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第三話(二)
しおりを挟む「なにするの!!」
どすりと鈍い音が蔵に響いた。
宴の準備に参加しようとお勝手にやってきた秋葉は、突然数人の男女に攫われて、屋敷の離れにある古びた蔵の中に放り込まれてしまったのだ。
家令が汚物を見るように秋葉を見下す。昔はあんなに優しい眼差しをくれていたのに、冷淡な視線に彼女はぞくりと粟立った。
「旦那様の命令だ。今日は四ツ折家にとって大事な日なので、儀式が終わるまで無能はここにいなさい」
「なっ……なんで――」
「旦那様から、『一族の恥は絶対に表に出るな』との伝言だ」
秋葉が抗議する前に、重い蔵の扉が閉じた。ガチャリと鍵のかかる音がする。一瞬で太陽の光が消えて、辺りは真っ暗になった。
「ふぅ……」
彼女のため息が、蔵に貯蔵された穀物によってかき消された。
声を上げて人を呼ぶのも億劫だった。彼らは既に去っただろうし、ここで叫び喚いたって、どうせ自分の声は届かない。
いや、仮に届いても誰も聞いてくれないだろう。
しかし頭の中は、思いのほか冷静だった。闇夜みたいな静寂が、心を沈めてくれたのだろうか。
夜は、落ち着く。
昔は朝が来るのが待ち遠しかった。早く太陽を浴びたくて、明日になるのが楽しみだった。
いつからだろうか。今は、世界が眠りについている夜のほうが、愛おしく感じる。
それでも。
(絶対にここから出なきゃ……!)
今日は龍神様への嫁入りの日。
もう御印は春菜に移ってしまったし、霊力もなくなってしまった。
それでも、あのとき彼と契約をしたのは、間違いなく自分だ。まだ希望はあるはずなのだ。
秋葉はおもむろに立ち上がり、瞳を閉じて精神を集中させた。
今こそ、これまでの修行の成果を見せるときだ。全身の霊気を両手に流れるように想像する。
びりびりと指先が痺れだす。少しのあいだ、それを蓄えて……。
(今よっ!)
秋葉はカッと大きく目を見開いて、
「はあぁぁぁっ!!」
全身の霊力を扉にぶつけた。
…………。
…………。
…………。
だが、やっぱり何も起こらない。霊気の滓どころか、空気さえも動かなかった。
「駄目か……」
矢庭に、落胆が重たく肩に乗っかってくる。
今日だけは奇跡が起こって欲しかった。だって、龍神様の花嫁になるために、これまでずっと頑張ってきたのだから。
「……」
――でも。
「私には物理があるもんねー!」
次の瞬間、彼女はドンと蔵の扉を思いっきり脚で蹴った。僅かだが、周囲の板が揺れる。
今度は体当たりをして、さらにもう一度蹴りを入れてみた。
なにも修行は霊力だけではない。肉体も鍛えてきたのだ。
何がなんでもこの扉をこじ開けてやる。
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