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第二章 派手に、生まれ変わります!
48 三人で仲良くお茶会です!②
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「ふええぇぇぇぇぇぇぇぇええんんっっっ!!」
耳をつんざくような、コートニーの金切り声に似た泣き声が会場中に響いた。
一瞬で華やかな空気が不穏に変わって、白けた雰囲気が波紋のように広がる。
「コートニー、どうしたの!?」
クロエは慌ててこの騒ぎの元凶のもとへと駆けて行った。
見ると、その場にへたり込んだコートニーが今もびぃびぃ声を出して泣いていて、彼女を取り巻く令嬢たちが茫然自失と立ち尽くしている。
すかさず聖女クロエは、床に膝を付いて異母妹の顔を覗き込んだ。
「コートニー、大丈夫? 一体なにがあったの?」
「えっぐ……えっぐ…………」
異母妹はまだすすり泣いている。クロエがちらりと顔を上げると、令嬢たちは全員とも顔面蒼白で微かに身体を震わせて、とても話を聞けるような状況ではなさそうだった。
「泣いているだけでは分からないわ。ゆっくりでいいから、なにが起こったか教えてくれる?」と、彼女は異母妹の背中を慰めるように優しく撫でた。
(全く……。公爵令嬢のお茶会で、なんという粗相をしでかすのかしら。本当に面倒くさいわね……)
……心の声は別として。
「おねぇさまぁぁぁぁ……」
ややあって、コートニーはやっと顔を上げる。
小動物のように可愛らしかった顔は涙でぐしゃぐしゃで、ひくひくと引き攣らせていた。
「まずは涙を拭きましょう」と、クロエはハンカチを取り出して異母妹の顔を丁寧に拭う。
すると、
「お異母姉様っ、ごめんなさいっ!! あたし、本当に知らなかったんですぅぅっ!!」
にわかに、コートニーがクロエにひしと抱き着いた。
「えっ……と……?」
戸惑うクロエに構わず、彼女は続ける。
「本当にごめんなさいっ! 全部あたしが悪いんですっ! あたし……平民だったから、貴族のルールなんて知らなくて…………!」
またもや会場がざわついた。
コートニーは、舞台の中心で明かりに照らされている女優かのように、大袈裟に嘆き悲しんだ声を上げる。
「あのね……平民では仲の良い家族間で貸し借りは当たり前なんです……。だから……あたし、早くお異母姉様といっぱい仲良くなりたくて、それでネックレスを……。あたしも、聖女だって言われているお異母姉様みたいになりたくて……だから…………」
「コ、コートニー……」
クロエは、貴族たちの空気に変化の兆しが起こっているのを、ひたひたと肌で感じた。冷や汗が額に滲む。
しおらしい妹。平民出身で、まだ貴族のルールを知らなかっただけ。異母姉に憧憬の念を抱き、親しくなりたい。
それなのに、姉はそんな健気な妹の不名誉な噂を広めて……。
(これじゃあ、私が純真な異母妹をいびっているみたいじゃない……!)
コートニーの勢いは止まらない。
「本当に、悪いことだなんて知らなかったんです……。あたしのやったことが、お異母姉様を傷付けていただなんて……。こ、こんな、大ごとになるなんて……。教えてくれたら、頑張ってお勉強したのに…………!」
水を打ったように静まり返った会場に、コートニーの弱々しい声が響く。その姿は可憐そのものだった。
令息を中心に、ぽつぽつと同情の囁き声が聞こえてくる。
「これは……仕方がなかったんじゃないか?」
「そうだ。知らないんだから、教えてやれば良かったのに」
「聖女なのに、案外冷たいんだな」
「コートニー嬢は清らかで純粋な子だなぁ」
ぞくりと背中に悪寒が走った。
この流れは非常に不味い。無責任な貴族社会だ、このままではあっという間に「妹をいじめる姉」という構図が成り立ってしまう。
そうなれば、逆行前のように、社交界へ顔を出せなくなる事態にまで発展する可能性だってある。
ふと、異母妹を見た。
彼女は今もさめざめと涙を流している。それは庇護欲を掻き立てられるような、とても愛らしい姿で、実際に心を奪われる令息もちらほらいたほどだ。
しかし……コートニーの口元の両端が微かに上がっているのを、クロエは見逃さなかった。
(やられたわ……! 完全に意図的なものね……)
クロエは確信する。
これは、コートニーの作戦だ。大声で泣き喚いて注目を集め、謝罪する素振りで異母姉を追い詰める……。
やはり、この母娘は油断ならない。
(これで、あたしの勝ちね。あの女の悔しがる間抜け面を早く見たいわぁ~!)
コートニーの心の中では、笑いが止まらなかった。
ちょっと油断をすると吹き出しそうになるので、唇をぎゅっと噛み締めて我慢する。堪えた笑い声に身体が震えて、いい塩梅に哀れに見えるだろう。
自分たちの貴族社会からの評価は噂で知っていた。
ただでさえ愛人とその娘……しかも元平民という身分で分が悪く、更に異母姉の宝物を奪ったという悪評。
社交界で華々しく活躍するには、まずはこれを払拭する必要があった。
そして、この噂の出どころを知っている――異母姉だ。
あの女は、聖女という仮面を被って、さも自身が被害者のように有ること無いこと悪い噂を広めているのだ。
ならば、それを逆手に取って、あの女を貶めてやる。
(ありがとうございます、お異母姉様。あたしに挽回のチャンスを与えてくださって……!)
コートニーの口元が、にやりと不気味に歪んだ。
耳をつんざくような、コートニーの金切り声に似た泣き声が会場中に響いた。
一瞬で華やかな空気が不穏に変わって、白けた雰囲気が波紋のように広がる。
「コートニー、どうしたの!?」
クロエは慌ててこの騒ぎの元凶のもとへと駆けて行った。
見ると、その場にへたり込んだコートニーが今もびぃびぃ声を出して泣いていて、彼女を取り巻く令嬢たちが茫然自失と立ち尽くしている。
すかさず聖女クロエは、床に膝を付いて異母妹の顔を覗き込んだ。
「コートニー、大丈夫? 一体なにがあったの?」
「えっぐ……えっぐ…………」
異母妹はまだすすり泣いている。クロエがちらりと顔を上げると、令嬢たちは全員とも顔面蒼白で微かに身体を震わせて、とても話を聞けるような状況ではなさそうだった。
「泣いているだけでは分からないわ。ゆっくりでいいから、なにが起こったか教えてくれる?」と、彼女は異母妹の背中を慰めるように優しく撫でた。
(全く……。公爵令嬢のお茶会で、なんという粗相をしでかすのかしら。本当に面倒くさいわね……)
……心の声は別として。
「おねぇさまぁぁぁぁ……」
ややあって、コートニーはやっと顔を上げる。
小動物のように可愛らしかった顔は涙でぐしゃぐしゃで、ひくひくと引き攣らせていた。
「まずは涙を拭きましょう」と、クロエはハンカチを取り出して異母妹の顔を丁寧に拭う。
すると、
「お異母姉様っ、ごめんなさいっ!! あたし、本当に知らなかったんですぅぅっ!!」
にわかに、コートニーがクロエにひしと抱き着いた。
「えっ……と……?」
戸惑うクロエに構わず、彼女は続ける。
「本当にごめんなさいっ! 全部あたしが悪いんですっ! あたし……平民だったから、貴族のルールなんて知らなくて…………!」
またもや会場がざわついた。
コートニーは、舞台の中心で明かりに照らされている女優かのように、大袈裟に嘆き悲しんだ声を上げる。
「あのね……平民では仲の良い家族間で貸し借りは当たり前なんです……。だから……あたし、早くお異母姉様といっぱい仲良くなりたくて、それでネックレスを……。あたしも、聖女だって言われているお異母姉様みたいになりたくて……だから…………」
「コ、コートニー……」
クロエは、貴族たちの空気に変化の兆しが起こっているのを、ひたひたと肌で感じた。冷や汗が額に滲む。
しおらしい妹。平民出身で、まだ貴族のルールを知らなかっただけ。異母姉に憧憬の念を抱き、親しくなりたい。
それなのに、姉はそんな健気な妹の不名誉な噂を広めて……。
(これじゃあ、私が純真な異母妹をいびっているみたいじゃない……!)
コートニーの勢いは止まらない。
「本当に、悪いことだなんて知らなかったんです……。あたしのやったことが、お異母姉様を傷付けていただなんて……。こ、こんな、大ごとになるなんて……。教えてくれたら、頑張ってお勉強したのに…………!」
水を打ったように静まり返った会場に、コートニーの弱々しい声が響く。その姿は可憐そのものだった。
令息を中心に、ぽつぽつと同情の囁き声が聞こえてくる。
「これは……仕方がなかったんじゃないか?」
「そうだ。知らないんだから、教えてやれば良かったのに」
「聖女なのに、案外冷たいんだな」
「コートニー嬢は清らかで純粋な子だなぁ」
ぞくりと背中に悪寒が走った。
この流れは非常に不味い。無責任な貴族社会だ、このままではあっという間に「妹をいじめる姉」という構図が成り立ってしまう。
そうなれば、逆行前のように、社交界へ顔を出せなくなる事態にまで発展する可能性だってある。
ふと、異母妹を見た。
彼女は今もさめざめと涙を流している。それは庇護欲を掻き立てられるような、とても愛らしい姿で、実際に心を奪われる令息もちらほらいたほどだ。
しかし……コートニーの口元の両端が微かに上がっているのを、クロエは見逃さなかった。
(やられたわ……! 完全に意図的なものね……)
クロエは確信する。
これは、コートニーの作戦だ。大声で泣き喚いて注目を集め、謝罪する素振りで異母姉を追い詰める……。
やはり、この母娘は油断ならない。
(これで、あたしの勝ちね。あの女の悔しがる間抜け面を早く見たいわぁ~!)
コートニーの心の中では、笑いが止まらなかった。
ちょっと油断をすると吹き出しそうになるので、唇をぎゅっと噛み締めて我慢する。堪えた笑い声に身体が震えて、いい塩梅に哀れに見えるだろう。
自分たちの貴族社会からの評価は噂で知っていた。
ただでさえ愛人とその娘……しかも元平民という身分で分が悪く、更に異母姉の宝物を奪ったという悪評。
社交界で華々しく活躍するには、まずはこれを払拭する必要があった。
そして、この噂の出どころを知っている――異母姉だ。
あの女は、聖女という仮面を被って、さも自身が被害者のように有ること無いこと悪い噂を広めているのだ。
ならば、それを逆手に取って、あの女を貶めてやる。
(ありがとうございます、お異母姉様。あたしに挽回のチャンスを与えてくださって……!)
コートニーの口元が、にやりと不気味に歪んだ。
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