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23 日の出
しおりを挟むまだ日は昇っていない。
薄暗さと薄明かるさが同居する中目を覚ますのが、僕の日課になりつつある。
セイレーンであるレネがいないこの部屋は少し寂しい。だがこれは、レネがいなくなったとか、出ていってしまったとかではない。いつもレネはこの時間家にはいない。
これはつい最近知った事実。
そんな中僕は、今までだったらすっかり日が昇ってからゆっくり目覚めるのが日常だったのが、早く目が覚めてしまうようになった。
早く目を覚まして、リビングにある大きな窓の下にスタンバイするのが日課になった。
それは、このカーテンで遮られた窓の向こう、すぐそばにある海岸の絶景に心を躍らせているからだ。
この窓の向こうの海岸で、いつもレネが水浴びをしている。一糸纏わぬ姿で。
それが分かっているから、いつも僕はここに待機する。正確には、待機しながらその絶景を目に焼き付けようかそれともやめようか、逡巡を繰り返す毎日を送っている。今のように。
ちなみに今のところ、目に収める事は叶っていない。これはただ僕に度胸がなく、レネに嫌われるのを恐れているせいだ。
水浴びを覗いたら本当にレネに嫌われるかどうかは分からない。堂々と全裸を見た事がないので、見られたらどういう反応するのかは分からない。意外と平然としてたりして。
でも、僕としたら平然とはしていられない。色んな意味で。
だからほんの少しの距離にある楽園には手を伸ばせずにいる。
いつも悩んでいるのは数分なのか、数十分なのか。
「おはようございます~」
結論の出ないまま、絶景終了のお知らせが届くのもまた、いつもの事。
レネの少し冷えた白い肌とか、潮の香りを纏わせた金色の髪の毛なんかを見ていると、見れば良かった、見なくて良かったという相反する感情が同時に襲いかかってくる。でも、きっと見なくて良かったんだろう。うん。
「ショウさんも最近は朝早いですね」
僕の悩みも知らないレネは、煩悩を丸めて全て飲み込みたいくらい可愛い。タンクトップに収められた胸はぱつぱつだし、ショートパンツから伸びた太ももは健康的で、どの部分を切り取っても可愛いしかない。
「うん、まあね。朝早いのもいいよね」
そのせいで毎日感情が揺れ動いているんだけど、これは秘密で。
「レネはいつも水浴びしてるよね。寒くないの?」
以前レネに一緒に水浴びしないかと誘われたが、僕の理性が保つのか以前に、少し肌寒い中海に浸かるのは平気なのかどうかが気になる。レネだけ特別に寒さに強いのかもしれないし。
「この辺りは海流の影響でこの時期は海が暖かいんですよ。温泉とまでは行きませんけど、冷たいって程ではないです」
との事。レネは以前火照った体を冷やすとか言っていたけど、キンキンに冷やすわけじゃなく、ほんの少し下げる程度なのだろう。
それなら僕もご一緒しようかな。いろいろ期待して。
そうやって僕が邪な考えを巡らせていると、
「あ、そうだ」
レネが手をぱんと叩く。
「今いい時間ですから、日の出を見に行きませんか?」
日の出か・・・別に初日の出とかいう特別な物ではないけど、この島に来てから日の出なんか見た事がなかったな。それに、女の子と一緒に見るだなんて、普通にこれから僕が送る人生で何度も起こるイベントでもない。
レネとのロマンチックな雰囲気を期待している僕もいる。
「いいね。行こうか」
僕はレネの手をとって、家を出た。
外へ出てみると、水平線が白み初めている。それによってか、空気が少しずつ温まってきているような気がする。
そしてレネの水浴び現場を眺め、心地よい波音に耳を澄ます。子守唄にも聞こえて眠気を誘うようだ。
「どこに行くの?」
僕が問いかけると、レネは指差した。島の中央にそびえる山。レネがあまり行きたがらない場所。
「あの山の中腹あたりに、高台みたいな場所があるんです。あそこならよく見えると思います」
よくよく見ると山の中腹——中腹の中腹みたいな高くない場所に、ステージと言うか展望台みたいな場所がある。確かにあそこからなら海が一望できるだろう。
でもそれよりも、
「レネは大丈夫なの?また・・・カエルが出てくるかもしれないよ」
僕が心配するのはそれ。以前もカエルに遭遇して逃げ帰ったし。
「あの・・・水場を越えれば大丈夫。だと、思います」
あまり自信がなさそう。水場を超える事があまりないんだろう。
「・・・あの・・・くっついていいですか?」
いいに決まってる。
「じゃあ、行こうか」
僕が言うと、レネは僕のシャツの背中の部分をつまんで後をついてきた。あれ?なんか思ったのと違う。
「すみません。隣に並ぶと草むらまでの距離が近くて」
なるほど。道の両サイドの草むらからなるべく遠ざかりたいのか。まあ、さほど差は無いと思うんだけどね。
気休め程度でも安心してくれるならいいや。
多少後ろに引っ張られるように感じながら、水場に差し掛かる。
カエル君、出て来ないかな。
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