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プロローグ
しおりを挟む「妄想ロボって何なんだよ」
俺は思わず呟く。
俺は今ロボットに乗って小さいバッタのようなメカに囲まれていた。その数数千。自転車よりも小さいメカだが、これだけ数が揃うと気持ちが悪い。
「ああー、邪魔くさい」
飛んできたバッタメカをロボットの手で払う。このロボットは操縦桿を必ずしも操作する必要はなく、頭の中で動きをイメージすればその動きをロボットがトレースする。
「洸平、こっちからも来た」
隣のシートに座る幼馴染みの竹浦可奈子が言う。俺——桜川洸平と同じ積星高校に通う二年生。デニムのショートパンツにゆったりめのTシャツ。長い髪の毛はポニーテールにしている。いつもの格好。
キリッとした眉と、少しだけ目尻が釣り上がった大きな目。それは昔から変わらない。最近は少し大人っぽくなって来て、俺は置いて行かれそうな不安がある。
記憶は無いが、おそらく生まれた時から一緒にいる。首の座ってない二人が一緒に写っている写真があるから、間違いない。
お互いの両親がそもそも知り合いで、家も隣同士なんだからそうなるのも当たり前かもしれない。
ただ、高校生にもなって毎日一緒に登下校しているとか、休みの度にお互いの家を行き来しているとか、そこまで続くとは考えていなかったらしい。
そうして平和でのどかな生活に変化が現れたのは一ヶ月前。この虎杖浜市に宇宙からの侵略者がやって来たのだ。
正体不明の彼らは小さなメカを大量に町に放ち、破壊の限りを尽くしていた。
——とまあ、実際は小さいメカがうろうろして邪魔なだけで、実害はほとんどない。
だから俺みたいな普通の高校生がロボットなんぞを操作できるわけで。
このロボット。ギジオレ。疑似の俺、と言う意味らしい。地球連合軍で製作、管理されてる。
先程説明したように、俺が頭でイメージした通りの動きをするロボット。操縦桿や足元のペダルはきっかけでしかない。
そして同時に、このロボットの本領を発揮させるには、妄想力とやらが必要だと言う。
「妄想力って何だよ」
俺は言いながら、飛びついてきたバッタロボを手で払う。ゆっくりとした動きだが、これぐらいのメカならば問題無い。
「パパが言ってたのは、アレ、アレでしょ」
ギジオレの開発者にして可奈子の父親である竹浦源治おじさんに言われた事を思い出し、可奈子は濁して言う。
可奈子は何だか言いにくそうにしているが、妄想力とやらに必要なのは、妄想。もっと単純に言うと、エロだ。
厳密には違うらしいが、いやらしい事を考えれば強くなるらしい。もっと言えば、思春期男子のエロがベスト。らしい。それが俺の頭に装着されたヘッドホンのようなギアから、ロボットに送られる。
「そうは言っても、難しいんだよな」
俺はギジオレの足でバッタメカを踏み潰す。
そう、こうしてロボットの動きをイメージしながら、邪な事を考える。二つの事を同時に頭に浮かべなければならない。
妄想に力を入れるとロボットの操縦が疎かになるし、操縦に集中すると妄想など出来ない。でも同時にしないと力が発揮できない。
そんなジレンマを解決するのが、
「何見てるのよ」
俺を睨んでいる幼馴染みの可奈子。彼女がギジオレに同乗すると、どうやら俺の妄想力が安定するらしい。なぜだかは分からない。様々試して、様々分析した結果、そういう結論に至った。
ただ、『エロを発揮するために同乗する』と言うとイメージが悪い。まるで幼馴染みをオカズにしているように聞こえて後ろめたい。
「私で何を妄想してるのよ」
「いや、そんな事してないって」
まあ、字面だけならそう思われても仕方ない。
「言ったろ。別に可奈子に変な事してる想像してる訳じゃないって」
「そうだけど」
可奈子は不満そう。
「洸平の頭の中なんか見えないし。
「見せてやりたいよ」
本当にそんな事想像してないんだから。
「そもそも、可奈子でそんな事想像出来ないよ」
可奈子と出会って十七年。俺は可奈子を異性として見る事が出来なくなっていた。同性の友達と言うか、兄弟と言うか。
ただ可奈子に女の子としての魅力が無い訳じゃない。きりっとした格好いい系のクールな美人だし、男子どころか女子にも人気があると聞く。スタイルも良く、出る所は出てるし、太ももも健康的——て言うと、俺はやっぱりそんな目で見てるみたいじゃないか。
とにかく、可愛いし魅力的だけど、俺にとっての恋愛対象とは違う——と思っていたんだけど。
俺は操縦席の正面にあるインジケーターを見る。小さい長方形が幾つも重なったバーで、俺の妄想力の量を示している。今は真ん中位まで赤くなっていて、そこで安定している。
ただ、
「だったら、何を想像したら強くなるの?」
可奈子がこちらに身を乗り出して来る。シャンプーの匂いと、石鹸のいい匂いがふわっと漂ってくる。
インジケーターの赤の領域が多くなる。
俺はバッタメカを両手で掬い、両手で思い切り潰す。バッタメカは粉々になり、地面に降り積もった。
可奈子はインジケーターを確認する。妄想力が高まった事が理解出来ただろう。
「ねえねえ」
可奈子は悪戯っぽい笑みを浮かべて、さらに身を乗り出してくる。ほんの少し汗の匂いも感じられる。それにそんなに前かがみになるとただでさえ緩い胸元がチラリと——
インジケーターが全て赤に変化する。
俺はギジオレの拳を地面に打ち付ける。するとそこから衝撃波のような波が地面を伝い、その波に飲まれたバッタメカが塵のように消えていく。
数百いたバッタメカは、全て塵となって消えた。
「・・・」
あっと言うまの静寂。妄想力を発揮するとはこういう事。
そう、ギジオレに乗ると、可奈子の一挙手一投足が気になってしまう。
ギジオレに乗っていると、頭の中を誰かに探られているような、隠していた記憶を呼び起こされそうな、そんな気分になる。
「それで、何を想像したの?」
上目遣いの可奈子の笑顔。コックピットで可奈子を見ると胸がシクシクする。何だろうか、この気持ちは。
恋愛感情は持たないはずなのに、これじゃまるで——
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