赤い糸のさきに

アtorica

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「紡久ー! またお前に例のお客さん!」
「……え?」

 教室に着いて早々、友樹のうわずった声に呼ばれて鞄が肩からずり落ちそうになった。
 最近よく嗅ぐようになった石鹸の清潔な香りが俺の鼻腔をくすぐる。
 これ以上は関わらないと言った直後だというのに、まさか昨日の今日で希輝から俺に会いにくるとは思いもしなかった。

「やっと来たな。話がある」
「い、いやいや。話って何……」

 友樹の前から速やかに俺の方へと移動してきた希輝が、耳元でぼそりと囁いた。
 爽やかな香りと整いすぎた顔が近すぎて、不覚にも心臓がドキドキと騒ぐ。

「いいから来い」

 熱を感じる手のひらに手首をグイと引かれて、有無を言わせず教室から引っ張り出された。
 噂の渦中にいる二人が、何度も会うのはまずいのでは。
 折角解けたであろう誤解も、希輝から会いに来てしまったら、また可笑しな噂に戻りかねない。

「あのさ、糸のことなら俺が何とかするって」
「そういう話じゃない」
「え!?」

 赤い糸以外に、希輝に連れだされる原因を作った記憶は一つもないんだけど。
 無意識に人嫌いに拍車がかかるようなことをしてしまったのだろうか。
 冷や汗がダラダラと垂れる俺を、ちらりと横目で見た希輝が深く溜息を吐いた。
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