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第23章 – 数字と挑発の狭間で
しおりを挟む英司と明美の会話は、意外にも実りある流れとなっていた。最初こそ緊張があったものの、すぐに二人は計算や概念、戦略に没頭していった。明美は、まるでそれが当たり前かのように、英司のノートを手に取り、説明しながら例を書き込んでいく。
「まず理解してほしいのは、バーも他の企業と同じで、さまざまなコストが発生するということ。でも迷わないためには、最初にいくつかの変数を消してしまうのが理想ね。」
彼女は眼鏡を押し上げ、自信に満ちた笑みを浮かべながら説明した。
「例えば、どんな変数だ?」英司が真剣に尋ねる。
「税金。」即答する。
「全部正しく支払えば、その分計算から外せる。負担は大きいけど、その方が会計はずっとシンプルになるの。」
英司は一字一句逃さずメモを取り、頭に叩き込んでいく。明美は続けた。
「それから、固定費と変動費を分けること。固定費は変わらないもの──家賃や給料、光熱費。変動費は動くもの──ドリンク、食材、残業代ね。そうやって分ければ、キャッシュフローを作れる。収入と支出を正しく把握できるわ。」
英司はペンを顎に当て、考え込む。
「じゃあ、それを毎日管理すれば、利益と損失の実態が掴めるわけか。」
「その通り!」明美は満足げに頷いた。
「それを身につければ、投資する時期、支出を抑える時期、さらにはお客さんを苦しめない程度に料金を設定するタイミングも見えてくる。」
二人の会話は何時間も続いた。説明とメモの繰り返しで、時の流れを忘れてしまうほどだった。英司のスマホが震えた時、ようやく夜が更けていることに気づく。画面にはハンナからのメッセージ。
「今夜はバーに来る?」
彼はすぐに返信した。
「今日は無理だ。勉強中なんだ。明日説明するよ。」
すぐに返事が届く。
「わかった。頑張ってね。」
数字とアイデアで頭がいっぱいのまま、英司は明美に感謝を述べ、翌日すぐに実践すると約束して別れを告げた。
翌日。バーの扉をくぐった英司の胸には、期待と緊張が入り混じっていた。明美に学んだことを試す時が来たのだ。しかし、ノートを開く間もなく、予想外の光景に息を呑む。
そこにいたのは、黒のタイトなドレスを纏ったハンナだった。片側に大胆なスリットが入り、肌が艶めかしく露わになっている。彼女はゆっくりと歩み寄り、ヒールの音を響かせながら英司の目前に立った。顔が触れそうな距離。
「そういうことなの、英司?」低く、囁くような声。しかし熱を帯びた響きだった。
「私たちを、そんなふうに置き去りにするの?」
「置き去り?どういう意味だ?」英司は戸惑い、瞬きを繰り返す。
ハンナは片眉を上げ、不満げに唇を尖らせた。
「昨日、ユキが見たのよ……他の女の子と一緒にいるあなたを。」
英司の心臓が跳ねた。視線を巡らせると、ユキが店の向こうで客に飲み物を運んでいた。彼女は目が合うと顔を赤らめ、慌ててそらし、仕事に没頭するふりをした。
「誤解だ。あれはただの大学の友達で……勉強を手伝ってもらっていただけだ。」英司は落ち着こうと必死に説明する。
ハンナは首を傾げ、彼の言葉を吟味するように見つめる。そして、大げさにため息をついた。
「こんなに可愛い女の子たちがここにいるのに……外に探しに行くなんて?」
英司が言い返そうとした瞬間、彼女は悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「冗談よ。」小声で呟くが、その距離の近さは冗談に聞こえなかった。
次の瞬間、ハンナは英司を壁際に押し付ける。脚が彼の足に触れ、指先は肩から首筋へと滑り、軽く爪を立てる。
「でもね……」唇を近づけ、頬にそっと口づけを落とす。
「あなたをからかうのって、本当に楽しいの。」
英司の顔は真っ赤になり、すぐには反応できなかった。ハンナは満足げに微笑み、距離を取る。
「そんなに真剣にならなくていいのよ。」彼女はドレスを整えながら言った。
英司は咳払いをして、必死に平静を取り戻そうとする。
「実は……昨日はキャッシュフローや会計について勉強しててさ。明日の午後、良ければ教えてあげる。」
ハンナの目が輝いた。まるで子どもが「プレゼント」と聞いた時のように。
「ほんとに?じゃあ、明日は一日中英司と一緒?」
彼は照れくさそうに後頭部をかく。
「もし学びたいなら……そうだな。」
ハンナは嬉しそうに飛び跳ね、彼の手をしっかり握った。
「やった!もう楽しみで仕方ない!」
その一部始終を、ユキはカウンターの奥からじっと見つめていた。ハンナの大胆な仕草に胸が締めつけられるような痛みを覚えつつ──それでも目を逸らすことができなかった。
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