115 / 124
第十九話 白の花嫁、黒の花嫁(一)
しおりを挟む
憂夜の父は、 歴代の黒龍として最も強い神力を持っていると称えられていた。
彼の力は恐ろしいほどに絶大で、当時の白龍――光河の父でさえも太刀打ちできないほどだった。
それに比例してなのか、彼はとても残忍で傲慢な性格だった。気に入らないことがあれば力ずくで覆して、無能だと判断した者は問答無用で叩き斬った。
さらに、手に入れたいと少しでも思ったものは、どんな相手からも強奪した。
憂夜の母は、鬼の妖だった。
彼女は鬼の中でもずば抜けた妖力を持っていた。妖は勿論のこと、神たちも一目置いていた存在だった。
母は同じ鬼族の許嫁がいた。二人は幼馴染で、とても仲が良かったらしい。
だが、母は父に見つかった。
彼は彼女の妖力をひと目で気に入り、すぐに花嫁として略奪していった。
そんな二人なので、結婚生活は当然上手くいくはずがない。
母は人間界や世界の理ために花嫁としての義務は果たしたが、それ以外は苦しみだけの人生だった。
憂夜が記憶している母親は、温もりなんてどこにもなかった。いつも悲しみに沈んで泣いているか、父や息子や運命そのものを憎んでいた。
彼は、母親の愛情など、一度たりとも受けたことがない。
母の機嫌の悪いときは、いつも打たれ、罵られていた。父は息子を庇うどころか「弱いお前が悪い」とさらに殴られた。
父は次第に妻が鬱陶しくなったようで、外に多くの女を作っていた。それが母の精神状態の悪化に拍車をかけて、彼女はどんどん壊れていった。
憂夜がまだ成人にも満たない頃、母は失踪した。
一週間後に発見されたときは、もう冷たくなっていた。
母の隣には見知らぬ男がいた。鬼族の幼馴染――元・許嫁だ。
(こんなの……間違ってる……!)
幼い憂夜は、父も母もおかしいと思った。それもこれも、花嫁に対して力だけを求めるのが誤っているのだと考えた。
長い年月を共に過ごす相手に必要なのは、力ではなく『魂』なのだと。
ゆえに彼は、己の花嫁は魂で選ぼうと決意していた。
秋葉は、高潔な魂の持ち主だと思った。
霊力があってもなくても、他者を思い遣り、寛容で、己の鍛錬も怠らない。明るくて、元気で、一緒にいるだけでパッと世界を照らすような娘だった。
彼は、そんな彼女と、魂の繋がった夫婦になりたいと切に願ったのだ。
秋葉と白龍である光河が共鳴して、彼女は白の花嫁となった。
即ち、魂が結ばれたということだ。
神の契約は絶対だ。理を破るなんて、決して行ってはならない。
二人は、本当に結ばれたのだ。
「やっぱり……秋葉は、最初から白龍の花嫁だったんだな……」
諦念の混じったため息が、虚しく零れ落ちる。
「端っから、俺の入る余地はなかったのか……」
二人の婚姻は、最初から運命で決まっていたのだ。瀕死の龍神を未来の花嫁が見つけて救うなんて、なんて素晴らしい物語なのだろうか。
憂夜は秋葉を愛している。
ゆえに、彼女が幸せになることを一番に願っている。
たとえその相手が、自分ではなかったとしても。
「参ったな」
彼はまたもやため息をついた。だが、それは暗澹たる気持ちが吹っ切れたような、歯切れの良いものだった。
「……仕方ない、俺が身を引くか」
魂が共鳴した二人の仲を裂くほど、自分は野暮ではないつもりだ。
秋葉のことは笑顔で見送ろうと思った。
――だが、その前に。
あの妹は、絶対になんとかしなければ。
彼の力は恐ろしいほどに絶大で、当時の白龍――光河の父でさえも太刀打ちできないほどだった。
それに比例してなのか、彼はとても残忍で傲慢な性格だった。気に入らないことがあれば力ずくで覆して、無能だと判断した者は問答無用で叩き斬った。
さらに、手に入れたいと少しでも思ったものは、どんな相手からも強奪した。
憂夜の母は、鬼の妖だった。
彼女は鬼の中でもずば抜けた妖力を持っていた。妖は勿論のこと、神たちも一目置いていた存在だった。
母は同じ鬼族の許嫁がいた。二人は幼馴染で、とても仲が良かったらしい。
だが、母は父に見つかった。
彼は彼女の妖力をひと目で気に入り、すぐに花嫁として略奪していった。
そんな二人なので、結婚生活は当然上手くいくはずがない。
母は人間界や世界の理ために花嫁としての義務は果たしたが、それ以外は苦しみだけの人生だった。
憂夜が記憶している母親は、温もりなんてどこにもなかった。いつも悲しみに沈んで泣いているか、父や息子や運命そのものを憎んでいた。
彼は、母親の愛情など、一度たりとも受けたことがない。
母の機嫌の悪いときは、いつも打たれ、罵られていた。父は息子を庇うどころか「弱いお前が悪い」とさらに殴られた。
父は次第に妻が鬱陶しくなったようで、外に多くの女を作っていた。それが母の精神状態の悪化に拍車をかけて、彼女はどんどん壊れていった。
憂夜がまだ成人にも満たない頃、母は失踪した。
一週間後に発見されたときは、もう冷たくなっていた。
母の隣には見知らぬ男がいた。鬼族の幼馴染――元・許嫁だ。
(こんなの……間違ってる……!)
幼い憂夜は、父も母もおかしいと思った。それもこれも、花嫁に対して力だけを求めるのが誤っているのだと考えた。
長い年月を共に過ごす相手に必要なのは、力ではなく『魂』なのだと。
ゆえに彼は、己の花嫁は魂で選ぼうと決意していた。
秋葉は、高潔な魂の持ち主だと思った。
霊力があってもなくても、他者を思い遣り、寛容で、己の鍛錬も怠らない。明るくて、元気で、一緒にいるだけでパッと世界を照らすような娘だった。
彼は、そんな彼女と、魂の繋がった夫婦になりたいと切に願ったのだ。
秋葉と白龍である光河が共鳴して、彼女は白の花嫁となった。
即ち、魂が結ばれたということだ。
神の契約は絶対だ。理を破るなんて、決して行ってはならない。
二人は、本当に結ばれたのだ。
「やっぱり……秋葉は、最初から白龍の花嫁だったんだな……」
諦念の混じったため息が、虚しく零れ落ちる。
「端っから、俺の入る余地はなかったのか……」
二人の婚姻は、最初から運命で決まっていたのだ。瀕死の龍神を未来の花嫁が見つけて救うなんて、なんて素晴らしい物語なのだろうか。
憂夜は秋葉を愛している。
ゆえに、彼女が幸せになることを一番に願っている。
たとえその相手が、自分ではなかったとしても。
「参ったな」
彼はまたもやため息をついた。だが、それは暗澹たる気持ちが吹っ切れたような、歯切れの良いものだった。
「……仕方ない、俺が身を引くか」
魂が共鳴した二人の仲を裂くほど、自分は野暮ではないつもりだ。
秋葉のことは笑顔で見送ろうと思った。
――だが、その前に。
あの妹は、絶対になんとかしなければ。
15
あなたにおすすめの小説
編み物好き地味令嬢はお荷物として幼女化されましたが、えっ?これ魔法陣なんですか?
灯息めてら
恋愛
編み物しか芸がないと言われた地味令嬢ニニィアネは、家族から冷遇された挙句、幼女化されて魔族の公爵に売り飛ばされてしまう。
しかし、彼女の編み物が複雑な魔法陣だと発見した公爵によって、ニニィアネの生活は一変する。しかもなんだか……溺愛されてる!?
離婚寸前で人生をやり直したら、冷徹だったはずの夫が私を溺愛し始めています
腐ったバナナ
恋愛
侯爵夫人セシルは、冷徹な夫アークライトとの愛のない契約結婚に疲れ果て、離婚を決意した矢先に孤独な死を迎えた。
「もしやり直せるなら、二度と愛のない人生は選ばない」
そう願って目覚めると、そこは結婚直前の18歳の自分だった!
今世こそ平穏な人生を歩もうとするセシルだったが、なぜか夫の「感情の色」が見えるようになった。
冷徹だと思っていた夫の無表情の下に、深い孤独と不器用で一途な愛が隠されていたことを知る。
彼の愛をすべて誤解していたと気づいたセシルは、今度こそ彼の愛を掴むと決意。積極的に寄り添い、感情をぶつけると――
余命僅かな大富豪を看取って、円満に未亡人になるはずでした
ぜんだ 夕里
恋愛
傾きかけた家を救うため、私が結んだのはあまりにも不謹慎な契約――余命いくばくもない大富豪の辺境伯様と結婚し、彼の最期を穏やかに看取ることで莫大な遺産を相続する、というものだった。
しかし、人の死を利用して富を得るなど不正義!
そう考えた私が立てたのは、前代未聞の計画。
「そうだ、遺産が残らないくらい贅沢の限りを尽くしてもらえば、すべて丸く収まるじゃない!」
旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~
榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。
ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。
別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら?
ー全50話ー
「わざわざ始まるまでまたないで、今のうちに手を打ったってよくない?」
イチイ アキラ
恋愛
アスター公爵令嬢エステルは、夢をみる。それは先を映す夢。
ある日、夢をみた。
この国の未来を。
それをアルフレッド王太子に相談する。彼女を愛して止まない婚約者に。
彼は言う。
愛する君とぼくの国のためなら、未来を変えるのも仕方なくない?
踏み台(王女)にも事情はある
mios
恋愛
戒律の厳しい修道院に王女が送られた。
聖女ビアンカに魔物をけしかけた罪で投獄され、処刑を免れた結果のことだ。
王女が居なくなって平和になった筈、なのだがそれから何故か原因不明の不調が蔓延し始めて……原因究明の為、王女の元婚約者が調査に乗り出した。
報われなかった姫君に、弔いの白い薔薇の花束を
さくたろう
恋愛
その国の王妃を決める舞踏会に招かれたロザリー・ベルトレードは、自分が当時の王子、そうして現王アルフォンスの婚約者であり、不遇の死を遂げた姫オフィーリアであったという前世を思い出す。
少しずつ蘇るオフィーリアの記憶に翻弄されながらも、17年前から今世まで続く因縁に、ロザリーは絡め取られていく。一方でアルフォンスもロザリーの存在から目が離せなくなり、やがて二人は再び惹かれ合うようになるが――。
20話です。小説家になろう様でも公開中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる