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14 それが私
しおりを挟むぱちぱちと爆ぜる音を聞きながら、僕とレネは焚き火を眺めている。
すっかり日は沈んだ。昼間はあんなに暑かったのに、日が落ちると少し冷える。でも、焚き火にあたりながら体を寄せ合っていると、全然寒さを感じない。
焚き火に照らされるセイレーン。少し影があるレネも可愛い。
僕は夜空を見上げる。
「綺麗な月だね」
「そうですね」
空にはぽっかりとまん丸なお月様。かの国では『月が綺麗ですね』が愛の告白にもなるらしいけど、レネには関係無いようだ。
「綺麗な星空ですね」
「そうだね」
絵に描いたような満点の星空。満月の光に負ける事無く、数えきれない数の綺羅星達が夜空を彩る。レネと二人でなら、いつまででも眺めていられそう。
穏やかな波の音が響く。それ以外には何も聞こえず、この世界には二人しかいないみたい。
レネは少し僕の方に体を寄せてくる。
「寒いの?」
「いえ」
レネはそう言って笑う。焚き火のせいか、少し寂しそうに見える。
僕は焚き火に薪をくべる。火花がちらちらと舞い上がり、爆ぜる音が大きくなる。
「昔話があるんです」
レネがふいに語り出す。目を閉じて、僕に体を寄せる。
「昔、この島にはセイレーンが住んでいました。たった一人で、誰にも会わずに」
「・・・」
「ある日、一人の人間の男性がこの島に迷い込んで来て・・・今日のような。星空が美しい夜だったそうです。そして、セイレーンと出会います」
「うん」
「その男性とセイレーンは恋に落ちたようです」
レネの声は、少し甘い響きを持っていた。
「二人は互いを想い合い、方時も離れる事はありませんでした。男性は帰りたくない、と思ったそうです」
「そうだろうね」
今の僕がそうだ。
「しかし、帰らなければならない日が来ます。男性はセイレーンに一緒に来てくれるよう懇願しました。でも、セイレーンはここに残る事に決めたそうです」
「・・・」
「そうして彼らは別々の道を歩み始め——セイレーンはその時、孕っていたようです。人間の男性との子供を」
レネが息を吸ったのを感じる。何か大切な事を言おうとしている。
「それが、私です」
沈黙が闇を包む。
どれくらい沈黙が続いたかわからない。何度波が打ち寄せたか分からない。焚き火も小さくなりつつあった。
「レネはさ」
沈黙に耐えかねて、僕が口を開く。
「そのセイレーンみたいに人間と恋に落ちたらどうする?その人について行く?それとも残る?」
僕にはセイレーンの気持ちは分からない。でも、その質問は僕にとっても重要な意味を持っているように思えてならない。
「私は・・・」
レネは目を閉じたまま。
「好きな人とは一緒にいたいです」
その答えを聞いて僕の胸がキューっとする。痛いような、むず痒いような。
「そんな人が・・・」
レネの掠れるような声が聞こえた時、僕の左肩に重みを感じた。レネがこてんと頭を乗せていた。
「すぅ」
焚き火のせいか、この雰囲気のせいか、レネは眠ってしまった。レネの体温が心地いい。
「レネ?」
呼びかけるが、目覚める気配はない。
穏やかで、安心しきった寝顔。いつも見る、レネの平和そうな寝顔。そんな無防備な寝顔だけども、不思議とイタズラしようとする気にならない。ただ、ずっと見ていたい。
周囲が暗くなる。焚き火にくべていた薪が燃え尽きつつあった。
「レネ、こんな所で寝たら風邪ひいちゃうよ」
「すぅ」
起きないレネ。でも、ずっとこうしていられない。
僕はそっとレネを抱き上げる。所謂お姫様抱っこ。左手を背中に回し、右手を太ももの下に入れて持ち上げる。
持ち上げてみると思ったよりも軽い。胸に重量物を二つ持っている割には軽く感じる。そして、抱き上げてみると印象よりも華奢に感じる。
レネは僕の腕の中で、無防備な寝顔を見せている。今は、僕だけがそれを堪能出来る、特別な時間。
僕はゆっくりとレネを家に運ぶ。それこそ、大切な物を慈しむように。壊れそうな繊細なガラス細工を扱うように、レネの体をベッドに寝かせる。
吸い込まれるようにレネの唇に目を奪われてしまう。僕はそこから目を離せなくなって、引き寄せられるように顔を近づける。
あと数センチ——
「いや、ダメだ」
思い直して頭を振る。
寝てる間にするなんて、卑怯者のする事だ。
その代わり、僕はレネの寝るベッドに潜り込む。少し寒い夜は、こうして身を寄せ合って眠るのが日課になっている。まだ平常心では寝られないけど、その温もりは手放し難いものがある。
「レネ」
呼びかけるが、応えはない。
「僕も、好きな人とは一緒にいたいよ」
そのレネの好きな人が誰なのか、それが分かる日が来るのだろうか。
そして、僕がこの地を離れる日がいつ訪れるのか。
今まで考える事を避けてきたけど、夏休みが終わるまでは考えておかないといけない。
僕はその日に思いを馳せながら、眠りについた。
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