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11話 好きな人
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薫君と会わなくなって、あと少しで一か月。
もう身体だけじゃなく、精神的にもかなりきていた。
それでも、幼馴染の賢にさえ言えなかった。
あいつも最近は忙しそうだし、実家の一件も抱えている。
俺は定期的に心配の連絡をくれる賢に、「元気だよ」と、「薫君とは順調」と、嘘の文面ばかりを送り続けていた。
元々、薬で抑えつけていた欲なんだ。
今ならまだ、元に戻れる。
そう言い聞かせて、毎日、抑制剤の服用に頼った。
けれど体調は良くなるどころか、日に日に悪化していく。
半月も経つ頃には、食事をしてもすぐ吐いてしまい、ろくに口にできなくなった。
なんで──。
理由なんてわからない。
それでも薬をやめることだけは、どうしてもできなかった。
思考がうまく回らない中で、ふと浮かんだ考え。
──足りないんだ。もっと飲まないと……。
そうして、日に日に服用量は増えていった。
良くないとわかっているのに、もう止められなかった。
その頃にはきっと、サブドロップの兆候として、分離不安のような症状も出ていたのだと思う。
そして今日。
今までの行為が、ついに祟った。
朝、目を覚ました瞬間に感じた違和感。
いつも以上に悪い体調に、さすがの俺も「まずい」と理解した。
でも、気づいた時にはもう遅かった。
賢に連絡を取ろうと携帯へ手を伸ばしたが、指先は宙を切る。
バランスを崩し、そのままベッドから床へ転がり落ちた。
視界の端には、今まで飽きるほど飲んだ抑制剤と、水の入ったペットボトル。
ああ……俺、このまま死ぬのか。
その考えが浮かんだ瞬間、
なぜか、ある人物の顔が一緒に頭をよぎる。
「……か、お……る、く……」
掠れた声を残して、俺は抗えないまま静かに瞳を閉じた。
───────────────────
意識はあるような気がする。
でも身体は冷たくて、何もする気が起きない。
暗い場所を、ただずっと漂っている感覚──ああ、きっと夢だ。
薬を飲みすぎて、眠っているだけなんだ。
定まらない思考で、そんなことを考える。
どれくらいそうしていたのかはわからない。
けれど突然、何か”温かい”ものを感じた。
何故か、それはこちらへ向けて流れ込んできている。
何かわからない。けれど、とても温かくて、懐かしい。
俺は暗闇の中、その陽だまりのような何かを求めて彷徨い続けた。
あと少しで、その正体に触れられそうなのに。
――その瞬間。
強く引き戻されるような感覚と、眩しい光。
「……? っ、南!」
目に飛び込んできたのは、白衣姿で、不安と焦りが混じった表情の賢だった。
ゆっくり周囲を見回し、見慣れた白い部屋に、ここが病院だと理解する。
「起きてよかった。気持ち悪いとか、どこか辛いところはない?」
立て続けに問いかけられ、俺は反射的に質問で返していた。
「……俺、なんでここに……」
賢は、丁寧に何が起きたのかを説明してくれた。
プレイを突然やめた反動で、サブドロップ由来の不安症が出たこと。
抑制剤の過剰摂取によるオーバードーズ。
そして――薫君が、必死に俺を介抱してくれたこと。
皆に迷惑をかけてしまったという気持ちが、胸を締めつける。
それなのに、こんな状況でも薫君が駆けつけてくれたという事実に、胸がざわついた。
諦めないといけない。
そうやって蓋をしたはずの気持ちが、また顔を出しそうになる。
「とりあえず、数日は安静に。あとで説教待ってるから」
今は気遣うように言う賢だけど、後が怖いのは容易に想像できた。
やがて一人になった病室。
妙に落ち着かない。
まだサブドロップの余韻が残っているんだろうか。
そんなことを考えていた、その時。
ノックもなく、扉が開いた。
「賢? どうし──」
忘れ物かと思って名前を呼んだが、その先に立っていたのは。
「……薫君……」
「南さん」
もう身体だけじゃなく、精神的にもかなりきていた。
それでも、幼馴染の賢にさえ言えなかった。
あいつも最近は忙しそうだし、実家の一件も抱えている。
俺は定期的に心配の連絡をくれる賢に、「元気だよ」と、「薫君とは順調」と、嘘の文面ばかりを送り続けていた。
元々、薬で抑えつけていた欲なんだ。
今ならまだ、元に戻れる。
そう言い聞かせて、毎日、抑制剤の服用に頼った。
けれど体調は良くなるどころか、日に日に悪化していく。
半月も経つ頃には、食事をしてもすぐ吐いてしまい、ろくに口にできなくなった。
なんで──。
理由なんてわからない。
それでも薬をやめることだけは、どうしてもできなかった。
思考がうまく回らない中で、ふと浮かんだ考え。
──足りないんだ。もっと飲まないと……。
そうして、日に日に服用量は増えていった。
良くないとわかっているのに、もう止められなかった。
その頃にはきっと、サブドロップの兆候として、分離不安のような症状も出ていたのだと思う。
そして今日。
今までの行為が、ついに祟った。
朝、目を覚ました瞬間に感じた違和感。
いつも以上に悪い体調に、さすがの俺も「まずい」と理解した。
でも、気づいた時にはもう遅かった。
賢に連絡を取ろうと携帯へ手を伸ばしたが、指先は宙を切る。
バランスを崩し、そのままベッドから床へ転がり落ちた。
視界の端には、今まで飽きるほど飲んだ抑制剤と、水の入ったペットボトル。
ああ……俺、このまま死ぬのか。
その考えが浮かんだ瞬間、
なぜか、ある人物の顔が一緒に頭をよぎる。
「……か、お……る、く……」
掠れた声を残して、俺は抗えないまま静かに瞳を閉じた。
───────────────────
意識はあるような気がする。
でも身体は冷たくて、何もする気が起きない。
暗い場所を、ただずっと漂っている感覚──ああ、きっと夢だ。
薬を飲みすぎて、眠っているだけなんだ。
定まらない思考で、そんなことを考える。
どれくらいそうしていたのかはわからない。
けれど突然、何か”温かい”ものを感じた。
何故か、それはこちらへ向けて流れ込んできている。
何かわからない。けれど、とても温かくて、懐かしい。
俺は暗闇の中、その陽だまりのような何かを求めて彷徨い続けた。
あと少しで、その正体に触れられそうなのに。
――その瞬間。
強く引き戻されるような感覚と、眩しい光。
「……? っ、南!」
目に飛び込んできたのは、白衣姿で、不安と焦りが混じった表情の賢だった。
ゆっくり周囲を見回し、見慣れた白い部屋に、ここが病院だと理解する。
「起きてよかった。気持ち悪いとか、どこか辛いところはない?」
立て続けに問いかけられ、俺は反射的に質問で返していた。
「……俺、なんでここに……」
賢は、丁寧に何が起きたのかを説明してくれた。
プレイを突然やめた反動で、サブドロップ由来の不安症が出たこと。
抑制剤の過剰摂取によるオーバードーズ。
そして――薫君が、必死に俺を介抱してくれたこと。
皆に迷惑をかけてしまったという気持ちが、胸を締めつける。
それなのに、こんな状況でも薫君が駆けつけてくれたという事実に、胸がざわついた。
諦めないといけない。
そうやって蓋をしたはずの気持ちが、また顔を出しそうになる。
「とりあえず、数日は安静に。あとで説教待ってるから」
今は気遣うように言う賢だけど、後が怖いのは容易に想像できた。
やがて一人になった病室。
妙に落ち着かない。
まだサブドロップの余韻が残っているんだろうか。
そんなことを考えていた、その時。
ノックもなく、扉が開いた。
「賢? どうし──」
忘れ物かと思って名前を呼んだが、その先に立っていたのは。
「……薫君……」
「南さん」
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南さんと薫くんの行き違い(すれ違い?)が、うまく解決しますように。
オーバードーズ、怖いですよね💧
助けてくれた薫くんの必死さ、早く南さんに伝わるといいなぁ……
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