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第二章 派手に、生まれ変わります!
45 婚約者と異母妹と継母とのお茶会です!
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「まぁまぁ! あなたがクロエの婚約者の公爵令息様?」
コートニーがスコットにぴったりとくっついて、それをクロエが隣でにこにこと微笑ましそうに眺めている、奇妙なお茶会。
ぐいぐいと距離を詰めてくる未来の義妹にスコットが困惑していたとき、クリス・パリステラ侯爵夫人が顔を出した。
彼女はにこにこと取り繕ったような笑顔でスコットを見ている。その作られた完璧な慈愛の表情は、獲物を狙っているようにもクロエには見えた。
「初めまして、侯爵夫人。私はクロエ嬢の婚約者のスコット・ジェンナーと申します」と、彼はさり気なくコートニーから離れて、新らしい侯爵夫人に一礼をする。
「ご機嫌よう。あたくしはクリス・パリステラ。この子たちの母親よ。……それにしても、スコット公爵令息様は素敵な方ねぇ。あたくし、一目見てどきどきしちゃったわぁ!」
「そんなことは――」
「でっしょう!? お母様ぁ! あたしもびっくりしちゃったぁ! お異母姉様に、こぉ~んな格好いい婚約者がいただなんて!」
「そうね。クロエが羨ましいわぁ」
「もうつ! お母様にはお父様がいるでしょう!?」
「あら、そうだったわね。――それで、三人揃ってなんのお話をしていたの?」
「ふふ、ただの世間話ですわ。宜しければお継母様もご一緒にどうぞ。今、お茶を準備しますね」
クロエはてきぱきとメイドたちに指示を出して、継母の席の用意と、全員分の熱いお茶を淹れて、追加のお菓子も持って来させた。
スコットは婚約者の隣に座ろうと試みたが、あれよあれよという間に、目ざとい母娘に挟まれてしまった。
「本当に素敵な方ね。スコット様は。お顔も綺麗で、身分も高いし。たしか、王太子殿下の側近をされているんですって? とっても優秀なのね」と、クリスが言いながらスコットに顔を近付ける。
スコットは笑顔を貼り付けながらも、驚いて少しだけ顔をそらす。すると、そこにはコートニーが瞳を輝かせながら彼を見つめていて、たじたじになった。
(凄いわね。まるで女狩人だわ)
そんな滑稽な様子を、クロエは他人事のようにぼんやりと眺める。
きっと、逆行前も二人のこの勢いに彼はやられたのだろうと思うと、おかしくて思わず笑いが込み上げてきた。
「い、いえ……。王太子殿下の側近に選ばれたのは、たまたま僕の身分が高かっただけで、そんな優秀なんて……」と、スコットは謙遜する素振りを見せる。眼前の侯爵夫人の香水の匂いが、頭をくらりと刺激した。
「えぇ~! そんなことないですよーぅ! きっと、スコット様がご優秀だから選ばれたんですよぉ~」と、コートニーはまたぞろ彼の腕に絡み付いた。
「あ……ありがとう」と、彼の顔が強張った。助けを求めるように、クロエを見る。しかし、彼女はふふっと微笑して頷くだけだった。
「いいなぁ~! お異母姉様にはこぉ~んな素敵な婚約者がいてぇ~」
「そうねぇ、コートニーにも、いつか素敵な殿方が現れるといいのだけれど……。残念ながら、今もクロエにしか良い縁談が来ないのよねぇ~」と、クリスが艶めかしい視線をスコットに送った。
コートニーも意味深長に瞬きながら未来の義兄を見る。
「えっ! 縁談んっ!?」
スコットは間抜けな大声を上げながら、思わず立ち上がる。
そして目を見開いて、婚約者を見た。
(そう来るのね……)
クロエは微かに肩をすくめた。異母妹に加えて継母が来るということは、なにか仕掛けて来るとは思っていた。
おそらく、婚約者がいるにも関わらず未だに縁談が舞い込んでいることを理由に、不誠実な女とでも彼に思わせたいのだろう。
「まぁっ、スコット様はご存知ないの?」
……案の定、クリスの濃く縁取られた瞳ぎらりと光った。
「お異母姉様は今もたっくさん縁談が来ているんですよ~!」と、コートニーも母親に続く。
「えっ……と、どういうこと?」
スコットは困惑顔でクロエを見た。そんなこと、聞いていない。
まさか正式な婚約者がいる令嬢に縁談を持ち込むなんて……どこの恥知らずの貴族だ。
「まぁ、クロエはスコット様に言っていなかったの? 婚約者なのに、冷たいのねぇ……」クリスは仰々しく嘆いてからスコットを見た。「旦那様がおっしゃっていたの。クロエが聖女になってから縁談が後を絶たない、って」
「そうなの……?」と、スコットが気の抜けた様子でぽつりと訊く。
「えぇ、そうよ」クロエは真顔で返す。「お父様にお願いをして、求婚は全てお断りをしているわ。だから、心配しない――」
「あのね! スコット様!」出し抜けにコートニーの甲高い声が二人の会話を遮った。「お異母姉様はね、なんと、あのキンバリー帝国の皇子様からも求婚されているのよ! 凄いでしょう!?」
「帝国の皇子だって!?」
スコットは目を剥く。衝撃で全身が痺れたように硬直した。
キンバリー帝国の皇族なんて、ただの公爵令息の自分にとって雲の上の存在だ。そんな高貴な人物が、クロエに求婚だって? いくら侯爵家でも、帝国の権威には逆らえないんじゃないか。
それに計算高いパリステラ侯爵がこの機を逃すわけ――……。
「スコット」
クロエの呼び声で、彼ははっと我に返った。不安の波が押し寄せてくる。懇願するように婚約者を見た。
「安心して。お父様には丁重にお断りするように、お願いをしてあるから」
「そ、そう――」
「えぇ~っ! お異母姉様、ちょっと迷ってたじゃないですかぁ~っ!」
またぞろ異母妹が二人の間に割って入った。
「そうねぇ、さすがに帝国の皇子に求婚されたらクロエも嬉しいわよね。あのときも、なにやら考え込んでいたし」と、クリスも嬉々として援護射撃をする。
矢庭にスコットの表情が曇って、クロエは呆れたように小さくため息をついた。
(面倒ね……)
母娘の魂胆は見え見えだ。侯爵令嬢が皇子と公爵令息を天秤にかけている……とかなんとかを彼に思わせる気だろう。
そして最終的には二人の仲を壊す? 全く、よく悪知恵がぽんぽんと思い浮かぶものだ。
しかし、こちらとしても負けてはいられない。
あの時みたいに、ただ打ち負かされているクロエではないのだから。
クロエはすっと軽く息を吸ってから、
「お継母様とコートニーはまだ貴族生活が浅いのでご存知ないかもしれませんが……」
彼女の淀みのない堂々たる声が響く。
勝ち誇ったような顔の母娘と絶望的な表情のスコットは、自然と注目した。
「貴族の婚姻とは、家と家の繋がりなのです。その中には、政治的な意味も含まれます。ですので、この度のキンバリー帝国からの縁談は、国家と国家の関係性まで考えなければなりません。私が少し迷う素振りを見せたのは、そのためです。下手に帝国に逆らって、戦争なんてことに発展をしたら、国への影響は計り知れません。だから……」
クロエは潤んだ瞳で婚約者をじっと見つめた。
森のような深緑の奥には情熱が内包されていて、彼はどきりと胸が鳴る。
「だから、たとえ愛する殿方と一緒になりたいと切に願っても、当主であるお父様の意向を優先しないと…………」
「クロエ……」
スコットは胸を打たれた。
そうだった、彼女はこんなにも頭の良い子だった。貴族令嬢としての自身の立場を弁えて、家のことを一番に考えて、そのためには自己犠牲も惜しまない。そんな、優しい子だ。
「僕は――」彼は母娘などその場にいないかのように、愛しの婚約者だけを目の中に捉えた。「僕は、聖女の君に相応しい存在になるように、もっと頑張るよ。パリステラ侯爵が娘の婚約者は僕以外にあり得ないと思うほどに……!」
「まぁ! 嬉しいわ、スコット!」
スコットは情熱的にクロエを抱きしめて、彼女もそれを受け入れた。
内心、嫌悪感で胸が気持ち悪かったが、仕方ない。継母と異母妹に差というものを見せ付けるためだ。
一方スコットは、固く決意をする。
婚約者を帝国になんて渡さない。侯爵が懇願するほどに、立派な貴族にならなければ。彼女のために、もっと努力をして、多くの功績を上げるのだ。
二人の熱い抱擁をまざまざと眼前にしたクリスとコートニーは、腸が煮えくり返りそうだった。
またしても、クロエにやられてしまった。彼女はどんなに貶めようと攻撃を仕掛けても、かわすどころか逆に攻めて来る。なんて嫌な女なのだろう。
でも……このまま黙って引き下がれない。
「そうだわっ!」
クリスはさり気なくスコットをクロエから引き剥がして、とんと椅子に座らせた。
「ねぇ、スコット様。実はコートニーにはまだ婚約者がいないの。どなたか、素敵な殿方はいらっしゃらないかしら? ――あなたみたいな?」
「えっと……、そうですね……」
人の好い彼は、彼女の言葉を素直に受け入れて、誰か適当な人物はいないか考え込んだ。
(なんて切り替えの早さなの。潰しても潰しても復活してくるなんて、まるで雑草ね)
クロエは継母の素早い変わり身にちょっと感心した。
きっと彼女が平民から侯爵夫人まで上り詰めたのは、この当意即妙な身のこなしなのだろう。
全く、油断ならない女。
だが……それを上手く利用できそうだ。
「そうだわ、スコット。来月、王太子殿下の婚約者の公爵令嬢様が主催する、若い令息と令嬢向けのお茶会があるでしょう? それにコートニーも連れて行きましょう。きっと、良い出会いがあるかもしれないわ」
「そうだね……! 公爵令嬢の婚姻直前だから、王太子妃になる前の最後にかなり大規模に開催すると聞いたな。きっと婚約者の決まっていない令息も多く参加するだろう」
「ねっ、コートニーはどうかしら?」
「お茶会……行きたい!」
「あら、いいじゃない。きっと可愛いコートニーなら殿方に引く手あまたなはずよ。地味な異母姉と違って」
母娘は掌を返したように、すんなりとクロエの提案を受け入れた。
(この女もたまには役に立つじゃない)
(この女の人脈は利用できるわね)
……と、それぞれ腹に黒いものを抱えながら。
こうして、三人でお茶会へ行くことが決まった。
コートニーは目ぼしい男を探しに。
スコットは、これを機に己とクロエの深い愛情で結ばれた関係を示して、他の令息たちに縁談を諦めさせるようにしようと思っていた。
そしてクロエは、婚約者と異母妹の浮気現場でも作れないかと、ぼんやりと考えていたのだった。
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すみません、明日は更新休みます
コートニーがスコットにぴったりとくっついて、それをクロエが隣でにこにこと微笑ましそうに眺めている、奇妙なお茶会。
ぐいぐいと距離を詰めてくる未来の義妹にスコットが困惑していたとき、クリス・パリステラ侯爵夫人が顔を出した。
彼女はにこにこと取り繕ったような笑顔でスコットを見ている。その作られた完璧な慈愛の表情は、獲物を狙っているようにもクロエには見えた。
「初めまして、侯爵夫人。私はクロエ嬢の婚約者のスコット・ジェンナーと申します」と、彼はさり気なくコートニーから離れて、新らしい侯爵夫人に一礼をする。
「ご機嫌よう。あたくしはクリス・パリステラ。この子たちの母親よ。……それにしても、スコット公爵令息様は素敵な方ねぇ。あたくし、一目見てどきどきしちゃったわぁ!」
「そんなことは――」
「でっしょう!? お母様ぁ! あたしもびっくりしちゃったぁ! お異母姉様に、こぉ~んな格好いい婚約者がいただなんて!」
「そうね。クロエが羨ましいわぁ」
「もうつ! お母様にはお父様がいるでしょう!?」
「あら、そうだったわね。――それで、三人揃ってなんのお話をしていたの?」
「ふふ、ただの世間話ですわ。宜しければお継母様もご一緒にどうぞ。今、お茶を準備しますね」
クロエはてきぱきとメイドたちに指示を出して、継母の席の用意と、全員分の熱いお茶を淹れて、追加のお菓子も持って来させた。
スコットは婚約者の隣に座ろうと試みたが、あれよあれよという間に、目ざとい母娘に挟まれてしまった。
「本当に素敵な方ね。スコット様は。お顔も綺麗で、身分も高いし。たしか、王太子殿下の側近をされているんですって? とっても優秀なのね」と、クリスが言いながらスコットに顔を近付ける。
スコットは笑顔を貼り付けながらも、驚いて少しだけ顔をそらす。すると、そこにはコートニーが瞳を輝かせながら彼を見つめていて、たじたじになった。
(凄いわね。まるで女狩人だわ)
そんな滑稽な様子を、クロエは他人事のようにぼんやりと眺める。
きっと、逆行前も二人のこの勢いに彼はやられたのだろうと思うと、おかしくて思わず笑いが込み上げてきた。
「い、いえ……。王太子殿下の側近に選ばれたのは、たまたま僕の身分が高かっただけで、そんな優秀なんて……」と、スコットは謙遜する素振りを見せる。眼前の侯爵夫人の香水の匂いが、頭をくらりと刺激した。
「えぇ~! そんなことないですよーぅ! きっと、スコット様がご優秀だから選ばれたんですよぉ~」と、コートニーはまたぞろ彼の腕に絡み付いた。
「あ……ありがとう」と、彼の顔が強張った。助けを求めるように、クロエを見る。しかし、彼女はふふっと微笑して頷くだけだった。
「いいなぁ~! お異母姉様にはこぉ~んな素敵な婚約者がいてぇ~」
「そうねぇ、コートニーにも、いつか素敵な殿方が現れるといいのだけれど……。残念ながら、今もクロエにしか良い縁談が来ないのよねぇ~」と、クリスが艶めかしい視線をスコットに送った。
コートニーも意味深長に瞬きながら未来の義兄を見る。
「えっ! 縁談んっ!?」
スコットは間抜けな大声を上げながら、思わず立ち上がる。
そして目を見開いて、婚約者を見た。
(そう来るのね……)
クロエは微かに肩をすくめた。異母妹に加えて継母が来るということは、なにか仕掛けて来るとは思っていた。
おそらく、婚約者がいるにも関わらず未だに縁談が舞い込んでいることを理由に、不誠実な女とでも彼に思わせたいのだろう。
「まぁっ、スコット様はご存知ないの?」
……案の定、クリスの濃く縁取られた瞳ぎらりと光った。
「お異母姉様は今もたっくさん縁談が来ているんですよ~!」と、コートニーも母親に続く。
「えっ……と、どういうこと?」
スコットは困惑顔でクロエを見た。そんなこと、聞いていない。
まさか正式な婚約者がいる令嬢に縁談を持ち込むなんて……どこの恥知らずの貴族だ。
「まぁ、クロエはスコット様に言っていなかったの? 婚約者なのに、冷たいのねぇ……」クリスは仰々しく嘆いてからスコットを見た。「旦那様がおっしゃっていたの。クロエが聖女になってから縁談が後を絶たない、って」
「そうなの……?」と、スコットが気の抜けた様子でぽつりと訊く。
「えぇ、そうよ」クロエは真顔で返す。「お父様にお願いをして、求婚は全てお断りをしているわ。だから、心配しない――」
「あのね! スコット様!」出し抜けにコートニーの甲高い声が二人の会話を遮った。「お異母姉様はね、なんと、あのキンバリー帝国の皇子様からも求婚されているのよ! 凄いでしょう!?」
「帝国の皇子だって!?」
スコットは目を剥く。衝撃で全身が痺れたように硬直した。
キンバリー帝国の皇族なんて、ただの公爵令息の自分にとって雲の上の存在だ。そんな高貴な人物が、クロエに求婚だって? いくら侯爵家でも、帝国の権威には逆らえないんじゃないか。
それに計算高いパリステラ侯爵がこの機を逃すわけ――……。
「スコット」
クロエの呼び声で、彼ははっと我に返った。不安の波が押し寄せてくる。懇願するように婚約者を見た。
「安心して。お父様には丁重にお断りするように、お願いをしてあるから」
「そ、そう――」
「えぇ~っ! お異母姉様、ちょっと迷ってたじゃないですかぁ~っ!」
またぞろ異母妹が二人の間に割って入った。
「そうねぇ、さすがに帝国の皇子に求婚されたらクロエも嬉しいわよね。あのときも、なにやら考え込んでいたし」と、クリスも嬉々として援護射撃をする。
矢庭にスコットの表情が曇って、クロエは呆れたように小さくため息をついた。
(面倒ね……)
母娘の魂胆は見え見えだ。侯爵令嬢が皇子と公爵令息を天秤にかけている……とかなんとかを彼に思わせる気だろう。
そして最終的には二人の仲を壊す? 全く、よく悪知恵がぽんぽんと思い浮かぶものだ。
しかし、こちらとしても負けてはいられない。
あの時みたいに、ただ打ち負かされているクロエではないのだから。
クロエはすっと軽く息を吸ってから、
「お継母様とコートニーはまだ貴族生活が浅いのでご存知ないかもしれませんが……」
彼女の淀みのない堂々たる声が響く。
勝ち誇ったような顔の母娘と絶望的な表情のスコットは、自然と注目した。
「貴族の婚姻とは、家と家の繋がりなのです。その中には、政治的な意味も含まれます。ですので、この度のキンバリー帝国からの縁談は、国家と国家の関係性まで考えなければなりません。私が少し迷う素振りを見せたのは、そのためです。下手に帝国に逆らって、戦争なんてことに発展をしたら、国への影響は計り知れません。だから……」
クロエは潤んだ瞳で婚約者をじっと見つめた。
森のような深緑の奥には情熱が内包されていて、彼はどきりと胸が鳴る。
「だから、たとえ愛する殿方と一緒になりたいと切に願っても、当主であるお父様の意向を優先しないと…………」
「クロエ……」
スコットは胸を打たれた。
そうだった、彼女はこんなにも頭の良い子だった。貴族令嬢としての自身の立場を弁えて、家のことを一番に考えて、そのためには自己犠牲も惜しまない。そんな、優しい子だ。
「僕は――」彼は母娘などその場にいないかのように、愛しの婚約者だけを目の中に捉えた。「僕は、聖女の君に相応しい存在になるように、もっと頑張るよ。パリステラ侯爵が娘の婚約者は僕以外にあり得ないと思うほどに……!」
「まぁ! 嬉しいわ、スコット!」
スコットは情熱的にクロエを抱きしめて、彼女もそれを受け入れた。
内心、嫌悪感で胸が気持ち悪かったが、仕方ない。継母と異母妹に差というものを見せ付けるためだ。
一方スコットは、固く決意をする。
婚約者を帝国になんて渡さない。侯爵が懇願するほどに、立派な貴族にならなければ。彼女のために、もっと努力をして、多くの功績を上げるのだ。
二人の熱い抱擁をまざまざと眼前にしたクリスとコートニーは、腸が煮えくり返りそうだった。
またしても、クロエにやられてしまった。彼女はどんなに貶めようと攻撃を仕掛けても、かわすどころか逆に攻めて来る。なんて嫌な女なのだろう。
でも……このまま黙って引き下がれない。
「そうだわっ!」
クリスはさり気なくスコットをクロエから引き剥がして、とんと椅子に座らせた。
「ねぇ、スコット様。実はコートニーにはまだ婚約者がいないの。どなたか、素敵な殿方はいらっしゃらないかしら? ――あなたみたいな?」
「えっと……、そうですね……」
人の好い彼は、彼女の言葉を素直に受け入れて、誰か適当な人物はいないか考え込んだ。
(なんて切り替えの早さなの。潰しても潰しても復活してくるなんて、まるで雑草ね)
クロエは継母の素早い変わり身にちょっと感心した。
きっと彼女が平民から侯爵夫人まで上り詰めたのは、この当意即妙な身のこなしなのだろう。
全く、油断ならない女。
だが……それを上手く利用できそうだ。
「そうだわ、スコット。来月、王太子殿下の婚約者の公爵令嬢様が主催する、若い令息と令嬢向けのお茶会があるでしょう? それにコートニーも連れて行きましょう。きっと、良い出会いがあるかもしれないわ」
「そうだね……! 公爵令嬢の婚姻直前だから、王太子妃になる前の最後にかなり大規模に開催すると聞いたな。きっと婚約者の決まっていない令息も多く参加するだろう」
「ねっ、コートニーはどうかしら?」
「お茶会……行きたい!」
「あら、いいじゃない。きっと可愛いコートニーなら殿方に引く手あまたなはずよ。地味な異母姉と違って」
母娘は掌を返したように、すんなりとクロエの提案を受け入れた。
(この女もたまには役に立つじゃない)
(この女の人脈は利用できるわね)
……と、それぞれ腹に黒いものを抱えながら。
こうして、三人でお茶会へ行くことが決まった。
コートニーは目ぼしい男を探しに。
スコットは、これを機に己とクロエの深い愛情で結ばれた関係を示して、他の令息たちに縁談を諦めさせるようにしようと思っていた。
そしてクロエは、婚約者と異母妹の浮気現場でも作れないかと、ぼんやりと考えていたのだった。
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