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第20笑『ピエロ君の告白』1/3

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「ブヒヒヒヒヒイーーー!」

 耳をつんざく絶叫が教室に響き渡る。

 わたくしがこの声を引き出しました。

 でもソレを快感とは感じませんの。

「どうして……どうしてこんなことに」

 わたくしは震えていました。

 放課後の教室、わたくしはその日、なかなか帰れずにいましたわ。

「だってあんな体験したんですもの……すぐに帰れるわけがありませんわ」

 力なく呟き、わたくしはだらしなく頭を机の上に預け、教室の隅を眺めましたの。


「……ヒッ」


 思わず悲鳴が出る。


 そこにはアイツがいた。


 人を呪い殺すような邪悪な笑みをたたえたピエロ……おぞましいピエロ。

「やっぱり見えますわ……わたくしが何をしたんですの?」

 ヒザがガクガクします。

 体の震えが止まりません。

「もう、限界ですわ……」

 最初にあのピエロを見たのは、ちょうどブー子をわたくしがイジり始めたあの瞬間ですわ。

 あの時もあいつの目は言っていましたわ。

 わかるのですわ。


 『面白いことをやれ!』と言っていましたの。


 そして、できないと何が起こるかわからないという恐怖を刷り込むのですわ。

「誰か……だれか、助けてくださいまし」

 とうとうわたくしは机に顔をうずめて、むせび泣きはじめました。

 もう、泣くしかありません。自分の置かれた境遇に絶望するしかないのですわ。



「呼んだ……?」



 そしてわたくしの絶望を救う救世主のように唐突に現れた男の子。彼は大将の隣に常にいるピエロ君と呼ばれていた、ブー子と同じこのクラスのいじられ役を買って出ている少年だったのですわ。

「大丈夫、怖くないから……あのピエロは……マスターはこの場の笑いを司っているだけ。君は今までと同じように、場に笑いを提供するだけでいい。一緒に頑張ろう」

 恐怖にさいなまれ怯えるわたくしをやさしく抱きとめて、娘ををあやす父親のような愛おしい手つきで頭を撫でてくれましたわ。

 それだけでわたくしの体……そして心からも震えは消え、生まれ変わったかのようにその日からわたくしの世界は一変しましたの。

 彼は……ピエロ君は優しく諭してくださいましたの。


 この世界の本質を。


 まるで奉仕活動のように無心でクラスに笑いを提供する彼の言うことなら間違いないのでしょう。

 もちろん誰も彼を心配していないくらい。

 そしてわたくしは彼に恋したのでしょう。

 とても暖かいものに包まれ、何者にも負けない強さを得た気さえしましたわ。





「さーあ、もっと良い声でお鳴きいーーーー!」

「ブヒヒヒヒヒイーーー!」

 それから数日、来る日も来る日もブー子をイジり、クラスに笑いを提供する日々が続きましたわ。

 ブー子もわたくしのしていること、自分のクラスでの役割を理解しているらしくおとなしく従ってくれましたわ。

 いえ、共に同じ目的に向って頑張ろうという気概さえ伝わってきました。

 ……ただ、わたくしがぼーっとピエロさんを見つめている時はジロリと睨まれましたけど。

 おそらくわたくしと同じでピエロさんのことが好きですのね。





 そんな日々がしばらく続きましたわ。

 でもわたくしは気付きましたの。

 ……気付いてしまったのですわ。

 彼がわたくし達をどのようにとらえているか気付いてしまいましたの。





 私達をあくまで笑いの場を創る為の要素『パーツ』としてしか見ていないことに。
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