立派な魔王になる方法

・めぐめぐ・

文字の大きさ
209 / 220
その後の話:未来の話をしよう

第16話 城内

しおりを挟む
「……何か思ってたんと違う」

 レシオは、城内を歩きながら小さく呟いた。彼の横を、ティンバーがぴったりついて歩いている。歩くたび、磨かれた石の床がコツコツと小さな音を立てた。

 二人は今、城の中を歩いていた。
 エントランスは非常に広く、様々な装飾品が二人を迎えてくれた。座る場所もあるため、彼ら以外の魔族たちが、小声ではあるが談笑を楽しみゆったりと過ごしている。エントランスは、魔族たちの憩いの場と化していた。

 この場所は、様々な部屋に続く通路と繋がっていて、一般の魔族たちが入る事の出来る場所にはご丁寧に案内図が用意されている。それを見る限り、一応魔王の謁見の間的な部屋にも行けるらしい。ただ、それ以外のプライベートスペースについては、一切の情報は見つけられなかった。
 結局、案内図があっても、ミディ伯母さんがどこにいるかは分からない状況は変わりなかった。

 ちなみにハルは事前の約束通り城内には入らなかったが、何かあった時の為に、一応城の前で馬と一緒に待ってくれている。

 レシオが呟いたのには理由があった。それは、城内に入るのが自由だというところだ。
 一応門番のような魔族はいるのだが、基本的に誰が入ってもスルー。こちらが何か聞きたい場合のみ、答えてくれるという対応。それは門番と言うよりも、案内人と言った方がいい。

 レシオは、城に入る前にしたハルとのやり取りを思い出していた。

「城に入る方法? 別に普通に正面から入ることが出来るんだが……」

 城に入る方法を相談した時、ハルは困ったように答えた。彼には、レシオが何を問題にしているのかが良く分かっていなかったようだ。逆に、レシオ自身が変な事を聞いてしまったのではないかと錯覚してしまうくらいの反応だった。
 あまりにも自然に、自然じゃない返答をされた為、危うくレシオは納得してしまうところだった。

 頭をブンブンと振ると、ハルに食ってかかった。

「そんなわけないでしょう! どこの国に、出入り自由な城があるっていうのですか!」

 そうは突っ込んだのだが、ハルが無言で城内に入り、誰一人彼を止めることがなかった現実を目の当たりにし、それ以上の言葉を紡ぐことが出来なかった。

 出入り自由な城は、この世界にあった。

 こうしてハル自身によって彼の言葉が正しい事が証明され、全く何もトラブルなく城内に潜入することが出来たのである。いや、もはや潜入ではない。ただの訪問だ。

”普通はこう……、色々城に入る為にあるだろっ!! ザルすぎんだろ、魔界の城っ!! 不用心にも程があるだろ、魔王っ!!”

 悩んだ時間を返せと言わんばかりに、レシオは心の中で愚痴った。

 2人が向かっているのは、謁見の間に繋がっている通路だ。手がかりがない以上、攫った張本人である魔王の周囲を調べる必要があった。調べる場所として、今分かっている場所で、かつ安全な場所が謁見の間しかなかったのだ。皆に開かれている場所という事もあり、危険は少ないだろうという判断から向かっているのである。

 進んで行くにつれて、廊下には一般の魔族たちの姿が少なくなり、今ではほとんど見られなくなった。時折、侍女とすれ違うが、誰一人レシオたちを止める者はいない。むしろ向こうから会釈され、戸惑いながらも二人は会釈を返すというのを繰り返している。

「何か……、平和なのです」

 ティンバーも、先ほどまでの緊張感はどこへやら。今は好奇心旺盛な様子で、辺りを見回している。彼女の目には、色々と珍しい物が写っていて、楽しそうだ。
 廊下に飾ってある花に歩み寄ると、その香りをかぎながら、ふと兄の方を振り返った。

「それにしても、ミディ様はどこにいらっしゃるのでしょうか?」

「さあね。攫われて約20年経っているんだ。正直、ミディ伯母さんが城内にいるかどうかも怪しいし……。というか、そもそも父上が言っていた生存情報すら正しいかどうか……」

「……ミディおばさん?」

 不意に後ろから、幼い少女の声が二人の耳に入って来た。
 レシオは心の中で舌打ちをし、声の方向へ振り返った。小声で話していたとはいえ、誰もいないと思ってミディ伯母さんの名を出したことを後悔する。

 そこには、城にいた侍女たちと同じ服装をした少女が2人を見上げていた。歳は、10歳ぐらいだろうか。年齢と服装が釣り合わず、レシオの思考が一瞬止まった。

”えっ、何で? 何でこんな少女が侍女姿に? 城の関係者なのか? でもこんな小さな子だぞ?”

 少女を見つめるレシオの頭の中には、大量の疑問符が沸き上がった。もしこの少女が城内で働く侍女であるなら、どれだけ魔界の城は人手不足なのだろう。

 しかし少女とはいえ、魔族だ。それに自分たちが救出すべき者の名を聞かれている。レシオは少女から一歩間を取ると、誤魔化そうと口を開いた。

「え、そんな事言ったかな? そっ、そんな事より、君はこの城の子? お父さんかお母さんが、ここで働いているのかな? それとも……、君もこの城で働いているの?」

 小さな子ども扱いな話し方に、少女は小さく噴き出した。
 そして笑いを止めると、少女がするには大人びた優雅過ぎる雰囲気を纏い、二人に対して挨拶をした。子どもらしからぬ雰囲気と不自然さは、違和感を通り越し、不気味にすら思える。

「私《わたくし》、この城の女中たちを統括する、女中頭ユニと申します。以後お見知りおきを……、プロトコルから来たお客様方」

 頭を上げ、少し上目遣いで彼らを見つめる少女。レシオは素早く剣に手をかけた。ティンバーの表情も硬くなり、拳を握っていつでも飛びかかることが出来るよう体制を整える。

 突然臨戦態勢をとった二人に対し、ユニと名乗った少女は全く動じない。寧ろ不思議そうに首を傾げ、二人の姿を見つめている。そして何かに気づいたかのように、小さな口が息を飲む音が聞こえたその時、

「うわあぁぁぁぁぁぁ――……!!」

 これまた幼い誰かの叫び声が、小さく廊下に響き渡った。恐らく、ここから離れた場所から発された叫び声だろう。声はすぐに消えてしまったが、3人の意識をそちら向くのに十分だった。
 この声を聞いた少女の顔色が変わった。

「ファズ様!!」

 声の主の名だろうか。先ほどまで纏っていた優雅な雰囲気は立ち消え、少女の顔に焦りが浮かぶ。少女はレシオたちに小さく会釈をすると、次の瞬間物凄い勢いで駆け出して行った。少女の後姿はみるみるうちに小さくなり、やがてどこかで曲がったのかふっと消えてしまった。

 廊下には、レシオとティンバーだけが残された。

“何があったのか分からないが……、逃げるなら今のうちに……”

 そう思うが、先ほど声が聞こえてきた方向から視線が逸らせない。心の声が、思わず口に出てしまった。

「……放っておけるわけがないだろ……、子どもの悲鳴だぞ……」

 心が助けに行けと言っている。それに従うかそれとも逆らうか、理性と感情に齟齬が生じ、彼の中で激しくぶつかっているのが、彼の苦しそうな表情から分かった。

 しかし、攫われて20年経つ叔母さんならともかく、幼い子どもの危機を目の前に逃げることができるほど、レシオは自分本位ではなかった。
 心を決め、彼はティンバーに視線を向けた。

「お兄様ならそう仰ると思ってたのです」

 ティンバーの表情には、彼の決断を讃える笑みが浮かんでいた。彼女も同じことを考えていたのだろう。自分と同じ決断をしてくれた兄を、嬉しくそして誇りに思っているのが伝わって来る。

 妹の言葉に、レシオは決心を固めた。

「俺たちも行くぞ!! もし……、何か危険かあれば、お前一人だけでも逃げろよ、ティンバー!」

「何を言っているのですか。お兄様の行くところ、私がお供をするのは……、私の意志なのですっ!」

 両手を後ろに組み、ティンバーは快活そうな瞳を輝かせながら、兄の顔を覗き込んだ。ティンバーの言葉にレシオはふっと小さく笑うと、声が聞こえた方向へと向かっていった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜

美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?

教養が足りない、ですって

たくわん
恋愛
侯爵令嬢エリーゼは、公爵家の長男アレクシスとの婚約披露宴で突然婚約破棄される。理由は「教養が足りず、公爵夫人として恥ずかしい」。社交界の人々の嘲笑の中、エリーゼは静かに会場を去る。

私は〈元〉小石でございます! ~癒し系ゴーレムと魔物使い~

Ss侍
ファンタジー
 "私"はある時目覚めたら身体が小石になっていた。  動けない、何もできない、そもそも身体がない。  自分の運命に嘆きつつ小石として過ごしていたある日、小さな人形のような可愛らしいゴーレムがやってきた。 ひょんなことからそのゴーレムの身体をのっとってしまった"私"。  それが、全ての出会いと冒険の始まりだとは知らずに_____!!

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

元公爵令嬢は年下騎士たちに「用済みのおばさん」と捨てられる 〜今更戻ってこいと泣きつかれても献身的な美少年に溺愛されているのでもう遅いです〜

日々埋没。
ファンタジー
​「新しい従者を雇うことにした。おばさんはもう用済みだ。今すぐ消えてくれ」  ​かつて婚約破棄され、実家を追放された元公爵令嬢のレアーヌ。  その身分を隠し、年下の冒険者たちの身の回りを世話する『メイド』として献身的に尽くしてきた彼女に突きつけられたのは、あまりに非情な追放宣告だった。  ​レアーヌがこれまで教育し、支えてきた若い男たちは、新しく現れた他人の物を欲しがり子悪魔メイドに骨抜きにされ、彼女を「加齢臭のする汚いおばさん」と蔑み、笑いながら追い出したのだ。 ​ 地位も、居場所も、信じていた絆も……すべてを失い、絶望する彼女の前に現れたのは、一人の美少年だった。 ​「僕とパーティーを組んでくれませんか? 貴方が必要なんです」  ​新米ながら将来の可能性を感じさせる彼は、レアーヌを「おばさん」ではなく「一人の女性」として、甘く狂おしく溺愛し始める。  一方でレアーヌという『真の支柱』を失った元パーティーは、自分たちがどれほど愚かな選択をしたかを知る由もなかった。  ​やがて彼らが地獄の淵で「戻ってきてくれ」と泣きついてきても、もう遅い。  レアーヌの隣には、彼女を離さないと誓った執着愛の化身が微笑んでいるのだから。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

処理中です...