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第37笑『100%狂喜』2/2
しおりを挟む『人間動物園』
「ねえ、あなた、ここはどこかしら?」
「ここはね、人間動物園。人間の生態が見られるんだよ!」
「あっアレは何かしら?」
「あれはねえ……トイレを奪い合う人間の姿さ。ホント醜いねえ」
「ふふふ……そうねえ。あんな必死になって」
そう、そこにはあの時見た『トイレ争奪戦』の様子が見事に再現されていた。
一昔前のコーヒーのCMで似たようなもんがあったかと思うけど、それとおんなじ。
人間の社会的な生態をサーカスのメンバーが各々演じて、それを『来園者』という形で(芸人が取り憑いた)大将とオツボネ様のカップルが絶妙の掛け合いで紹介していく。
そして、動物園を一通り見終わった大将は急にナレーションを始めた。
『ミュージック、スタートっ!』
指をパチンと鳴らした。
そしてかかってきたのはあの曲……でもアカペラだ……そして歌っているのは……。
「パフォーマーっ!」
驚く私をよそに、パフォーマーは一気に歌い上げ、かつきっちり踊っている。
そこに人間動物園で再現演技をしていたサーカスの面々が踊りに合流、ステージの上で宝塚よろしくミュージカルのクライマックスチックな雰囲気をかもし出す。
『ぬーっすんだ、ばーいっくで、はーしりっだす♪』
そしてここでバライティお決まりの『っぽい』ナレーションが入ってくる。勤めるのはもちろんこの人、大将(取り憑いた芸人)。
『ゆきーさっきも、わかーらぬ、まま♪』
「さーあ、我々は笑いを追い求めたあーその先に破滅が待っていようとも」
観客……笑いの世界の住人達を鼓舞するような、笑いの世界に堕ちた住人達に開き直っていこうぜ! という違う方向の勇気を与えるナレーションだ。
『くらーい、よるのとばりーの、なっかっでえーーーええ♪』
「それでもなくならない……笑いに対するあくなき探求はとどまるところを知らない」
『だーれにも、しばらーれたーくないとっ♪』
「だから我々は探求し続ける。果てしなく、果て無き旅を続ける」
『にげーこんだっ♪』『このよーるに♪』
「今はまだ、旅の途中、果て無き旅の途中なのである」
『じゆうーに、なれーた、きがーしたっ♪』『じゅうごのよーるーー♪』
「それでも我々は歩みを止めない! なぜなら我々はあくなき笑いの求道者だからだっ!」
「……うへえ」
私はげんなりしていた。
それも当然だろう。
だって。
「……なんや、この茶番は?」
すぐさま裏ピエロ君が切れのある突っ込みを入れる。
いかにもと言う感じの王道すぎて王道すぎるがゆえのウソ臭さを全身に浴びて私達は果てしない寒気を覚えた。
もう、ほんと、風引くよっ! レベルの。
ところがすぐさま空気が変わる。
「「さあ、笑いに堕ちた俺達はこのまま行くしかないんだああーー!」」
大将+芸人の威勢のいい掛け声が響く。
なんかもうここまで来ると呆れる。
「これって完全な開き直りよね」
呟く私をよそに唐突に大将+芸人の指がパチンと鳴らされる。
「「ミュージック、スクラアッチっーー!」」
そして流れた曲は有名なあの曲……の替え歌。
ある意味、この場にぴったりの曲。
『そうさっ! 100パーセント狂喜いいーーー♪』
『もうやりきるしーか、なーいさあーー♪』
『はいっ、ハイッ』
そしてすぐさま会場に響く手拍子、大合唱。
踊り狂い出す観客達。
会場を包む一体感。
もはやこの『場』には『観客』は存在しない。
東京ドームほどある会場が一転、ここが室内だということも疑われるような狂喜と熱狂の渦、リオのサンバカーニバルのような情景に変容してしまった。
それを芸人達サーカスの面々は見事にやってのけてしまった。
「「どうだっ! 見ろっ! これが『狂喜』だっ!」」
リオにある両手を広げた巨大なキリスト像よろしく狂喜の中心で勝ち誇ったように両手を広げて宣言する大将+芸人。
「なに……この光景……」
この狂喜の沙汰を舞台袖から見ていた私はあまりの状況のヒドさに思考が追いついていなかった。
「これ……なに? なに、こいつら……サクラ? それとも仕込み? もしかしてわたしたち化かされてるの? ねえ……おしえてよお……わかんないよおお…………いみわかっんなーい! ……わかんないおおおお……」
「エヘへへへ……アヘヘヘへ……」
気が付けば私は口からよだれをだらだらと垂らし、虚ろな目で今にも失禁しそうかというほどの盛大なアへ顔をキメていた。
そして。
「目をさませっ!」
突然私の頬をビンタする音……意識が明瞭になっていく。
「なにやってんだ! しっかりしろ! リーダー!」
怒号が聞こえたと思えば、私の目の前にめずらしく真剣な眼差しで私を見つめる裏ピエロ君の姿があった。
そして彼の吸い込まれるような瞳を凝視していたら、私の意識は果て無き深淵の中へと落ちていった。
そこで見たのは芸人の記憶。
なぜ芸人の精神は歪んだのか?!
……芸人が笑いの場に堕ちたきっかけの事件を私は体験する。
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