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17 洞窟探検②
しおりを挟む「いやぁ、悪い悪い。私は止めたんだけどね」
まるで心のこもっていない言葉をリンさんは言う。黒髪はなぜか暗闇でもよく映える。背が高いから中腰みたいな姿勢。
「二人がどうしてもレネと少年が結ばれるところが見たいと言うもんだから」
「か、勝手な事言わないでよ」
結ばれる、とか。アレじゃないか。
「あ?ここまで来てビビってんのか、小僧。いいから早く押し倒せ」
清楚な亜麻色の髪を揺らして相変わらず口の悪いセラさん。突然現れて無茶苦茶言う。
「レネの服脱がしてやるから、坊主も服を脱げよ。その次はオレの番だ」
少し酒臭い赤髪のイナさん。酔っ払っているのか、不穏な事を言う。いや、脱ごうとしないで。
「三人とも、いい加減にして下さい」
毅然としたレネの態度。辺りの闇を振り払うかのような金髪が眩しい。
「私たちはそんな不純な目的でここに来たんじゃありません。ですから、余計な事を言ってショウさんを困らせないで下さい!」
レネの口調は丁寧だが、有無を言わせない迫力がある。そのせいか、一旦三人娘がおとなしくなる。
「私たちはこの先に何があるかを確認したいだけです。それ以外は何もありません」
ただ、三人娘は懲りない。
「チュウぐらいはいいんじゃないのか」
いい訳ないだろ。
「格好つけてんじゃねぇぞ。年中発情期なくせに」
なんじゃそら。
「じゃあ何しに暗がりに連れてきたんだよ」
あんたらみたに邪な気持ちはないよ。
「茶化すなら帰って下さい!」
腰に手を当てて言うレネ。あまり見た事のない顔。怒っているんだろうか。
「アタシたちが帰ったらいちゃいちゃしやがるんだろ」
「間違い無いな」
「帰ったフリしてついていった方が良くね?」
とりあえず三人は帰る気はなさそうだ。
仕方なく僕とレネは勝手な事を言う三人を放っておいて先を目指す事にする。レネがそっと腕を掴んでくる。・・・ぐっと掴まれるより、こっちの方が何かトキメクな。
「——って事で、乱暴者に扮した私たちがレネを襲うとしよう」
不穏な会話が聞こえてくる。
「そこへ、颯爽と少年が現れると」
「オレ達をばったばったと倒していく訳だな」
「そうすればレネが『ショウさん素敵♡』とのたまうわけだ」
セラさんがそんな声色を使うとぞっとする。
「そうすればベッドへ一直線だな」
「その場でおっ始めるかもしれねぇぞ」
「その場合はなるべく直視しないようにして、横目でちらちら見よう」
さっきから何を言っているんだこの人たちは。僕とレネが仲良くやっているのを邪魔しておいて、さっきからいかがわしい事を口走っている。
結局僕たちの邪魔をしたいのか、くっつけたいのかよく分からない。
レネも憮然とした表情をしている。
「はっはっは。悪いな少年」
突然リンさんが僕に言って来る。
「ここいらは娯楽が少なくてね。ひとの色恋沙汰も娯楽の一つなのさ」
勝手にひとの恋心で遊ぶな。
「そうだ。胸糞悪いひとのいちゃいちゃを眺めてたら胸焼けがする」
「でも一番興奮してたのセラじゃん。二人がくっつくところを想像したんじゃね?」
「そ、そんな訳ねーだろ。小僧がアタシじゃなくてレネを選んだ事にむしゃくしゃしてただけだ!」
「てことは、セラは坊主の事を・・・ひひひっ」
「ち、違う!アタシの方を向かせてから地獄に叩き込んでやろうと思っただけだ!」
「ひひひっ。本当かねぇ」
「何だその言い方は!イナだってその体を使って誘惑しようとしてただろう!」
「当然。なあ坊主、オレの体に興味はないか?」
いろいろ怖くなって来たので、僕はレネの手を引いて走り出す。ぎゅっと手を握り返したレネはしっかりとついてくる。
「あ、逃げたぞ!」
「追え追え!」
そんな声が聞こえるが、リンさんの身長を考えると簡単には追いつけないはず。それに向こうは懐中電灯もない。
だんだんと声が遠ざかってゆく。
「ふふっ」
レネが声を出して笑う。楽しそう。
「愛の逃避行ですね」
なんでそんな事知ってるんだろう。
しばらく走ると、広い空間に出た。大きさは学校の教室くらいだろうか。ドーム状になっていて、閉塞感から解放される。
そしてその中央。天井に空いた穴から太陽の光が差し込んで、スポットライトみたいに一筋の光が伸びている。
引き寄せられるようにレネが光の帯へと向かう。
そして光を浴びるように両手を広げる。レネの金色の髪の毛と、白い肌がきらきら輝いているように見える。神々しさすら感じさせるその姿は、可愛いなんて言葉じゃ足りないくらい美しい。
たっぷりと光を浴びたレネは、ゆったりと両手足を空中に滑らせて舞い始める。息をのむような、時間を忘れさせるような踊り。
「っと、追いついたぞ」
そこへ邪魔が。しかし追いついてきた三人も、目の前の光景に目を奪われる。
数秒時間が流れた後、
「仕方ない。私たちもやるか」
「そーね」
「そうだな」
言うと、三人はレネの元に向い、光を浴びながらゆったりと踊り始める。
目の前で四人のセイレーンが思い思いの動きをはじめる。共通した動きのようで、そうじゃなくて。独特のパターンなんかがあるのかもしれないけど、どれもゆったりとして美しい。
レネの金髪がふわふわ揺れている。ついでに胸もぽよぽよ揺れている。セラさんの亜麻色の髪がさらさら流れる。スカートの裾がひらひら揺れる。
イナさんの赤髪は燃えるよう。そしてたゆんたゆんとその胸が暴れている。
そしてリンさんには——揺れる場所はあまりない。
僕はポケットからスマートフォンを取り出す。カメラを起動して、踊る四人の姿をフレームに納める。
ぱしゃり。
その一瞬を切り取る。レネは勿論だけど、三人も黙っていれば美人なのに。僕が撮影した写真からは、先程の馬鹿騒ぎは感じられない。
四人はその後も舞い続ける。ゆったりと手を伸ばし、ゆっくりと足を上げ、くるりと回転し、時には手を取って笑い合い——とても高貴な儀式を見せられているような、そんな気分。
そしてレネがふいに手を高く掲げる。
それを合図に、四人が同時に翼を広げる。闇よりも深い暗黒色の翼と、闇を切り開いたかのような白い翼。それらが光を浴びて、先日見た星空みたいにきらきらしていた。
四つの翼が開かれる時に巻き起こった風は、涼やかな潮風を運んできた。
ぱしゃり。
地上に舞い降りた、四人の天使。それ以外の言葉が見当たらないくらい、魅了された。
いや——
僕にとっての天使はただ一人だ。
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