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第二章
第二十一話 実は
しおりを挟む「さっきの・・・どういう意味?」
私——竹浦可奈子は先程医務室での出来事を思い出しながら呟いた。顔の熱が全然引かない。
ここは地球連合軍の休憩所。いつくもの自動販売機が並び、いくつかのテーブルと椅子が乱雑に置かれた、簡素な部屋。
医務室からもカウンセリング室からも近くないこの休憩所は、場所のせいなのか普段から人はあまりいない。そのため、私や洸平が地球連合軍に来た時は、控え室のように使っている。
そんな休憩所で、私は普段飲まないコーヒーを飲みながら自問自答していた。
「梢さんより私・・・」
確かに洸平は言った。澱みなくはっきりと。
ただ、冷静になって考えてみれば、梢さんと言う比較的最近出会った人と、生まれてからずっと一緒にいる家族同然の私を比べて、私の方に強い愛情を持っていても不思議ではない。家族として好き、友達として好き、異性として好きでは意味も違う。梢さんに対する『異性に対する好き』と、私に対する『家族としての好き』を比較した結果かもしれない。
それでも、あの言葉を聞いた時は私の中に衝撃が走った。
洸平は梢さんの事が好きだと思っていたからだ。
可愛くて優しくて、胸が大きくて、大人っぽくて、頭が良くて・・・ちょっとエッチな梢さんに惹かれるのも無理はない、と思っていた。だから、私は梢さんに対抗したり、やきもちを焼いていたりした。
そんな梢さんよりも——
考えれば考えるほど、分からない。そして考えれば考えるほど、顔は熱を帯びてゆく。
それにしても、今日は心をざわつかせる事が起きすぎた。
その中でも、
『俺の彼女に何か用ですか?』
洸平と出会って十七年。初めて私の事を『彼女』
って言った。予期しない言葉だったから、思わず動揺しちゃった。
もちろん、あの忌々しいナンパ男を引き離すための方便だって事は分かってる。ただ、女の子扱いされたみたいで、嬉しいと言うよりも恥ずかしくて、でもやっぱりちょっと嬉しくて。
それがあってのさっきの発言。
「やっぱりわかんない」
私は呟いて、コーヒーを一口。ほろ苦さが口の中に広がる。
洸平は私の事を異性として意識していないと言う。異性として意識しないようにしている、と言った方が近いかもしれない。
それが、少しずつ変わってきているのかもしれない。
あのギジオレと言うロボット。あれの能力を発揮するためには、洸平は私を『そういう目』で見なければならない。私だって——そういう目で見られるのは嫌だけど、これまでずっと異性として見ないようにしてきた私をそう見なければいけない状況に、洸平が戸惑って苦しんでいる事には気づいていた。自分の気持ちとやらなければならない使命に板挟みになっていた。
ギジオレに乗っている時、洸平は精神的に不安定になっている時がある。
それに、さっき操縦桿を握っていたときの雰囲気は何?鬼気迫るように、誰かに恨みを晴そうとしているかのように。
『可奈子を傷つけるな!』
誰に言っているの?あの黒いロボット?ナンパ男?
でも、私を傷つけまいとしているのは感じる。やっぱり少し嬉しい。
それが変化の原因?わからない。
「私は・・・どうしたいのかな」
自分に問いかける。
洸平は私を異性として意識していないと言うけど、私は少しくらい女の子として見てほしいって気持ちはある。だから梢さんに対抗して胸を触れって言うし、布団に引き込んだりもした。ほとんど効果は無いみたいだけど。
でも今の距離感が心地よくて、この関係を壊したくないって言う気持ちもある。幼馴染っていう関係が、壊れる事を恐れている。多分、洸平も同じ。
だったら、彼の心が変わってしまうまでは、今まで通り幼馴染でいてあげるしかないのかもしれない。
だって、私は——
「ああ、可奈ちゃん、いたいた」
休憩所の扉が開き、晴人が顔を出した。後ろからクリオナも続く。
「どうしたの?タコみたいに真っ赤になっちゃって」
「うるさい。何しに来たのよ」
やっぱり顔赤いまんまだったか。
「いやー、梢さんが洸平から詳しい話を聞きたいからって、追い出されちゃってさ」
晴人は言うと、安いパイプ椅子に座る。と同時にクリオナも隣に座る。
「可奈子さん」
正面に座ったクリオナが腰を下ろすなり口を開いた。
「良かったですね」
「何が?」
わざととぼけてみる。言いたい事はわかっている。
「洸平さんに、好きだと言われて」
「ちょ、ちょっと待って!洸平は梢さんより好きって言っただけで・・・」
「いやぁ、あれは告白したも同然だよ。あんなに魅力的な人より好きだって言うなら」
晴人も続く。晴人は以前から、私と洸平の関係をからかってくる。
「何言ってるの。どうせ、家族として好き、兄弟として好きってだけでしょ」
私としては、今の所そう考える事にした。
「とにかく、強敵である梢さんには勝ったわけだ」
確かに強敵だけども。
「それで」
クリオナの静かな声が響く。
「可奈子さんはどうなんですか?洸平さんの事」
クリオナの言葉に、晴人が身を乗り出してくる。
「私は——」
言いながら天井を眺める。答えがあるわけじゃない。
「梢さんよりは好きだけど」
「ダシに使われる梢さん、可哀想」
晴人が笑う。何だか梢さんに申し訳ない。
「正直分からない。この好きの正体が」
それに、洸平の好きの正体も。
「だから、幼馴染みとして好き、ってとこかな」
私が言うと、晴人とクリオナは顔を見合わせる。
「ずるいよね、幼馴染みって」
「そうですね。幼馴染みって便利な言葉ですね」
二人はそう言って呆れるけど、今はそうとしか結論づけられない。だから、もう少し洸平とは幼馴染みを続けていこう。
<><><>
「可奈子、やっぱりここにいた」
俺はいつも控え室代わりに使っている休憩所で、椅子の上で体育座りしている可奈子を見つけた。晴人とクリオナもいる。
海パン一丁でうろうろするわけにもいかないので、取り敢えずパーカーは羽織ってきた。エアコンが効いてて少し寒い。
「何でタコみたいに真っ赤なんだ?」
「うるさい。黙れ」
可奈子はそう言って、真っ赤な顔のまま頬を膨らませた。どうやら、ほんの数分の間に機嫌が悪くなった模様。ただこの反応を見るに、俺は間違いは犯していないと思われる。良かった。
まあ、今はいいや。
「とにかく、源治おじさんのところにいくぞ」
「パパのところ?」
怪訝な顔をする可奈子。
「そう」
俺は短く答える。
「ちょっと文句を言ってやらなきゃ」
でないと腹の虫が治らない。
「どうしたの?」
可奈子の顔にはクエスチョンマークが浮かんでいる。そんな事をしている間に、可奈子の顔の赤みが引いていくような気がする。
「どうしたもなにも」
可奈子達が立ち上がるのを確認しながら、
「あのギジオレ、いやらしい妄想しなくても力を発揮出来るらしい」」
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