【完結】ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜

あまぞらりゅう

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第二章 派手に、生まれ変わります!

66 不正発覚です!

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 やがて、混濁した土煙は晴れる。
 会場内は再び静寂に包まれて、観客たちはこの決定的な瞬間を見逃すまいと息を押し殺して見守っていた。

 一方は、聖女。すっと背筋を正して、しなやかに立っていた。客席から安堵の声が漏れる。
 そして、彼女の前には、異母妹が――、

 うつ伏せになって倒れていた。


「「「「「おおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおっっっ!!」」」」」


 割れんばかりの拍手と歓声。それは会場を飛び出して、王都を揺らした。

 しばらくのあいだ耳を澄ましてから、審判が大声を上げる。

「勝者、クロエ・パリステ――」

「なんてことなのっ!!」

 そのとき、自分のための勝利宣言を遮ってクロエが叫んだ。
 誰もが目を丸くして、ぴたりと動きを止める。

「コートニー、これは……魔石じゃないっ!! なぜ、ルールで禁止されている魔石をあなたが持っているのっ!?」

 聖女の悲鳴のような声に驚いて、会場中が敗者であるコートニーを見る。
 すると、彼女の周囲には、真っ赤な宝石のようなものが散らばっていた。それは大小さまざまな大きさで、太陽の光を反射するように、ぎらぎらと輝いていた。

 魔石とは、凝縮した膨大な魔力が詰まっている宝石だ。何十年、何百年と時間をかけて大地の魔力を蓄積した天然の宝石が魔石へと変化する。
 その効果は、魔導士が己の持つ力量を遥かに凌ぐほどに、強い魔法を発動できるようになるのだ。

 魔石はとても貴重なもので、その効果から国が厳重に管理をしていた。人工的に魔力を注入した魔石は市場に多く出回っているが、天然のものは希少でとても高価だった。

 そんな珍しい魔石が、コートニーの懐からごろごろと出てきたのだ。会場内はざわついて、普段は感情を面に出さない高位貴族や王族までにも動揺が走った。

 ロバートは顔面蒼白で凍り付き、クリスは理解不能といったように唖然としていた。
 二人の近くでは、国王が渋面を作って下の様子を見つめていた。途端に、冷え込んだ空気が周囲に伝播する。



「は……? なに言ってるの……?」

 満身創痍のコートニーは、顔だけをクロエに向けて小さく言った。異母姉がなにを言っているのか全然分からなかった。

(魔石? 一体、なんのこと? っていうか、自分の周りにあるこの宝石はなに?)

「お……おかしいと思っていたの……」クロエは震えながら涙目で異母妹を見る。「ずっと魔法が使えなかったあなたが、まるで魔法大会に合わせたかのように、突然強い力に目覚めるなんて……」

「はぁっ!?」

 コートニーは抗議しようとするが、疲弊した肉体は言うことを聞かず、重力に押し潰されるかのように、地べたから恨みがましく異母姉を見上げるだけだった。

 クロエはそんな異母妹のことなどお構いなしに酷く悲しげな様相で、

「まさか、こんな不正をしていただなんて……! 国王陛下の御前で……なんてことをっ!!」

 彼女の一言に会場内は騒然となった。不穏な囁き声がそこかしこから溢れ出す。
 今日の魔法大会は国王主催なのだ。仮に不正を行ったとしたら、我が国の最高位である国王陛下を侮辱することになる。
 そうなると――…………、

 そのとき、険しい顔をした騎士たちが、試合場に勢いよく駆けて来た。

 そして、

「なっ、なにするの!?」

 すぐさまコートニーを拘束して、魔道具を用いて散らばっている魔石の調査を始めた。張り詰めた緊張感が場内を支配して、水を打ったように静かになった。

 つつと涙を流すクロエと呆然とするコートニー。血の気の引いたロバートは今にも倒れそうで、クリスは顔を真っ赤にして継子を睨み付けていた。


 しばしの沈黙のあと、

「これは……ジェンナー公爵家が管理している魔石です!」

 騎士の一人が張りのある声を響かせた。
 次の瞬間、スコット・ジェンナー公爵令息に数多もの視線が集まった。

「えっ……はっ…………?」

 虚を衝かれたスコットは頭が真っ白になって、ただ硬直する。本当に、意味が分からなかった。

 ジェンナー公爵領は天然の魔石の採掘量が国内で随一で、公爵家はその恩恵を受けて発展していった。
 他の領地よりも質の良いジェンナー領の魔石は王室にも献上していて、代々の国王を戦場で何度も救っていた。そのお陰で、公爵家は国内でも有数の名門貴族になったのだ。

 そんな魔石を使って御前試合で不正を行うということは、反逆罪も同然であり、今後のジェンナー家の命運は……それは火を見るより明らかだ。

 折悪しく、今は彼の両親――ジェンナー公爵と公爵夫人は領地へ視察へ出掛けていて、嫡男である彼が家門の代表だった。初めて受ける侮蔑の混じった視線の数々に、彼は戸惑いを隠せない。

 状況が理解できずに完全に思考が固まってしまっている彼のもとに、屈強な騎士たちが慌ただしくやって来て、罪人のように拘束されるのにそう時間はかからなかった。


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