赤い糸のさきに

アtorica

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「はあ……やっと解放された」

 図書室を出てすぐに、心底安心したとでも言いたげな深い溜息を吐いた希輝に笑いが漏れる。

「今までよく一人で耐えてこられたな」
「基本、朝ギリギリに学校に来て帰りは即帰ってたからな」

 初めて希輝を見た日のことを思い出して、なるほどなと小さく頷いた。
 そんな俺を横目に見た希輝が何を思ったのか、視線を前に戻して口を開く。

「……紡久と一緒のクラスなら良かったのに」
「え」

 勢いよく顔を上げれば、薄っすらと頬に赤みがさした希輝がいて、何故だかよく分からないけど心臓が跳ねた。

「あ、あー……。そうだな。希輝が人嫌いって既に知ってる俺なら、いつでも盾になってやれるしな」
「そうじゃなくて、紡久といると自然体になれるから」

 少し早足になった希輝が俺を追い抜いて、くるりと振り返った。

「あと、さっきは俺を護ろうとしてくれてありがとな。お前、俺なんかよりすっげーかっこいいよ」

 自分に向けられたとは思えない程の、優しさを含んだ笑みを浮かべた希輝に、思わず目を見張った。
 一点の曇りもない笑顔が太陽みたいで眩しすぎて、何も言えず直視してしまう。
 けれど、長い時間見ていることは出来ず、僅かに熱をもった頬を隠そうと慌てて床に視線を落とした。

「そんなことを言ってくれるのは、希輝だけだ」
「それは、まだみんな紡久の良さに気づいてないんだろうな」

 再び俺と足並みを揃えようとしたのか、隣を歩き出した希輝に、自然と頬が緩んだ。
 横目に希輝を見れば、希輝の口角もゆるりと上を向いていて、ますます嬉しくなる。
 赤い糸についての解決策は結局何も見つからなかったけど、希輝との仲が深まったことが嬉しくて、足取りも軽く感じた。
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