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第三話(六)
しおりを挟む「よ~う、白龍」
不意に、秋葉を庇うように、一人の青年が彼女と妹の間に立った。
「黒龍か……!」
光河は旧友の神力を感じ取って、僅かに口元を緩める。
「来てくれたのか」
「当然よ。腐れ縁の婚姻なんざ興味津々だろ~。酒と肴で、しっかり祝わねぇとなぁ~」
「はは。相変わらずだね。祝福に来てくれてありがとう」
「はっ」
彼――黒龍の目つきがにわかに鋭くなった。黄昏色の瞳が、みるみる怒りに染まっていく。
「こんな状況、祝える雰囲気じゃねぇだろ」
そして吐き捨てるように言った。たちまち剣呑な空気が彼らを包み込んでいく。
「どういうことだ……?」
「なぁ、白龍。お前は、その娘と婚姻を結ぶんだな?」
「勿論だ。私の印がここにあるからね」
白龍は春菜の額に手を触れる。すると光を増して彼に呼応した。
黒龍はその様子をしげしげと眺めたあと、
「全く……。お前は昔から抜けてると思っていたが、女を見る目も節穴だなぁ~、おい」
ニヤリと口元を吊り上げた。
白龍が不思議そうに首を傾げていると、黒龍はおもむろに秋葉のもとまで向かって、彼女を抱き上げた。
「じゃあ、この娘は俺が貰うぜ」
「えぇっ!?」
「はぁっ!?」
「……」
秋葉は目を剥き、春菜は目を白黒させ、白龍は閉じた瞼をぴくりと動かした。
黒龍はそんな周囲の反応を無視して、秋葉の顎を掴んでくいと持ち上げる。
「俺は黒龍。名は憂夜だ。お前の名は?」
「わっ……私は、秋葉……です……。秋に、葉っぱで秋葉」
「秋葉か。良い名前だな」
「ありがとうございます……?」
秋葉は間抜けな声で礼を言う。独特の空気を持つ黒龍の勢いに気圧されて、もう何がなんだが分からなくなっていた。彼の飄々とした雰囲気に、どんどん呑まれていく気がする。
「ならば、秋葉。――お前、俺の嫁になれ」
「はい……………………えぇぇえっ!!」
秋葉は仰天して大音声で叫んだ。
憂夜は彼女の腰を抱いて、ぐいと身体を引き寄せて楽しそうに言った。
「余りもの同士、仲良くやろうや」
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