな人は好きだが、苦手な人は苦手な香りだ。
 そんな兄の心配をつゆとも知らず、ティンバーは呑気に店主と会話を楽しんでいる。

「わー、この葉っぱすっごくいい香りなのですー。お肉料理にめちゃくちゃ合いそうなのですっ」

「お、お嬢さん、香りの分かる方だね? お嬢さんの言う通り、お肉料理の仕上げに振りかけると、とってもいいんだよ。後はこれとこれを組み合わせると……ほら」

「わ―――!! すっごいのですっ!! こんなのかけたら、絶対にフォークが止まらなくなるのですっ!! ダイエット中の女性は、絶対知っちゃダメなやつなのですっ!」

「そうだろそうだろ! このブレンドを買って行ったお客さんは、ほぼ常連になってくれるんだ。……ちょっと目の下に隈を作り、いくら値を張ってもいいから譲ってくれっていいながら……ね……」

「それ絶対にあかんやつだろ―――――――!!!」

 妹に変な物を売りつけるなとばかりに、レシオはティンバーを押しのけて突っ込んだ。いきなり可愛い少女が横に倒れ、代わりに大声を上げて突っ込む青髪の少年が現れた為、店主は一瞬怯んだ。しかし次の瞬間、自分のボケを拾ってくれた事に気づき大笑いした。

 そんな二人の様子を見かねて、ハルがやって来た。近づくハルに、店主が気づき声を掛ける。

「やあ、お客さん。久しぶりだね」

「……ああ、相変わらずだな、店主。さっきのやつ、一つ貰えるか?」

「いつものやつね。ありがとね」

 店主は先ほどティンバーに紹介した、『一度購入するとほぼ常連になるブレンド』を袋に詰めると、彼の手から硬貨を受け取って商品と交換した。
 その様子を、唇を震わせ手遅れだったと悔しそうにレシオは膝から崩れ落ちると、拳を地面に叩き付けた。

「ハル……、あなたがすでに被害者の一人だったとは……」

「……断じて違う」

 頬を引きつらせながら、レシオの後悔を即座に否定するハル。店主は店主で、レシオの反応が超楽しいらしく、

「ははははっ!! お兄さん、面白いね!! さっきの話は冗談に決まってるだろ?」

 そう言って膝をついているレシオの背中をバシバシ叩くと、豪快に笑った。彼を叩く力の強さに、レシオは思わず咳き込んでしまった。
 咳で苦しんでいる彼の横では、ハルとティンバーが和気あいあいと、先ほど購入した香草を分け合っている。

”何なんだ……、今から魔界の城に乗り込むっていうのに、この和やかな雰囲気は……。これ物語だと、絶対この後誰か死ぬやつだろ……”

 物語でよくある、これから始まる急展開の前の穏やか場面の事だ。この時に、旅が終わった後の約束をしたり、仲の良くなかった相手と心が通じ合ったり、結婚を心に決めたりすると誰かが死ぬ、アレである。

 そんな事を考えていると、ティンバーから物凄い勢いで、レシオの口の中に何かが放り込まれた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

教養が足りない、ですって

たくわん
恋愛
侯爵令嬢エリーゼは、公爵家の長男アレクシスとの婚約披露宴で突然婚約破棄される。理由は「教養が足りず、公爵夫人として恥ずかしい」。社交界の人々の嘲笑の中、エリーゼは静かに会場を去る。

短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜

美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?

元公爵令嬢は年下騎士たちに「用済みのおばさん」と捨てられる 〜今更戻ってこいと泣きつかれても献身的な美少年に溺愛されているのでもう遅いです〜

日々埋没。
ファンタジー
​「新しい従者を雇うことにした。おばさんはもう用済みだ。今すぐ消えてくれ」  ​かつて婚約破棄され、実家を追放された元公爵令嬢のレアーヌ。  その身分を隠し、年下の冒険者たちの身の回りを世話する『メイド』として献身的に尽くしてきた彼女に突きつけられたのは、あまりに非情な追放宣告だった。  ​レアーヌがこれまで教育し、支えてきた若い男たちは、新しく現れた他人の物を欲しがり子悪魔メイドに骨抜きにされ、彼女を「加齢臭のする汚いおばさん」と蔑み、笑いながら追い出したのだ。 ​ 地位も、居場所も、信じていた絆も……すべてを失い、絶望する彼女の前に現れたのは、一人の美少年だった。 ​「僕とパーティーを組んでくれませんか? 貴方が必要なんです」  ​新米ながら将来の可能性を感じさせる彼は、レアーヌを「おばさん」ではなく「一人の女性」として、甘く狂おしく溺愛し始める。  一方でレアーヌという『真の支柱』を失った元パーティーは、自分たちがどれほど愚かな選択をしたかを知る由もなかった。  ​やがて彼らが地獄の淵で「戻ってきてくれ」と泣きついてきても、もう遅い。  レアーヌの隣には、彼女を離さないと誓った執着愛の化身が微笑んでいるのだから。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

バイトの時間なのでお先に失礼します!~普通科と特進科の相互理解~

スズキアカネ
恋愛
バイト三昧の変わり者な普通科の彼女と、美形・高身長・秀才の三拍子揃った特進科の彼。 何もかもが違う、相容れないはずの彼らの学園生活をハチャメチャに描いた和風青春現代ラブコメ。 ◇◆◇ 作品の転載転用は禁止です。著作権は放棄しておりません。 DO NOT REPOST.

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

処理中です...